オカ研部室にて一誠達は思い思いの表情で時が来るのを待っていた。
観戦者もいるので失礼が無いようにと無難に学生服で来た一誠。普段通りすぎて不安だったが、同じ服装のリアス達を見てこれで正解だったと安堵する。
「うう、緊張します…」
「初めては皆そんなものだ。これから何度もゲームに参加する事になるだろうし、すぐに慣れるさ」
少なくとも目の前の2人に比べれば自分はマシな方だろうとすら思える。
その異質な者とはもちろんヒルダとアーシアだ。確かに2人とも教会関係者で、普通なら悪魔主催のゲームに参加すること自体ありえない。だからこれは仕方ないと頭では理解しているのだが――
「あの、ホントに2人はその恰好で良いんですか?」
「はい。私の一番着慣れたものですし、神への信仰を忘れた訳ではありません。ですからこの服で行こうかと…。や、やっぱり変でしょうか?」
「いやいや似合ってるよ、うん」
アーシアが着ているのは修道服。初めて会った時の服装だ。半生を教会で過ごしていた彼女にとって、むしろ私服以上に着慣れているだろう。ここまでは良い。まだ許せるレベルだ。問題は次だ。
「良いだろう。私の
ヒルダが着ているのはなんと鋼鉄の騎士甲冑。鈍色に輝くバケツ状の兜が素顔を覆い隠していた。血が騒ぐのか、十字架をあしらった覗き穴から見える青い瞳が爛々と輝いている。
「ここって
「事前に私の身分について伝えてあるから大丈夫だろう、たぶん。それにこの姿でないと本調子が出ないんだ。どうせ戦うのなら万全の状態で挑みたい」
ここまで言われると一誠も黙るしかない。すると一連のやり取りを見ていたリアスが声を掛けてきた。
「一誠、あなたの心配事はもっともよ。だけど、これも忘れないで。あくまでヒルダは助っ人で主役は
彼女の言葉の通りならば、ヒルダはかなりの危険を冒してまでリアスを助けようとしている事になる。そしてレーティングゲームはただの王取り合戦ではないと理解した。これは興行――悪く言えば
開始まで残り10分に差し掛かった頃、ヴァニタスが現れて魔法陣まで移動するよう促す。全員が集まったのを確認すると彼の口から今回のゲームの詳細について説明された。
「今回のレーティングゲームはご両家の皆様に中継され、魔王ルシファー様も御覧になります。それをお忘れなきように」
いよいよ始まるゲームに一誠の膝が恐怖で奮える。この一戦でリアスの人生が大きく変わる事になる。合宿で聞いた彼女の思い――私を捨ててお家の為に尽力する服従の道か、形すら分からない夢の為に私を貫く傲慢の道か、どちらを選んでも茨の道。違うのは自分の意思と力で勝ち取ったか否かだ。リアスとグレモリー眷属の力の真価が今夜問われる。
「今回の戦闘フィールドはここ『駒王学園』。そのレプリカを異空間にご用意致しました。どんなに派手な事をしても使い捨ての空間ですので現実世界への影響はありません。なお一度あちらへ移動しますとゲーム終了までの転移は不可能となります。なお審判役は公平を喫する為に、魔王様の『
一礼するヴァニタスに見送られながら一誠達は戦場へと転移した。
転移した場所は部室のまま変化していない。しかし、窓の外から見える真っ白な空がここは別物だと教えてくれる。リアスとライザー2人の為に校舎含めて異空間を作り上げる悪魔の技術力に一誠とアーシアは驚きを隠せない。すると校舎のスピーカーからグレイフィアの補足説明が入る。
説明によれば両陣営は転移された場所を本陣としなければならない。リアスは旧校舎のオカルト研究部の部室、ライザーは新校舎の生徒会室。制限時間は人間界の夜明けまで。
そうしてチャイムが号砲として鳴り響く。ここにレーティングゲームが開始されたのだった。
◇
貴賓席にてサーゼクスとヴァニタスがゲームの行方を静かに見守っていた。
「両者、まずは作戦会議か…。
性格と立場を考えれば、片方が強引に突撃するかと思っていただけにサーゼクスには少し意外だった。
「リアスお嬢様には初陣故の慎重さ、ライザー様には経験者としての矜持がございます。負けられないという思いは同じ。もちろん、そんな
ヴァニタスの指摘になるほどと首肯する。
チェスも将棋も、何も行動しない初手の配置が最も隙が少ないとされている。長丁場を予見して今しかできない雑談を楽しむ事にした。
「キミから見てどうだい? リアスは勝てそうかな」
「やはり兄としては実の妹には勝ってほしいですか?」
「人生でたった一度しかない大切なデビュー戦だ。できれば勝利という素敵な思い出で終わってほしいさ。で、キミの意見は?」
「…合宿での上達具合によるので、私には分かりかねます。ですが、お嬢様の表情からは自信を感じました」
「ふむ、それなら期待できそうだ」
悪魔の世界は力こそが全てだ。どんなに卓越した技も奇抜な策も、圧倒的な力はそれを凌駕する。サーゼクス自身、屈指の実力を持っていたからこそ魔王の一角として認められているのだ。しかし、敗北自体を軽視している訳ではない。勝利を積み重ねていけば、今度は敗北の恐怖に苦しむ事になる。次々現れる時代の寵児、老衰、文化の形骸化など、あらゆる面からの圧力に耐えなければならない。
力だけが取り柄の者はいつか折れる。
だからこそリアスの伴侶には万能の悪魔たるヴァニタスが相応しいと考えていたのだが、現実は上手くいかない。この婚約も彼の真意を知れると思って賛同していたのに、当人にはあっさりと躱されてしまう。出した矛を引く事もできず時だけが過ぎていき、遂にこの騒動はレーティングゲームという状況までもつれ込んだ。
正直に言って、
(頼む。勝ってくれ、リーアたん。そうすれば何事もなく丸く治まるんだ)
偉大なる魔王は胃痛に耐えながら祈るような気持ちで戦局を見守る。そしてその隣では何食わぬ顔で黒い従者が佇んでいた。
◇
新校舎の生徒会室、そこではライザーが与えられた学園の図面を前に
「重要拠点は中央の体育館。まずはここを手に入れる」
旧校舎までのルートは大きく分けて、前庭と運動場と体育館の3つ。
前庭と運動場は障害物が無くてだだっ広い。翼を持つ悪魔なら難なく横断できる。しかし、となると空中戦が鍵だ。『雷の巫女』の異名を持つ朱乃との戦闘はできるだけ避けたい。たとえ勝利しても戦力の半数は削られるだろう。ならば狙うのは屋内戦。
「
こちらから出すのは
「待て、レイヴェル。お前にだけ特別に頼みたい事がある」
「私に? なんですの?」
「お前の事だからどうせ傍観する気だろ。なら、助っ人の
「…うぐっ、分かりましたわ」
サボタージュを見透かされたレイヴェルは苦虫を嚙み潰したような顔で了承した。その姿にライザーは満足して笑みを浮かべる。口では警戒しているレイヴェルも実際のところ自分が負けるはずがないと驕っている節がある。
これでこちらの布陣は整った。
(俺は手加減はせん。リアス、キミにこれを凌ぐ事ができるかな)
ライザーは椅子に座り、悠然とした態度で敵を待ち構えるのだった。