槍の勇者のすり替わり   作:紙吹雪

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穴だらけな作者なので、ミスをしていたらドシドシ指摘してください。



所詮、私は

 

 探し始めておよそ三時間後。

 日が暮れる前にようやく見つける事が出来た。

 

「……」

 

 奴隷、かぁ……

 愛の狩人こと元康の鋼鉄メンタルなら気にしないだろう。

 だが、つい昨日まで一般人だった私にはやや荷が重いぞ。

 ……それでも、行くしかないか。

 

「いらっしゃいませです、ハイ。お客様は初めてですね。私どもの店になにをお望みで?」

 

 出たわね。

 声に聞き覚えがあり過ぎる。

 ……良い人じゃないけど、悪い人でも無いんだよね。

 商人として模範、と言うか。

 

「フィーロタン」

「は?」

「えっ?」

 

 な、なんだ……口が勝手に動いた!?

 まさか元康由来の色欲のカースか?

 ……なんて嫌な呪いだ。

 半透明になってて変えれないけど、ツリーに色欲のカースシリーズが確かに存在していた。

 この呪いを解くのは難しいだろうなぁ……

 

「何でもない。忘れてくれ」

「は、はぁ……」

 

 そうだ、折角ここに来たんだし……フィロリアルを買って行こう。

 私もペットは嫌いじゃないし、そもそも遠征する為には必要だろう。

 馬でもいいが……こっちの方が早い。

 まあ、そもそもの話私が走った方が早いと思うけど。

 

「フィロリアルの卵をくれ。孵化器も込みで」

「ハイ、ではこちらからお選びください」

 

 どれがクロの卵だか分からない。

 分からないが……気付けば手が勝手に動いて一つの卵を選んでいた。

 色欲のカースが私の身体を突き動かした、と言うか。

 ……あんまり気にしてる時間もないし、考えるのは後にしようか。

 

 魔物紋の登録はやや時間がかかった。

 血を出すのは少し躊躇われたけど……まあ、もう子供じゃないんだし。

 

「一つ、聞きたい事がある」

「ハイ、なんでしょうか?」

 

 それから質問をしてみる。

 寧ろ、こっちが本来の目的だったからな。

 

 結論から言うと、目的地は聞き出せた。

 地図も出して貰って感謝しかない。

 しかし、問題が一つ。

 

「あの領地は馬車で行くなら軽く見積もって六日程かかりますです、ハイ」

 

 との事だ。

 私の足が馬と同等なら間に合う計算と。

 ……い、行けるかこれ?

 頑張れば間に合うか?

 ……駄目ならリファナちゃんが死んじゃうだろうな。

 

 本編では回想にしか登場せず、死人だった。

 実は死後も魂の状態でラフタリアと共に居たが……

 だからと言って……助けられるかもしれない命を見捨てる?

 知らなければ残念だったで済むだろうね。

 だけど、私は知っているんだ……苦しんでいるその子の事を。

 

 

 つまるところ、行くしかないのだ。

 

 

「分かった。また来る」

「それはそれは。お待ちしておりますです、ハイ」

 

 尚文の存在は、敢えて伝える必要性はないか。

 私が不在になるから樹があの役回りになる……が。

 ポータルで戻って来てからそこら辺はどうにかしよう。

 そもそも、ラフタリアは助けた後此処に預ける予定だったし。

 その為、ポータルもこの店の近くを登録しておいた。

 

 ……ん、待てよ?

 

 私は一つ思い出した事があって、卵ガチャらしき物に近付いてみる。

 

「おや、そちらの興味がおありですか?」

「……いや、何でもない」

 

 卵が光ったのを確認した……おお、居るのかね君。

 所持金的にも手は出せないし、後で取りに行くか。

 色々事情も知ってるかもしれない。

 元康じゃなくて、私が来てしまった理由も。

 

 さて、これからする旅は急ぎになる。

 残ったお金で食料や水の準備をしてから、私は街を出た。

 一応、書き置きは適当な宿に残しておいた。

 私が失踪したからと騒がれるだろうか、念の為に。

 

 諸々の準備を終えた頃には日が暮れかけていた。

 

 ……この世界に召喚された時から身体が異様に軽い。

 ステータスが高いからか。

 走ってみると、とんでもない速度が出せる。

 最悪、疲れたらドライブモードをする選択肢もある。

 私の人間としての尊厳が失われるが……人命には変え難い。

 

 どうか、間に合って欲しい。

 私はそう願いながら暗闇の中を疾走した。

 

 

 

 

 

 翌朝。

 それなりに距離は稼げた。

 これなら間に合うか……?

 しかし、流石に夜通し走り続けるのはキツかった。

 今日はともかく、明日も走り続けるのは厳しいかもしれない。

 いや、今日は平気そうに感じるのもおかしいんだけどね?

 

 そして……パキッと言う音が聞こえた。

 お、孵るのかな?

 

 卵を地面に置いて観察する。

 卵の殻が割れて、黒い毛色のフィロリアルが生まれた。

 おお、実際に見ると小さくて可愛いじゃん!

 ペットは飼った事ないけど、飼う人の気持ちも分かるね。

 

「ピィ!」

「……うん、クロちゃんだね多分」

 

 体毛も黒色だし、間違いない気がする。

 名前はクロちゃんにするとしようか。

 ブラックサンダーでも良いかもだけど……辞めとこう。

 

「さて、餌の為にも魔物を狩りに……」

 

 魔物を、狩りに……うう。

 

 まずは生き物を殺すのに慣れる所からだ……憂鬱。

 でもそうしないとこの世界じゃ生き残れない。

 人を殺すよりかはずっとマシだろうと自分に言い聞かせる。

 

 初めて殺した魔物はウサピルだった。

 噛み付こうとした所を首根っこ引っ捕まえた。

 ……覚悟、決めないとだ。

 

「……そりゃっ!」

「キィ!?」

 

 短い槍に変えてからウサピルの身体を貫いた。

 短い断末魔をあげた後、あっさりと動かなくなった。

 経験値は当たり前だがしょっぱい。

 

 クロちゃんの餌にしようかな。

 ……でも、何か意外と平気だったような。

 もっとこう、生き物を殺した罪悪感とか湧いてくると思ってたのけど……

 

「まさか、これも元康のカースの影響じゃないだろうな……?」

「ピィ?」

「……火の魔法は使えないし、生で食べて貰うか」

 

 ウサピルの死体を差し出すと、喜んで食べ始めた。

 これは元康が愛してやまないのも分かる。

 しかし、あっという間に平らげてしまった。

 フィロリアルは食欲旺盛だからなぁ……

 

「……急ぐ旅ではあるが、クロが成長してくれれば私の負担も軽くなる」

 

 これからは道すがら出会った魔物を倒して行こう。

 昨日までは無視してたけど、クロちゃんを育てる為だ。

 私とフィロリアル、どっちの足が早いのかは分からないけど……

 流石に勇者でも延々と走り続けてたら疲れる。

 なるべく早く成長させて、クロちゃんに乗せて貰いたいところだ。

 

 

 

 明後日のお昼前。

 クロちゃんは無事に成体にまで成長してくれた。

 多少Lv補正が足りないんじゃなかろうかと。

 一応強い魔物も少しだけ倒したんだけど、足りるか不安だったから一安心。

 

 ……そろそろ私の足も限界だったから非常に助かる。

 休み休みとは言えども疲労は蓄積されていたのだ。

 正直、成長がもう少し遅かったら真面目にドライブモードを検討しかけていたところだ。

 

「クロ、乗せてくれる?」

「グアァ!」

 

 おっと、忘れずに酔い止め飲んでおこう。

 道すがらに集めておいた素材で作れてよかった……

 初めて乗ったら絶対酔うからね、私。

 

「直進だ、クロ!」

「グアァ!」

 

 こうして、私は目的地へと順調に進んで行った。

 この日はクロちゃんがフィロリアルキングの姿にもなったっけ。

 夜になる頃には人の言葉も話せるようになっていた。

 服は後回しでいいか……勿論、後でちゃんと用意すると約束した。

 

「ちょっと申し訳ないんだけど、しばらくはフィロリアルの姿で居てね」

「わかったー」

 

 なお、天使の姿も見せてくれたけど滅茶苦茶可愛かった。

 私に性欲があったら襲っていたかもしれない。

 ……私はこの若さで既に枯れかけているけどね。

 

 クロが疲れたら私が、私が疲れたらクロが。

 ローテーションで朝晩問わず走り続ける事、更に三日後。

 何とかギリギリ召喚されてから一週間の期日には間に合ったが……

 到着したのは夜だった。

 

「ちあー」

「なに?」

「あそこに何があるのー?」

「ちょっと助けたい人が居るんだ」

「んー?」

 

 さて、アニメで一度見た事のある街並だね。

 あの城みたいなとこにラフタリアとリファナが居る筈だ。

 ここはクローキングランスを使って入り込もう。

 ファイアミラージュが使えないから多少は慎重に行こう。

 最悪、ブリューナクで目撃者を消す手もあるけどそれは最後の手段。

 

「クロ、私の身体に触れていて」

「わかったー。これから何するのー?」

「潜入……いや、潜入救出<レスキュー>かな」

「わー……!」

 

 クロの目が輝いている。

 容姿でもう確信してたけど、間違いないね。

 って、今はそれよりも!

 

「行くよクロ! 悪しき者の手に捕えられたお姫様を救い出すんだ!」

「クロ、頑張る!」

 

 さて、まずは見張りをひょいひょいっと。

 なるべく物音を立てないように足を動かす。

 ええと、たしか地下室だったっけ……

 

「これかな……」

 

 それっぽい場所を見つけた。

 微かにだけど鼻に付く臭いもするし……間違いないだろう。

 先に進もうとしたが、太った貴族らしき身なりの男が歩いて来た。

 悪趣味な笑みを浮かべながら。

 そして……信じられない事を口にした。

 

 

 

「くくっ……あのガキはとうとうくたばったか」

 

 

 

 ……は?

 こいつ、今何と言いやがった……?

 

「一緒にいたあのガキの絶望した顔を見る前に出荷してしまったのが少し残念だが……まあいい」

 

 ……嘘、でしょ?

 

「ちあー……」

「……行くよ、クロ」

 

 まだ、まだ分からない。

 この目で確かめるまでは……諦めちゃ駄目だ。

 そう自分に言い聞かせながら私とクロは階段を降りて行った。

 

 そして、地下室まで降りたその時。

 私は決してさっきの野郎の独り言が、最悪の結果だった事を知った。

 

「……」

 

 奴隷に落ちた亜人の子供達が私を見る。

 微かにだけど、漂うこの臭いからして……

 檻を見回してそれらしき人物を探す。

 リファナちゃんの姿を、見つける事は出来た。

 見つける事は、だが。

 

「チアー……」

 

 クロの不安そうな声が響く。

 私も、どうして良いのか分からない。

 

 リファナの居る檻の鍵を……槍で無理矢理こじ開けた。

 そして、リファナの身体に手を当てる。

 

「……」

 

 とても冷たかった。

 手首に指を当てても脈はなく、胸に耳を当てても鼓動は聞こえない。

 既に、リファナは……

 

「……くそっ!」

 

 間に合わなかったのか……私は。

 胸に込み上げて来るのは何処か空虚な後悔。

 私しか助けられなかったのに……そう考える一方。

 私如きがそんな事を考えるのは烏滸がましいと。

 そんな気持ちは湧き上がって来た。

 

 どうせループするから。

 そんな安っぽくて傲慢な慰めの言葉が思い浮かんだ。

 ……ああ、自分が情けない。

 

「……ちあー」

「なに、クロ?」

「元気出してー……さっきから、なんだか悲しそうだよ?」

「そう、だね」

 

 ……悲しむのは後か。

 今は生きてる人だけでも助け出そう。

 そうだ、さっき見回った時にキールも見つけてたんだった。

 

 取り敢えず、ここの亜人達は皆解放しなくちゃだ。

 回復魔法は使えないけど、幸い薬の調合はしておいた。

 聖武器の技能様々だ。

 

「クロ、手伝ってくれる?」

「わかったー」

 

 檻を開けて全員に薬を飲ませる。

 勿論、薬の効果を上げる効果のある槍も併用した。

 

 何人かは薬を飲めなかったけど、口移しで何とか飲ませた。

 多少拒否感はあったけど……そんな事言ってられるか。

 クロも同じ様にしてるのに、私が嫌がってたら恥でしかない。

 

 薬が足りるが地味に不安だったけど、どうにかなったかな。

 ……肝心な一人は、救えなかったけど。

 

「お兄ちゃん達、誰……?」

 

 私はお姉ちゃんだぞ、とかそんな冗談を言ってられないな。

 

「私は……うん、ヒーロー気取りの馬鹿野郎ってところかな」

「……?」

 

 この子達は隣町の貴族にでも預けよう。

 あそこは亜人に対して忌避感が薄かった筈だ。

 治めている貴族が穏健派だし、多分何とかしてくれるだろう。

 実は既に通過済みなので、ポータルで向かうだけだ。

 幸か不幸か、ポータルで転送出来る人数しか居ない。

 

 後は……証拠隠滅だけだ。

 

「クロ、少しその子達の面倒を見ててくれる?」

「わかったー。ちあはー?

「野暮用を済ませて来るよ」

 

 そう言い残し、私は階段を上がる。

 クローキングランスも再使用して奴を探す。

 数分後には、奴は帰って来やがった。

 

 そして……

 

「ぐはっ!?」

 

 背後からグサリと貴族を槍で貫き、隠密を解く。

 宙ぶらりんとなったが、こいつは多少もがく余裕はあるようだった。

 

「き、貴様は誰だ……!?」

「愛の狩人の代理人」

 

 ああ、私の中に……元康のカースが浸透していたとしても。

 私はこの殺意を留まる事は出来なかった。

 一般人には似つかわしくない歪んだ思想……

 

「サイレントランスⅩ」

「——っ!」

 

 これは勇者としてところか、人間としてもやってはいけない行為なのだろう。

 既に同じ外道に落ちているのかもしれない。

 だけど、それでも構わないと思った。

 だって……

 

 

 

「ブリューナクⅩ!」

 

 

 

 所詮、私は……真の勇者などでは無いのだから。

 

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