「お前は……千秋? 何故こんな所にいやがる」
ラフタリアの奴隷紋を刻み終えた辺りで私は店の奥から顔を出した。
サディナは店の奥で待機して貰っている。
尚文は驚きながらもすぐに警戒したように姿勢を低くした。
そ、そんなに警戒されるような事したかな私?
「尚文様、どうかされましたか……あれ、この方は」
「こちら、槍の勇者様です。盾の勇者様に相談があるとの事でお待ちしておりましたです、ハイ」
説明ご苦労、奴隷商。
……うん。
「多少マシな顔になったね、尚文」
「余計なお世話だこの野郎。つーか俺が城に無理矢理連行された日にお前は何処に行ってやがった?」
忌々しそうにそう話す尚文だが、敵意はやや抑えめな気がする。
少なくとも樹や錬に比べたらだけど。
それでも、簡単には信用してくれない気がする。
誠意を込めてちゃんと話せば分かってくれる相手だけどね、この人。
「色々と、話したい事がある。あまり往来では話せない類の、ね」
「……何のつもりだ」
「其方にとっても悪い話じゃない。ラフタリアにも関係のある話だ」
「え、私ですか?」
意外そうにしている、すっかり大人になったラフタリア。
うんうん、やはりラフタリアはこうでなくては。
「一先ず奥に行こう。使用料とか発生したらこっちで持つから」
「……分かった。言質はとったからな」
そして私と尚文、そしてラフタリアは奥の方まで行く。
ご親切にも机と椅子を用意している奴隷商がやや恐ろしい。
先にサディナがシャチ獣人の姿で座っていた。
その姿を見たラフタリアは驚きの声をあげた。
「サディナ姉さん!?」
「久し振りね、ラフタリアちゃん。強く成長してくれて……お姉さん嬉しいわ」
そこで若干私を睨むのが怖いんですがあの……
いや、違うな。
あの目は怖がる私を見て楽しんでる目だ。
そこそこ付き合ってから経ったから、何となく分かってきた。
「ラフタリア、知り合いか?」
「はい。両親とも仲が良くて、私にとっては姉のような人でした。もう、会えないかと思っていました……」
「それは私もよ、ラフタリアちゃん」
感動の再会だね。
う、私もなんか涙が……
「お前、意外と涙脆いんだな」
「……昨日の自分を鑑みたらどう?」
「ぐっ……!?」
ふん、だ。
「ごほん! んで、結局お前は何の用だ? ラフタリアの大切な奴と再会させてくれた事には礼を言うが……」
「まず、何から話すべきか……そうだね、まずは聖武器の強化方法からでも話そうかな?」
「何!?」
私はドロップやウェポンコピー、それから一通り武器の強化方法を説明した。
分かり難いのでメモも用意して渡す。
私自身忘れてないか不安なので、ガエリオンに尋ねたりしたのは内緒だ。
「本当だろうな?
「うん。でもこれらの強化方法は全て、相手を信用していないと出来ないんだ」
「……」
「信じられないのは分かるけどさ。別にここは信じても失う物も無いんじゃないかな?」
「……ちっ」
舌打ちしながらも盾を弄って試してくれているようだ。
なんだかんだ、尚文って根は優しい人だからねぇ……
荒んでても根本的な事は何も変わっていないんだね、うん。
しばらくすると、尚文は喜びの表情を浮かべた。
「出来たな……ドロップも確認したし、強化も出来た。ウェポンコピーはまだだが」
「良かれと思って盾を用意しておいたよ」
「無駄に用意周到だな……ドロップはそんな風に取り出せるのか」
槍からひょいっと盾を取り出した。
念の為取っておいて良かった。
因みに性能はあんまり高くない奴なのが若干申し訳ない。
「……出来たな」
尚文は渡した盾と同じ盾に変えていた。
よしよし。
「順調だね」
「こんな事出来るなら、もっと樹は強いんじゃないか?」
「残念ながら、あいつはこの中の強化方法を殆ど試していないんだ。自分のやったゲームだと信じ込んでいる所為で」
「……それにしては、お前がこんなに強化方法を知ってるのに違和感があるな」
「詳しい説明は省くけど、取り敢えず知っていて欲しいのは……私は未来を知っているって事」
「何?」
胡散臭いと考えてるのがよく分かる顔で尚文は私を睨め付ける。
「……じゃあ、俺が強姦しただと冤罪をかけられる事も知っていたのか?」
「ああ」
「てめぇ……だったら、何故あの場にいなかった!」
大きな声で尚文は私にそう迫った。
突然の大声に、サディナと話していたラフタリアが此方に向き直った。
……当然の反応だ。
「他に優先したい事があった。私を殴って気が済むのなら、そうしてくれて構わない」
「……優先したい事って何だよ」
「とある亜人の奴隷の救出だ」
そこで私はラフタリアを見つめる。
急に見つめられたラフタリアは困惑して首を傾げた。
「あの……?」
「その亜人の奴隷の名前はね、リファナって言うんだ」
「なん、ですって?」
ラフタリアは一転して驚いた顔をする。
「リファナちゃんは生きてるんですか!?」
「……」
ラフタリアの少し希望の混じったその問いに……私は黙り込むしかなかった。
それを見てサディナも辛そうな表情を浮かべた。
「ごめんなさい、間に合わなかった」
「……」
「私を恨んでくれでも、別に構わない。私を斬って満足するなら、いくらでも」
「馬鹿にしないでください。槍の勇者様は何も悪くない事くらいは、分かります」
「そうか……」
「ラフタリアちゃん、強くなったわね」
本当にね。
つい先日まではただの子供だったんだから驚きだ。
それだけ、強い想いは成長を促すって事なんだろうか。
「人命を優先した、と?」
「そうだね」
「……はぁ、それなら悪く言えないじゃないか。お前の話が本当だったら、だが」
「そう信じてもらえるよう、努力する」
……ほんの少しだけど、尚文の信用は勝ち取れたみたいだ。
「それで、用事は終わりか?」
「いや、後でラフタリアをリファナの墓参りに行くか聞くつもりだったが、それ以外にも用事はある」
「聞いてやろう」
ここで、話すべきは……フィーロ育成計画についてか。
これに関しては下手に説明するよりも自然に任せた方が良いだろう。
最低限の仕込みだけやっておこう。
「尚文、魔物の卵くじを買おうと考えてなかったか?」
「……それも未来の知識ってやつか?」
「ああ」
「まだ、その知識の出所を聞いてなかったな……召喚前に読んでいた小説か?」
正解……なんだけど。
ちょっと肯定し辛い部分があるな。
ここでそれを認めると、信憑性が錬と樹と同じくらいになってしまう気がする。
だけど、否定もできないな。
サディナに指摘されたら不味い。
「大体合っているが、ちょっとだけ違う……かな」
「……そうかよ」
ほら、なんか怪しんでる顔になった。
行動で取り返して行くか……
「別に全面信用している訳じゃない。現にリファナの救助に失敗したし、私はこの世界をゲームや小説の中だなんて思えないから」
「それが分かってるなら別にいい。それで、要件は」
「魔物卵くじを……私が指示したのを買って欲しい」
「はぁ?」
チラリと見たら、槍のカースが反応した。
あの卵くじの中に居るのが分かった。
サクラちゃん……もとい、フィーロが生まれる卵が。
あ、ルナちゃんも居る。
一応回収しておこう。
「それは別に構わないが……何故そんな事を?」
「どうしても必要なんだ、頼む」
「……分かった。それくらいなら良いだろう」
「ありがとう。それともう一つだけ」
「まだあんのか?」
嫌そうに顔を顰める尚文だが……くくっ。
「先に言っておくと、私は別にマゾじゃない」
「いや、何の話だよ」
「数日後、私があの王女に変装してすれ違うから……卵から生まれた魔物をけしかけて蹴って欲しい」
「乗った」
まさかの即答……
「……って、待て待て。お前は何でそんな事するんだ?」
「だから私はマゾじゃないぞ。出来れば他人にやらせたいけど、流石に申し訳ないからな」
最悪死にかねないからね。
一応多少は変装の心得がある。
文化祭の時に演劇部の部員に頼まれてやらされた事がある。
その時は男性のアニメキャラの変装だったけど、多分出来る筈だ。
「それだけじゃねぇよ。女装趣味は否定しないのか?」
「ん? ……ああ、そう言う事か」
「何勝手に一人で納得してるんだ」
……ここで勘違いさせたままだと拗れそうだし、話しておこう。
「私は女だ」
「……は?」
尚文は今日一番かもしれない驚き顔をした。
いや、そんな驚かなくても……
たしかによく間違われるけどさぁ。
「お前、たしか21歳だったよな……女性ホルモン分泌されてないのかお前は!」
「実際そうらしい。性欲も殆ど感じない」
「……マジか」
「マジだよ」
因みに医者からは子共は作れないだろうと断言されている。
まあ、そもそもの話そこに興味は惹かれないからどうでも良い。
性欲の方は色欲のカースの所為でガツンと感じたけどね畜生!
制御し難い感覚だった……二度と体験したくないけど、そうも言ってられないだろう。
「話が逸れたね。頼めるかな?」
「……はぁ、はいはい、分かったよ」
「じゃ、まずは卵くじを選びに行こうか。それと、他にも何人か紹介したい人……人じゃないな。とにかく紹介したい奴もいるけど、それはまた後日にしよう」
ガエリオンがいい加減にラストドラゴンになりかねないからね……
そうだ、この中にルナちゃんもいるんだっけ。
判別出来たんだし、ついでに買っておいた。
ルナちゃんで思い出したけど、イミアちゃんの確保も並行して行いたいな。
その後、無事にフィーロの卵を買ってから尚文達と別れた。
彼はその時も盾を弄って強化方法を試しているようだったね。
「……」
フィーロに会えば……この世界とお別れなのだろうか。
少しだけ寂しいと思ってしまう。
そもそも、この世界はどうして存在している?
世界の延命の為か、それとも因果を束ねる為か。
代わりに私が召喚されたのは何故?
元康はどこに行った?
……分からない事が多過ぎるけど、もうすぐ分かるかもしれない。
私は半ばそう言い聞かせながら、胸の内で蠢く心をどうにか抑え付けた。
でも、思えば大分色々と手を広げた気がする。
仮にこれでループが終わってしまったら、全て無かった事になるのに……
これまでしてしまった事が全部無くなったら、私の心は……
駄目だ、どう言う訳か悪い事ばかり考えてしまう。
元康を見習って……ではないが、なるべく気楽に行ってみよう。
悲しんでばかりだと……人は生きていけないのだから。
「そう言えば召喚された初日、尚文とは同じ部屋で寝たよね。初めて一緒に寝た異性になっちゃったね」
「っ!!?」
「どうしたラフタリア?」
「難しいお年頃なのよ、ナオフミちゃん」
連投はここまで。
皆様、今年もよろしくお願い致します。