長さがまちまちで申し訳ない……
……面倒なのに絡まれた。
「仕方ないな……クロ、しばらく錬と遊んでおいで」
「やめろ! 勝手に俺に押し付けるな!」
「口ではそう言っても身体は正直だね、錬」
「この……お前!」
怒ってるように見えるけど、その実クロを拒絶はしてないのが面白いのよ。
何だかんだ、翼に羽根のあるのが好みだからね……
気持ちは私も分からなくもない。
「何って言われてもね。私の知識でなるべく素早く済ませたいイベントがあったからかな」
「そうですか……でも、間に合わなかったそうですね」
「まあね。私達は……」
神じゃない、と言おうとしたが。
ここには三勇教の目がある。
あんまりこいつらを刺激する事は言わないでおこう。
「とにかく、私達にだって出来る事出来ない事がある。ところで、何で私の行動が気になったの?」
「異世界とは言え、同じ日本から来た人ですから。それに、マルティ王女も貴女の事を気にしていましたよ?」
おい馬鹿やめろ!?
あんなクソビッチに睨まれたくねぇ!
くっ、これは早急に何とかしなくては……
「……そうなんだ。じゃあね、樹。クロ、行くよ」
「はーい」
樹は若干不思議そうにしながら私達を見つめていた。
下手な事をしたら、あのビッチに何吹き込まれるか分からない……
なるべく穏便に、尚文には肩入れしないよう気を付けよう。
それもあとほんの少しの辛抱だけどね。
「あ、錬。クロちゃんと一緒にいたいなら預けてもいいよ?」
「断る! 引き取れ!」
「……残念。クロちゃん、おいで」
「ブー……運命がまた交差する時までしばしの別れー」
錬も完全に嫌がってる訳じゃないだろうし……
うん、悪い方向に向かわないよう気を付けよう。
なお、ポータルスキルに必要な龍刻の砂時計の砂は貰っておいた。
後で尚文に渡しておこう。
そして、翌日の最初の波が発生する時刻。
ここは大した事のないけど、一応注意点がある。
まず、ボスのキメラ。
間違えてブリューナクとかで消し飛ばしてしまったらフィーロが生まれない。
多分ピンク色の体色……サクラの見た目で性格がフィーロな存在になってしまう。
被害はなるべく出さないよう、私はまず村の防衛に徹するつもりだ。
クロちゃんにはボスの方に行って貰うかな。
戦ってるところをラフタリアに見られたらバレるかもなのでサディナもそっちに。
私は尚文と共に村を守るとしよう。
「……ってな感じでお願いね、二人とも」
「分かったわ」
「わかったー。闇聖勇者と一緒に暗黒舞踏<ダークカーニバル>するー」
「クロちゃん。厄災の波から人々を守る使命を忘れちゃ駄目よ」
「うん!」
うん、サディナは本当に気が回るね。
マジで大助かりだ。
「そうそう、ボスと戦う時は本気で戦わずに出来るだけ地味に戦って欲しい。この国の奴等にあまり強さをひけらかしたくない……と言うか、三勇教に本当の強さがバレると何されるか分かったもんじゃない」
「そう言う事ならお姉さん適度に頑張っちゃうわー」
これで良し。
00:01
「準備は良いね。それじゃ、頑張ろうか」
「うん!」
「ええ」
00:00
空に大きな亀裂が現れる。
そして視界が切り替わる……
実際に行った事はないが、おそらくここがリユート村だろう。
横には尚文達もいる。
……樹と錬はとっととボスの方へ走り去って行ったが。
信号弾が上がったけど、城の奴等がここまで短時間で来れる訳がない。
「それじゃ、打ち合わせ通りにお願いね」
クロちゃんとサディナはこくりと頷いて、錬と樹の後を追って行った。
尚文の視線がこっちに向いてないのを確認して……
「よしクロ、錬と共に駆けろ! 災厄の波<ウェーブ>を乗り越えるんだ!」
「わかったー!」
クロちゃんがフィロリアルキング形態に変身し、錬の側まで一瞬で移動する。
それなりに強化しただけあって滅茶苦茶早い。
この時点だと私くらいしか目で追えないだろう。
……いや、サディナなら出来るかもしれない。
「闇聖勇者ークロも一緒に行くー」
「む!? こいつは……その台詞!?」
さて、あっちはクロとサディナが居れば最早オーバーキルだろう。
資質向上は充分に施したし、そもそも二人共Lv関係なく強い。
錬と樹の方がおまけみたいなもんだ。
……早めに強化方法を共有したいが、この時点だと厳しいか。
「お前は行かないのか?」
「ん? ああ。村の方を守らないとだし。あっちは私の仲間が上手くやってくれるだろうから」
「……はっ、そうかよ」
いきなり話しかけられたと思ったら、それだけ言ってラフタリアと一緒に行ってしまった……
去り際にラフタリアは頭を下げてくれていた。
一応、彼女は私の事を嫌っていないようで何よりだ。
「……強さがバレないよう、程々に頑張りますか」
一応戦闘技術はサディナから教わったとは言え、まだまだ私は素人同然。
油断もせず、気は抜いていられない。
また守れなかったら……私の心は耐えられないだろうから。
しばらくの間村の防衛に集中した。
とは言え、所詮は最初の波。
後半の容赦無い展開を考えると楽勝の部類だ。
これなら竜の核石を集める為にドラゴンと戦う方がよっぽど危険だろう。
槍をひょいっと動かしただけで魔物を倒せる。
それどころか槍をちょっと突き出しただけで魔物がバラバラになった。
これは酷い……
村人の避難誘導は主に尚文達がやってくれたので、私はひたすら魔物を倒していただけだ。
次元ノ〜から始まる魔物だったが……うん、特筆すべき点もない。
それでも戦いは戦い。
死ぬ覚悟は未だに出来ている自信はないけど……殺す覚悟なら既に完了したから。
動きの練習も兼ねて色々と試すには割ともってこいだったかもしれない。
そうそう、戦っている間に騎士団が尚文ごと魔法を撃っていた。
怖……近寄らんとこ。
私が何かするまでもなく、この時点の尚文でも耐えられる程度の攻撃だし。
多少不快な気分にはなる。
だけど、分かっていた事に不快さを感じていても仕方ないだろう。
止めなくても尚文が騎士団の団長を脅してるし。
正直、あの状態の尚文はちょっと怖いから近付き難い。
テオドールとシオンは……お、いたいた。
二人で頑張って戦っている。
武器は適当なドロップ品を渡しておいた。
主にシオンの活躍が目立っているけど、テオドールも避難誘導でちゃんと活躍してるね。
さり気無く尚文達とも遭遇したけど、特に何も言わずに通り過ぎていた。
村の守りはもう大丈夫かなと判断した私は、波のボスの様子を見に行く事にした。
まあ、念の為と言うやつだね。
一応イレギュラーな事があるかもしれないし。
この時点でグラスが出て来るとか、そう言うのがさ。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
錬はクロちゃんに乗りながら剣を振るっている。
クロも同時に爪でキメラを切り裂いているが、そっちの方が効いているねこりゃ。
サディナは……うわ、雷の魔法でキメラを焦がしてる。
あのくらいなら見られても大丈夫だろうけど、やっぱり強いなあの人。
「これでトドメです! はあぁぁぁぁぁ!」
最後に樹が頭にスキルを放ち、キメラは倒れた。
うん、本当に来るまでも無かったね。
「お疲れ様、皆」
「うぐ……」
私が声をかけて近付くと、錬がクロちゃんの背中から滑り落ちてしまった。
ああ、そりゃそうなるわ……忘れてた。
因みに私は既に慣れた。
酔い止めの量を段々減らす形で慣らしたお陰で、リバースは未だ無しだ。
「レン様!」
「闇聖勇者どうしたのー?」
「ぎぼぢわる……い」
うわ、今にも吐きそう。
えっと、酔い止め酔い止め……後で作っておこう。
「ごめんね錬、乗り心地の事忘れてた。後で酔い止め譲ってあげるから許してくれない?」
「わ、分かった……うっぷ」
「ありがとう。
「素材の分け前は……先に樹と錬が決めていいよ。私は余った箇所で良いから」
「戦ってないのに分け前なんて、とも思いますが……クロさんやあの方はたしかに活躍していましたね」
サディナが笑顔でピースしてくる。
ノリが軽いな……そこが彼女の良い所でもあるんだけども。
後で高いお酒でも買って労おう。
「良いでしょう。僕は獅子の頭を貰います」
「俺は……竜の頭を……」
「じゃ、私は山羊の頭って事で」
残りの蛇の頭は……後で尚文が回収するだろう。
わざわざ持って行って渡す必要はないかな。
雑にザシュザシュと切り分けて山羊の頭を持ち上げた。
「クロちゃんもお疲れ。サディナもね」
「クロがんばったー!」
「よしよし。サディナも頭撫でて欲しい?」
「あらーじゃあお願いしようかしらー」
「冗談だよ……そんなノリノリで言われたら逆に困るよ」
「そうかしら?」
ほんと、食えない人だね……
「よくやった勇者諸君、今回の波を乗り越えた勇者一行に王様は宴の準備ができているとの事だ。報酬も与えるので来て欲しい」
あ、さっき尚文に脅されてた騎士団長だ。
宴までには錬の為の薬を作っておかないと。
少し離れた場所で、尚文達は村人の感謝の言葉を受けているようだった。
ひとしきり喋った後、今度は私の方に来ようとした。
が、私はそれを華麗に無視して城へと向かった。
本来、私なんか勇者じゃないし……感謝される謂れもない。
「いやあ! さすが勇者だ。前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せんぞ!」
クズがそんな事を高らかに宣うのを聞きながら、私は適当にディナーを楽しんでいる。
クロちゃんは錬と一緒に居るね。
仲良し……ではまだ無いようだけど。
サディナ?
グビグビと酒を飲んで辺りの人を引かせてるよ。
ウワバミだ……と、恐れられてるみたい、
さもありなん。
うーん、テオドールとシオンも連れて行きたかったな。
ん? シオンと言えば……
「……っと、その前にだ」
酔い止めが出来ているので、取り敢えず錬に渡そうと近付いた。
錬はまだ酔いが抜けておらず、かなり気持ち悪そうに隅にある椅子に寝そべっていた。
側にはクロちゃんが心配そうに付き添っていた。
「わー闇聖勇者ー食べれる時に食べないと闇が来た時に後れを取るよ?」
「うぷ……」
「錬、起きれるか? ほら、酔い止め」
「助かる……いや、元はと言えばこいつの飼い主であるお前の……」
「文句を言うならあげないよ」
「わ、分かったから早くくれ……」
もう少しこのままでも面白いかもしれないが、錬が可哀想だ。
さっさと酔い止めを飲ませてやった。
因みに高品質の物である。
「……凄いな、もう気持ち悪さが抜けたぞ」
「異世界の薬って凄いね。クロ、何か食べ物を持って来てくれるかな」
「わかったーレンは何が欲しいー?」
「そうだな……」
これでよし。
私は樹の様子を見て来るかな。
と、思っていたのだが。
……あっ、もう既に決闘するくだりに入ってる顔だこれ。
樹は強張った表情で尚文に近付き、大声で話しかけた。
「聞きましたよ! 尚文さん……いえ、尚文! 貴様が仲間だと言った者達は奴隷だという事を!」
「……それがどうした」
間違いないね。
私はそのどさくさに紛れて……とある事をさせて貰おうかな。
その前に、一応サディナに一言断っておこう。
「サディナ」
「あらーどうしたのチアキちゃん」
酒臭っ。
「この後……不快な事があるかもしれないが、どうか耐えて欲しい」
「あらーどうしてかしら?」
「ラフタリアと尚文の成長の為、かな。私はちょっと席を外すから」
そう言い残し、私は城のある場所に向かった。
クローキングランスも併用して誰にも見つからないように、ね。
まあ、今は決闘騒ぎのお陰で見張りは居ないけど。
城に集まっている貴族連中の間を縫うように走って私は広間から逃げ出した。
Lvによる強引な動きだけど、ちょっと格好良いかも?
って、そんな事はいいんだ別に。
正確な場所は分からないが、大まかな位置は分かる。
暗くて鼠が走っている場所……
ん、この辺かな?
広い城だから結構迷うな……でも、ここまで来たなら後は時間の問題だ。
予想通り、数分で目的の人物を見つける事が出来た。
「おい。見慣れない奴だな、お前はメルロマルクの兵か?」
……そう、目的の場所とは。
エクレアのいる牢屋だ。