槍の勇者のすり替わり   作:紙吹雪

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説得

 

「さて、ここが奴隷商の店だよ」

「お姉さん、もう少し時間がかかると思ってたわー」

「わー……」

 

 クロちゃんが私の後ろに隠れる。

 ここ、ちょっと怖い雰囲気だもんね。

 フィロリアルの大半が怯えてしまうだろう。

 

「クロ、怖いならここで待ってる?」

「ううん、一緒に行くー」

 

 ……さて、入るか。

 一応尚文が居ないかざっと辺りを確認したが見当たらない。

 多分まだ奴隷は買っていない筈だが……

 

「おやおや、これはこれは……槍の勇者様ですね。以前私どもの店にいらっしゃった後、その正体を知った時は驚きましたです、ハイ」

「今日は買い物ついでに、一つ確認に来た」

「ほう、お聞きしましょうか」

 

 私は奴隷商の案内で店の奥に入る。

 よし、色々と用事を済ませてしまおう。

 

「ここに、不良在庫の奴隷……ラクーン種の少女はいるか?」

「おや……それをご存知とは、槍の勇者様の情報網には恐れ入りますです、ハイ」

 

 奴隷商の言葉に、サディナはホッとしたように胸を撫で下ろす。

 良かった、まだ居るっぽい。

 

「それがどうかされたのでしょうか? その奴隷をお買いしたいのではないのでは?」

「いや、生憎私は買わない……が」

 

 やば、ちょっとサディナの視線が鋭くなった!?

 やっぱりまだ完全に信用は得られてないかぁ……

 悲しいけど、私如き凡人じゃ当然か。

 

「出来ればだが、盾の勇者にそのラクーン種の奴隷を斡旋して貰いたい」

「ほう、それは何故でしょう?」

「理由は敢えて話さないが……そうしてくれるなら他の在庫不良の奴隷、腕の曲がったラビット種と雑種のリザードマンを買い取ってもいい」

「……なるほど、なるほど。でしたら構いませんとも、ええ!」

「勿論、私の事は尚文には他言無用だ」

 

 正直、その二人完全に面倒は見切れないからライヒノットにでも預けよう。

 幸い待ち合わせはある。

 魔物のドロップ装備を幾つか売り払ったからね。

 因みに、私は既に元康が槍直しで来ていた装備を着用している。

 ……サイズの自動調整があって良かったよ、ほんと。

 

 と、ここでサディナが私の耳元に囁いて来る。

 

「チアキちゃん。ラフタリアちゃんをどうするつもりかしら?」

 

 あかん。

 返答間違えたら即ゲームオーバーだこれ……

 この人にはやると言ったらやる「凄み」がある。

 

「……四聖勇者の事は知ってる?」

「ええ、勿論よ」

「その一人、盾の勇者である岩谷尚文はこの国では歓迎されない存在だ。その仲間になってくれる人と言えば、この国の中だと奴隷くらいだろう」

「……」

「サディナの気持ちは分かる。だけど、私の見立てでは尚文は信頼できる人間だ。どうか、信用して欲しい……頼む」

 

 私は誠意を込めて頭を下げる。

 これで駄目なら……頭を貫かれて死ぬかもしれない。

 防御力の暴力で耐えるとか言ってはいけない。

 

「……チアキちゃんなりに、お姉さんの事を慮っているのは分かったわ。でも、どんな人なのかは確認させて頂戴」

「ありがとう……確認は勿論だ」

 

 さて、目的の一つは確認出来た。

 もう一つの目的はっと。

 

「おや、挑戦致しますか?」

「ああ」

 

 奴隷商がそう声をかけてきたのでそう返す。

 奴隷商の説明は既に知っているので聞き流した。

 そう、私が頭を悩ませているのは卵ガチャの商品。

 ガエリオンの宿っている卵だ。

 

 幸い、光った卵の位置は覚えている。

 多少位置は動いているが……分かるぞ。

 

「これを貰おうか」

「分かりましたです、ハイ」

 

 魔物紋の登録と同時に、奴隷紋も登録する。

 どうせこの後解放する予定だけど……

 変に抵抗されても困るし、一応やっておいた。

 あんまり気分の良いものでもないけどね……はぁ。

 奴隷紋を登録する際にあげる苦悶の声……聞くに耐えない。

 

 遺伝病のラビット種に雑種のリザードマン、か。

 たしか真槍でそれなりに掘り下げてたね。

 そうだ、狼獣人はどうしよう……また今度でいいか。

 さっき聞いたら金貨75枚とか吹っかけられたし。

 

 因みに二人を買う際に特に値下げはしなかった。

 結構高めの金額を提示されたけど、値切るのが面倒だった。

 分かっているって視線で奴隷商を見ておいたので、ラフタリアを斡旋する為の手数料込みだと思ってくれているだろう。

 

「二人とも、名前を聞こうか」

「ぐっ……テ、テオドール」

「シ、シオンと……呼べ」

 

 うん、知ってる。

 

「あらー……この子達も仲間にするの?」

「いや、ラフタリアを確実に買わせる為に買っただけだが……ふむ」

 

 亜人を引き連れるのはこの国だと風聞がよろしくないんだよねぇ。

 サディナさんは黙っていれば人間に見えなくはないから、そこは安心だ。

 話したら話したらでうわばみのやべー人でもあるが。

 

 でも……女王が凱旋した後なら。

 その時は十二分に活躍しても問題はないか。

 予め秘密裏に育てるのも悪くないかもしれない。

 

 ともかく、ここでの用事は終わりかな。

 丁度ポータルのリキャストも完了した。

 説明をするのは……ライヒノット領で良いだろう。

 今まであまり気にしてなかったけど、監視がいるかもしれないし。

 

 テオドールとシオン、クロちゃんとサディナを引き連れて裏路地に入る。

 ここなら大丈夫だろう。

 

「ポータルスピア!」

 

 辺りの風景がガラリと変わる。

 この瞬間はまだ慣れないね……

 実際に遠距離転移を行うとこんな気分なのかと思い知らされる。

 

「なっ!?」

「これは……」

 

 奴隷二人は驚いているようだ。

 当たり前か……あ、そうだ。

 

「サディナ、もう獣人姿に戻っても良いよ」

「あらーじゃあそうしようかしらー」

 

 そう言うと、サディナはシャチ獣人の姿に変わる。

 それを見たシオンが、何かに気付いたような素振りを見せた。

 

「私の紹介がまだだったね。私は一応槍の勇者として先日召喚された、金森千秋だ。波に抗う為に戦うのが使命だね。サディナも改めてよろしくね」

「あらーやっぱりそうだったのね。なんだかチグハグなのはその所為だったのね」

「チグハグ……ああ」

 

 身体能力だけ突出してて、戦いの技術が皆無だって事ね。

 そこはここから訓練や実戦で慣れて行くしかないだろうね。

 魔法も同様、頑張って文字を覚えるしかない。

 ……英語よりは簡単だと良いんだけどなぁ。

 私、あんまり英語得意じゃなかったから不安だ。

 

「二人はこの領地で暮らすように。ここの領主は亜人にも優しいから、酷い扱いはしないだろう」

 

 完全にライヒノットに丸投げしてる形になるが……

 彼とはそれなりに打ち解けたつもりだし、文句は出ないだろう。

 決してそのつもりだった訳じゃないけど……亜人の子達を助けて恩も売れたしね。

 

「何故、お前はここまで……」

「私の手は全てには届かない。だから……目に入った奴くらい、救いたかった。それじゃ駄目?」

「……」

 

 これも嘘ではないつもりだ。

 一応、事情は軽く知ってるし……完全に知らない人でもないのだ。

 初対面でこんな事言われても、なんだか信用し難いだろう事は理解している。

 

「お前が勇者なのは分かった。だが……」

「疑問はあるだろう。私を完全に信じる事も出来ないだろう。だが……どうか、疑わないで欲しい。私はもう、目の前で零れ落ちる命を見るのはごめんだ」

「チアキちゃん……」

 

 サディナは若干沈んだ声で私の名前を呟いた。

 ループするからと言って……諦めるにはまだ早い。

 手の届くところにあるものは、守ってあげたいんだ。

 

「まずはライヒノットに挨拶しに行こう。それからサディナはキール達と話してくると良い」

「そうね、そうさせて貰おうかしら」

「テオドールとシオンは私と一緒に来て。一応顔合わせは済ませて起きたいからな。これからの事はその後考えてくれ」

「あ、ああ……分かった」

「分かり、ました」

 

 今はこんなところか。

 段々と戦力は集まって来ている。

 

 

 

 それからの事。

 テオドールとシオンは迷っていたけど、波を沈める為に戦いたいと決めた。

 主にシオンがそう意気込み、テオドールが影響された感じだったかな。

 あの子、物語とか好きらしいからなぁ……

 

 しかし、亜人の奴隷を仲間として連れて行くのは少し難しい。

 その後の城での決闘の場面で支障が出るかもしれない。

 ……最初の波が発生する場所は、リユート村だったかな。

 仲間だとバレなきゃ連れて行っても問題はないかも。

 

 私の仲間と言う形だと外聞が非常に悪い為、密かに訓練をして貰う事になった。

 ぶっちゃけ最初の波は私はおろか、サディナでも余裕なんだし。

 クロちゃんとサディナが現状の仲間で良いだろう。

 いや、クロはどうだろう……尚文にフィロリアルの姿を見せていいものなのか?

 

 ……天使の姿なら別に構わない、か。

 いや、なんなら元康がやったように錬と組ませよう。

 んで、ボスを倒したら天使の姿にすぐ戻るように指示すればいいか。

 尚文にさえ見られなければ構わない筈だ。

 

 キール達は元気に暮らせてるそうだ。

 村の復興に関しては私がそれとなく提案しておいた。

 私がやらずとも、尚文がやってくれる筈だからね。

 それまでの辛抱だ。

 

 サディナは私に戦闘技術に関して教授してくれている。

 そこにテオドールやシオンも混ざる形だ。

 いや、本当にこの人強いな。

 まあ……この世界は幾ら強くてもそれだけじゃ解決しない事が多いか。

 

 尚文の姿を一緒に見に行った時は満足そうにしていた。

 ラフタリアが自然に笑っているのを見たからかな。

 私もちゃんと打ち解けているようでホッとした。

 これなら立派に成長してくれるだろう。

 

 私はサディナによる戦闘訓練の他に、ライヒノットに頼んでメルロマルク語を習っている。

 この人、意外と教え方上手いぞ……

 そう言えば食わせ者みたいな描写が多かった。

 最初の波には流石に間に合わないだろうけど、次の波には間に合いそうだ。

 

 因みにだが、私の魔法適正は既に調べた。

 なんと、元康とダダ被りで火と回復だった。

 別に構わないんだけど……喜べばいいのか悲しめばいいのか分からない、不思議な気分だ。

 

 とまあ、こんな感じで割と順調だ。

 後はポータルの確保の為に偶に遠出しているくらいかな。

 ゼルトブル付近まで足を伸ばしたが、残念ながら辿り着く事までは出来なかった。

 それでも充分な成果だと思おう。

 ……あの兄妹を早めに確保したいところだ。

 

 やはり、レベル上げをする必要がないのが大きい。

 マジで大助かりだよ、ホント。

 問題はまだまだ山積みだが、何とかしないとだ。

 そうじゃなきゃ……私がここに来た意味なんて、無いだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 ん、何か忘れてないかって?

 いやいや、忘れてないとも。

 ただ……ね。

 

 

 

 ガエリオンの卵が孵った。

 あいつの話した内容で、頭痛の種が増える事になったのだ。

 

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