ハイスクールC×P~駒王の騎士乙女~   作:マルク

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今年も残すところ後僅か、皆様いかがお過ごしでしょうか。今年中にあと2話はあげたいと思っています。
今回は話の都合上、少しアンチ要素があります。原作ファンの方には大変申し訳ありません。



決着

 

 

(俺って…いる意味あるのかな…)

 

目の前で繰り広げられる激闘に一誠は圧倒されていた。

天空から襲い掛かる不死鳥を、剣1本で迎え撃つ騎士の姿はまるで神話の戦いのようだ。悪魔となって日が浅い一誠にその光景は眩しく、自尊心を傷つけるには十分すぎた。自然と視線が地へと傾く。

 

一誠の様子に気づいたリアスが声を掛ける。

 

「一誠、顔を上げなさい。私達はこの戦いを見届ける義務があるのよ」

 

「でも部長。あの戦いについていける自信…ないです」

 

「ええ、今は(・・)そうね。でも未来は分からないでしょ。だから人は皆努力するの。今より強い自分になる為にね。それにヒルダだって無敵じゃないわ。2人の戦いをよく見て」

 

言われるがままに戦闘を観察すると一誠は違和感に気づく。猛スピードによる打撃と炎で攻めるライザーに比べてヒルダは斬撃のみ。両者が与えられるダメージは明らかに不釣り合いだ。

 

「気づいた? どんなに強くてもあの子が使ってるのは普通の剣。神器(セイクリッド・ギア)みたいな特別な力を持たない以上、攻撃力は担い手の技量と闘気に依存される。魂絶斬なんてご大層な名前を付けているけど、私からすればただの斬撃にすぎないわ。元々身体能力に差があるのに、これは大きなハンデよ。あのままじゃあ、ヒルダは負ける。だから…この戦いに勝つ為にはあなた(・・・)の力が必要なの」

 

その言葉に一誠は生唾を飲み込む。リアスの見立てではヒルダの勝ち目は薄いと判断している。遅かれ早かれ一誠が戦う事は確定と見て良い。

 

(勝てるのか? あいつに…)

 

自分の力量は自分が一番よく知っている。不死鳥(ライザー)という怪物に攻撃が通用するとは思えない。

 

『お困りのようだな、小僧』

 

「だ…誰だ!? まさか…」

 

一誠の頭の中に聞き覚えのある声が響く。それは夢の中で出会った巨大な龍のもの。視線を左手の赤い籠手に落とすと宝玉が淡い光を放っていた。

 

『俺は赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)ドライグ。兵藤一誠、お前の左腕にいるものだ』

 

リアスが語った二天龍の片割れ。姿は変われどもその威圧感は凄まじく、一誠の体を震わせる。

 

『お前が力を溜め込んでくれたおかげで漸くこちらでも声が届くようになった。お察しの通り、今のお前では倍加した力を使用できるのは精々10秒が限界だろう。それ以上はお前の体がもたない』

 

赤龍の語る事実は的を射ていた。

徒競走で例えるなら、最高速度(トップスピード)で勝っていても、それを維持する持久力(スタミナ)がなければすぐに力尽きて追い越される事になる。

一誠がライザー戦に怖気づく要因でもあった。

 

『そんなお前に素晴らしい提案をしよう。俺と取引しないか?』

 

「なんだよ、それ?」

 

『簡単な話だ。俺に何か(・・)を差し出せ。支払った犠牲に見合うだけの力を与えてやる』

 

龍の言葉は甘く蠱惑的で、一誠の心を大きく揺さぶるのだった。

 

 

 

(大した奴だ。人間の中にこんな奴がいたとは)

 

天翔ける疾走翼(ブラスター・フィン)を用いて縦横無尽に飛翔するライザーは相対するヒルダの力量を高く評価していた。速度と高さでは敵わぬと早々に見切りをつけた彼女は足を止め、擦れ違いざまにカウンターを入れるという‶後の先”で対応している。まるで攻城戦を強いられているような錯覚を起こす。

 

高速移動で翻弄して攻撃するライザーが‶風”なら、鉄壁の防御で地道に削っていくヒルダは‶山”。

 

十全な体力、莫大な魔力、多彩な戦術、生まれながらにして持つ異能、それに伴い開花していく才能。その興奮を味わいたいが為に、若い戦士の戦い方は自然と力押しになる。

 

しかし目の前の人間はどうだろう。

才に驕れず、湧き上がる高揚を抑え、隙が生じても乗らない。粛々とこちらの力を確実に削ぎ落す。その忍耐力の高さは長久の年月を感じさせた。

 

(それでも、勝つのは俺だ!)

 

ライザーはヒルダに向かって真正面から突撃する。目にも止まらぬ一撃を敵は応戦しようと剣を振りかぶる。今までの彼女の剣速からこれは当たる。このまま突っ込めば確実に己は真っ二つにされるだろう。

 

だが、この天翔ける疾走翼(ブラスター・フィン)の前では無意味。

 

ライザーは左側の2枚の推進力を弱め、最高速度(トップスピード)を維持したまま空中反転する。そして空振りして無防備となった敵の背中を蹴り飛ばす。

 

「ぐっはっ!?」

 

遠心力がたっぷりと乗せられた一撃は強烈で、ヒルダはピンボールのように跳ね飛ばされていった。

 

極限まで高めた速さ(スピード)(パワー)の融合。

ライザーが編み出したフェニックスの秘技だ。これに敵う者などいない。

 

「…む、ぐっうぅう!」

 

しかしヒルダは立ち上がる。剣を支えに、よろめきながらも二本の足で再び立ち上がったのだ。

 

「お前は…何者だ? その不死身ぶりは人間とは思えん」

 

「ふふ、不死身はフェニックスの代名詞だろうに。想像にお任せするよ。この戦いにおいて人間かそうでないかなんて些末な事だろう。私はお前の敵だ。敵は倒すもの。それさえ分かっていれば十分!!」

 

「…楽しい、とは思えないが正直言ってお前の力量には感服した。敬意を表する。だが、後がつかえているんでな。次の一撃で決着をつけるとしよう」

 

言い放つとライザーはヒルダから大きく距離を取る。そして獲物に飛び掛からんと姿勢を前傾に傾ける。

 

対するヒルダは剣を後方に放り投げた。床に刺さった剣はまるで墓標のように聳え立つ。その両手はだらりと力が抜けて棒立ちだ。

 

「馬鹿め、剣を捨てるとは臆したか!!」

 

神聖な決闘を侮辱された。そう感じたライザーは激情に身を任せ、炎を振り乱しながら突貫する。

 

渾身の一撃をヒルダの腹部に叩き込むが、感触に違和感を感じた。拳は確かに芯を捉えているのに、いつものような手応えがない。まるで木の葉を殴りつけたようだった。

 

その違和感の正体を突き止めようと思考し、ライザーの動きが一瞬止まる。そして攻撃を受けたヒルダは反動を利用して後方に吹き飛ばされ、地に刺さった剣を引き抜いた。

 

「アバン…!」

 

刀身に闘気が流し込まれ、眩い光が騎士を照らす。

 

「ストラーーッシュ!!」

 

「ぐぁああああああっ!?」

 

逆手に振り抜かれた光の剣がライザーの体を一閃した。

 

 

 

(通ったか? 私の剣は奴に届いたのか?)

 

片膝を着き、倒れ伏したライザーをヒルダは油断なく見つめる。敵に大技を出させ、時間を稼ぎ、必殺の一撃も叩き込んだ。これで倒せなければもう打つ手がない。

 

神に祈りながら決着を告げるアナウンスを待つ。

 

「かなり…優れた、奥義だったぞ」

 

されど現実はまだヒルダに安息を許してはくれないらしい。ライザーの体から炎が噴出し傷が復元されていく。

 

「惜しむらくは剣か。自分の獲物をよく見てみろ」

 

ヒルダは愛剣を見るとその有様に歯軋りする。刀身が焼け爛れ、半ばから焼失していたのだ。

 

「フェニックスの体は炎の塊。それを何度も斬り続ければ当然の末路だ。優れた技を持っていても、武器が耐えられなければ意味を成さない。残念だったな…」

 

ライザーの手に炎が顕現する。まだ余力を残している姿には脱帽するしかない。

 

「この勝負、俺の勝ちだ!!」

 

放たれた炎が体を焼き尽くすのを感じながら、ヒルダは自身の敗北を認めた。

 

 

 

次の瞬間、気が付くとヒルダは医療施設のベッドの上にいた。両隣には同じく脱落した木場と朱乃の姿がある。

 

「起きられましたか。お疲れ様でした。実に素晴らしい剣技だったと魔王様も絶賛していましたよ」

 

少し離れた位置にいる小猫とアーシアを介抱していた黒執事――ヴァニタスがヒルダの様子に気づき声を掛けてきた。

 

「ミ…カエリス先生。なぜここに? いやそれよりゲームは、勝負はどうなりましたか?」

 

「落ち着いてください。大丈夫、先刻ゲームは終わりました。リアス様の勝利です。兵藤様がやってくださいましたよ」

 

その言葉に安堵するも、ヒルダは表情を曇らせる。

今の自分にできる全てをぶつけた戦いだった。この日の為に努力したし、自信もあった。それでも尚届かない。これでまだ物語は序盤なのだから気が遠くなる。

 

「気を落とさないでください。あなたが消耗させていなければ勝敗は逆だったでしょう。どうも異物が混じった事でやはり差異が生じているようです。私から見てもライザー様は明らかに強かった」

 

原作よりもね――ヴァニタスは声には出さず唇だけ動かす。

 

「リバウンド効果でしたか。どれだけ抗おうとしても世界は帳尻を合わせようと修正力が働くそうです。この流れを変えるのは容易ではありません。むしろできてしまったらそれはそれで問題でしょう?」

 

ヒルダは首肯する。もしたった1人の都合で世界が滅亡したり、救済されてしまったら、それは随分と安っぽい世界だと見なすだろう。今ほどのモチベーションを得られていたとは思えない。

 

「どうもあなたは潔癖症なところがありますね。成し遂げたい何かがあるのなら、仲間を集めてはいかがです? そう、たとえば――私とか(・・・)

 

本気とも冗談とも取れる提案に苦虫を噛むような顔でヒルダは応える。

 

「リアスが聞いたら間違いなくブチ切れますよ。謹んで遠慮しておきます。それにまず私がどういう終わり(ゴール)を目指しているかを明確にしないと、人は集まりません」

 

ヒルダの望みは多くない。強いて言うなら、自分が関わった者達が少しでもマシな人生を送ってくれれば良いという漠然としたものだ。

 

(生前では確か原作ってまだ終わってなかったんだよなぁ。これからの展開がまるで読めん)

 

助けた味方が敵として現れたり、ラスボスより遥かに強い裏ボスが出てくるかもしれない。いくら考えても答えが出ないと判断したヒルダはいつしか考えるのを止めていた。

 

「まぁ、今はせめて目の届く範囲の人達は守っていきたいなと思っています」

 

ヒルダの答えに満足気に笑いながら、ヴァニタスは医務室から退室した。

 

 

会場の貴賓席にて、グレモリー家とフェニックス家の両当主が今宵開催されたゲームについて語り合っていた。

 

「フェニックス卿。今回の婚約、このような形になってしまい大変申し訳ない。無礼承知で悪いのだが、今回の件は…」

 

リアスの父――ジオニクス・グレモリーが言い淀むのをフェニックス家当主が片手で制する。

 

「構いません、グレモリー卿。私も破談に賛成です。互いに既に純血種の孫がいるというのに、それでも欲したのは悪魔故の強欲か。それとも先の戦争で地獄を見たからか…」

 

「いえ、私もあの子に自分の欲を重ね過ぎたのです」

 

「兵藤君と言ったかな。彼には礼を言いたかった。息子に足りなかったのは敗北…いや、違うな。自分の弱さと向き合う勇気(・・)だ。あの子はもう少し人付き合いというのを学ばねばならない」

 

下僕は欲を満たせば従えられても伴侶はそうはいかない。四六時中自分の姿を見られるというのに、虚勢を張り続けていればいつか看破され、幻滅され、破綻に至るだろう。必要なのは対等な横の繋がりなのだ。

 

「もっとも、ああ育てた私にだけは言われたくないでしょうがね」

 

寂しそうにフェニックス家当主は自嘲する。

 

「リアス嬢にも伝えてください。息子の本音を引き出してくれて感謝すると。それだけでもこの婚約は十分価値あるものでした」

 

「ええ、必ず伝えましょう」

 

「あなたの娘さんはいい下僕、そして友人を持った。これからの冥界は退屈しないでしょうな」

 

「ええ、あの子達はこの世界に大きな影響を与える気がします。赤い龍、忌々しいアレがこちら側に来るとは。実際に目にするまでは信じ難いものでしたが…」

 

「…次はやはり」

 

「ええ、でしょうな。いや、既にいるのかもしれません。白い龍、赤と白が出会うのは時間の問題か…」

 

二天龍のもう一角、白い龍。赤が目覚めているのならば向こうもそうなっている可能性が高い。彼らは互いにひかれ合い、世界に混沌を引き起こす存在なのだから。

 

いずれ訪れるであろう動乱に思いを馳せて、2人は酒を酌み交わすのだった。

 

 

 

オカ研部室では一誠がリアスの膝を枕にして寝込んでいた。

 

神器(セイクリッド・ギア)をフル活用した反動で暫くは目覚めないだろう。ヒルダ達の医務室に運んでも良かったが、リアスは不思議と拒んだ。せめて起きるまではこうしていたかった。

 

「馬鹿ね…。私もライザーのこと言えないじゃない」

 

ヒルダが敗れて一誠が戦う事になった時、彼は言った。

震える足を堪え、声は上擦ってお世辞にもかっこいいとは言えなかったが、それでもその姿は頼もしかった。

 

『俺にはお前を倒す手段がある。この体の一部――左腕を捧げれば俺の(ドラゴン)は力をくれるんだってさ』

 

その発言にライザーとリアスは凍り付いた。

確かに悪魔と同様、(ドラゴン)も契約を持ち掛けてくる事がある。しかしよりにもよってそれが四肢の欠損とは思わなかった。

 

魂絶斬の効果は制限時間がある。不死鳥であるライザーの腕はいずれ復元されるのだ。だがただの悪魔にすぎない一誠の場合だと二度と戻る事は無い。

 

『安心しろ。そんな事はしねぇよ。俺はお前とは違うんだ。部長の優しさにつけ込んで、罪悪感で心を縛ろうなんて卑怯な真似はしたくねぇ! お前には俺が身に着けた力で勝つ!!』

 

一誠のその言葉に胸が僅かに高鳴ったのをリアスは感じた。

 

(私って、こんなに浮気性だったのかしら…)

 

まさに一生の不覚。既に心に決めた男がいるというのに、他の男に心を動かされるなんて笑いものもいいとこだ。

 

「でも、ありがとう。すごく嬉しかった」

 

リアスは一誠の頭を撫でながら、未だに後遺症でうんうん唸されるその寝顔を楽しむのだった。

 

 




原作とは少々異なる展開ですが、リアスの関心を惹くならこれぐらいはしないとと思いました。何かを失って勝利も悪いとは言いませんが、外法に頼らず筋を通して勝利するのも同じくらいかっこいいと感じます。
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