ホームセンターで買い物を済ませた私たちは悠香先輩の車へと戻ってきた。
買うのは大きな打ち上げ花火だけの筈が気が付けばアイスやお菓子も買ってしまい少し荷物が多くなってしまった。
先輩がトランクルームの扉を開けて手で促す。
夏鈴は袋に手を入れアイスを取ると車の座席へと戻っていく。
私は荷物を中に入れ、ドアから少し距離を取る。
先輩はいからいっぱいに扉を閉めるとこちらに微笑んだ。
「帰ろうか、晴香ちゃん」
彼女の問いに私は頷いて返す。
駐車場を照らすライトの光が少し眩しく感じた。
日は沈み、夜の始まりの青が世界を染め始め、私たちの行く道をフロントライトが照らしていた。
カーステレオから穏やかなアコースティックギターが音色を奏で車内を満た空間、なんとも言えない無言の空気が広がっている。
私は居心地が悪かった。
「先輩は兄さんと知り合ったのはいつからなんですか?」
ハンドルを握る悠香先輩に私はなんとなく、気まずさを紛らわすために問いかけた。
彼女は一瞬こちらに視線を向けるとすぐに視線を前に戻す。
「一番最初の出会いは小学生の頃から、昔から鬱陶しい人でした」
口ではそう語る先輩からはどこか懐かしそうな雰囲気が出ていた。
「昔から不愛想で可愛げのない私を気にかけてくれて…」
「素直じゃない私はいつも適当にあしらって」
「本当に最低」
少しつらそうな先輩を見ていられなくて視線を窓の外へそらす。
見慣れた商店街が暖かい街灯で染め上げられ、どこか懐かしい気持ちになった。
夜祭にみんなで行ったときを思い出す。
「兄さん、言ってましたよ」
「悠香先輩は優しくて、賢くて…自慢の後輩だって…」
私が兄さんに冗談半分で聞いたときの話だ。
兄さんも彼女が素直になれない性格であったことぐらい理解していたはずだろう。
私より長く付き合っていたんだ。
「兄さんだってわかってたと思います」
「だから…あまり思い詰めないでください、悠香先輩」
彼との思い出が詰まった街道はどこか寂しげで、未だにこれから先の未来に彼が居ないことが信じられない。
「でももう彼は居ない、こんな事になるなら空港であんな事言わなければよかった」
「今更になってそう思ってる身勝手な私が許せないの」
「戻れるならあの日の自分を殴ってやりたい」
目線を外から先輩に戻す、運転している彼女はいつもと変わらないように見えるが声は確かに震えていた。
静かな車内には絶えずアコギの音色が流れていて微かに空気を紛らわせている。
バックミラーを見れば夏鈴がスマホを見るようなふりをしながら視線をこちらに向けていた。
私にできることなんて何もなかった。
家に着く頃には何処からかやってきた雲が音を立てて雨を降らせ、私達の計画は出鼻をくじかれてしまった。
荷物を運び込んだ私達は今夜に行う予定を取りやめることとなった。
「雨、止むかな?」
夏鈴は窓の外を眺めながらポツリと呟いた。
「この時期は大気の状態が不安定なので…」
「明日こそは絶対にやろう!」
気まずそうな顔の悠香先輩に夏鈴は笑いかけた。
まだ幸いな事に時間はある。
皆、夏鈴の言葉に頷くとそのまま解散する事になる。
そうして明日の夜に作戦は延期となったのであった。
悠香先輩の車を見送るとおばちゃんが呼びに来る。
夕飯ができたと私呼ぶ。
夏の青々とした草木に当たる雨音が私達の世界を包んでいた。