感情×1.62m/s^2   作:ORC機関

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そして人生最期の日、君が見えるのなら
きっと

ヨルシカ「言って。」より


いつか来る人生最期の日

翌日、快晴の元で兄さんの葬儀が行われた。

葬儀には沢山の人が来て、見た事ある親戚の人達、軍服を着た男性達、軍服を着た女性の人、右腕の無い軍人の人、悠香先輩も来ている。

先輩はずっと柩の側に居た。

住職さんが読経し、弔辞や弔電が始まる。

その後焼香を順にあげていく、私は見様見真似で焼香をあげて手を合わせた。

花入れの儀では参列した人々が柩の中へ花を入れていく、私と夏鈴は兄さんの胸元に花を添えた。

悠香先輩は花を持ったまま立ち尽くしている。

おばさんが優しく背を押し先輩を兄さんの元へ連れていく。

震える手で彼の左胸の上に花を置くと先輩は辛そうに兄さんを見下ろした。

その後、柩の蓋が閉じられて釘打ちの儀が始まる。

先輩は震える手で釘を打つ石を持っていた。

そんな様子を見ていた私と夏鈴は先輩の手を握った。

驚いた表情で私達を見た先輩に私達は首を縦に振る。

三人で彼の柩に釘を打った。

式が終わり、お別れの儀が始まる。

親戚の人達が皆涙を流して別れを惜しんだ。

軍人の人たちは皆柩に手を置き、涙ながらに合言葉の様なものを唱える。

「汝、自由の旗の元に忠誠を誓い、より良き世界を作るために働く」

「汝は、正しい攻撃にて敵を撃滅し、新天地を守る者」

「汝は、我らの世界の礎、新世界の守護者なり」

きっと、兄さんに命を救われた人たちなのだろう。

最後に私達の番が回って来た。

「優にぃ、お別れだね」

夏鈴が兄さんの顔を覗き込みながら声をかけた。

私も柩に開いた窓から兄さんの顔を眺める。

本当に眠っているようで今にも瞼が開いて笑ってくれる様な気がした。

「兄さん、寄り道しちゃダメですからね」

「そうだよ!ちゃんと真っ直ぐ…」

夏鈴の言葉が詰まる、これが兄さんとの最後の別れだ。

「ダメだなぁ私、最期は笑顔でお別れするつもりだったのに」

夏鈴が涙声にそう呟いた。

「兄さん、行ってらっしゃい…じゃあね」

私も視界が滲み、声が震えてしまう。

「先に待っててね、優にぃ」

私と夏鈴は涙を拭いながら後ろの先輩に場所を譲る。

先輩は彼の側に歩み寄ると顔を覗き込んだ。

「私が大急ぎで来たのに先輩は悠々とお昼寝なんて酷いです」

「先輩はいつもそうでしたよね、思いつきで行動して私を振り回して」

「急に月に行くって言い出したと思ったら私を置いて行って」

「私が引き留めたのにニブチンの先輩は…」

段々と悠香先輩の声が震えてきていた。

「あの時、先輩の事なんか知りませんなんて言いましたけど」

「私、すごい気にしてたんですよ?」

「貴方の手紙やビデオレターを見ては安堵して無事を祈ってました」

あまり感情を出さなかった先輩の本心が露になる。

「そんな事、貴方は気づいていなかったのでしょうけど」

「そんな私のこと知らないでまた置いて行くんですね、本当に酷い人です先輩は」

「先輩、ずっとずっと好きでした。」

「こんな事になるぐらいならニブチンの先輩にもっと早くに言っておくべきでしたね」

「だから先輩、お願いです」

「私の人生最後の日に迎えに来てください」

「また、待ってますから」

先輩はそう言うと柩の窓を閉じる。

きっと、別れられなくなりそうだったのだろう。

辛そうな先輩を私と夏鈴は抱きしめた。

兄さんは霊柩車に乗せられて出発していく。

私達はバスに乗って、その後を追う。

バスに揺られる私の隣には夏鈴が座っており、窓の外を眺めている。

見慣れた田園風景が流れ、聳え立つ高圧鉄塔の間を潜り抜けた。

青々とした山の向こうには入道雲が空へと手を伸ばしている。

少し高い景色だが、兄さんとのドライブで見たものだ。

「覚えてる?優にぃがアイス買いに車出してくれた事」

夏鈴が外の景色を眺めながら呟いた。

「兄さんドライブ好きだったよね、毎回誘ってきたもん」

「中学の時、優にぃに酷い事言っちゃった」

その時の事を思い出したのか夏鈴の声が震えていた。

「私だってあの時兄さんに辛く当たっちゃった」

思春期特有の感情で兄さんに酷い事言った私はその後、気まずい距離感になってしまった。

それこそここ数年でようやく話ができるようになったのだった。

「優にぃ、お姉ちゃんに嫌われたってしょんぼりしてた」

「夏鈴の時も思春期かぁって寂しそうにしてたよ」

お互いに顔を合わせてそう言うと隣の悠香先輩が小さく笑う。

「その時先輩は私に思春期の女の子との接し方を相談してきましたよ」

「あまりにも深刻に相談して来たので何事かと思いました」

悠香先輩は懐かしそうにそう呟いた。

「ねぇ、悠香先輩?優にぃの事もっと教えてよ」

夏鈴が悠香先輩にお願いした。

「そうですね…」

先輩は少し嬉しそうに笑うと彼との思い出を語りだす。

そういえばと親戚の叔父さん、叔母さんも混ざり合い冷え切った車内に束の間の温かい雰囲気が広がった。

私はさまざまな人から彼の話を聞いた。

私の知ってる兄さん、私の知らない兄さん、小さい頃の兄さん、新たに知れた兄さんの顔に少し嬉しくなった。

楽しい時間は早いもので私達のバスは火葬場に到着する。

皆、改めて現実を目の当たりにして黙り込んでしまった。

ゾロゾロとバスから降りて私達は火葬場の中へと向かう。

炉の分厚い扉の前に台車に乗せられた兄さんの柩が待っていた。

住職が読経をあげ、再度焼香をあげる。

段々と慣れて来てしまった私に悲しくなった。

本当に最後の別れが始まる。

皆、柩を撫でて兄さんにお別れを述べる。

悠香先輩は名残惜しそうに柩を撫でていた。

夏鈴は愛おしそうに柩を撫でるとまるで壊れ物を扱うように優しく叩いた。

「優にぃ、じゃあね」

「兄さん、向こうで待っててくださいね」

私も優しく柩を撫でる、兄さんが入っている所為かとても良い触り心地で名残惜しかった。

係の人が一言述べるとゆっくりと炉の中へ兄さんは入って行く。

悠香先輩の手をするりと抜けていった。

「いってらっしゃい、先輩」

悠香先輩が寂しそうにポツリ呟いた。

扉が閉まり、施錠される。

私達は係の人の案内で待合室へ誘導される。

悠香先輩が一人、炉の前で立ち尽くしていた。

「悠香先輩?」

思わず私は声をかけた。

えぇ、と小さく返事をして先輩は私達と共に移動する。

待合室に着いた後、夏鈴は悠香先輩と話していた。

私はといえば窓から外を眺めていた。

炉の中に入った兄さんは燃やされて骨になる。

火葬なのだから当たり前だ。

それはとても熱い温度の筈だ、兄さんは熱くないだろうか?

痛くないだろうか?

もう死んでいるので何も感じられない筈だ。

でも本当に死んでしまったのだろうか?

今にも瞼が開きそうなほど安らかに眠る顔が頭に浮かぶ。

まだ私は兄さんの死を受け入れられてない様だった。

出されたジュースに口をつける。

味はよくわからなかった。




もう少し晴香ちゃん達の話は続きます。
やってもらわないといけない事があるので。
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