なのリオンって呼び方好き
「ぶー……」
「ごめんねクロちゃん、我慢して」
「わかったー」
クロちゃんが嫌がってたのはガエリオンの宿った卵だ。
そろそろ孵る頃だと思ってこうして待機しているが……
「クロちゃんは遊んで来て良いよ」
「わーい! クロの必殺技、暗黒雷閃<ブラックサンダー>を皆に見せてくるー!」
そう言ってクロちゃんはタッタッタと走り去って行った。
他の子達と上手く行っているようで何よりだ。
……喋り方が移ってないか不安だけど、まあいいか。
「おっ、割れ始めた」
パキパキと音を立てて……中から子竜が生まれて来た。
こうして見るとドラゴンも悪くはないと思う。
元康は絶対にそうは考えないだろうけど。
「……ガウ!?」
そいつは私を見て驚いている。
何だか嫌な予感がして来たが……
この数日で集めておいた竜帝の欠片を差し出しておく。
粗悪な欠片だが、それなりに集めたし多分大丈夫……だと思う。
先にこれを集める為に孵化を遅らせて正解だった。
「……なのなの。うん、何とか話せるなの」
よし、ここまでは良いな。
「えっと、まずは誕生おめでとうかな。色々聞きたいがあるんだけど」
「それはこっちの台詞なの! お前は誰なの!? あの愛の狩人は何処に行ったなの!?」
「知らん! 私が知りたい!」
くっそ、もしかして何も事情を知らないのか?
実はかなり期待していただけに、落胆が大きいぞ……
「私は金森千秋って言うんだけど……」
「ガエリオンなの。うーん、よく考えると槍の勇者より全然話が通じそうだしこっちの方が良さそうなの」
「お、おう……」
言ってやるなよそれは……そもそも、ループを繰り返せるメンタル持ってるのは元康だけなんだから。
私は正直出来る気がしないぞ。
「お前はガエリオンについて知ってるなの? 知ってなきゃこの状況はあり得ないなの」
「事情は話すと大分面倒だから省略するけど、知っていると言う認識で良いよ。槍の勇者の軌跡は大体頭に入っている」
「なの……でも、本当にお前は何者なの? ループに割り込んで別人が槍の勇者になるなんて、イレギュラーにも程があるなの」
……ふむ。
「私にも分からない。ただ……この世界に召喚する前に、元康の声が聞こえたような気はした」
「そうなの?」
「うん。だから何だって感じだけど」
「……意味が分からないなの」
「私も同意見だよ」
くっそ、全然情報が増えねぇ!
そもそも、このガエリオンどのタイミングのガエリオンなんだ?
神になったラフタリアと面識があるのか?
ぐぬぬ……分からない事が多過ぎる。
「チアキちゃん、入るわよー」
「あ、サディナ。良いよー」
「あの女は……なの」
サディナさんが私が使っている部屋に入って来る。
シャチの獣人姿は何度見てもインパクトがあるね。
主に大きさ的な意味で……
「お前、今はどんな状況なのか話すなの。そっちの事情も聞かせろなの」
「えっと、今はね……」
と、私がこの世界に来てからの行動について説明した。
話を聞き終えたガエリオンは難しい顔をする。
子竜の身体だけど。
「……妙なの。ガエリオンの記憶もすげー曖昧なの」
「と、言うと?」
「尚文の童貞を奪おうとしたけど、この女に取られたのははっきり覚えてるなの。だけど、それ以降の記憶を思い出せねぇなの。バックアップをし忘れたなの?」
「あらー?」
「おうふ……」
つまり、ゼルトブル前編以降のガエリオンではあると。
まあそうでなくちゃおかしいけどね……
そのタイミングでガエリオンはループに相乗りするようになったんだし。
それにしても、記憶がないとは一体?
「クロちゃんには悪いけど、これからはガエリオンも戦力にしたいんだ」
「勝手に話を進めるななの。ガエリオンはまだお前と協力するとは言ってねぇなの」.
「尚文の童貞あげるから」
「分かったなの!」
チョロゴン……
「それと、何故私が元康の代わりに召喚されてるのかも調べて欲しい」
「分かったなの。原因は皆目検討も付かねーけどやってみるなの」
「助かる。頼んだ」
小声でそう言い残し、私は日課であるメルロマルク語の勉強に戻った。
しばらくはガエリオンのLv上げもやらないとね。
テオドールやシオンもそこそこ上がったし、戦力になるかもしれない。
え、どうやって二人のLv上げたかって?
フハハ! 弱い! 弱すぎますぞ!!
とだけ言っておこう。
結構爽快だった。
と、最初の波が来るまでの期間はあっという間に過ぎて行った。
ガエリオンの加入でクロちゃんにはストレスがかかったのが問題と言えば問題か。
その点は相性の良い相手……錬を紹介する事で補填にしよう。
そして、波が来る日の一日前。
私は龍刻の砂時計に向かう為に出かけようとしていた。
「それじゃ、行って来るよ」
「行ってらっしゃい、槍の勇者様」
「頑張れよー槍の兄ちゃん! 本当は俺も行きたいけど……」
ライヒノットを初め、残して行く人達に一人一人声をかけて行く。
キールはまだ私の性別を勘違いしてるのか。
私も特に説明してないし、サディナさんも黙ってるから仕方ないけれど。
女っ気が欠片もないの事実だし、気にしてないのだけど……騙しているような気分なんだよね。
まあ、いっか別に。
人を揶揄うのは嫌いじゃないし。
「キールもごめん。ここで応援していて」
「おう!」
私と一緒に行くのはサディナとクロの二名だ。
それとテオドールとシオンも波に参加させるが、この二人はリユート村で待機させるつもりだ。
その為、今は連れて行かずに龍刻の砂時計に訪れた後に運ぶ予定だ。
既にポータルも用意済みである。
……偶然近くに居た体で波を退けて欲しいとは頼んだけど。
流石に待機していた村に波が起こるとは思うまいて。
怪しまれたら運が良いだけだ、とでも返そう。
ガエリオンも連れて行くか迷ったけど、辞めておいた。
戦力的には私とサディナで充分だし、余計な人員は不必要だろう。
「サディナ姉ちゃんも応援してるぜ! 勿論クロちゃんも!」
「あらーありがとう」
「うんー。ねーちあークロの運命の相手はー?」
「もうすぐ会えるよ」
別れを告げて、私はポータルスピアでメルロマルクへと向かった。
そして一緒に龍刻の砂時計のある建物へと歩いて行く。
その道すがら……
「……お前は」
やさぐれた顔をしたチンピラ……のような顔をした尚文が居た。
怖……!?
いや、こうして相対するとかなり怖いぞこの人。
「尚文……噂は聞いた」
「ちっ、てめぇもか」
やっぱり、私に対してもこんな感じか。
サディナは「あらー」とだけ。
尚文と一緒にいるタヌキの亜人……ラフタリアも当然一緒だ。
亜人姿のサディナは見た事の無いようで、誰だか分からないようだ。
バレるとラフタリアの成長に支障があるかもしれないので一応隠して貰っている。
サディナにも当然了承は得ているので問題はない。
「……お前も波の期限を確認しに来たのか?」
「そうだね」
はん、と。
鼻で笑いながら尚文は建物に入って行く。
「ねーチアー、あれがクロの運命の相手<ディスティニー>?」
「いや、違う。あの人は絶対障壁<イージス>だよ」
「わー救う者<ドライブ>と相性良さそー」
ズルっと尚文がこけかけた。
昭和みたいなリアクションだ……
因みに救う者<ドライブ>は私の事だ。
多分、亜人の子を救助したからこんな感じに呼ばれてるんだと思う。
尚文はジロジロと私の事を睨んでくるが、目付きがかなり鋭い。
……正直、結構怖いから視線を外してくれないかな。
「お前らなぁ……!」
「ごめんごめん」
尚文はさっさと建物の中へと歩いて行く。
それにしても……
「ラフタリアちゃん、なんだか少し立派になっていたわ」
「預けて正解だった……と、思ってくれるかな?」
「そうね……間違いじゃなかった、とは思うわ」
それなら良い。
私達も尚文の後を追いかけるように建物の中に入る。
ここでおそらく……出会えるだろうから。
「……ああ。明日が波らしいから来た」
不快そうな顔のまま、尚文は確認を終えたらしい。
そう言えば、クラスアップはどうしようかな?
サディナもクロも人間じゃないからここでは不可能だろう。
……別にしなくても良いか。
今まで通り、資質向上で誤魔化しておこう。
そうだ、尚文に強化方法を教えるのも考えておかないとだ。
あんまり強過ぎると三勇教に狙われるから慎重にだけど。
しかし、これが龍刻の砂時計か。
……実際に見ると神々しい見た目をしている。
さて、そろそろ来る頃かな?
「おや? そこにいるのは尚文……さんでは無いですか?」
出たわね完璧隠蔽正義。
完全に道化になってるこの状態の樹はひたすら面倒臭いぞ……
そして、やっぱり樹がこのポジションか。
予想は付いていたけど……ん?
マインこと、ビッチ王女がいないな。
そう言えば樹がこうなる場合はそうだったね。
……フィーロになる条件の一つに、思い切り人を蹴飛ばすって無かったっけ?
やっべ、どうしよう。
蹴られる役を立てる必要があるな……
「あっ、千秋さん!? 今まで何処にいたんですか貴方は」
……そうだ、そう言えば尚文の冤罪かけられるイベントすっぽかしたんだった。
「急ぎの用事が出来ちゃってね。まあ、間に合わなかったけど……」
「? そうですか」
よく分かってなさそうだなこいつ。
説明してやる気はないけどね。
「なんだお前等? 何か集まりでもあったのか?」
よし来たぜ!
待ってたぜ錬、お前が姿を現すこの瞬間をよぉ!
「わー」
クロちゃんの目が輝いている。
言わずとも私が紹介するつもりだった相手だと理解していそうだ。
と言うか、錬は私を見ても対して反応無しか。
まあ、他人だしね……
クロちゃんは錬の方へと歩いて行く。
錬は怪訝な視線を近付いてくる子供に向けた。
「羽根の生えた……亜人か?」
「闇の剣士ー」
「なんだコイツは」
「クロの名前はクロー」
「……そうか」
「ねーお前の名前はなんて言うのー? クロと闇聖勇者<ブラッククロニクル>のディスティニーのバトルに身を置き、破滅の運命<カタストロフ>を阻止する戦いに挑もうー」
錬の顔が困惑一色に染まった。
「クロちゃんは錬を気に入ったみたいだね。ちょっと話し相手になってあげてくれない?」
「な……ちょっと待て千秋! 久し振りに会ったかと思えば……」
「クロちゃん。その人は天木錬って名前で剣の勇者なんだよ」
「わかったー。レンは闇の剣士で闇聖勇者なんだねークロとお話して闇の運命<ディスティニー>に目覚めよー」
「ふん! 俺はそんな真似は好みじゃ無い」
素直じゃないねぇ……と私は思っているが。
クロは更に目を光らせている。
うんうん、可愛いね。
「……ちっ」
そんなやり取りを見てイラついたのか、さっさと帰ろうとする尚文。
……そうか、この頃の尚文はクラスアップも知らないのか。
元康も言っていた気がするけど、これで世界を救ったんだからマジで凄いよ。
「私達も帰ろうかな」
「おや、クラスアップはされて行かれないのですか?」
「少々複雑な事情があってね」
「は、はぁ……そうですか」
私も尚文を見習って帰ろうとした……のだが。
「待ってください。僕は貴方が何をしていたか聞きたいのですが」