槍の勇者のすり替わり   作:紙吹雪

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前回の最後、何故か自然とエクレアと書いてしまいました。
これは最早本名と言う事ですな。
女騎士はエクレアですぞ!


二度目の説得

 

「見慣れない奴だな。見たことの無い奴だが……」

「私は……一応、四聖の一人である槍の勇者だよ」

「何!? 何故槍の勇者殿がこんな所に……」

 

 何で私はここに来たのかって?

 簡単な事だよ……脱獄幇助しに来たに決まってる。

 火事場脱獄……なんか違うか?

 まあいいや。

 

「君を助けに来た。そうだな……シオンへとご褒美、と言う訳ではないが」

「シオンだと? あいつは波で死んだのではないのか?」

「奴隷の身に落とされたが、生きているぞ」

 

 たしか、親が庇ったんだったか……

 この世界にはありふれた悲劇だと思うと、虚しさすら感じてくる。

 

「今は私が主人だ。それよりも……実は盾の勇者も召喚されていて、この国の陰謀に振り回されている。冤罪をかけられて……その姿を王女と王が嘲笑っている」

「盾の勇者が……なるほど、あの王女と王ならやりそうな事だ。だが、そんな事をしたら」

「亜人の国が黙っていない、と」

「ああ」

 

 話が分かるな。

 こんな良い人を牢に入れるとか……女王が国に居ない所為で本当に酷い有様だね。

 まあどれもこれも全てあの王女が悪いのだが……

 

「エクレア」

「いや、私はエクレールだが」

「……ごめん、間違えた」

 

 元康がエクレアエクレア呼んでたから移ったかもしれない。

 

「改めて、貴女の力を貸して欲しい。私を疑っても構わない。とにかく、この国へ早く女王を帰還させなければならないんだ」

「……分かった。それで罪が増えようとも、私には守らなければならない物がある!」

 

 覚悟を決めた顔で、エクレールはそう返してくれた。

 

「ありがとう……本当に」

 

 私は槍で牢とエクレールを繋ぐ鎖を破壊する。

 まずは脱出だ。

 

「エクレール、パーティーに入ってくれ」

「? ああ、分かった」

 

 エクレールに勧誘を飛ばし、了承したと同時にポータルスピアを使う。

 飛んだ先は……リユート村だ。

 

 視界が変わると、近くでシオンが座っていた。

 

「お前か。いやに早い帰還だが一体……なっ!?」

 

 私の横に居る人にシオンは驚いたようだ。

 因みに、エクレールはエクレールでポータルスキルに驚いている。

 

「なんだ、これは!?」

「説明は後。シオン、命令。私がまたここに来るまで彼女を匿ってくれ」

「……承知、した」

 

 まだ驚愕から抜け出せていないようだが……この命令には従ってくれるだろう。

 

「エクレール、見つからないようにシオンと一緒に潜んでいてくれ。私は城に戻ってアリバイを作ってくる」

「あ、ああ……」

「では、また後で」

 

 私は猛ダッシュで城へと走る。

 幸い、そこまでの距離ではないので一時間もしない内に戻れた。

 

 城まで辿り着くと、私はさり気無い感じで錬の隣へ立った。

 勿論、クローキングランスを使って怪しまれないようにしながらである。

 さて、決闘はどうなったかな……

 

 私が城の庭を覗き込むと、泣きじゃくりながら成長したラフタリアに縋り付く尚文の姿が。

 既に終わってたか……リユート村は近い方とは言え、無理もないか。

 私は自然な感じで錬に話しかけた。

 

「錬、今の決闘についてどう思う?」

「ん? チアキか。お前も見ていたのか」

「ああ。あの女、風の魔法を使っていたよな」

「そうか……やはり俺の見間違いではないな」

 

 ……くくく、これで良し。

 これで私は決闘を見ていた事になり、アリバイを証明出来る。

 錬が保証してくれるだろうから、疑われる事はないだろう。

 感謝するぜ、錬!

 

「あ、チアーどこに行ってたー?」

「ちょっと困ってる人が居たから、手助けにね。そうだ、樹に指摘しに行く?」

「そうだな」

 

 この後、樹に反則があった事を告げたけど……

 やはりと言うか、樹は認めていなかった。

 想定内とは言え、どうしたものか……

 

「……チアキちゃーん?」

 

 会場に戻ろうとすると、身体のあちこちを帯電させたサディナさんが笑顔で立っていた。

 目だけは笑っておらず、怒っているのがよく分かる。

 酒気は完全に抜けきっているようだ……

 

 滅茶苦茶怖いけど……逃げられない。

 こうなるかもしれないと思ってたし、私自身が選んだ道だから。

 

「ナオフミちゃん、可哀想だったわ」

「……気持ちは分かる」

 

 アニメのあのシーン、見るのが若干辛かった。

 

「でも色々と変ね?」

「えっ」

「チアキちゃん、さっきまでお城に居なかったわよね」

「……そんな事ないと言いたいんだけど、ちょっと用事があって外してたんだ」

 

 なるべく小声で周囲に聞こえないように話す。

 早く音を遮断する魔法を覚えたいな。

 

「そう。なら、なんでナオフミちゃんが悲しんでいるのか……いえ、違うわね。どうして悲しむ事になるのか知っていたの?」

「……」

 

 そうか……だけど、これはサディナじゃなくても気付くだろう。

 今まで騙し騙しだったけど、そろそろ向き合わないといけないんだ。

 いつまでも隠し通せると思う程、私は自分を弁えているつもりだ。

 

「説明は難しいんだけど……とにかく、今は未来を知っているって事だけ分かってればいいよ」

「駄目ね。まだ何か隠してるでしょ」

「否定はしないよ。ただ……私にも、話し辛い事はある。サディナにだって一つや二つあるでしょう? 墓まで持って行きたいくらいの秘密が」

「……」

「……」

 

 お互いに黙り込む。

 ここで喧嘩別れなんて、したくない。

 単にサディナの能力を借りれないのが惜しいのもある。

 だけど、一番は……一度でも仲間になってくれた人に嫌われたくなかった。

 間違いなく、それが私の本音だ。

 

「……あんなに苦しんでいる人を、苦しむと分かっていて放置したの?」

「サディナ。私の手は全ての人には届かない。全ての人を助けたいとも思わないし、きっと私にはそんな事不可能だ。それを言い訳にはしないけどね、私は尚文の事を信じてるんだ」

「どうしてかしら」

「知っている、と言い換えてもいいかもしれない。彼は私達四聖勇者の中でも最も勇者の素質があるから。それに、とある目的もあるんだ。どうか……こうなるまで彼を放置したのを、許して欲しい」

「……」

 

 私がそこまで話すと、サディナは再び黙り込んだ。

 やがて……ゆっくりと、口を開いてくれた。

 

「チアキちゃんだって、勇者の素質はあると思うわよ?」

「そんな事ないよ。私はリファナちゃんも救えなかったんだから」

「でも、私は許すわ。全ての人を救うなんて、傲慢だものね」

 

 サディナを取り巻く空気が普段に戻った。

 これで彼女を説得するのは二回目だけど……本当に良かった。

 

「……もう少ししたら、尚文とも接触する。彼、お酒強いからきっとサディナは気に入ると思うよ」

「あらーそうなのね。じゃあ今度、飲み比べしちゃおうかしら」

「その時はとっておきのお酒を持ってこよう。ついでにルコルの実も」

「楽しみだわー」

 

 ニッコリと、純粋な笑顔を見せてくれたサディナ。

 ……私にも守れたものがあるのかな。

 そう考えると、気付けば瞳から一粒涙が溢れていた。

 

「……チアキちゃん?」

「何でもないよ」

 

 私はサディナに背を向ける。

 すると、面白がるような口調で声をかけられた。

 

「もしかして泣いちゃったのかしら?」

「泣いてないよ」

「本当かしらー?」

 

 サディナは私の前に回り込もうとした。

 私はその前にクローキングランスを使用して姿を隠した。

 パーティーメンバーには薄らと見えるが、それでも充分だろう。

 

 するとサディナは今度は隠蔽を暴く魔法を唱えようとしていた。

 私は急いで離れて人混みの中へ避難する。

 サディナはニヤニヤしながら追って来た。

 

 私とサディナの鬼ごっこは、私がエクレールの事を思い出すまで続いた。

 ……本当に良い性格してるな、この人は!

 

 

 

 翌日、謁見の間に報奨金を受け取る為に訪れた。

 昨日は結構働いたので若干寝不足だけど……このくらいなら何ともない。

 無駄にスタミナがあって助かった。

 

 城内ではやや騒がしさを感じた。

 聞き耳を立てると、犯罪者が脱走したとかどうとか。

 一体何レアなんだ……

 なお、王様ことクズからもその件については伝えてきた。

 無駄に尚文を疑っていたようだが、生憎決闘をしていたアリバイがある。

 

「そんな事が昨日あったのか。錬と私は決闘を見てたんだが……それらしい奴を見たか、錬?」

「いや、俺は見てないな。俺達四人は全員関係ない事件だろう」

 

 くくく……まさか私が犯人だとは思うまいて。

 私が内心ほくそ笑んでいると、兵士達が金の入った袋を運んできた。

 

 私に渡された報奨金は1200枚だった。

 樹は4200枚で、錬は4000枚。

 んで、尚文は500枚。

 

 まあ……私、この国に対して何もしてないし。

 お金なら別の事で稼げる。

 気にするだけ時間の無駄だろう。

 と言うか、嫌がらせの為だけに私への報酬金多くするとか……

 

 さっさとその場を後にして尚文の後を追いかけようとする。

 しかし、よく考えてみれば素直に交流しようとすると三勇教に怪しまれるかも。

 ……ここは待ち伏せしよう。

 どうせこの後尚文が行く場所は知ってるんだし先回りだ。

 

 待てよ?

 クロちゃんの匂いが尚文に付くと不味いかも……

 と、思っていると錬が出てきた。

 よし、今だ!

 

「クロ、錬と一緒に行って来る?」

「いいのー? じゃあ行きたいー」

「よし、行けクロ!」

「わー」

「うお!? ちょ、ま……千秋、お前!」

 

 錬の悲鳴が聞こえた気がするが無視する。

 帰りたくなったらリユート村に来てね、と言付けはしておいた。

 これでクロちゃんが迷子になる事はないだろう。

 まあ、フィロリアルは総じて賢い面もあるから大丈夫かもだけど。

 

「あらークロちゃんは本当にレンちゃんが好きなのねー」

「錬は歳下に好かれやすいのかもね。それじゃ行こうか」

 

 私とサディナは尚文が訪れるであろう場所。

 奴隷商の店へと急いで向かった。

 

 

 

「これはこれは、槍の勇者様ではありませんか。本日はどのようなご用件で?」

 

 相変わらずだな、この奴隷商……胡散臭さがまるで変わらない。

 

「……ふむ」

 

 辺りをざっと見渡すが、尚文の姿はない。

 多分間に合ったと思う。

 

「ちょっと相談がしたくてな。この店の奥を使わせて欲しい。ただし……相談するのは、盾の勇者とだ」

「それはそれは……また変わった要求でございますです、ハイ」

「もうすぐ来るだろうから、しばらく待たせて貰おうか」

「その程度でしたら別に構わないです、ハイ」

 

 そして数分後……どうやら来たようだ。

 意外と早かったな。

 割とギリギリだったらしい。

 

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