感情×1.62m/s^2   作:ORC機関

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対空戦闘

翌日、僕らの分隊は基地周辺の哨戒任務にあたった。

代り映えのしない白い荒野と黒い空、彼方に見えるのは僕らの青い故郷。

月面車に揺られ代り映えのしない景色が流れる。

__私ね、夢があるんだ__

美紀は先輩に憧れていた。

先輩が軽音部に所属していたのを覚えている。

文化祭での演奏はとても素晴らしかった。

その後、先輩は大学で音楽系の知識を学び、バンド倶楽部を大学のサークルメンバー達と経営している。

そんな先輩の背中を見て育った美紀は音楽の道を目指していた。

先輩はその道を歩んできた為か美紀の夢に否定的であった。

なんていうか先輩は不器用な人だった。

そんな性格の所為か姉妹喧嘩が結構起きた。

そのたび美紀が私の部屋に逃げ込んできた事は多々あった。

__美紀にそんな思いしてほしくないんだ。__

先輩も不器用なりに美紀のことを考えての意見である。

確かに、美紀に今の仕事をしたいと言われたら。

首を縦に振れないだろう。

今振り返ってみれば先輩の気持ちは痛いほど理解した。

「敷島、お前はどう思うよ」

同期の奥山の問いで記憶から現実に戻る。

「何がだい?」

「ここの環境の事さ、空気はねえし、くそったれな無人機は来るし、さっさと家に帰りてえよ。」

彼は心底うんざりした声色でぼやいた。

「確かにねえ、それがなければ文句はないな」

戦闘がなければ楽しい月旅行になる。

しかし、残念なことに人類は火星まで進出できるようになってもなお、領土をめぐり戦争をしていた。

火星での熾烈な戦争の様子を知れば、まだここはマシに思えてしまった。

「無料の月ツアーだもんな、右手に見えますはガンターレットでございます。」

ガイドのモノマネをしながら迎撃施設の横を通り過ぎる。

月に立った宇宙飛行士も月面にきてまで子孫が戦争するなんて思ってないだろう。

結局のところ、地球から飛び出したとしても僕らは変われなかった。

鎧が宇宙服になり、ライフルが光線銃になった。

黒い空の向こうに見える蒼い故郷。

向こうは変わらずの日常が続いているのだろう。

「各員に通達、上空に飛来する未確認機を補足」

無線のオペレーターの報告で穏やかなドライブが終わりを告げた。

「仕事だな、対空戦用意」

奥山が哨戒用道路の路肩へ急停車し、後部席の柴井が機材を降ろし始めた。

後輩の古代はドアから降りると上体を少し反らし、宙を見上げている。

柴井は道路から降りた平地に小型コンテナを置きスイッチを押す。

小型コンテナが展開し球体カメラが忙しなく辺りを見渡す。

「敷島、ランチャー準備して」

柴井が車両の後部を指さす。

高出力のレーザー発射機の事だ。

「了解、古代周囲を警戒しろ。」

荷台から長方形型の運搬コンテナとバッテリーを取り出し車両から距離を取るべく駆け出した。

攻撃機が複数の場合、初撃から位置を割り出され反撃を受ける可能性もある。

生存率を上げるには各員分散する必要がある。

奥山は古代を乗せ車両を回すと私とは反対側へ移動を始めた。

「奥山、危なくなったら遠慮なく逃げていいからな」

柴井の一言に奥山は笑い返す。

「その時はRWSの古代に頑張ってもらおう」

「そんなぁ」

奥山と対照的に古代は不安な声を上げた。

リモートウェポンシステム。

無人砲塔が月面車には装備されており車内よりリモコン操作で攻撃が行える。

「敷島さん、私対空戦したことないんですよ」

「みんな最初はそうだよ」

「やばくなったら俺が慣性ドリフトかまして逃げるから古代は射撃に集中していいからな」

「古代はRWSの成績が一番いいんだ、大丈夫だよ。」

奥山と柴井が古代に励ましの言葉を掛けた。

「古代、奥山のドラテクは信頼できる。攻撃を三回かわしたラッキーボーイだからね」

私の話に柴井と奥山の笑い声が聞こえた。

私は彼女にそう伝え、仕事に取り掛かる。

運搬コンテナを開けバッテリーと発射機を接続し取り出した。

白と黒のカラーが施された本体を肩に担いだ。

ピストル状のグリップを握り安全装置に指を架けた。

「B2、機体種別は攻撃機3機、偵察機2機」

戦闘指揮所から敵情報が告げられる。

どうやら敵の威力偵察部隊のようだ。

攻撃機で攻撃を仕掛け敵の対抗手段を調べるのだろう。

「敷島、一人で大丈夫?」

「柴井も一人だろ」

1人の私を案じて声をかけてくれた。

そんな彼も一人発射機のそばで待機してる身である。

「俺は発射機から距離取れるけどお前はランチャーじゃん」

ランチャーの射手は設置型の自律対空火器に比べ危険度が跳ね上がる。

「お前が死んだらさ、お前の先輩に申し訳が立たんからさ」

「ほんとだぞ、美紀ちゃんに言われてんだ」

奥山と柴井は休暇の時に一度先輩姉妹にあっている。

心配性な美紀は二人に私のことを訊ねていた。

おかげで一時間ほどの説教を受けた。

「発射機の成績的に私が適任だから」

発射機を宙へ構え敵の襲来を待つ。

永遠にも思える時間の中、戦闘指揮所からの連絡を待った。

「CPからB2へ、B1の戦果は偵察機1攻撃機1」

「了解」

第一波の攻撃は各一機にとどまった。

無理もない、小型の無人攻撃機は小回りが利くため回避されやすい。

我々は哨戒用の装備なので対空火器が少ない。

そのため後方でB3が対空装備で展開している。

我々は落とせるだけ落としたら退避する。

撃ち漏らしはB3が処理してくれるだろう。

宇宙服ヘルメットのバイザーを覆うように戦闘外殻を降ろす。

何度体験しても外殻を下ろした時の暗闇は不安感を煽る。

外殻モニターを起動しガンカメラの映像と戦闘情報が投影される。

「敷島はケツのヤツをやれ、柴井は真ん中で古代は先頭だ」

奥山の指示をもとに安全装置を外し、ガンカメラで照準を行う。

照準しロックすれば多少ずれていても火器管制システムが補正してくれる。

「敷島、柴井やれ」

標的をロックし引き金を引くガンカメラ越しでも眩しい一閃がきらめいた。

私の標的が爆ぜたことをガンカメラで確認。

どうやら爆薬に引火したようだ。

続いて真ん中の無人機が制御を失い墜落した。

柴井が羽を焼き切ったのだ。

「古代、お前の番だ。」

古代が攻撃を放つ。

しかし攻撃は先頭の鼻先を掠めた。

「クソ、減速した。」

最後の無人機は左に旋回、機首をこちらに向けた。

「敷島、そっち行くぞ!」

奥山が声を上げた。

外殻を上げ視界を確保。

素早く使用済みのバッテリーを放り捨て新しいバッテリーを取り出す。

焦っているせいか上手く付けられない。

三回目で成功し外殻を下げガンカメラを覗く。

こちらに向かっているため直照準で問題ない。

私は祈るように引き金を引いた。

無人機は空中で爆ぜたが爆薬の一つが宙を舞っていた。

「クソ」

私はランチャーを放り出し地面に飛び込んだ。

爆発が地面を揺らし外殻へ飛来物が衝突する。

がれきの雨は通り雨のごとくすぐに止んだ。

無人機の誘爆によって爆薬は私から離れたところに落ちたようだ。

本当に運がよかった。

「敷島無事か?」

奥山の声が聞こえる。

無線機に異常はないようだ。

外殻の情報モニターには異常を示す表示はない。

「無事だよ、小便をチビッタこと以外は」

「この野郎、寿命が縮んだぞ!」

柴井も無事なようだ。

「あの鉄飛行機、腕がいい」

「敷島さん、本当にごめんなさい」

私がそう呟くと古代がこの世の終わりみたいな声で謝罪する。

誰が彼女を攻められようか、初戦で手練れの相手をしたのだ。

彼女に荷が重い仕事をさせてしまった我々の失態だ。

「大丈夫、今回は相手が悪かった。」

「でも...」

申し訳なさそうにする彼女に申し訳ない気持ちになってしまった。

外殻を格納し外の景色が視界へ入る。

道路わきにできた大きな穴、距離は約50m。

かなりの高精度だ。

「小型の爆弾だな。」

「ほんとに運がよかったな」

「ほんとだな」

報告用の携帯カメラでクレーターを撮影する。

柴井の言葉に同意し発射機を探す。

砂埃にまみれた発射機を見つけ、破損状況を確認する。

幸いなことにバッテリーや光学機器に破損は見られない。

「発射機は無事だ、報告書が増えなくてよかった。」

運搬コンテナに収納し奥山達の回収を待つ。

戦闘を終えた後なので神経質になっているのか静寂が酷く不安をあおった。




携帯型対空火器はBF4で死ぬほど使ったスティンガーっぽい熱光線兵器。
柴井君の設置型はBF4で死ぬほど殺された対空地雷っぽい熱光線兵器。
RWSはリモコン機銃、ただし宇宙空間なので武装は熱光線兵器。
なお、対戦車兵器と重機関銃はなぜか実弾である。(信頼性的に)
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