槍の勇者のすり替わり   作:紙吹雪

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この主人公本編盾よりも外道な事してる……



突然の訪問

 

 私が本格的にゴミ掃除を始めてから一日半。

 

「くそっ、離しやがれ!」

「やめろ……やめろぉぉぉ!」

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 私の目の前で身体を縛られ、なす術もなく奴隷になって行く奴隷狩り達。

 ……どう言う気分で見ればいいのか分からないけど、結果的に良い方向に転がるのだから喜ばなければ。

 しかし、奴隷商には頭が上がらない。

 この人数の契約は流石に大変だろうに、快く引き受けてくれたのだから。

 

「槍の勇者様の頼みとなれば断れないです、ハイ!」

 

 それどころか寧ろ生き生きしてる。

 うーん、この……

 

 フレオンちゃんとルナちゃんに関してはついでにLvを上げておいた。

 その成果もあって既にフィロリアルクイーンにまで成長している。

 この様子なら、今日の夜には変身出来そうだ。

 餌は確保していたキメラの肉を与えたので二匹とも体毛は真っ白だ。

 

「これからこの奴隷達を売りに行く訳ですね、ハイ」

「そうだね。ついでにゼルトブルの奴隷も見てみたいんだが、何処かにお勧めはないか?」

「でしたら私の叔父がやっている店をお勧めさせて頂きたいです、ハイ!」

 

 ……そう言えば血縁がいるんだったね。

 

「良ければ案内して貰えるか?」

「ハイ、喜んで! 盾の勇者様と言い槍の勇者様と言い、私、ゾクゾクが止まりませんぞ!」

 

 めっちゃ喜んでる……怖。

 と言うか私のカテゴライズが盾の勇者と同じなのはどうなんだ?

 素直に喜べないような……まあいいか。

 

 その後、数十人は居る奴隷共をピストン輸送する作業をした。

 我ながら短い期間でよくここまで集めたものだよ……いやホント。

 どんだけ超人になったんだよと呆れてしまうレベルだ。

 その際にフレオンちゃんとルナちゃんはライヒノット領に預けておいた。

 これからはフィロリアルにとっては退屈な時間だろうからね……

 

 それで、現在は奴隷商の案内でゼルトブルの奴隷を扱う店を見て回っている。

 ……奴隷商と同じ顔が出て来た部分は一先ず置いておいて。

 私は目当ての奴隷を探す。

 幸い、発見にそこまで時間がかからなかった。

 

「なんだ、お前は?」

 

 目を包帯で覆った女の子と大切そうに寄り添っていた亜人の男の子。

 白と黒の体毛に虎の耳……おまけに火傷痕と盲目。

 これは間違いない。

 

「真っ先にその奴隷に目を付けますか。流石は槍の勇者様、お目が高い!」

「そりゃどうも。中に入っても?」

 

 奴隷商(叔父の方だと思う)が牢屋の鍵を開ける。

 勿論ちゃんと薬の用意はしておいたからね。

 しかし、酷い容態……この状態から助かる薬があるんだから驚きだ。

 こうすると尚文とのフラグが折れそうだけど……恨むなよ本編時空の精霊アトラ。

 

『全く、どうしてあの人と言い私を尚文様にくっつけたがらないのですか!』

 

 なんか幻聴が聞こえた気がするけど……気の所為かな。

 

「おい、アトラに何をする!?」

「薬だよ」

 

 それだけ言ってから私はアトラに近付いた。

 真面目に問答していると面倒だからとっとと済ませてしまおう。

 

「……そこに誰かいらっしゃるのですか?」

「居るよ。今から薬を与えるから、大人しくしてね」

「ヒィ!? 禍々しく狂おしい程の愛の渦を孕んだ人が……!?」

 

 それは元康の事だろうが!

 私は正気だ、アレと一緒にするな!

 

「それは多分別の人の事じゃないかな。ほら、私はこんなにも落ち着いているでしょう?」

「……気の所為、でしょうか? 確かにそんな気がしたのですが……」

「アトラ、本当にこいつは大丈夫なのか!?」

 

 ……あーもう面倒臭っ。

 武器を薬の効能が上がるやつに変えて、とっととアトラにイグドラシル薬剤を飲ませた。

 すると、見る見る内に火傷は癒えて行く。

 こう言うのを見ると、改めて異世界だと感じられるなぁ。

 回復魔法もそろそろ使えそうだし、私も異世界に慣れて来たと言えるだろう。

 

 

 

⬛︎ ⬛︎ ⬛︎

 

 

 

 アトラも治ったので、フォウルも引き抜きに無事成功。

 ライヒノット領に帰った頃には日が暮れていた。

 今日出迎えてくれたのは……お、キールか。

 

「お、帰って来たのかねーちゃん!」

「ただいまキールちゃん」

「ちゃんって付けるな!」

「私の事ねーちゃんって呼ぶのに?」

「それとこれとは話が全く別物だろ!」

 

 ううん、相変わらずだ。

 ちなみにキールは獣人形態である。

 サディナがパパッとやってくれました。

 本当あの人お酒で酔わそうとして来る事以外欠点がないな……

 

「んん? そっちのにーちゃんとそっちの子は……」

「この子はフォウル君で、こっちの子はアトラちゃん。これからしばらく一緒に住むから仲良くね」

「そっかー、よろしくな!」

「お、おう……」

 

 私は二人の案内をキールに任せて自分の部屋に向かう。

 今後の予定を少し詰めてみるかな……と?

 この気配は……

 

「帰って来てたんだね、ガエリオン」

「なの、そっちも順調そうで何よりなの」

 

 ガエリオンが帰って来たと言う事は……

 

「ウィンディアと親ガエリオンの方は何とかしたんだね」

「山奥に引っ越させたなの、あの場所なら剣の勇者にやられる事はないなの」

 

 よし、これで懸案事項が一つ減った。

 そろそろ次の波について考え始めても良いかもしれない。

 

「そっちはどうだったなの?」

「無事に目的は達成できたよ」

 

 これでしばらくは能動的に動く必要がなくなった……と思う。

 バイオプラントの種に関してはエレナの実家がやってくれる。

 尚文も強化方法を教えたから並大抵の事態に対応出来るだろうし。

 

「波までは魔法覚えたり戦闘訓練したりかなぁ」

「まだリベレイションは覚えれなさそうなの?」

「ううん、それは波の後になるかなぁ……」

 

 最近はようやくファストクラスの魔法を使えるかなってところ。

 何となく魔力の感覚は掴めて来たから、一歩先に進めたと言える。

 

「取り敢えず、今日は疲れたからもう寝るよ」

「なの……槍の勇者よりも話が通じて困惑するなの」

「はいはい」

 

 それでも私は元康好きだけどなぁ……

 側から見る分には、と言う一文はどうしても付けざるを得ないけど。

 

 それから自室に帰ってそのまま就寝して翌日。

 昨日は結構疲れたので遅めの起床になったのだけど……

 

「……千秋さんは何処ですか!?」

 

 と、玄関の方から聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 この声は……うぇへぇ。

 私の記憶が間違いじゃなければ、この時空だと面倒になっている奴が……

 

 放置したらさらに面倒になりそうなので、私は渋々玄関へと向かう。

 寝起きなのに……解せぬ。

 

 

 

 玄関には予想通り……弓の勇者こと川澄樹が立っていた。

 何故突然ここに来たし!?

 それから困った顔をしたヴァンも居る。

 うん、私もこの訪問者に物凄く困ってる。

 これどうしよう……

 

「あ、来ましたね! さぁ、大人しく白状なさい!」

「……ごめん、何の話?」

「罪の無い人達を何処かへと連れ去ったのでしょう!?」

 

 

 あ、それかぁ!

 

 

 罪の無いと言う部分以外は合ってるね、うん。

 と言うか、目撃者は全員消したつもりだったんだけど。

 

 ……これは多分三勇教の暗部からのタレ込みと見て間違いないと思う。

 ファイアフラッシャーを使えなかったのが痛いな。

 よりにもよって最高に面倒臭い状態の樹に吹き込むとは、くそっ。

 

「クエ……!」

 

 あ、フレオンちゃんの目が輝いてる。

 と言うかいつから居た?

 

「……!? なんだこの魔物は!?」

「これは……神鳥?」

 

 おっと、いけないいけない。

 そこに触れられる前に何とかしなければ。

 と言っても何をどうすれば何とかなるかは検討も付かないが。

 おのれ三勇教……絶対に許さん。

 

「取り敢えず樹、私は無実だからチャンスをくれないか?」

「悪人は皆そう言うのです!」

 

 たしかに某金髪吸血鬼はそうだったけどさぁ!

 ええい、何か突破口はないか?

 私は思考を巡らせるついでに樹とその仲間を観察してみる。

 

 樹の仲間は……うん、燻製が居るけどビッチ王女は居ない。

 リーシアは時期的にまだ……と言うかそろそろ助けに行く時期か。

 

 

 ん?

 ちょっと待てよ、リーシアを助けに行く時期……?

 

「樹、貴族に拐われた娘が居るって話を知らないか?」

「きゅ、急に何の話ですか?」

「いいから、聞いた事ないか? 隣町の悪徳貴族がどうこうみたいな話のやつを」

「……ええ、知っていますよ。しかし、それよりも貴方が人を拐っていると言う話を耳にして」

 

 ファッ!?

 

 あれ、このままだとリーシアが傷モノになるのでは?

 ……

 

「話を逸らさないでください! 今はそれよりも自分の悪行を……」

 

 

 

 

 

 

「うるせぇ! 行こう!」

 

「!?」

 

 こうなったらこのまま勢いで押し切ってやる!

 

「樹、その話があった街は分かるか!?」

「わ、分かりますけど」

 

 ポータルはまだ使えないだろうから一番早い方法は……

 あんまり見せびらかすつもりはなかったけど、致し方あるまい。

 

「フレオン、こっちに!」

「クエ!」

「わ、ちょ、何をするんですか!?」

 

 私は力任せに樹をフレオンちゃんの背中に乗せる。

 私も当然フレオンちゃんに跨る。

 樹の仲間はどうせ全員屑だし定員オーバーだから置いてけぼりだ!

 

「ヴァン、後は任せた!」

「貴様、樹様を何処に連れて行くつもりだ!」

 

 燻製が殺気だって斧を振り上げようとしているが、それよりもフレオンちゃんの離陸の方が圧倒的に早い。

 

「なっ、飛んだ!?」

「空を飛ぶフィロリアル!? 絶滅した筈じゃ……」

 

 なんか聞こえるけどそんなのは無視だ無視!

 

「道案内は任せた樹!」

「何なんですかいきなり!」

「じゃかぁしい! 間に合わなくなっても知らんぞこのニューナンブ!」

「はぁ!?」

 

 ええい、面倒な……!

 

「私はいつでも捕まえられるだろうが! だったら優先すべきは、言い換えれば緊急性が高いのはその娘でしょ!」

「……っ! 後できっちり問い詰めますからね、絶対に!」

 

 まだ渋々感は残っているものの、樹は道案内を始めてくれた。

 よし、オラの勢いが勝った!

 リーシア、待っててくれよ……今から未来の旦那様を連れて行ってやるからな!

 

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