ハイスクールC×P~駒王の騎士乙女~   作:マルク

2 / 21
申し訳ありません。ちょっと今回の話は短めです。


回る歯車

執事の朝は早い。

 

主人より早起きは当たり前。スケジュールの確認、食事の支度に給仕、まともにやれば朝だけで1〜2時間はかかる。しかも今の主人は夜ふかしが多い。仕える身としては主より先に休むなど論外。自然とこちらの睡眠時間は短くなる。だが、弱音など言ってはいられない。

これこそ執事。家庭を支える騎士の在り方なのだから。

 

「お嬢様、朝食の準備ができております。そろそろお目覚めください」

 

呼び掛けるものの扉が開かれる事はない。再びノックするがまたもや無反応。3度目にも反応を返さなかった事に痺れを切らし、無許可で入室する。

 

部屋の奥に鎮座するキングサイズの寝台。その上にはこんもりと布団の山ができていた。まるで睡眠を邪魔するなと言わんばかりである。しかし布団から高々と伸ばされた2本の腕を見るに、既に起きている事は瞭然だった。

 

それを見て溜息をつきながら寝台に近づき、その両碗の中に割って入るように上体を傾ける。すると突然、腕は執事の首裏でガッチリと固められた。それを見計らった執事は腰に力を入れて主人を持ち上げる。

 

布団の山から出てきたのは炎よりも深い真紅。

 

「おはようございます。リアスお嬢様」

 

「おはよう。ヴァン」

 

上級悪魔である公爵家の長女にして、4大魔王の妹、そしてヴァニタス・ミカエリスの主人——リアス・グレモリーその人であった。

 

 

 

朝食を済ませたリアスの前にヴァニタスが紅茶を差し出しながら、最近の主人の奇行に対してつい苦言を漏らす。

 

「いくら貴族とはいえ、そろそろ自力で起きてほしいものですね。目覚まし時計の一つ、あっても良いでしょうに…」

 

「あら、朝一番にあなたの顔が見たいという私の好意が解らないのかしら? 従者冥利に尽きるでしょ」

 

不遜な態度はまさに令嬢ならではだろう。むしろ光栄に思えとやり返すリアスに肩をすくめて、深々と一礼する。

 

「これはこれは感謝の極み。このヴァニタス、より一層の忠義を尽くしましょう」

 

執事としては満点の解答の筈だが、何故か呆れ顔の主人に首を傾げる。至らぬ点を振り返っているところへリアスが声をかけてくる。

 

「つれないわね。気持ちは伝えたのに、私好みの返事はくれないのかしら?」

 

「何度も言いますが、私はあくまで執事ですから。私自身そうありたいと思っています。お嬢様が望むような関係とは最も縁遠い立場。もしそれでもと言うのであれば、私のこの誓いを越えていただかなければなりません」

 

ヴァニタスの言葉にリアスは頬を膨らませる。

 

「分かっているわ。だからこの地で自分磨きしてるんじゃない」

 

「存じておりますよ。御家から離れて学問、運動、コネクション作り、その他諸々に励むのを誰よりも近くで見ておりましたので。ただそれでも、私の意志を変えるには至らないという事です」

 

リアスが10歳の誕生日、父親からプレゼントは何がいいかと尋ねられた際に指名したのがヴァニタスだ。

まだ子どもだったとはいえ、前世の価値観があるとはいえ、一個人を物のように扱うリアスには思うところがある。主人と従者という上下関係なら申し分ないのだが、対等な関係になりたいかといえば首肯出来なかった。そしてその事をヴァニタスの口から伝える気はない。自分で気づくまで待つ事が最大限の譲歩だった。

 

「どうぞ、このまま良き当主を目指してください。私はいつまでもお待ちしています。お嬢様が私に愛想を尽かす、その日を…」

 

「……意地悪」

 

それは暗にヴァニタスの方から求める気は無い事を意味していた。その事実に気づいたからこそリアスは口を尖らせる。主人の反応を愛らしいと感じながら、ヴァニタスは本日のスケジュールを確認していった。

 

 

 

「……以上になります。あとヒルダ様からアポイントを取りたいとお話しがきてます」

 

「ヒルダから? どんな用事かしら。何か聞いてる?」

 

「近いうちに教会に新人が来るそうです。顔見せしたいから日程が決まり次第、予定を空けて欲しいとの事です」

 

「……こんなところに赴任されるなんて、その新人さんは何をやらかしたのかしら?」

 

リアスの疑問は最もだ。駒王町は魔王の親類が管理する土地。そんな敵陣ど真ん中に赴任されるなんて碌な理由ではないだろう。

 

「なんでも負傷した悪魔を『神器』を用いて治癒。その悪魔は彼女の同僚を殺害した上で逃走してしまったという話です」

 

「色んな意味で頭が痛いわね。教会の、人間が、悪魔を助けて、更に裏切られた? どんな星の下に生まれたら、そんな目に遭うのよ」

 

頭を抱えるリアスにヴァニタスは心の中で同意する。原作でも指折りの不幸体質の彼女には同情したものだ。

 

原作の流れをある程度知っている身とはいえ、今世ではどうなるかは分からない。

 

既知になるか、未知になるか。

 

自分達のこれからがどんなものになるか、心が躍らずにはいられない。そんな内心を気取られないよう笑顔の仮面を貼り付けて、ヴァニタスは空になったティーカップに紅茶を注ぐのであった。

 

 

 

その日、兵藤一誠は浮かれていた。

 

なにせ、とうとう自分の事を好きだと告白してくれる女子が現れたからだ。しかも可愛い。

 

早速やる事は周囲への自慢だ。散々自分を馬鹿にしてきた連中には徹底的に見せつけてやった。誰が女の子を不幸にするだ。自分は勝ち組だ。選ばれた人間なんだ。この機会を逃すまいと、念入りに計画を練った。

 

雑誌を読み漁って流行りのデートスポットを洗い出し、女の子がグッとくるような仕草を練習し、貯金をありったけ持ってきた。とにかく自分のできる事全てやった上で人生初のデートへと挑んだ。

 

大丈夫、上手くいく。

 

その筈だった。

 

「ゴフッ!? 夕…麻……ちゃん」

 

腹に刺さる光の槍から鮮血が流れ、ポタポタと滴り落ちて地面を汚す。

 

「あぁいい顔…。それよ、それが見たかったの! さあ、私にもっとよく見せてちょうだい!!」

 

恍惚とした顔で少女——天野夕麻は笑う。耳まで裂けた口から吐き出される下卑た声が一誠には信じられなかった。

 

「な……で? 俺…何か……た?」

 

訳がわからない。夕麻が自分を何故攻撃するのか。腹の槍は何なのか。少女の背から生えている黒い翼の意味は。

 

聞きたい事は数え切れないが、今取り敢えず一誠の脳内を占めているのは『何で自分がこんな目に遭わないといけないのか』だ。

 

「どうしてって顔してるわね。これから死ぬんだし、どうでもいいでしょ? 強いて言うなら、あなたは神に見放されたってところかしら」

 

神、その単語に一誠は自分の半生を振り返る。すると不思議とこの状況に納得いく気がした。

 

(散々、女の子を泣かせてきたもんな。そりゃ神様も怒るか…)

 

噂では一誠達の覗き行為で不登校になった生徒もいたらしい。自分が幸福の絶頂からの絶望の底へと叩き落とされるのは当然かもしれない。

 

意識が闇に落ちようとした瞬間、一誠の視界が一条の光を捉える。その光は夕麻に向かって疾走し、一誠を槍から解放した。

 

「あら、誰かと思ったら教会の狗じゃない。一足遅かったわね。もう手遅れよ」

 

「だったら早く失せろ。私の気が変わらないうちにな」

 

その人物は光の剣を構えながら、一誠を守るように2人の間に立つ。

 

駒王学園の制服。

 

聞き覚えのある声。

 

街灯に照らされた金色の髪。

 

「……ひ……せ…ぱ…い」

 

そうして今度こそ一誠は意識を手放した。

 

 

 

「クソッ! しくじった!!」

 

一誠の亡骸を見ながらヒルダは怒りと無力感に苛まれていた。

 

松田経由で一誠の自慢話を聞いて駆けつけたはいいが原作の通り、彼は死亡した。ここまでくると早々に傍観に徹するようになった『外野組』を羨ましく思う。

 

「せめて記憶さえまともならなぁ。大雑把な流れしか分からないのが辛い。ああ、あいつらもこんな気持ちなのか」

 

人間の記憶領域は多いようで少ない。

幾ら情報をインプットしていても特定の情報をアウトプットできるかは個人差があるからだ。それが前世の情報なら尚更だろう。活用できなければ無いのと変わらない。ヒルダ自身、少しずつ前世の記憶を思い出していった身だ。『外野組』は己の不確かな記憶に責任を持ちたくなかったからこそ、何も教えなかったのだと今になって理解できた。

 

「ん? 簡易魔法陣が発動している。リアスのご到着か…」

 

一誠の服から覗いているチラシが魔力光を放っていた。彼女が来るという事は必然あの男——ヴァニタスも同行してくるだろう。無様な結末を見られると思うと憂鬱になる。

 

「状況説明しないといけないし、残らないとまずいか。ハァ、仕方ない。切り替えていこう」

 

もとより傍観も逃走もする気はない。

第二の生を歩むと決まった時、この命は己の信念に殉じると決めている。

この異世界で自分という存在がどこまで通用するのか。それを知りたくてここにいる。

 

改めて気持ちを引き締め、ヒルダは毅然とした姿勢で駒王の統治者を迎えるのだった。

 

 




ヴァニタス・ミカエリス

転生者その2。転生時の願いは『完璧超人になりたい』。与えられた特典は黒執事のセバスチャンの体。

私の読み込みが浅いせいか、一誠のライバルもとい恋敵ってライザーぐらいしかいないなぁと思い作りました。戦闘力はそこまで強くないけど、それ以外はカンストしてるキャラ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。