翌日、基地内に警報が鳴り響いた。
前哨基地へ敵部隊が襲来し、我々に戦闘配備の令が下された。
純白の戦闘宇宙服に袖を通して武器庫から光学兵器を受領する。
背面には無反動砲の砲弾と予備のバッテリーをマウントする。
弾倉入れにバッテリーを格納しヘルメットバイザーにディスプレイを投影する。
前哨基地の守備隊はすでに戦闘状態にあり、迎撃に成功しているようだ。
「戦闘隊は実弾帯行許可。繰り返す、実弾帯行許可。」
アナウンスが響き慌ただしく隊員が行き来する。
「光線銃は実弾じゃないけどな」
柴井が皮肉を呟いた。
「初めてじゃないですか?敵部隊の襲撃」
古代がどこか他人事のように言う。
「古代は今期からだから知らないんだろうけど前期では結構あったんだよ」
奥山が古代の頭を優しく叩きながら説明した。
前回の任期では地上戦が頻発し、かなりの死傷者が出た。
私も腕部に被弾、負傷し運良く助かった。
月面では被弾は死に直結する。
この宇宙服では負傷個所に処置ができない。
そのため応急処置は野戦救急車で行い、後方陣地にて処置が行われる。
しかし、いつも野戦救急車が居るわけではない。
被弾個所に応急パッチを張り止血帯で圧迫止血を行い誤魔化すしかないのだ。
「古代、応急セットはちゃんと持ったか?」
「はい、確認しました。」
私は古代の装備品を確認する。
標準装備のボディアーマー、分配された熱光線銃にバッテリーが複数。
彼女は擲弾基礎訓練課程を修了しているため擲弾発射器の入ったバックを持っている。
赤十字ワッペンが付いたポーチには応急用パッチが満載されている。
「敷島さん、私そんなに信用ないですか?」
少し拗ねたように抗議する彼女を無視して確認作業を続行する。
前回の任期で発生した第一次オクソラ・クレーター事件は本当に地獄だった。
沢山いた同期も気付けば半分、補充要員で来た後輩たちも多数殉職、新顔が来ては消えてを繰り返していた。
彼女の背には生命維持装置と屋外活動用のバッテリーが取り付けてある。
生命維持機能は正常を示す緑のランプが点灯、外骨格のリンクは正常を示した。
確認作業を終えて古代から離れる。
「いいや、かわいい後輩が心配なのさ」
奥山はそう言うと砲弾が格納されたコンテナを3本左背部にマウントした。
彼の右背部には大きな筒がマウントされていた。
彼は対戦車特技兵の資格を持っている為、無反動砲を運用することができる。
柴井は二脚の付いた銃身の長い光線銃を背部に格納する。
「前回は新顔が1週間持てばいいほうだったからね」
ポータブルのパソコンを操作している。
偵察機との情報リンクを行っているのだろう。
格納庫にアナウンスが流れた。
「各班こちらCP、防衛司令部より通達、前哨基地の放棄を決定」
オクソラ・ヒル前哨基地は敵の侵入を警戒する施設のため戦略的にそこまで重要ではない。
特にオクソラ・クレーター外縁の監視所もあるため放棄後も三叉路の監視は行うことができる。
「A、B分隊は退却する友軍部隊を支援すべく軍用道3号線にて待機せよ」
オクソ・クレーターは比較的大きなクレーターで外縁部の標高は400m、クレーターの底はマイナス200mである。
基本外縁は車両の踏破は不可能、そのため迂回する形で軍用道3号と4号が左回り、右回りで構築されている。
「C、D分隊は3号線から分岐した4号線を通り、敵追撃部隊に挟撃を実施する。」
オクソラ・クレーターの向こう側、3号線から分岐した4号線が合流するところがオクソラ・ヒルがある。
3号線に友軍が退却する為、4号線から攻勢をかけて挟み撃ちにする戦法か。
また、オクソラ・クレーターの底には火力支援基地があるので時間をかければ前哨基地の奪還も可能である。
前哨基地防衛で砲弾を無駄遣いしていなければだが。
「3号線、ブロンズロードだな」
3号線につけられた俗称だ。
3番目に大きいクレーターの3号線、施工期間3年。
始めて通行したのがオリンピック射撃部門銅メダル選手。
3番目に縁が深い道路なのだ。
奥山が煙草に火をつける。
出撃前のため誰も咎めることはしない。
皆、最後になるかもしれないからだ。
「砲弾に気さくな挨拶でも書いておこうよ」
柴井が白いマーカーペンを取り出した。
「おいっすーって?」
私がそう言うと3人で顔を見合わせ笑った。
古代は首をかしげていた。
そうして準備を終えた私たちは雑談に花を咲かせた。
これから向かう地獄を少しだけ忘れるために。
一体何自然なんだ…(すっとぼけ)