槍の勇者のすり替わり   作:紙吹雪

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今回はシリアスとギャグが入り混じっています。
何故こうなったかは私にも分かりません。



色欲のカース

 

 数日後、ライヒノットの屋敷にて。

 私はカツラや詰め物を使って出来るだけマルティ王女に似た姿に変装していた。

 鏡で見てみるが、割と似ているんじゃなかろうか。

 それでも、身近な人なら簡単に見破られる程度の完成度だけど。

 

 ついでに香水をドバドバ使って匂いも付ける。

 結構キツい匂いだからフィロリアルの嗅覚でも多少は誤魔化せるだろう。

 フィーロに私が会った時に蹴られたくないからね……

 

「おーっほっほっほ!」

 

 試しに高笑いをしてみる。

 ……なんか無性に腹が立ってきたからすぐに辞めた。

 このままだと鏡を殴ってしまいそうだ。

 しかし、これは何かに使える気がしないでもないな。

 

 ……とっとと出掛けよう。

 

 私がポータルで移動しようとした直前、エクレールと遭遇してしまった。

 リユート村に滞在したままでは流石にあれなので連れ帰っていたのだ。

 ライヒノットは彼女を見ただけで事情を何となく察していた。

 便利だな、あいつ。

 

「むっ、その姿は……マルティ王女!?」

 

 ふむ、なんか誤解されている気がする。

 ……ここは少し、揶揄ってみよう。

 これは何処まで変装が通じるか確かめる為であって、決してエクレアの反応が見たいからではない。

 いいね?

 

「あら、誰かと思えばセーアエットの罪人じゃないの。牢から逃げ出してこんな所に居たのね」

「くっ……女王陛下と謁見するまで、捕まる訳にはっ!」

「アハハ、つまらない事を……次期女王たるこの私の目に入ったのが運の尽きよ。さあ、とっとと諦めて捕まりなさい!」

 

 やべぇ、ちょっとだけ楽しくなって来た。

 人として駄目なラインを超えてしまいそうな気がする。

 あまつさえあのヴィッチの真似をこれ以上続けるのは危険な気がする。

 

「……おや?」

「ライヒノット殿! すみません、私の居所がバレてしまったようで……!」

 

 そうこうしてると、今度は優男貴族ことライヒノットが曲がり角から顔を出した。

 変装した私を見ているが、あまり危機感を感じてはいないようだ。

 ……ふむ、これは。

 

「落ち着きなさい、エクレール。この方は槍の勇者様だよ」

「は?」

「一瞬でバレたか……ふむ、もう少しクオリティをあげたいところだけど」

「いえ、既に充分かと」

 

 カツラを脱ぎながら変装だと分かるようにしてやる。

 するとエクレアは何とも言えない表情で私を見た。

 うーん、そう言うならまた今度にしよう。

 そもそも今はあんまり時間がないもんね。

 

「揶揄ってごめんねエクレア。そろそろ君も旅に出て貰う予定だから、そのつもりでね」

「いや、私はエクレール……」

 

 いけね、つい癖でっ。

 訂正するより先にポータルを使ってしまった。

 ……後でもう一度謝っておこう。

 もしくは開き直ってエクレアと呼ぶようにしよう。

 

 ポータルでリユート村に飛び、街道に出る。

 そろそろ約束した時間……お、いたいた。

 

「グアァ!」

 

 白の体毛にピンクが混じったフィロリアル。

 間違いなくフィーロだろう。

 餌もちゃんとキメラの肉を食べさせたらしい。

 フィーロに

 

 さて、ここで私が颯爽と立ち塞がる。

 

「ぶはっ! なによアレ! はは、やべ、ツボにはまった。ぶわははははははっはは!」

 

 私は迫真の演技でフィーロを指差して笑う。

 ここでワわざとやっているとフィーロに勘付かれたくないので、全力で演技をする。

 尚文には事前に伝えていたので、スマートな悪い笑みを浮かべるだけだ。

 

「ダッセェエエエエエエ! 馬じゃなくて鳥だし、なによこの色、白にしては薄いピンクが混じっているし、純白でしょ普通。しかもオッソーイ!」

 

 そこまで言い終えると、フィーロは私に近付き……私のお腹を思い切り蹴り上げた。

 

「キャアァァァァァァァァァ!!」

 

 私はフィーロの蹴りに合わせて同時に飛び上がり、その勢いで吹っ飛んで行く。

 そうだ、ついでに演出もしておこう。

 距離が離れたところでバーストランスを使って爆発を起こしてみる。

 遠目で確認したところ、尚文がフィーロからズッコケかけていた。

 

 ……これで大丈夫だと思うが。

 言うまでもないけど私は無傷である。

 無駄に頑丈な身体だ……ギャグ漫画の世界で生きていた男の武器を持っているお陰だね。

 

 私は変装を解除してからしばらくの間時間を潰した。

 フィーロが言葉を話して天使の姿になるまでの辛抱だ。

 頃合いを見て奴隷商の店の近くで待機する。

 フィーロ、ちゃんと成長してくれただろうか。

 

 ……フィーロに会えたら、終わるかもしれないんだよね。

 これが真槍ではないのなら、ラスボスを倒す為に最初の世界に戻る訳だ。

 肝心の元康が行方不明だけど……

 

 つまり、この世界の皆ともさよならしなくちゃならない訳で……

 

 

「……っ」

 

 

 私はその考えを頭から振り払った。

 正直、半分くらいその事を忘れてたし……今まで割と必死だった。

 これまでの成果が無かった事になるのを考えたくなかった。

 ……それでも、私がやらなきゃいけないから。

 

 本来、私はこの世界に居る筈の無い異物。

 何故か紛れ込んだ部外者であり、文句なんて言えない立場なのだ。

 それなのに、別れるのが辛いなんて……言ってはいけないに決まってる。

 諦めるべきなんだろうね……私の今いる場所は、元康の立つべきだから。

 

 覚悟を決めて……正直に言えば決めきれてないけれど。

 とにかく、確認しなくては何も始まらない。

 箱の中の猫ってやつだ。

 

 

 ……この世界でその例えをすると、あの方が来そうだから控えよう。

 来てくれた方が助かるっちゃ助かるのかもしれないけども。

 

 

「どうしたんだよ。明日まで預ける約束だっただろ?」

「そのつもりだったのですが、勇者様の魔物が些か困り物でして」

「クエエエエエエ!」

 

 フィーロが暴れて檻を何個も壊している。

 店の奥から見ているけど……何と言うか、暴れん坊だ。

 こんなのに蹴られたのか、私は。

 我ながらびっくり人間だ。

 

「鉄の檻を三つ程破壊し、取り押さえようとした部下5名を治療院送り、使役していた魔物三匹が重傷を負いました。ハイ」

「弁償はしないぞ」

「こんな時でも金銭を第一に考える勇者様に脱帽です。ハイ」

 

 ううん、この……

 と、ここで私は気付いた。

 檻の中に居たのは……ん、あれ?

 

「……さま」

「ん? いま、聞き覚えの無い声が聞こえなかったか?」

「はて? 私もそのような声が聞こえた気が」

「あ、あの……」

 

 私の視界がどんどんピンク色に……どう、なって……

 

「……っ!?」

 

 そこでようやく私は気付いた。

 色欲のカース……ラストエンヴィースピアがこれでもかと明滅してやがる!

 

「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

「な、なんだ!?」

「……槍の勇者様?」

 

 私は思わず悲鳴を上げてしまった。

 頭の中に直接響く声がする……

 

 フィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたん!

 

 頭がおかしくなりそうだった。

 今すぐあの檻の中の金髪ロリケモっ娘に飛び付きたい気持ちが抑えられない。

 くっ、身体が勝手にフィーロたんへと近付いて行く!?

 

「千秋、お前どうした!?」

「くっ、お義父さん……じゃなくて、尚文! 今すぐ私にシールドプリズンを! 強化したやつを、早く!」

 

 このままじゃ、私の自我が愛の狩人に侵食されて戻れなくなるかもしれない!

 

「わ、分かった。シールドプリズン!」

 

 周囲が尚文のスキルで覆われる。

 しかし、それでもまるで収まらない……

 

「邪魔、ですぞ!」

 

 私の口は勝手にそんな事を口走り、槍の一薙ぎでシールドプリズンを破壊した。

 それなりに硬い筈なのに、まるでガラスを割るかのように壊れた。

 くっそ、口調まで乗っ取られてるのか!?

 自分が自分じゃなくなったみたいだ!

 

「一瞬で破壊した!? ラフタリア、今のあいつはなんかヤバい気がする。何とか止めるぞ!」

「は、はい!」

「このっ、いい加減……大人しく、しろ!」

 

 私は槍を自分に突き立てた。

 そう言えば聖武器には自殺防衛機能があった筈だが……どうやらセーフ判定らしい。

 太腿にズブリと穴が開き、そこから血がダラダラと流れる。

 

「っ……痛ぇ」

 

 この世界に来てから初めての痛みだ。

 自傷ダメージが最初に受けたダメージとか笑えない……

 しかし、そのお陰か幾分か色欲のカースは落ち着いてくれたようだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 全力で意識を集中させながら、何とか私の身体の内で暴れる衝動を抑え付ける。

 その状態をどうにか維持する。

 気を抜けば直ぐにでも再び暴走してしまいそうだ。

 数分程経ち、ようやくカースは落ち着いて来た。

 

 かなり疲れてしまった……気付けば肩で息をしていた。

 何が悲しくて私がこんな目に……

 

「おい、大丈夫なのか?」

「何とか……まさか、ここまでとは」

 

 たしかに、暴れるかもなぁとは思っていた。

 まさかここまでとは……

 ちょっと私の認識が甘かったらしい。

 

「槍の人大丈夫ー?」

 

 そう言いつつフィーロが私の顔を覗き込もうとする。

 くっ、駄目だ。

 フィーロの声を聞くたびに頭がおかしくなりそうだ。

 この呪いから解放されるには……

 

「……」

「どうした、急に黙り込んで」

 

 ドタバタしたけど……重要な事に今更気が付いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 ……ループが、終わっていない。

 

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