有識者兄貴の助力が欲しい()
「第一班から二班へ、始めろ」
一班からの指示が届いた。
私は砂丘に伏せて向こうを伺う。
「攻撃を開始する」
奥山が応答し火ぶたが切られた。
無反動砲の後端からバックブラストが噴き出し、砂塵が撒きあがる。
どこまでも無音だった。
「こちら三班、攻撃開始」
三班待機位置から煙が上がる。
どうやら発射したようだ。
「敷島、551次弾装填」
「了解」
砂丘に無反動砲を委託して待機する奥山の背後に回り尾栓を開放し薬莢を取り出す。
使用済薬莢をそこら辺に捨て、次弾を装填する。
「551HE弾、装填」
砲弾を薬室へ、尾栓を閉鎖し奥山のヘルメットを叩く。
私はバックブラスト危害範囲へ移動する。
「よし!」
私は報告を上げた。
奥山は照準器を覗き込む。
「二班へ効果判定中、現状で待機せよ」
一班からの指示が飛ぶ、柴井は光線銃だけ遮蔽物から出していた。
ガンカメラの望遠機能で偵察を行っている。
「あー、弾薬庫に引火したみたい派手に吹き飛んでる」
「よっしゃ、後でキルマーク追加だ」
柴井の報告に奥山は嬉しそうにピースして見せた。
「こちら三班、半矢になった」
無線の向こうの三班から報告が上がった。
どうやら当たり所が悪かったようだ。
「目標は移動を開始、2班が撃破した後ろを通るぞ」
二班からの報告、自走可能なのが厄介だ。
敵が正確にこちらを把握する前に仕留めたい。
「二班了解、三班はIFVを頼む」
「了解」
奥山が戦闘外殻を下げ照準を始める。
隣の古代は向こうを確認するべく砂丘から顔を上げようとしている。
「古代、頭を下げて」
私は身を隠すハンドサインを古代へ示す。
実戦経験の少ない彼女は好奇心を抑えられないのか視線を戻した。
「下げろって言てんだろ!」
物静かな柴井が声を荒げて彼女を引きずり下ろす。
前の任期での出来事のせいだろう。
対岸のクレーターに陣取っていた敵との消耗戦、月面の西部戦線とも呼ばれた戦いは永遠に思えるほど長くて、多くの仲間が死んでいった。
こちらとあちらのクレーターの間には両陣営の車両の残骸が群れを成し、遺体が散乱している。
停戦が結ばれるまで睨みあいと地上戦闘が続いた。
彼の同期も何人も死んでいる。
「IFVがこっち見てるぞ!」
奥山の報告に柴井が戦闘外殻を下げた。
「あー、こっち見てる」
砂丘から銃だけ出して伺う柴井は嫌そうに答えた。
私は空の薬莢を回収し運搬ケースに戻す、退散の準備を始めよう。
「光った!」
柴井が叫んだのと同時に砂丘の向かい側の麓に煙が上がる。
古代が斜面に小さく丸まり、奥山は戦闘外殻を上げ素早く砂丘に身を隠した。
敵の攻撃が着弾したんだ。
音もなく死が近づいてきている。
態勢を立て直すべく砂塵の舞っている位置に攻撃を始めたようだ。
まだ我々は正確に補足されてないだろう。
「こちら二班から三班!IFVから攻撃を受けている、奴を静かにさせてくれ」
私は無線の向こうの三班に叫ぶ、相手の腕が良ければあと二回ほどで正確な偏差射撃をお見舞いされてしまうだろう。
「こちら三班、目標を捉えた」
無線の応答からすぐに三班待機位置から砂塵が上がった。
「どうだ?」
私の呼びかけに答える声はない。
柴井が恐る恐る砂丘の縁に銃を配置し戦闘外殻を下ろす。
「こちら三班、目標には着弾した」
三班からの報告、なんとも言えないようだ。
柴井は戦闘外殻の中で唸り始める。
「一班、AT5ある?一発突いてみてよ」
柴井は一班へ問いかける。
AT5、使い捨てのロケットランチャーで運搬コンテナが発射機を兼ねており軽量安価で扱いも容易なため、対戦車技能がない小銃手でも扱える対戦車火器である。
「了解、やってみる」
一班の応答後に左奥側の斜面から砂塵が上がる。
奥山は再度砲を委託し戦闘外殻を下げた。
「こちら二班、IFVの撃破を確認、砲塔が宙を舞ったぞ」
「お見事!」
二班の報告に私は一班に賞賛を送った。
「今度は俺の番だな」
奥山は呼吸を整えた。
柴井は絶えず索敵を続けてくれている。
「奴さんのお出ましだよ」
「捉えた」
柴井の報告に奥山が短く返す。
「やっちゃえ奥山」
私が言い終わるのと同時に砂塵が舞い上がる。
目にもとまらぬ速さで飛翔する砲弾は目視でとらえることはできない。
「どうだ?」
「すごいね、ドンピシャだ」
奥山の問いに柴井が嬉しそうに答えると古代が手を叩いて喜んだ。
敵装甲目標はほぼ全部撃破した。
幸先がいい。
「全班、その場で待機し里見の回収を待て」
一班からの指示で少しだけ状況が落ち着いた。
次は前哨基地の敷地内を掃除する。
私は奥山から空の薬莢を回収し運搬コンテナに格納した。
これで廃品回収手当がもらえる。
「これが終われば休暇だな、空も見納めだぜ」
奥山が砂丘に寝そべり空を見上げた。
「何台仕留めたっけ?」
柴井が武器を背面に格納して奥山の隣に腰を下ろした。
「これで10、対戦車勲章はいただきだ」
奥山は親指を立てハンドサインを出す。
「柴井はどうするの?防空勲章と優良選抜射手勲章は確定してるけど」
私の問いに柴井は手を振り否定して見せた。
「さすがに今期で一旦終わりにするよ、さすがに命がいくらあっても足りない」
「マジか、奥山は?」
「勲章五つもあれば就職には困らないし、足洗うわ」
奥山はのんきに手を振り返して答えた。
彼は一番歴が長いだけあって勲章は一番多い。
「古代は?今期で終わり?」
「私はまだ何とも」
私の問いに両手を振って否定する古代、彼女は今期からの配属のため地獄の戦闘を体験していない。
欲張って残ると碌なことにならないのだ。
「逃げられるうちにオサラバしときなよ」
「はい」
私の言葉を噛み締めるかのような古代の返事が響いた。
「そういうお前は残るのか敷島?」
奥村が問いかけてくる。
正直なところ帰りたくないのだ。
「延長しようと考えてる」
「当ててやろう、美紀ちゃんと喧嘩したんだろ」
「もしかしてあの声廊下まで響いてた?」
奥山の言葉に冷や汗が出る。
まあ、基地は狭いからあれだけ喧嘩すれば広がるのも無理はない。
どうせバレてるなら言ってしまえと私は胸の内を吐き出した。
「なんかさ、馬鹿にされてる気分になるんだよね」
「お前にはできないって言われてるみたいでさ」
あーあ、やんなっちゃうなと言葉を〆る私に柴井が口を開く。
「まあ、優秀な幼馴染が居ると比較される気持ちはわかるよ」
「常々ついて回るからね、比較対象として」
柴井もどこかつまらなそうに言う。
「案外、純粋な心配かもしれないぞ敷島」
「一度ちゃんと話し合った方がいいだろ、なぁ?」
半身を起こした奥山は諭すように語りかけてきた。
「美紀ちゃんは本心で心配しているようだしさ」
柴井もどうやら心配しているようだ。
改めて良い友人がいることに感謝した。
しかし、ここの居心地がいいのも事実だ。
だが彼女、美紀とは改めて話してみる必要がある。
「ありがとう、次の休暇で話してみるよ」
私の言葉は静寂の中に消えた。
見上げれば空の彼方には僕らの故郷が浮かんでいた。
彼女は今どうしているだろうか。
オリオンビールめっちゃうまい。
沖縄のビールを飲んで高校の修学旅行で行った沖縄の記憶を回想する。
この時に抱いた感情は月面基地内の飲酒で地球に想いを馳せているのと同じなのかもしれない。
アルコールが回ってきたみたいです、酔っぱらいの戯言だと忘れてください。