感情×1.62m/s^2   作:ORC機関

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今回は重たいです(文字数的にも内容的にも)
月曜日に出す品じゃねぇよ頭お鹿島だろ(某練習艦への風評被害)
とりあえず、これを書き上げるまでにタバコを4本キメました。
本当にしんどかった。


ちいさな貴方

係の人に呼ばれて移動すると兄さんはそこに横たわっていた。

肌も筋肉も全て灰となり白い骨だけになっている。

兄さんの身体の最奥にあったソレは今燃え尽きた彼の最後の身体。

真っ白になった兄さんを見て私は美しいと思った。

係の人が白い円筒状の壷を持ってくる。

親戚やおじさん、おばさん、父母、そして私達で彼の骨を壷へと納めていく。

夏鈴と共に橋渡しで白い器に丁重に入れる。

彼の骨から出る熱が、空気の揺めきが確かに火葬された事を物語っていた。

最後、悠香先輩とおばさんが残りを入れて行く。

なんとなく残った欠片に私は手を伸ばし、人差し指と中指で触れる。

熱と痛みが現実である事を我が身に知らしめた。

見上げるほど大きかった兄さんは全て壷に収まり小さくなってしまった。

蓋が閉じられ、白い小さな骨壷となる。

両手で抱えられるぐらいの大きさになった彼をおばさんは私達に差し出す。

「優を抱きしめてあげて」

涙ながらにそう言うおばさんに私は頷くと震える手で受け取った。

仄かにまだ熱が残っているのかまるで生きてるみたいな温度がそこにはあった。

私は彼を胸に抱く、出来れば生きた彼の温もりを感じたかった。

隣の夏鈴に壷を渡す、彼女は恐る恐る両手で受け取ると目を見開く。

彼女はゆっくりと抱きしめた。

「お盆の最後、帰りたくないって私がゴネた時覚えてる?」

「うん」

「あの時の優にぃみたいな温度」

夏鈴は瞳を閉じると愛おしそうに鼻から息を吸う。

「優にぃの匂いは流石にしないか」

夏鈴は残念そうに言うと今度は悠香先輩に差し出した。

彼女はしっかりと受け取るとその胸に抱き締める。

「先輩は暑苦しい人でした、あの時と同じです」

「あの時は先輩でしたが今は私です、あの世まで自慢してくださいね」

彼女は噛み締める様にそう言うと少し名残惜しそうに父に渡した。

「初めてお前を抱いた以来、こんな形で抱きしめる事になるとはな」

余り喋らない父が感情を露わにして抱きしめて居た。

叔父さんが肩を抱いた。

バスの中で聞いた事を思い出す。

兄さんが生まれた時、父は大喜びした。

自分の甥っ子が出来た彼はとても可愛がったそうだ。

お盆の帰省時には虫取りや釣り、川遊びやキャッチボールなど、弟の居なかった父は実の息子のように彼へ様々な事をしてあげた。

目に入れても痛くない甥っ子だったのだろう。

「俺にとっちゃ、どこに出しても恥ずかしくないし、目に入れても痛くない自慢の妹達だよ」

昔、兄さんはそんな事を言ってた。

親戚達が骨壷を抱きしめていく、小さく骨と灰になってしまったが確かに兄さんは存在していた。

どこに出しても恥ずかしくないし、自慢できる。

目に入れるのは痛いかもしれないが私にとって兄さんはそれぐらい素敵な人だった。

ふと、自分の指を見ると何となくで触った彼の遺灰が付いている。

これも兄さんの身体の一部だと思うと少し愛おしく見えた。

頭がおかしいのかもしれないが私はそう思った。

私は白くなっている指を口に含んだ、特に何も考えず、無意識に身体が動いていた。

彼が私の中に入っていく、そうして私の血や肉となる。

私の中で彼が生き続けていく。

何となくそんな気がした。

そうして一通り葬儀が終わり、私達はバスに揺られて兄さんの家に帰る。

おじさん、おばさん達が出前を頼み、私達は遅い昼食となった。

座敷に机を出して皆でご飯を食べる。

「ねぇ、優の写真とかってあるの?」

親戚の一人がそう言うと皆各々が写真を見せ合い始めた。

「そういえば、悠香ちゃんには見せてなかったわね」

おばさんがテレビに兄さんのビデオレターを流し始めた。

近況報告や私達や悠香先輩を気にかける言葉が流れる。

「そういえば、悠香はまだ怒ってた?」

「最後にあれだけ怒ってたから帰るの少し怖いんだよね」

気まずそうに兄さんが頬をかいた。

「怒ってるようだったらもう少しこっちに隠れておこうかな」

冗談めかして彼は言う。

「とりあえず、元気にしてるって伝えておいて」

「バカ、怒ってませんし、ちゃんと私に言ってください」

少し呆れたように笑う先輩。

私は先輩に聞いてみた。

「兄さんからの連絡って全然なかったんですか?」

「ええ、最後にあれだけ罵りましたからね」

映像から目を離さず、少し寂しそうに先輩はそう言った。

兄さんの基地での姿が流れる。

基地内ではビデオカメラが置かれて日常の記録として様々な人がカメラマンになって撮影したものだ。

また、ごく一部の映像は本人のヘッドカメラから撮られている。

装甲車の前でバインダーを片手に仲間と話し合う姿。

宇宙服を着て跳ねるように移動する姿。

同じく宇宙服を着てキメポーズをした後、親指を立てる姿。

装甲車から身を乗り出して兵士たちに丘の向こうを指差す姿。

宇宙服でゴルフをする姿。

「何してるんですか先輩…」

悠香先輩が力無く笑う。

親戚達も何してるんだと笑いあっていた。

「ゴルフ誘っておけばよかったな」

おじさんはハハハと笑うと寂しそうに言う。

格納庫でビーチチェアに寝転びサングラスをしている姿。

食堂で仲間たちと談笑する姿。

操縦席で車両を運転している主観映像。

食堂で腕相撲する姿。

カメラマンとなり同僚を紹介している映像。

「かわいい妹分に挨拶しな」

そんな冗談を言う彼に笑いながら答える姿。

葬式に来た軍人さん達だった。

「かわいい後輩が抜けてますよ」

寂しそうに眺める先輩の側に私は移動した。

彼が弾き語りする姿。

格納庫で忙しなく動き回る姿。

主観映像で彼が装甲車の上部ハッチを開けて外を眺める映像。

飾り付けられた食堂で誕生日を祝われている姿。

頭にとんがり帽子が乗って、本日の主役襷を身につけている。

ケーキを吹き消す姿。

視界が歪む、その映像の中で彼は生きていた。

歳を取らず、色褪せることのない電子の思い出の中で兄さんが笑っていた。

腕を負傷し手当を受けている姿。

心配させまいとしているのかピースサインを向けて笑顔を見せる。

月面の暗い空に浮かぶ青い彗星を見上げる彼の主観映像。

「遠くまで行ってたんだな」

父がポツリとそう呟いた。

啜り泣く声が座敷に響いていた。

爆発に驚いて逃げてくる姿。

兎っぽい岩に忍足で近づく姿。

兎っぽい岩にレターパックの箱を被せて親指を立てる姿。

「もうっ、兄さんったら…」

思わず口から言葉が漏れた。

「月でウサギを捕まえたらレターパックで送ってやるよ」

出発前最後に会った時に彼が言っていた事を思い出した。

鼻がツーンとし、頬を温かい雫が伝う。

装甲車のハッチから手を振る姿で映像は終わった。

「叔母さん、彼の最後って見れたりしますか?」

悠香先輩は静かに聞いた。

一瞬、空気が凍る。

皆、顔を見合わせた。

「あるわ」

おばさんは辛そうに言う。

「従軍にあたっての説明会で言われたわ」

「でも悠香ちゃん、本当に見るの?」

おばさんは凄く怯えながら、そして引き留めるような声で先輩に問いかけた。

「お願いです」

先輩の懇願する声に辛そうに目を背けるおばさん。

多分、おじさんやおばさんは1番最初にみたのだろう。

私達も詳細な話は知らなかった。

「わかった、私はちょっと席を外すわね」

おばさんはDVDを入れると足早にお勝手へと行ってしまった。

宇宙服を着た兄さんの主観映像が始まる。

軍事機密等に関わるものは規制音が入るが作戦について話しているようだった。

改めて見ると狭い運転席、外の状況は最低限の窓とモニターしかない。

「おい!松尾!窓を警戒しろ!」

「了解」

「野郎どもだけはちゃんと目的地に降ろすんだ!」

装甲車を運転しながら怒鳴る彼、私は見た事がなかった。

「いいか野郎ども!」

彼は同乗している仲間に作戦を伝えていた。

「降車準備!」

誰かが叫ぶ。

「俺たちはどこの所属だ!」

兄さんが怒鳴る。

「月面機動師団!」

「敵陣一番乗りで殴りこむのは誰だ!」

「俺たち月面機動師団!」

「敵が一番恐れているのは!」

「俺たち月面機動師団!」

揺れが激しくなり、計器が点滅し始める。

「俺たちはなんだ!」

兄さんが叫んだ。

「正しい攻撃にて敵を撃滅し、新天地を守る者!新世界の守護者なり!」

葬式に来た軍人さん達が言っていた合言葉。

「野郎ども!仕事の時間だ!行ってこい!」

兄さんは素早くスイッチを押していくとモニターと小さな窓を交互に見ていた。

一旦、画面が停止する。

計器の並ぶ操縦席、兄さんは食べ終わった宇宙食のパックを宙に浮かべてクルクルと回して遊んでいる。

「こちらD分隊、位置を送れオーバー?」

「栽培プラントと管理棟を繋ぐ連絡通路入り口にて交戦中!」

「こちら2号車!太陽光発電所の格納庫からAPCが移動中!里見そっちに行くぞ!」

そんな無線が入り、彼が慌ててゴミをしまいモニターを切り替える。

「おいおい、冗談だろ?」

計器をいじり、スイッチを入れていく。

「松尾!奴さんの登場だ!いつでも撃てるようにしとけ!」

「アイアイサー!」

画面が揺れ、バイザーを閉じる音がする。

「クソ、間に合ってくれよ」

計器の警告灯が点滅し始め、振動が大きくなった。

「野郎ども、加勢しに来たぞ!」

彼が小さな窓をを覗いて悪態をついた。

「不味い!里見さん、退避を!」

「うおぉぉぉ!」

椅子に押さえつけられる兄さん、大きな揺れが画面を襲う。

「里見!退避しろ!」

「やれ!奥山!」

兄さんがレバーを操作してモニターを切り替える。

加速した後ブレーキを踏んだのか大きく揺れた。

再度窓の外を覗き周囲を確認している。

「里見さん、冗談キツイっすよ」

松尾と呼ばれている同僚がそう言った。

「流石に今回のはヤバかったな」

大きな溜息を兄さんは吐いた。

無線では仲間達が歓声を上げている。

どうやら装甲車を撃破したようだった。

「まだ居るぞ!」

警告ランプが点滅し、彼がモニターを操作する。

「2時の方向、松尾見えるか?」

「捉えた」

彼はレバーを操作しゆっくりと移動する。

「里見!負傷者一名回収できるか?」

無線越しに誰かが兄さんに要請する。

「まかせろ」

短く答えると小窓やモニターを見ながら操縦していく。

「対戦車兵!」

誰かが叫んだ。

「不味いぞ!里見!」

兄さんは慌てた様子で小窓を覗く。

刹那、車内に小さな爆発炎が上がり炎に包まれる。

叫び声を上げる兄さん。

彼の主観カメラが動き上部ハッチを開けた。

「クソ!クソぉ!」

縁に手をかけて身を乗り出す。

宇宙服を来た兵士たちが銃から赤い光の線を出していた。

「ゔっ」

兄さんは小さく呻くと画面が揺れる。

破片が舞う車内と遠くに先ほどのハッチが見えた。

兄さんは手を伸ばす、大きく喘ぐような呼吸音だけが響いていた。

そんな呼吸も静かになると腕がダラリと下がる、死んでしまったのだ。

映像は終了し画面が暗転する。

部屋の空気が鉛になったのかの様に重く冷たかった。




書いていて悠香先輩が凄い可哀想になってしまいました。
別作品のモブとして登場させて先輩といい感じにくっつけさせようかと思うぐらい心が痛くなりました。
多分ですがこの人、独身を貫いて最早未亡人みたいになりそう()
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