ハイスクールC×P~駒王の騎士乙女~   作:マルク

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境界線

「好きです! 付き合ってください!!」

 

「ごめんなさい」

 

今日も駒王学園の校舎裏にて勇気ある若者がその純情を散らす。この学園には三大お姉様と言われる女学生がいる。

 

紅のリアス・グレモリー

 

黒の姫島朱乃

 

金のヒルダ・ツーベルク

 

髪色に合わせた異名は覚えやすく、印象付けやすい。気品、美貌、高潔など、各々の魅力は他の女学生の中でも突出しており、すぐに羨望の目で見られるようになる。そして、そんな極上の女を我が物にしようとする男子学生も後を絶たず、彼女達はほぼ毎日の様に告白されていた。

 

「またやってるよ。みんな飽きないねぇ」

 

2人の様子を屋上という遥か高みから見物する元浜はポツリと言葉を漏らす。もう数えるのもバカらしくなるほど見慣れた光景である。学力、運動も二重丸の選りすぐりの男子のお誘いを袖に振ってきた相手だ中途半端な魅力など『無い』も等しい。あの高嶺の花を入手するには文字通り、断崖絶壁を素手で登るぐらいの過酷さが求められるだろう。それを理解せずにただ勢いに任せて気持ちをぶつけるなど蛮勇でしかない。

 

「ほら、お前もそんな顔してんじゃねーよ。あの(・・)ヒルダ先輩がそんじょそこらの男になびく訳ねーだろ」

 

「か…勘違いすんじゃねー。俺は先輩がちゃらんぽらんな男と付き合ってほしくないだけだ」

 

そう言う松田の顔は安堵の表情を隠せないでいる。元浜の考えでは外堀から埋めようとする親友の戦略は決して悪くない。とりあえず男側の人となりを知ってもらうには無難な策だ。大抵の男はそんな時間を『面倒くさい』と断じて、交際してから知ってもらおうと考える。元浜からすれば、とにかく既成事実を作って唾をつければこっちのものという助平(すけべ)心が透けて見える愚策なのだが、獣欲に穢れた心では思い至らないらしい。

 

「分からないねぇ。いい女なら他にもいるだろ。アーシアちゃんとかどうよ。裏事情を知ってる俺達なら他の(ヤロー)より落としやすいぜ?」

 

「…それイッセーには言うなよ。下手したらガチで殴られるぞ」

 

松田の目にははっきりと‶怒り”の感情が表れていた。それに対し元浜は手をひらひらさせて本気にするなと返答する。

 

「分かってるっつーの。あいつがアーシアちゃんを大切に思ってるのはさ。だからここでしか言わないんじゃねーか」

 

一誠にとっては己の生き方に一石を投じた少女だ。その庇護欲は尋常じゃない。けれども元浜はこのままで良いとは思わなかった。一誠の夢はハーレム――つまるところ不特定多数の女を囲おうというものだ。だがもしアーシアをそこに加えるのならば、それは特別な女性を有象無象の1人に格下げするという事でもある。

 

「あいつ分かってると思うか?」

 

「こればっかりは分かんねー。イッセー自身、自分の矛盾に気づいてない可能性がある。良い意味でも悪い意味でも初体験だろうからな」

 

この場にいない親友の未来を憂いながら元浜と松田は溜息を漏らすのだった。

 

 

 

 

学園から帰宅し、教会の自室にてヒルダは半壊した愛剣と鎧を前に眉を顰めていた。

 

「お気に入りだったのに…クソッ!」

 

フェニックスは強敵だったとはいえ、大切な相棒をこのような無残な姿にしてしまったのは己の未熟さが原因だ。もし刀殺法が完璧ならばストラッシュも強力なものを放てていただろうし、もっと楽に戦えていただろう。

 

「さすがに替え時か…。でも確かどんどん強さがインフレしていくんだっけ? もっと強い剣が要るな。聖剣は因子がないと使えないし、さてどうするか」

 

正直言って武器に依存しているようで、この考え方自体好みじゃない。豚に真珠という(ことわざ)があるように、脛齧りのお坊ちゃんがスーパーカーを乗り回すようなもので気分が悪い。身の丈に合わない物を手に入れても嬉しくない。むしろみっともないと思ってしまう。ヒルダの求める強さはそんな安っぽいものではないのだ。

しかし他の転生者のように逃げに徹すれば解決するのに、それをせずに戦おうとするのだからこの悩みも大概だろう。ヴァニタスに潔癖と言われても仕方なかった。

 

いよいよ腹を括る時がきたのかもしれない。

 

「『正義なき力は無力、力なき正義もまた無力』。アバン先生…あなたはこんな愚か者を許してくれますか?」

 

溶解した刀身に映る己を見つめながら、ヒルダは心の師に懺悔するのだった。

 

 

 

「という訳で新しい剣が欲しいです。できれば前よりもっと良いヤツが…」

 

「お前の辞書に遠慮という言葉はないのか?」

 

一夜明けてヒルダは司祭の下に行き、頭を下げていた。

既に新しい剣と鎧を発注しているとはいえ、以前と同レベルではヒルダの戦闘力は変わらない。これからの戦いを乗り越えるには、量産品を越える‶業物”でなければならない。

聖剣は教会お抱えの錬金術師がその神懸かった技術を駆使して鍛造する。しかし、僻地に飛ばされたヒルダの為に彼らが打ってくれるとは考えにくい。ならばと司祭の伝手(つて)を頼ろうとしたのだ。

 

「赤龍帝がこの世に現れた以上、更に激しい戦いが予想されます。町を、住人を守る為にも更なる力が必要です。確かに最初は剣技を磨いて乗り越えればいいと考えていました。ですが、この間のフェニックスとの戦いで思い知りました。私は…弱い(・・)です。そんな私が意地を通すには、より強い武器が必要だと考えました。司祭様、どうかお願いします」

 

苦言にも折れないヒルダの懇願に溜息をつき、司祭は「少し待っていろ」と告げて退室する。10分後、戻ってきた彼の手には一振りの剣が握られていた。そしてヒルダの眼前で抜刀され、剣の全身が露わになる。

 

まるで水晶のような水色に輝く刀身。柄には翼を広げた白鳥の彫刻があしらわれている。あまりの美しさにヒルダは言葉が出ない。

 

「私の手元にある中で最高の剣だ。お前はこれを見てどう思う?」

 

「は…はい、とても素晴らしい剣だと思いま…す。ん? あの…これってまさか」

 

注意深く観察するとヒルダは剣が醸し出すオーラに気づく。覚えのある異質の気、これは――

 

「気づいたか。そう、これは魔剣だ」

 

「やっぱり…。なんで魔剣が教会にあるんですか?」

 

ヒルダの疑問に司祭が語りだす。それは彼が日本にいる理由でもあった。

 

司祭が若い頃、とある鍛冶師と出会う。

その鍛冶師は腕は確かなのだが性格に難があり、事あるごとに教会の上層部と揉め事を起こしていた。悶々とフラストレーションが溜まる毎日を過ごしていた鍛冶師はとある仕事を依頼される。

 

『今までにない聖剣を作れ。エクスカリバーもガラティンも超える、最高最強の剣だ』

 

その依頼は鍛冶師にとって複雑だった。

確かに歴史上のどんな名剣よりも優れたものを作るというのは職人として琴線を刺激する依頼だ。教会の戦士が求めるのはいつも自分が打った剣ではなく、歴史に名を遺した剣。人類は未来に向かって日々研鑽しているのに、過去の遺物を求められては気分は最悪だ。ここで自分の実力を世に知らしめてやらねばなるまい。

しかし同時に散々苛立たせた上層部に対して嫌がらせもしてやりたいという欲求もあった。そして彼はしてはならぬ事をしてしまう。

 

「何をしたんです?」

 

「この魔剣を聖剣(・・)と偽って提出した」

 

あまりの怖いもの知らずにヒルダは絶句する。そんな彼女を他所に司祭は話を続けた。

 

外見上はかつて類を見ないほど美しい剣だ。

その見かけに騙された者は数知れず、こぞって褒め称える者を鍛冶師は影で嘲笑っていたらしい。けれどもヴァスコ・ストラーダを初めとする歴戦の戦士達の目は騙す事ができず、その男は教会を侮辱したと捕らえられてしまった。厳正な処罰は確定のはずだったが、彼はヴァチカンの重鎮を相手に言い放つ。

 

『知っているか? 悪魔が人を惑わす時、まず天使の姿を借りて現れるそうだ。俺を不心得者と断罪するのは良いさ。だが、見抜けなかったお偉いさん方はどう落とし前をつけるんだ? 罰当たりは果たしてどちらなのか、あの世で神さまに聞いてみようじゃあないか』

 

(エグい…)

 

鍛治師の啖呵に引くと同時にヒルダは感心した。周りは敵だらけの中、ここまで堂々と信念を貫く姿勢は純粋に尊敬に値する。続きが気になるヒルダは先を促す。

 

「その後は想像がつくだろう。鍛冶師は国外追放となった。罰してしまえば奴の言う通り、見抜けず聖剣と呼んだ者も同罪としなければならん。上層部の大半が無能の烙印を押されて抹消され、教会は内部崩壊していただろう。この魔剣も聖剣に比べれば扱いやすい事が評価され、廃棄処分だけは免れた。今はこうして異国の地で密かに悪魔を狩っているというわけだ」

 

「司祭様はその方と親しかったのですか?」

 

「友人と呼べる程ではないが、知人と呼ぶ程浅い仲でもなかった。いわゆる腐れ縁というやつだ。それに奴の考えも解らない訳じゃない」

 

司祭が魔剣の刀身を見つめる。その瞳には追慕の念が感じられた。

 

「『毒を以て毒を制す』というように、剣そのものに罪はあるまい。ヒルダ、魔剣の定義を言ってみろ」

 

「ええと、悪魔や悪神の力または魔法の力が付与された剣。あと担い手に『不運』や『不幸』といった呪いを与える剣は魔剣と呼ばれています」

 

「剣に銃、戦車、ミサイルなど、およそ兵器というものはただ存在するだけでは何もできん。それを扱う人によって善悪が決まる。この剣をただ強力な武器ではなく、奴の残した子として扱ってやりたい。そう思ったからこそ、私は担い手に志願した」

 

力はただ力。

善悪という気取った理屈をつけて本質を見失う事こそ誤り。司祭は暴論ともいえる思想と慈愛の精神を見事に両立させていた。その在り方にヒルダは羨ましいと感じてしまう。

 

「受け取れ。この剣をお前に託す」

 

「無理です、重すぎます! そんな事情があるなら受け取れません!」

 

「その重さが分かる者にしか渡せん。それにグレモリー嬢と親交のあるお前には相応しいだろう」

 

言葉の意味が解らないヒルダに司祭は説く。それは悪魔祓い(エクソシスト)として生きる後輩に向けての言葉だった。

 

「ただ悪魔を見つけて狩れば済む時代は終わった。これからは人間、悪魔、堕天使と互いに共存していかなければならない。お前にはその境界線に立ってほしいのだ。神に仕えし者が魔に属する剣を振るう。その力を御するは人の心…。お前が心を失わない限り、これが真に魔剣となる事はない」

 

そう言いつつ突き出された魔剣をヒルダは手を震わせながら受け取る。気を抜くと今にも体が地に伏しそうだ。軽い気持ちで剣を強請った事を後悔しそうになる。されど今更後には引けない。

 

「打った方の憤りと司祭様の理念の込められたこの一刀、有り難く頂戴します」

 

『ここに契約は完了した。よろしく、新しいマスターよ』

 

何処かから聞こえてくる第三者の声。ヒルダは周囲を見渡すが司祭以外見当たらない。

 

『しかしまさかこんなに早く代替わりするとはな。まだまだ貴様も戦えただろうに』

 

「剣が…喋った!?」

 

驚くヒルダを放置して、司祭は魔剣に答える。

 

「今の私は守るものが増えすぎた。もう若い頃のような無茶はできん」

 

『フフッ、老いか…。人とは不便だな。今この時は余もこの身を有り難く感じるぞ』

 

「改めて紹介しよう。『魔凍剣のイシュバーン』。見ての通り、意思を持つ剣だ。仲良くしてやってくれ」

 

「はぁ!?」

 

あんぐりと大きな口を開けて驚くヒルダとクツクツと笑うイシュバーン。

ここに悪魔祓い(エクソシスト)と魔剣の珍妙なコンビが誕生したのだった。

 




新キャラ登場。アバン先生の漫画を読んでたら出したくなりました。後悔はしてない。
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