地球行きのシャトルの中、私は宇宙服を着て座席に座っている。
亡くなった右腕が宙を泳ぐ度にシートベルトに挟み込む。
そんな事を繰り返して早くも4時間、窓の外には青い故郷が広がっていた。
意識が戻ってから3日目、基地を後にする私は荷造りをする事となった。
短い期間ではあったが、ここを離れるのが惜しくてたまらない。
それはこの現実を受け入れられていないのか、はたまた逃げ続けた事と向き合う事への逃避か定かでは無い。
一つずつ自分の荷物を梱包していく、走馬燈のように思い出が流れていった。
初めての月周回軌道上かは見下ろした景色、新規就業者教育担当の城戸さんの部隊に配属された日の事、城戸さんや南原先輩と初めての巡回業務、初めて戦闘した日の事、慰安会で映画を見た事、城戸さんと藤野さんが二人きりになれるようにみんなで奔走した事、月周回軌道上での戦闘、城戸さんが死んで…藤野さんが後を追って…南原先輩が自殺して…私達が月面での戦闘に投入されて…同期はほとんど残ってない。
あの地獄を四人で戦って訪れた束の間の平穏、古代が配属されて…大変だったな。
どうやったらいいかも分からなくて、城戸さんや南原先輩を思い出して教育したっけ。
地獄の地上戦もそうだがあの人たちが居たらと何度思ったか。
そんな日々もお終い、現実に向き合わなければならない。
私は大きく深呼吸をして気持ちを切り替える。
もうじき任期も終わるから。
「なぁ、里見の葬式には出るのか?」
隣の奥山が問いかけた。
少し心配そうな顔をしている。
「出るよ、私の責任だから」
あの時私が上手くやれていれば、里見さんが死ぬ事は無かったんだ。
私が負傷したから、彼を死地へと送る事になったのだ。
遺族から罵られる事も覚悟している。
「あんまり思い詰めるな、少なくとも彼の結末に対する責任は一人のせいじゃ無い」
奥山は宇宙用のパックに入ったコーヒーを啜る。
「俺らもそこに居たんだ、だからみんな共犯だ」
彼の言葉に私は返す言葉も思いつかなかった。
「みんなで地獄に行くんだ、抜け駆けは無しだぞ」
彼が真剣にこちらを見つめる、その瞳の奥には優しさが宿っていた。
藤野さんや南原先輩の件もあり、私を気にかけてくれているのだろう。
「ありがとう」
私の言葉に彼が微笑んだ。
機内のアナウンスがシートベルトの着用と飲食物を格納するように呼びかけていた。
シートベルトを再度確認する。
隣の彼はコーヒーに蓋をしてしまうとシートベルトを装着した。
私達はこれから重力の井戸の底へと降りていく。
私達の故郷、美紀の居る私の故郷へ。
しばらくすると激しい揺れと熱が船内を襲った。
大気が宇宙船に降りかかる。
故郷の洗礼をしばらく受けると懐かしい重力が身体にかかる。
大気圏再突入が終わり、宇宙(そら)の旅も佳境を迎えた。
「地球の重力は相変わらず重いな」
奥山が大きく伸びをするとヘルメットのバイザーを開けた。
私も彼に習ってバイザーを開けようとする。
宇宙服の右腕がぶらりと動く、また忘れていた。
「あ、忘れてた」
左腕でバイザーを開けて深呼吸する。
「腕、慣れるまでは大変だな」
「そうだね、でも保険で義手買えるみたいだしなんとかなるよ」
「もしかしたら、ロケットパンチ撃てるようになるかもよ?」
すこし曇る奥山に右腕を元気にぶらつかせて見せた。
「つけるならもっとかっこいい物にしようぜ」
「たとえば?」
「雷落とせるようにするとか」
「かっこいいじゃんソレ」
奥山の言葉に二人で顔を見合わせると笑みが溢れる。
失って始まった再出発、逆にこれからなんでも出来る再出発であった。
これからの事に少し二人で思いを馳せた。
この重たい重力の元で。