ハイスクールC×P~駒王の騎士乙女~   作:マルク

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欲望という獣

 

 

降りしきる雨の中、木場祐斗はあてもなく町を徘徊していた。

最近の体調不良を改善できず、遂に今回はぐれ悪魔討伐で仲間を危険に晒してしまったのだ。下手したら死者が出たかもしれない事態はリアスも怒り心頭で手を上げられてしまう。

 

理由は分かっている。自分の中に未だにあれ(・・)への憎しみが消えていないからだ。

 

聖剣計画。

 

聖剣の中でも頂点に立つ名剣『エクスカリバー』。それを扱える者を人工的に作り出そうという計画が教会で秘密裏に行われていた。才能ある孤児を集め、養育し、聖剣使いになれるよう様々な処置が施された。

 

その孤児の中に木場はいた。

 

実験は辛かった。非人道的なもので命より精神がもたず、狂う者達も少なくなかった。それでも実験と訓練に耐えられたのは特別な存在になれると信じたからだ。

 

しかし結果は適合者0(ゼロ)

 

「ははっ…」

 

実験が失敗と判断した後は早かった。研究者達は木場達の処分を決定する。

皆死んだ。殺された。自分達の目的『聖剣への適応』を果たせなかったというだけで。木場が生きていられるのは同士達が体を張って逃がしてくれたおかげだ。それでも幼い木場は力尽き、野垂れ死ぬ寸前だったところをリアスに救われたという顛末だった。

 

情けない。

 

悪魔を滅する聖剣を振るうはずが、よりにもよってその悪魔に救われて飼われている。

 

情けない。

 

生きる理由も、力も、知恵も、立場も与えられた。

 

情けない。

 

何が『騎士』だ。何が『学園の王子様』だ。木場祐斗という男はこんなにも醜いのに。死んでいった同士が今の自分を見たら何と言うだろう。戦って死ぬのは怖くない。だが、憎しみの炎を忘れてしまうのが怖い。ここで過去を忘れて生を謳歌してしまえば、一体誰が彼らの無念を晴らしてやれるというのか。

 

家族がいない木場達にとって、神こそが愛と希望の象徴だった。けれどもそんな自分達を死に追いやったのは神に仕える信徒。憎むなというのが無理がある。

 

木場の闇を察したのか、リアスは駒王教会の信徒達と会わせてくれた。司祭にヒルダとあの研究者達と同類とは思えないほど善良な心の持ち主だった。もし処分された時に彼らが居てくれたら、少しは今とは違う自分になれたのだろうか。神を嫌いにならずにすんだのだろうか。

 

いつの間にか木場は教会のすぐそばまで来ていた。

一誠の写真は教会内で撮られたものと聞く。ならば今でも写真の聖剣はあのどこかにあるのだろう。エクスカリバーではないが、あれも木場の憎しみの対象の1つ。ひょっとしたら同士がここへ導いてくれたのかもしれない。

 

『聖剣を破壊せよ』

 

怨嗟の声が脳裏に響き、手に魔剣が創造される。

 

「聖剣。あんなものさえ、なければ…」

 

ふらふらと幽鬼の如く教会に近づくと、門の前に1人の男が倒れている事に気づく。体の下から夥しい血が流れている。おそらくもう死んでいるだろう。十字架を下げている事から神父だと分かった。

 

「…ッ!?」

 

突如木場の背筋に氷柱が刺さったような感覚が走る。勘を頼りに魔剣をかざすと凶刃がぶつかり、火花が散った。

 

「やっほ! おひさだね!!」

 

その白髪の襲撃者に木場は見覚えがあった。以前アーシア誘拐事件で首犯の1人にしてはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)――

 

「フリード・セルゼン…。どうしてここに!?」

 

ヴァチカンに送還されて処罰を待つ身の上の彼が駒王町にいる事に驚きを隠せない。

 

「あひゃひゃひゃ! 捨てる神あれば拾う神ありってね! 親切な誰かさんが、俺っちを助けてくれたんでありますよ! でもって、その方はこの町に用があるってんじゃあないですか!? これは乗っからないと損と思った次第であります!」

 

「教会に来たという事は…狙いはヒルダ先輩か」

 

「イグザクトリー! 負けっ放しは趣味じゃあないんでね! いっちょ、あの鋼鉄の処女(アイアン・メイデン)ちゃんに真っ赤な花をプレゼントしないと気がすまないのさ! 俺ってば紳士ざんしょ?」

 

狂人の耳障りな声が木場の神経を逆撫でる。しかし、今回ばかりは有り難い。どうせ斬るならクズが良い。

 

「そうはさせない。この町での凶行は僕が阻止する」

 

「おお、カッコいい! でも、こいつを見てもそんなセリフを吐けますかねぇ?」

 

フリードが得物の長剣を見せつける。眼前に掲げられたそれからは聖なるオーラが立ち昇っていた。木場の悪魔としての感覚が警鐘を鳴らす。あれは聖剣だ。しかも無銘ではない。間違いなく伝説級の力を持っている。

 

「まさか…その剣は!?」

 

「お前さんの魔剣と俺様のエクスカリバー。どちらが上か試させてくれないかね? お礼は殺して返すからさぁ!」

 

狂人の手に堕ちた聖剣の王。自分達を苦しめた諸悪の根源が木場の前に立ち塞がった。

 

 

 

 

「大丈夫ですか。さすがに無茶ですって…」

 

「問題ない。理屈ではできるはずなんだ。あと数歩先で手が届く…たぶんな」

 

球技大会の練習が終わると、ヒルダは一対多数の乱取りを申し出た。それも目隠しをした上でだ。あまりの無茶ぶりに皆嫌がったが、剣道場の清掃を引き受ける事を条件に一回だけ行われたのだ。結果は言わずもがな、彼女はボコボコにされた。それでも10人中2人は剣が当たったのは流石と言えるのだろうが。

 

「『空』の技は心の剣。肝心なのは心眼だ。目に頼らず敵の位置を見極めるようになれば、私の刀殺法は完成する」

 

「心眼って、あらゆる武術の奥義みたいなものっすよ。一高校生にできるとは思えないんですけど」

 

著名な剣術家ならまだしも、齢10代の小娘にできていいものではない。できてしまえば彼らは卒倒するだろう。

 

「それでもできなければならん。私はもっと強くならないといけないんだ」

 

「なにか…あったんですか?」

 

松田は勇気を出して踏み込んでみる。ヒルダの言葉に並々ならぬ決意のようなものを感じたからだ。

 

「ん…なに、ちょっと剣を新調したんでな。せっかく良いものを貰ったんだから、それに見合う剣士になりたいと思うのは当然だろう?」

 

どこか含みのある返答だが敢えて突っ込まずに流す。ここで更にもう一歩踏み出せない自分が歯がゆい。

 

(イッセーや元浜だったら気の利いたこと言えるんだけどなぁ)

 

片や感情で、片や打算で動ける親友だ。それに比べて己はどうだろう。適度に思いやり頭が回る分、中途半端な距離で止まっていた。心の中で溜息が漏れる。

 

(でも、この距離感も悪くないんだよなぁ。俺ってどうしたいんだろ)

 

一誠達にはプラトニックを貫くと宣言しておきながら、先日の告白ではやきもきしていたのも事実。これでは本当に自分は彼女の人生にとってお荷物でしかない。

 

ああでもないこうでもないと悶々としながら松田はヒルダと共に帰路につく。

 

教会の建物が見え始めたところでヒルダは足を止めた。

彼女の様子に不審に思いながら松田もそれにならう。そして周囲の異変に気付いた。雨音に混じって聞こえる甲高い金属音と渇いた銃声。誰かが戦っているのだ。

 

「松田! お前は逆方向に向かえ! できれば人通りの多いところを通って帰るんだ!」

 

「で、でもそれじゃあヒルダ先輩は!?」

 

「教会の近所でドンパチしてるんだ、無視はできん! 司祭様達も外の異常には気づいているはずだ!」

 

ヒルダがバッグから白鳥の彫刻らしきものを出す。そしてそれを雨に翳すと雨粒が刀身へと変化して剣となった。

 

「心配するな。私の強さは知っているだろう。また明日学園で会おう」

 

そう言いつつ走り去るヒルダの背中を松田は見送る事しかできなかった。

 

 

 

 

「私は…何ができるんだろう…」

 

兵藤家の一室でアーシア・アルジェントは膝を抱えて蹲っていた。

リアスの眷属になって暫く経つが、それに見合った働きができているとは思えない。同じ時期に眷属になった一誠は次々功績を挙げているのに自分はどうだろう。

 

レイナーレには捕まり、フェニックス戦では一誠を回復しただけ。

 

これといった活躍はしていない。

元から運動音痴で頼みの綱の神器(セイクリッド・ギア)も回復系なのだから仕方ないと言えばそうだが、妬む気持ちはある。とどめはリアスの押し掛けホームステイだ。

 

自分の存在意義とは何だろう。

 

1人になるとひたすら悩み続けて鬱になる。

 

(神よ、これも試練なのですか…)

 

思わず祈ってしまうが、すぐさま割れるような頭痛が起きて頭を抑える。悪魔に転生したその弊害とはいえ未だに慣れない。

 

何度目か分からない溜息を吐き、そろそろ寝ようと照明を落としす。するとコンコンと窓から異音が鳴る。まるでノックでもするかのように。

 

変質者かと思い、アーシアがそっとカーテンの端から覗くと奇妙な生物がいた。

白い体毛に垂れ下がった長耳、ウサギと猫を合体したような姿だ。つぶらな赤い瞳が闇夜の中で不気味に光っている。

 

視線に気づいたのかその生き物はアーシアを見据えて言葉を発した。

 

「やあ、ボクの名前はセンべぇ。キミがアーシア・アルジェントだね」

 

突如自分の名前を言い当てられた事でアーシアは思わず後ずさりする。その様子に慌ててセンべぇなるものは弁明した。

 

「待って待って! キミの、いやキミ達の噂は聞いているんだ! グレモリー眷属は今や有名だからね! それでボクはキミに興味が出たんだ!」

 

「私に…?」

 

「キミには悩みがあるね。戦う力が無い自分にどれほどの価値があるのか。このままここにいても良いのか。違うかい?」

 

センべぇの言葉は的を射ていた。弱さを見せるのが恥ずかしくて、お前は要らないと言われるのが怖くて、誰にも打ち明けられなかったアーシアの闇。

 

「ボクならその悩みを解決できる。キミに力を与えられる」

 

白い獣の言葉で少しずつ心が切開されていく。

 

「アーシア・アルジェント。ボクと契約して『魔法少女』になってよ!」

 

 

 

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