おやおやおや
フィロリアルは可愛いですね
愛、愛ですよフィーロ
「ふんふーん、ふっふーん♪」
私は二つの孵化器を持ちながらご機嫌な鼻歌を歌っていた。
この二つの卵はそれぞれフレオンちゃんとルナちゃんの卵だ。
フレオンの卵を探すのは結構苦労した。
フィロリアル仙人の老人を探しだして、何とか説得して……
それなりに時間はかかったけど、譲って貰う事が出来た。
たしかフィノモア種だっけ?
空を飛べるフィロリアル……これからの行動にも大きな助けになるよね。
うん、今はまだ生まれてすらないけどね。
「……おーい。聞いているか、チアキ殿」
「おっと、何かなエクレール」
いつの間にか部屋にエクレールが入って来ていた。
後ろにはテオドールとシオンもいる。
「そろそろ予定ではゼルトブルへと向かう時間ではないか」
「もうそんな時間だったのね」
ルナちゃんとフレオンちゃんが生まれるのが楽しみ過ぎて時間が過ぎるのを忘れていたようだ。
仕方ない、孵化させるのは明日だ。
他のフィロリアルももっと育ててみたいな……
時間に余裕が出来たら、コウとユキちゃんの居る牧場に行きたいな。
「分かった。それじゃ行こうか」
とは言え、出発の準備が終わったらゼルトブルに転移するだけなので大した手間はないけどね。
ついでにラーサズサとエルメロを探してみよう。
この時期居るのかはサッパリ分からないけど。
あの二人はそこそこ役に立つ人材だから確保しておきたい。
「準備は良いね。行くよ、ポータルスピア!」
一瞬にして景色が変わる。
メルロマルクの辺境の街からゼルトブルにやって来たのだ。
……改めて思うけど、本当凄いね転移スキル。
これからも頼って行こう。
「ここがゼルトブルですか?」
「うん。私も来るのはまだ二回目だけどね」
テオドールは興味深そうにキョロキョロと当たりを見回している。
シオンもほんの少しだけそわそわしているようだけどテオドール程じゃない。
まあ、誰だって来た事ない国に来たらそうなるよね。
「女王はフォーブレイ方面におられると言う話だったな」
「私が送れるのはここまで。なるべく早めに女王に謁見が叶う事を願ってるよ」
「うむ。任せてもらいたい。とは言え、それなりに時間は掛かりそうだな……」
それはまあ、仕方ない。
何もしなくても戻っては来るんだし、気を張り詰めない程度にやって行こう。
「では、頼んだよ」
私は三人を見送った後、その辺を歩き回ってみる。
しかし、奴隷商なんて中々見つからず……
仕方なく、私は適当な酒場を見つけて中に入った。
目的変更だ、先にこっちの用事を済ませてしまおう。
まだ明るい時間帯だけど……居るかなぁ?
何となく夜の方が見つけやすい気がする。
酒場の中をキョロキョロ見回してみるが……ううん、居ないかな?
とは言え、諦めるにはまだ早い。
ポータルスピアのクールタイムも終わってないし、もう少し粘ってみよう。
……待っている間は何か頼まないと店に迷惑か。
酔い耐性は聖武器のお陰で相当強いから問題ない。
それでもサディナには勝てる気がしないけど。
さて、この酒場の輪に入って行くコミュ力は流石にない。
急いでる訳でもないので静かに待つとしよう。
「……んん」
おかわりの三杯目の酒をちびちび飲む。
正直あんまり美味しくはない。
飲めなくも無いけど、好んで飲みたいとは思わないって感じ。
今日の所はそろそろ帰ろうかなと思って勘定を払おうかなと考えたその時だった。
「……お?」
酒場の入り口から、他の獣人よりも一回り以上大きい体躯の人影が見えた。
長い鼻に広い耳、一目でゾウの獣人だと分かる。
パンダ獣人ではないが……当たりだ。
ここは適当に奢ってから近付いてみよう。
私はゾウ獣人にお酒を注文する。
所謂あれだ、あちらのお客さんに一杯ってやつだ。
「……?」
ゾウ獣人は出されたお酒に怪訝な顔をしながら私の方を向いた。
私は席を彼女の隣に移す。
「奢りだよ、ちょっと貴女と話がしたくてね」
「……どうも」
ううん、まだ若干怪しんでる感じがする。
私の格好も所為もあるのだろう……一応身バレを考えてローブを被ってるし。
顔を見せない相手を信用するのは難しいだろう。
「君の名前はエルメロであっているかな?」
「ええ、そうです」
よし、9割正解だとは思ってたけどこれで確定だ。
エルメロ・プハント、又はエルメロ・ジャノン。
槍直しにおいては元康に割と重要視されている貴重な存在だ。
……元康はその割にゾウ呼びしていたけど。
流浪の騎士を名乗っており、実家とはちょい距離がある。
実力は確かで、ゼルトブルのコロシアムでも人気選手だった筈。
二つ名は地響きの女王。
……本人的にはやっぱりSなんだろうか。
本当ならパンダことラーサズサの方を先に勧誘したかったけど、エルメロも有能だ。
ここは頑張って勧誘してみよう。
「ちょっと依頼があってね。色々と複雑だから出来れば君以外にも雇いたい人が居たんだけど、取り敢えずは君に頼みたいんだ」
人手はあんまり足りてないからね。
優秀な人材は幾ら居ても良い。
「依頼ですか……内容によりますね」
「話だけでも聞いてくれるとありがたいかな」
「……分かりました。良いでしょう」
よし。
頼みたい事は……うん、色々あるね。
「まずは護衛。私が住んでいる領地に居る子達を保護して面倒を見て欲しいんだ」
「子共の面倒……?」
「私と一人じゃ手が足りなくてね。最近はフィロリアルの育成もしているから忙しいんだ」
っと、報酬の話を忘れていた。
今の手持ちで足りるかな?
「報酬はこれくらいだけど」
ジャラリと音を立てて大きな袋をテーブルに置く。
奴隷狩りの集団から略だ……拝借した装備を売り払ったりした余りだ。
実はほぼ私の全財産に近いけど、正直あんまりお金を使う用事がないから問題はない。
エルメロを勧誘出来るなら安い安い。
この後例の種や奴隷狩りを奴隷にして売り払えばそこそこ金になるだろうし。
「……美味しい話ですね」
「君と言う人材を私はそれだけ高く見てる。そう捉えて欲しいかな」
「なら、それに応えなければなりませんね」
よぉし!
私は心の中でガッツポーズを取った。
この人が居てくれるならかなり心強い。
これでまた、取れる行動が増えたね。
……しかし、あの兄妹を買う料金が無くなったね。
まあ、後日でも問題は無いか。
なんなら、奴隷を売り払った金で直接買えばいい。
「じゃ、外で私も自己紹介させて貰うよ。パーティーに入ってもらえる?」
「分かりました」
勘定を支払ってから酒場を出る。
なるべく人目がない場所まで歩いてから、私はローブを脱いだ。
「私は金森千秋。槍の勇者をやっているよ」
「や、槍の……?」
「ポータルスピア!」
エルメロが驚いている間に私は転移スキルを使ってライヒノット領に帰還した。
戻った私を最初に出迎えたのはサディナだった。
最近は良く転移した瞬間に居る気がするのは、もしかしたら待ってくれているのかもしれない。
「あらーお帰りチアキちゃん」
「ただいま。そっちは特に変わりはなかった?」
「ええ、皆元気よ。それで、この人は誰かしら?」
「傭兵のエルメロさん。強さも知識も頼れる人だよ」
未だに目をパチパチさせているエルメロ。
……ちょっと驚かせ過ぎたかな?
「この人はサディナさん。凄く強いけどお酒も強いよ」
「あらー珍しくお姉さん褒められちゃった」
「色々と聞きたい事はあるだろうけど……取り敢えずこれからよろしくね、エルメロ」
「……はい。分かりました」
この後、色々とエルメロに説明をしてから就寝した。
なお、サディナが私とエルメロを酒盛りに誘おうとしたがどうにか断った。
代わりにヴァンが彼女に付き合っていたようだけど、翌日は酔い潰れた様子はなかった。
……多分どうにかお酒を回避したんだろうけど、あの人は何をどうやったんだろう?
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
エルメロを勧誘した翌日。
私は彼女にラーサズサについて聞いてみたところ、こう返してくれた。
「彼女も勧誘したいのですか? それならもう少し早めにゼルトブルに来ていれば居たのですが……」
おおう、マジか。
「そっか。まあ、ゼルトブルにはこれからしばらく足を運ぶ予定だから、帰って来たら分かるし……シルトヴェルトにも行きたいし、そこで勧誘してもいい」
「そうですか」
……養父と祖父の方も引き入れたいし。
「そうだ、フィロリアルが人化したら歌も教えてあげて欲しいな」
私は手に持ったフレオンちゃんとルナちゃんを愛でながらそう言った。
丁度今朝生まれたのだ、可愛い。
「う、歌!?」
「フィロリアルは歌うのが好きな子が結構多いからね」
勇者の育てたフィロリアルが特別な成長をするのは既に昨日説明している。
驚いているのは歌の部分だろうね。
「雇用するに当たって君の事はかなり知ったつもりだよ」
「……」
ちょっとそこ、何故そこで引く。
「あらー例えば何を知ってるのかしら?」
「あ、あの……」
「彼女の実家の事情でも話すかい? それはもう、涙なしでは語れない深い事情が……」
「お、お辞めください槍の勇者様!」
……いけないいけない。
恥ずかしがるエルメロをいじるのはこれくらいにしておいて、と。
「話は変わるけど、ちょっとこれから一仕事してくるよ。二人とも、留守は頼んだよ」
私の事をまだ三勇教は敵視していない。
それはこの国でまだ派手に動いていないからだ。
でも、これからは違う。
盾の勇者……尚文の味方をガッチリするのだから。
最悪、私に対しても何らかのの工作は予想される。
この領地に居る事は既に把握されているだろう。
エレナがやって来たのが良い証拠だ。
私の留守に何かしようとする不埒な輩……主に三勇教の連中が現れるかもしれない。
隣の領は……うん、私が領主を暗殺しちゃったからね。
とは言え跡継ぎもどうせ似た様な奴だろうし警戒は必要だ。
もし、私の守って来た者に手を出そうものなら……
分からせてあげないとね。
勇者がどんな存在なのかを。
「それじゃ、行って来るね」
「え、何処に行かれるのですか?」
「ちょっと……ゴミ掃除に」
怪訝な顔のエルメロと、無表情なサディナを後にして私は転移した。