槍の勇者のすり替わり   作:紙吹雪

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いせカルにおける元康の出番は結局ゆんゆんと同等レベルでしたね。
残念だけど当然かな……




模擬戦闘

 

 

「はーい、審判は私が担当するわねー」

 

 お昼過ぎ頃。

 フィーロの元気が回復したので模擬戦の準備を整えた。

 と言っても円を書いたくらいだけのね。

 

 んで、審判役にはサディナに来てもらったんだけど……案の定お酒臭い。

 身体の何%がアルコールなんだろうか。

 

「おい……この酔っ払いに審判をさせるのか?」

「大丈夫だよ。この人は酒を飲んでない時の方が元気がないくらいだから」

「激しく不安なんだが……ラフタリアの姉も同然らしいからな」

 

 尚文の発言にラフタリアは苦笑いを浮かべている。

 強さも人格も信頼できる人なのは確かなんだけど……酒癖ばかりは弁護できないのだろう。

 私もそこは弁護したくない、と言うかできない。

 しっかり私も被害者なもので……

 

「ルールはさっき確認したね。それじゃ、始めようか」

「ああ」

 

 ルールと言っても大した事はない。

 尚文達……ラフタリアとフィーロを含めた三人が戦う。

 降参するか戦闘不能になった方が負け。

 それだけだ。

 

 三対一で結構不利だけど……私の見立てなら問題ない。

 これでも戦闘にはかなり慣れたし、動きも良くなった。

 主にサディナのお陰で……

 

 あの人、普段はこんななのに本当に強いんだよねぇ。

 まだ技術面では一本も取れていないし。

 生い立ちを鑑みればそれも当然だけど。

 

「槍の勇者様、その……」

「どうされましたか、メルティ王女?」

 

 メルティは不安そうにしていたので気になって話しかけてみた。

 その表情を見ていると何となく、私がメルティ王女を攫おうとしている悪役の気分になる。

 おかしいな、私が彼女を守る側の筈なんだけど……

 

「いえ、何でもありません」

「……守られたいのなら、尚文がいいのかな?」

「そ、そんな事は……」

「分かりました。事態が落ち着いたら女王陛下に盾の勇者様とのご婚約を検討するよう提言しましょう」

「はぁ!?」

 

 取り敢えず緊張を紛らわせる為に適当な事を言っておいた。

 顔を赤くしているから……割と脈がありそうだ。

 良かったな尚文、そうでもないけど。

 

「おい、それは本気か?」

「そんなわけ。メルティ王女がお望みとあらば、だね」

「の、望まないわよ!」

 

 照れ隠しなのか大声で否定しているメルティちゃん。

 これはもうヒロインレースに入ってますね間違いない。

 ……あ、ラフタリアの機嫌が悪くなってる。

 

 よし、この辺にしておこう。

 この人を本気で怒らせると半殺しにされかねない。

 

 

 

「では、始め!」

 

 サディナの開戦の合図と同時にフィーロが走り込んで来る。

 うわ速っ。

 私でなきゃ見逃しちゃうねってくらいのスピードだ。

 ただ、めっちゃ素直な機動だから見切るのは割と容易いかな。

 

「メルティちゃんをかえせー!」

「いや、だから趣旨が違うよ!?」

 

 フィーロの初撃はシンプルな蹴りだった。

 ついさっきまでよりも更に威力が増していそうだ。

 だけど……耐えられない程じゃないね。

 

「よっ!」

「え、え?」

 

 私はフィーロの脚を片手でむんずと掴んだ。

 そのまま槍でもう片方の脚を払って転ばせてやった。

 バランスを崩したフィーロは翼を広げて体勢を安定させようとする。

 それを見過ごす程私に余裕がなければ一矢報いる事ができたかもね。

 

「それっ」

「やー!?」

 

 私はフィーロの身体を足の裏で思い切り蹴飛ばした。

 私のヒョロ目な体格でもステータスは元康のそれ。

 フィーロは尚文が立っている場所までぶっ飛んだ。

 

 おお、こうして見るとやはり人外みたいなステータスしてるな……

 耐久力の方はまだあんまり確認できていないけど。

 っとと、そうだ。

 

「さっき言い忘れてたけど、私はハンデとしてスキルを使わないよ」

「何だと?」

「使っちゃったら一方的になるからね……分かるかな?」

 

 私がはふっと微笑みながらそう言うと、尚文は険しい顔のまま私を見据えた。

 これはもう本気で戦う覚悟のある人間の顔だ。

 私にそれを言う資格があるのかは分からないけど……私を脅威だと認識したみたいだ。

 

「かかっておいで」

「……良いだろう。ラフタリア!」

「はいっ!」

 

 今度はラフタリアが来るようだ。

 素直に剣で切り掛かって来るらしい。

 ならば、私もそれに応えようか。

 

「はぁっ!」

「ふっ」

 

 私は気迫の込められた一撃を槍で受け止める。

 フィーロよりは軽いけど、それでも中々の威力だ。

 続いて二撃、三撃と剣を振るうけれど、その全てを槍で打ち払う。

 尚文のエアストシールドを警戒しながらでも余裕で戦えている。

 

「くっ、強い……」

「師匠が良かったんだ」

「エアストシールドⅤ!」

 

 っ、遂に来たか尚文の十八番!

 あれ、でも何処にも盾なんかない。

 少なくとも、私の視界には映らなかった。

 

 ……待てよ?

 フィーロ、何処に行った?

 

 私がそこに思考が言った瞬間、影が私の目に入った。

 見上げると、エアストシールドを蹴って真下に飛び出すフィーロの姿があった。

 なるほど、そこで使ったのか!

 

「たあぁぁぁぁぁぁ!」

 

 槍はラフタリアと撃ち合う為に使っている。

 このまま対応できない……

 

 普通なら、だけどね。

 

 私は身体を思い切り仰け反らせた。

 それはもう、地面と平行になるくらいに。

 更に私は片足を思い切り振り上げ、フィーロの飛び蹴りを足の裏で受け止めた。

 地味に地面に付いてる方の足が数cmくらい沈んだ気がする。

 

「うそぉ!?」

「身体は柔らかいんだ」

「今ですっ!」

 

 当然、そうなると私の身体はバランスが不安定になる。

 今の私は片足で立っているし、無理があり過ぎる体勢だ。

 ステータスによるゴリ押しでどうにか立っている状況。

 それを見過ごす程ラフタリアは甘くなかった。

 

 私の腹部目掛けて剣を振り下ろす。

 割と容赦ないな……怖い怖い。

 

「甘いね」

「んなっ!?」

 

 私は槍を地面に突き刺し、思い切り引っ張ってぬるりと身体を引き寄せる。

 スレスレのところで剣は当たらなかった。

 同時にフィーロも地面に着地する。

 

 そこで私は槍を軸に身体を回転させて二人に蹴りを浴びせた。

 さながらポールダンスである。

 辛うじて躱されたが、尚文達の立ち位置はかなり離れた。

 

 今の位置関係は右斜め前と左斜め前にラフタリアとフィーロ、奥側に尚文がいる。

 そろそろ前に出てくるだろう。

 尚文の性格からして、後ろで引っ込んだままでいるわけもなし。

 盾を持っているんだから最前列に行くのは当然である。

 

「何ですか、今の動きは!?」

「うう、変な動きー……」

 

 この程度で変って言うなよ。

 元康のドライブモードを見せてやろうか?

 飛ぶぞ、悪い意味で。

 

「さて、今度はこっちの番!」

 

 私は尚文に向かって槍を向ける。

 そのままそこそこ本気のダッシュで一瞬にして間合いを詰めた。

 驚いた顔をする尚文に向けて私は槍を突き出した。

 が、流石は盾の勇者と言ったところなのか防がれた。

 

「お、やるじゃん」

「くっ、お前もな! ラフタリア、フィーロ!」

 

 尚文の呼び掛けに応えて二人が背後から迫って来る。

 流石に前後から攻められるのは面倒だ。

 私は軽快なステップで舞うようにして動きながら尚文の背後に回った。

 この立ち位置なら何とかやれるだろう。

 

「くらえ、スキル無しで放つ乱れ突き!」

「ちっ、フィーロよりもすばしっこい奴だな!」

 

 すぐに私の位置を察知した尚文は振り返って盾を向ける。

 私は槍を何度も突き出したが、びくともしない。

 いや堅っ。

 でも、割と効いてるのか尚文は苦しそうに顔を歪めた。

 

「ぐっ……スキルなしでこの威力か」

 

 尚文は割と忌々しそうに私を見るが、憎しみとかの悪い感情は持っていなさそうだ。

 嫌われていたら地味にショックだったけど……そうでもなさそうで安心した。

 さて、スキル無しだと私も今の尚文の防御を貫くには難しい。

 つまるところ、私が勝利する方法は限られる。

 

 まずは降参させる事。

 何となく尚文が降参する様子を想像できないのでこれは却下。

 ……となると、もう一つの手段しかないか。

 

 それは体力勝負に持ち込む事。

 元康がフィロリアル様達と遊んで体力を付けた、みたいな事を言っていた。

 あれを私もクロちゃんやフレオンちゃん、ルナちゃんで実践したのだが……

 まあ、そりゃ体力付くよね……って感じだったよ。

 

 ステータス面でも差があるのを生かすのならこの方法しかないと思う。

 問題はとてつもなく戦闘が長引きそうだって事だ。

 ……まあ、日が暮れるまでには終わるでしょ多分。

 

「さあ来い尚文! へいへーい、まさか勇者様がそんな呆気なく終わるわけないよねぇ!?」

「……行くぞラフタリア、フィーロ!」

「はい、尚文様!」

「うん、ご主人様!」

 

 私達の戦いはこれからだ!

 

 

 

⬛︎ ⬛︎ ⬛︎

 

 

 

 打ち切りではないよ、うん。

 何となく言ってみただけだし。

 

 んで、結果は。

 

「ふぅ……良い汗かいたよ」

「はぁ、はぁ……お前どんな体力してるんだよ!」

「一日中フィロリアルと思い切り遊ぶ日を作ったりしてたね。尚文もやる?」

「遠慮する……」

 

 フィーロを見て嫌そうな顔で尚文はそう言った。

 ラフタリアとフィーロも疲労困憊なのか、肩で息をしているのがやっとの様子。

 まあ、ぶっ続けで数時間も戦えばねぇ……

 

「で、私の事は認めてくれる?」

「ああ。お前なら任せても良いだろう」

「ありがとう。責任を持ってメルティ王女の事は守るよ。それでも不安なら、フィーロをこっそりと同行させるとかしてもいいからさ」

「……そんな事できるのか?」

 

 既に指名手配されているので手遅れだと思っているらしい。

 だけど、一応問題ないと思う。

 

「フィロリアルクイーンは高度な擬態能力を持ってるのは知ってる?」

「いや、初耳だが……フィーロ、そうなのか?」

「んー……?」

 

 疲れからあまり頭が回っていない様子。

 ……ちょっと可愛いな、この顔。

 いや待て落ち着け、また内なる元康が出て来たらどうすんだ。

 

 ええっと……原作でフィーロが通常のフィロリアル姿や雛の姿に変わった事ってあったっけ?

 多分無かったと思うけど、多分できる筈だ。

 

「さて、もうここで出来る事は特にないかな」

 

 いよいよ動く事になる。

 その前に女王に謁見して作戦を共有しておかないと。

 一応その場には尚文にも同行して貰おうかな。

 メルティちゃんも巻き込む以上、尚文も気になる話だろうし。

 

 

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