ハイスクールC×P~駒王の騎士乙女~   作:マルク

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思いを重ねて

 

 

屋上に辿り着いた一誠とその傷を癒すアーシアの前で、(キング)同士が激闘を繰り広げていた。

 

リアスの放つ魔力弾がライザーの頭部を消し飛ばす。‶滅びの力”が籠った破壊力は絶大で、同格以上の悪魔でも基本的に防御を突破してダメージを与える事が可能。しかしその力も不死鳥(フェニックス)には通じない。ライザーには1秒と経たずに復元されてしまう。

 

「リアス、投了(リザイン)するんだ。これ以上抵抗するのなら俺も手加減できなくなる。キミの眷属は勿論、グレモリー卿やサーゼクス様という未来の家族に悪い印象を持たれたくないんだ。キミだって格好がつかないだろう。もう一度言う、投了(リザイン)するんだ」

 

「黙りなさい、ライザー。立場が逆なら、あなたは大人しく従うの? 私は諦めない。眷属の皆が諦めずに戦っているのに、(キング)が真っ先に勝負を投げるなんてできないわ」

 

ライザーの発言は真意だろう。なにせリアスの父が婚約者に選ぶ程度には親交があった男だ。人となりも悪魔として見れば良識のある方で、15人もの眷属に慕われる(キング)を彼以外知らない。婚約者でさえなければ、日頃の愚痴を言い合うぐらいには親しい間柄になれただろう。

 

「そもそもライザー、あなたは私を愛してなんかいないでしょう?」

 

「…愛、ね。少なくとも、そこらの女よりは好ましいと思っているよ。だが、そんな曖昧なものが俺達に必要かい? 俺達に求められているのは純潔種と御家の存続だ。先祖代々伝わってきた由緒ある血統を一個人の価値観で途絶えさせる訳にはいかないだろう」

 

多くの戦死者を出した先の大戦。神、悪魔、堕天使の三つ巴の戦は凄まじく、今でもその傷跡は各陣営に深く刻まれていた。悪魔側は生き残った名家の純潔悪魔が手を取り合ってなんとか種の存続を維持しているが、それでも焼け石に水だ。最近では補填のつもりだった転生悪魔が幅を利かせており、古い家系の純潔悪魔は自身の立場を守ろうと躍起になっている。リアスの兄も父も御家断絶を何より恐れている。『七十二柱』と称された名家の悪魔が次々と潰える中、この縁談を反故にしようとするリアスの方が異端だった。

 

「あなたの言い分は正論よ。だけど、それで無理やり結婚したとして幸せな関係が築けると思う? 仮面夫婦なんて私はごめんだわ。そんな私達を見て子どもがどう思うのか、考えた事があるの?」

 

「…子どもには、貴族の義務だと教えるさ。俺達も、父上達も、皆そうして生きてきたんだ」

 

この戦いで初めてライザーが表情を歪める。旧友の様子に心を痛めながらリアスは言葉を続けた。それが彼の逆鱗に触れると分かっていても――

 

「変わったわね。昔のあなたなら絶対にそんな事は言わなかったのに…」

 

「黙れ…」

 

「可哀想なライザー。何人女の子を抱いても、何人子どもを作っても、何人敵を打ち倒しても、心が満たされない。誰も自分の気持ちを分かってくれない。いつも独りぼっち…」

 

「黙れ! もういい、お前がどう思おうが知るか! 俺は慈悲を与えたぞ。それを拒んだ事を後悔するんだな!!」

 

ライザーが炎の翼を顕現して飛翔する。陽炎を揺らめかせながら天空に佇む姿はまさに不死鳥。優美にして荘厳、伝説の生物がそこにいた。けれどもリアスにはそれが儚い蝋燭の灯火に見えた。

 

「違うわ! 私が慈悲を与えたの! 辛いなら辛いって言えば良かった! 嫌なら嫌だって言えば良かった! できなかったのは、あなたが誰にも心を開けなかったからよ! だから私が欲しいんでしょう!? 私なら言わなくても分かってくれると思ったから!!」

 

リアスとライザーは似ていた。名家の子として生まれ、厳格な父、優しい母、優秀な兄と家族構成も似通っていたせいか、2人は気が合った。互いの良いところ、悪いところを指摘して語り合い、時には喧嘩して、また仲良くなる。こんな騒動さえ無ければ友人でいられたかもしれないが、それはもう叶わない。

 

消滅と不死という相反する力。2人はその力が示す通りの関係になってしまったのだから。

 

 

 

何者にも侵害される事のない大空にてユーベルーナは眼下に向けて爆発魔法を放っていた。遮蔽物の無いグラウンドを走り回るヒルダ達の姿は害虫も同然。余裕の笑みを浮かべながら自身の役目をこなしていく。

 

(この程度の相手にレイヴェル様は負けた? いや、まだ何かあるわね)

 

そう考えていると早速敵が動きを見せた。木場を残してヒルダが校舎内へ侵入する。逃げたのではない。屋上で戦うリアス達に加勢に向かった訳でもない。あれこそ自分を倒す為の策だと考えたユーベルーナは攻撃を中断してその後を追う。いくら不死とはいえ主人(ライザー)のいる場所目掛けて魔法を撃つのは躊躇われたからだ。恐らくそんなユーベルーナの心理を見越しての行動だろう。

 

(雷の巫女と言い、小狡い真似を…)

 

ヒルダの移動速度を考慮して壁伝いに飛翔するユーベルーナ。しかし、突如発生した風の壁が視界を遮った。

 

「『暴風剣(ストーム・ブリンガー)』! いくらあなたでもこの竜巻を越える事はできまい!!」

 

視線を地上に移すと木場が新たな魔剣を創造し大地に刺していた。しかもその剣はただの剣ではない。双刃剣――二振りの剣が柄で一つとなった二刀一体の剣だ。それが意味する事は一つしかない。

 

「そして喰らえ! これが『雷撃剣(サンダー・ボルト)』だ!!」

 

「チッ!?」

 

こちらに向けられた剣先から稲妻が奔る。生存本能の赴くままに、あわやというところでユーベルーナは魔法による障壁を張ってこれを防いだ。『魔剣創造(ソード・バース)』があらゆる魔剣を生み出すと知ってはいたが、思わぬ運用方法に冷や汗が流れる。

 

木場祐斗という男を侮っていた己に腹が立つ。フェニックス眷属の半数以上を倒したという事実を忘れてはならなかった。敵の脅威度を修正するが、その判断もまた誤りだったと思い知る事になる。

 

「アバン流刀殺法――」

 

あり得ない。

 

ここにいるはずのない者の声が聞こえる。それも自分より上から聞こえるなどあり得ない。ユーベルーナの視線が上空に向けると、それがいた。天高く舞い上がり、剣を大上段に振りかぶる鎧騎士(ヒルダ)がいた。

 

「大地斬!!」

 

「舐めないで!!」

 

ヒルダの剛剣を再び防御壁で受け止める。鋼の刃はユーベルーナに届かず、迸る魔力光が両者を照らす。

 

「さっきの竜巻は私の視界を防ぐだけじゃなく、あなたの足場でもあった訳か。面白い作戦だけど、私を倒すにはもう一手足りなかったわね」

 

カーラマイン曰く、剣士は間合いが命。ヒルダ達が距離を詰めようと画策していたのには分かっていた。竜巻の中を走るというアイデアには少々驚いたが所詮そこまで。聖剣ならいざ知らず、ただの剣でこの守りを突破する事はユーベルーナの矜持に懸けて絶対に無い。

 

「ほぅ、面白い事を言うじゃないか」

 

なのにヒルダの口調からは焦りが感じられない。ここでユーベルーナが振り払えば地上へ真っ逆さま。この高度では人間のヒルダには死あるのみ。命の危機だというのに、この余裕の態度はなんだ。己の神経が苛立つのを感じる。

 

「『雷撃剣(サンダー・ボルト)』!!」

 

「ぐっ!? この!!」

 

仲間の窮地を助けようと再度木場から雷撃が飛ぶ。ユーベルーナはそれを防御壁で防ぎながら、邪魔者(ヒルダ)を地表に叩きつけようと試みる。しかし、ヒルダはいち早く行動を起こしていた。

彼女は防御壁を踏み台にして跳躍し、剣を逆手に持ち直して木場の放った雷撃を受け止めたのだ。

 

刀身を雷が伝い覆っていく。

雷はヒルダの闘気と融合し、より眩い金色の閃光を放つ。それは先刻倒した姫島朱乃に足りなかったもの、‶光“の力だった。

 

「これが今繰り出せる最高の技だ! ライデイン……ストラーーッシュ!!」

 

「う…うぅああああああ!?」

 

迫りくる雷光の剣閃を阻もうと、ユーベルーナは防御壁を更に展開する。総数5枚の重ね掛け。今の自分にできる最硬防御だ。だが、ヒルダの雷剣はそれを易々と突破し、ユーベルーナの体を貫いた。

 

全身を駆け巡る雷撃に血液が沸騰し、皮膚が焼け爛れていくのを感じる。緊急時の回復アイテム『フェニックスの涙』を使う暇すらない。

ヒルダと木場。どちらも蔑ろにしていい相手ではなかった。2人への無礼と主人(ライザー)への非礼を心の中で詫びながら、ユーベルーナの意識は落ちていった。

 

 

 

『ライザー・フェニックス様の「女王(クイーン)」1名、リタイア』

 

グレイフィアのアナウンスを聞いてヒルダと木場は残心を解く。魔術師のユーベルーナならば‶死んだふり”をするのも容易いと考えたからだ。しかし、それも杞憂だったと分かる。これで残す敵はただ1人。

 

「ヒルダ先輩…僕を置いて、行ってください…」

 

「しっかりしろ。まだ最後の大物が残っているんだぞ」

 

木場が弱々しくヒルダに訴える。風雷の双刃剣という大技を撃った反動が体に来たのだろう。かろうじて意識を保っているとはいえ、地に膝をつき彼の体を支える魔剣がカタカタ震えている。1振りずつ作るより2振り一度に作った方が早いと思ったら、なんと消耗した体力は2倍以上。力尽きるのは当然だった。

 

「あまり使いたくなかったが、仕方ないか…」

 

見兼ねたヒルダは懐から小瓶を取り出して木場に振りかける。すると見る見るうちに傷が塞がり、顔に血の気が戻った。

 

「え? せ…先輩、それってまさか…!?」

 

「ライザーの妹から頂戴した『フェニックスの涙』だ。リアス辺りに使おうと思っていたんだが、窃盗だと騒がれる前にここで使わせてもらおう」

 

「手癖悪すぎません?」

 

「回復アイテムを持ち込む方が悪い。敵に奪われる事も想定すべきだ」

 

ヒルダはそう言いつつ後輩(木場)の非難の目を避けるように視線を逸らす。いかに美辞麗句を唱えようがこの身は聖職者だ。罪悪感までは消せない。良心の呵責に耐えながら、ヒルダは強引に話をまとめる事にした。

 

「落下する私を助けた礼とでも思ってくれ。そら、リアス達が待っている。それともここに残るか?」

 

「…はぁ。もちろん行きますよ。僕だってリアス部長に選ばれた『騎士(ナイト)』。誇りがあります」

 

木場の頼もしい返答にヒルダは笑みを浮かべる。

2人は最後の戦場に向かって歩を進めるのだった。

 




うう、やはりフェニックス編は長い。あと2話ぐらいで話をまとめたいと思う今日この頃です…。

あと個人的にライザーの内面ってかなり繊細だと思ってます。イメージが崩れてしまったら申し訳ありません。
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