槍の勇者のすり替わり   作:紙吹雪

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サディナ

 

 隣町の貴族、ヴァン=ライヒノットは話が分かる奴だった。

 事情を少し話しただけで見ず知らずの私を信じてくれた。

 数日だけこの街に滞在したけど結構居心地が良かったのでしばらく拠点にしようと思ってる。

 

 クロの服も用意してくれた。

 亜人が比較的多いお陰か、意外と簡単に作成出来たよ。

 デザインに関しては私が口を挟み、漫画で見たクロちゃんの服装に近いようにして貰った。

 

「では、この子達を頼む」

「分かりました。その子は……」

「埋葬する。この子の故郷の村に」

「そうですか……どうかお達者で、槍の勇者様」

 

 彼の姿が見えなくなった頃にポータルを使う。

 使ったのは道中にとっておいたポータルだ。

 ルロロナ村……ラフタリアの住んでいた村に比較的近い場所だったので、念の為取っておいたのだ。

 

 そうそう、ラフタリアだけど……どうやら既に売られてしまったらしい。

 多分、あの奴隷商の所に行くのだろう。

 じゃなきゃ困る。

 

 ポータルを使った後はクロに乗ってルロロナ村に向かう。

 クロの足取りは普段よりもやや重かった。

 フィロリアルは悲しい事が苦手なんだっけ。

 ……得意な人なんている訳ないよね。

 

「……これでよし」

 

 廃墟になった村。

 その隅っこにリファナちゃんを埋めた。

 棺はライヒノットが貸してくれた。

 

 両手を合わせて、黙祷を捧げる。

 ごめんねリファナちゃん。

 もう少し早く到着していたら間に合っていたかもしれないのに。

 

 いずれループするだろうけど……彼女の死は確かに私の心に傷を負わせた。

 これを平然と耐えるとか元康の精神はやはりおかしい。

 

 ……そうだ。

 

 試しにソウルイータースピアに変え、目を凝らしてみる。

 すると、やはりと言うべきか……辺りを漂う半透明のイタチが居た。

 

「……」

 

 しばらくの間、目が合った。

 ……何か、かける言葉は無いだろうか。

 

「ラフタリアちゃんは無事だよ。勿論、キール達も。だから、安心して欲しい」

 

 そう話すと、イタチ……リファナちゃんの魂は安心したように見えた。

 

「ここで待っていれば、きっとまた会えるよ。私が保証する」

 

 それだけ言うと、私はソウルイータースピアから別の槍に変える。

 海のさざめきが聞こえたのでそっちを向くと、目が痛くなるくらいの潮風が吹いていた。

 

 

 ——この村の再興、早く出来ると良いな。

 

 

 心の底から私はそう願った。

 原作で無事に復興するのは知っているけど、そうだとしても。

 この光景を見て、私はそう思わずには居られなかった。

 

 さて、これからの事をどうしようか。

 振り返って考えようとしたその時。

 

「あら?」

「……う、うん?」

 

 そこに立っていたのは、シャチの姿をした……ハッ、まさか!?

 

「貴方、そこで何をしていたのかしら?」

 

 若干敵意があるような無いような……そんな雰囲気をしている。

 おそらくこの人は……そうだった、この時期はこの辺りに居るんだった!

 ううん、どうしよう……何て返すのが正解だろうか。

 下手に誤魔化すと感電死させられかねない。

 

「それは……お墓かしら?」

「……はい、そうです。この村の出身の子を」

「名前を聞いてもいいかしら」

「リファナちゃん、です」

「そう、なのね」

 

 がっくりと、かなり沈み込んだシャチ獣人……

 当たり前、か。

 守れなかった村の子を探した結果がこれなんだから……

 

「もう少し早ければ助けられたかもしれませんでした。申し訳ないです」

「……良いのよ。本当なら、こうやって埋葬してくれるだけでも奇跡なのよ」

「そう言ってくださると、私も少しだけ胸が軽くなります」

 

 これは本当にそうだ。

 しばらく私の気持ちはどんよりとしていたから。

 クロだって普段は明るいのに、今はやや物静かなんだ。

 なお、クロは村の外で待って貰っている。

 寂しい雰囲気に耐えられなかったんだろうな……

 

「色々と聞きたい事があるのだけど、良いかしら?」

「良いですよ。でもその前にお墓に名前を刻んで頂けませんか? 私、恥ずかしながら文字が書けなくて」

「あらー……分かったわ」

「後、名前を伺ってもよろしいですか? 私はチアキと言います」

「私はサディナって言うわ」

 

 やっぱりね。

 

 この後、サディナが色々と質問を投げ掛けて来た。

 何処でリファナちゃんを見つけたのかとか、他の皆はどうしてるのか、とか。

 なるべく嘘は付かないように答えたので、特に疑わられる事はなかった。

 

「それで、何でチアキちゃんはリファナちゃん達を助けようと?」

 

 げっ、キラーパス来た。

 読者としての知識を話すのは説明がかなり面倒臭い。

 別にバレても構わないんだけど……それは今じゃなくていい。

 

「あの街の貴族は亜人排斥派だったからね。亜人の奴隷が居る事は分かっていた」

「でも、どうして? 見たところ、貴方は赤の他人じゃなくって?」

「苦しんでいる子供が居るのを知っていた。だから、助けたんだ……それじゃ、答えにならない?」

「……そんな事ないわ。ありがとう」

 

 どうやらセーフらしい。

 上手く疑われずに済んだ……と思う。

 

「それで、チアキちゃんはこれからどうするの?」

「少し……王都で用がありまして。それを済ませた後、どうするかはまだ決めてませんね」

 

 野暮用とは、尚文がラフタリアを購入するように仕向ける小細工である。

 じゃないとあのフィーロにならないからね。

 

「そう……キールちゃん達を預けたのはライヒノット領って言ったわね」

「そこに向かわれるのですね」

「ええ、そうよ」

 

 ……どうしようかな。

 この人強いし勧誘出来たらかなり心強いのだが。

 ふむ……そうだ。

 

「お別れする前に、私と一緒に来てくれませんか?」

「あらー、どうしてかしら?」

「王都での用と言うのはですね、とある亜人の奴隷を探すつもりだったんですよ」

「……」

「確か、ラクーン種でしたか。キールから聞きました」

「……! それは本当かしら」

 

 よし、食い付いた。

 

「話を聞いたところ、多分貴女もこの村の出身の方ですよね。気になるのではないでしょうか?」

「……そう、分かったわ」

 

 成功、かな。

 手応えはあった。

 

「では、早速行きますか?」

「ええ。でも、その前に……」

 

 ブンっと。

 銛が凄い速さで私の横を通り過ぎた。

 そんな馬鹿な……!?

 

「嘘を付いてないのは分かるわ。人を騙そうともしていない。けど……貴方、何を隠しているのかしら?」

 

 ひえっ……怖い。

 いや、割と冗談抜きで怖い。

 これが殺気って奴か……この人を怒らせるのは絶対に駄目だ。

 私はそう心に刻み込んだ。

 

 私が何か隠していると感じた瞬間に迷わず攻撃に転じる判断力。

 Lvをリセットされても残る実力。

 そして子供の面倒を見る保母能力。

 

 どれを見ても、やはり得難い人材だ。

 だけど、何が駄目だった!?

 

「女は一つや二つ、隠し事をするものですよ」

「……やっぱり、女の子だったのね。キールちゃんと同じくらい分かり難いわ、貴女」

「貴女を陥れる事はしません。貴女の大切な人にも、勿論。ですから……出来れば、私の事を信用して頂きたい」

 

 私の言葉を受け、考えを巡らせるサディナさん。

 これで駄目なら……土下座しよう。

 

「……そうね、分かったわ。チアキちゃんの事を信じるわ」

「ありがとうね、サディナ」

「ところで、その口調も演技かしら?」

 

 うぐっ……痛いところを付いて来る。

 

「いや、あんまり馴れ馴れしくするのも……と」

「あらーそうなのね。だったら別に遠慮は要らないわ」

「そうですか……おほん。なら、普通に話させて貰おうかな」

 

 正直、自分でも演技臭すぎて若干恥ずかしかったし助かる。

 

 早速私はサディナにパーティー勧誘を送る。

 勿論、了承してくれた。

 

「そうそう、もう一人仲間が居るんだ」

 

 クロと合流して、サディナに紹介する。

 因みに天使形態だ。

 

「この子はクロって言うんだ」

「チアーこの人だれー?」

 

 ……正式に仲間へと勧誘したんだから、隠し事は減らさないとね。

 まあ、多分途中で尚文に渡す事になるんだろうけど。

 

「この人はサディナさん。これからしばらくは一緒に行動すると思うから、よろしく」

「そうなんだーよろしくー」

「クロちゃんって言うのね。よろしくね」

「この子も奴隷に落ちた亜人の子達の保護を手伝ってくれたんだ。頼れる子だよ」

「そうなのね。なら、お姉さんからもお礼を言わせて頂戴」

 

 クロはサディナの言葉に満更でもない顔をしている。

 が、まだちょっと暗い感じが抜け切れてない様子。

 

「メルロマルクの闇を見て、少し落ち込んでるんだ。優しく接してあげてね」

「あらー……分かったわ」

 

 とは言え、クロなら立ち直れると信じてる。

 ブラックサンダーになる可能性すら存在するんだ。

 これくらい乗り切れなくっちゃね。

 まあ、あっちはあっちで非常時に弱いけど……

 

 それと……

 

「サディナ、一つ聞くんだけど亜人姿になれる?」

「そうね……メルロマルクの王都で活動するんだったら、その方が良いわね」

「なれるんだね。なら、そうして欲しいな」

 

 ポフン、と。

 サディナの姿が見覚えのある亜人の姿になった。

 うん、やはり美人だ。

 

「綺麗だね」

「あらーお姉さん褒められちゃった」

 

 この茶化しもこの人らしいな……

 さて、じゃあやるか。

 

「ポータルスピア」

 

 スキルを使い、私達は一瞬で王都まで戻った。

 ううん、やはり便利だ。

 バイト先に向かう時もこれが使えたら、大分余裕が出来たのに……

 って、そんな贅沢な使い方は無いよね。

 

 なお、サディナはポータルを使った直後は目をぱちくりさせていたが殆ど動揺はしなかった。

 寧ろどうしてこんな事が出来るのか疑問を持っているみたい。

 ……この後、ちゃんと丁寧に説明しよう。

 下手な嘘を付くと、今度こそ串焼きにされるかもしれないからね。

 

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