ハイスクールC×P~駒王の騎士乙女~   作:マルク

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愚者の行進

 

「頼む…力を貸してくれ」

 

駒王学園『オカルト研究会』にて、ヒルダはリアスに向かって土下座していた。

 

”はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)

 

それは度重なる悪魔との戦いに明け暮れた者が至る一種の悟りの境地だ。

 

悪魔との戦いはストレスとの戦いでもある。凄惨な現場、生物として上位者を狩るという心理的負荷、それに耐えられる者は多くない。

だからこそ一般の悪魔祓いは神への信仰と愛を寄る辺にするのだが、彼らは違う。

 

悪魔狩りに〝快楽″を見出した異常者。血を血で洗い流す戦場に順応してしまった教会内でも忌避される存在だ。

そんな彼らにヒルダ達は同情して駒王教会に受け入れたのだが、それがいけなかった。彼らは堕天使に唆されて謀反を起こし、非戦闘員の修道士達を軟禁してしまう。狙いはアーシアが保有する神器『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の強奪。

現在ヒルダがこの場に居られるのも、彼らの暴挙を良しとしない同朋の手助けがあったからだ。

 

「ただ倒すだけなら私1人でもできるだろう。だがそれにはどうしても時間がかかる。勝てないと判断したら、必ずレイナーレはアーシアを連れて逃げ出す。それでは意味がないんだ」

 

 堕天使にとって、はぐれ悪魔祓いなど所詮人間。協力者といえどアーシアを手に入れたら用済みの捨て駒でしかない。もし逃げに徹されたら救出は絶望的だ。翼を持たないヒルダにはレイナーレに追いつく手段が無い。

それ故に、この町の管理者であるリアスに助力を申し出たのだ。

 

「嫌よ」

 

そんなヒルダの心境など知った事かと冷徹な言葉が浴びせられる。

 

「つまり拾った野良狗の躾に失敗したって事でしょ。何で私が教会の尻拭いをしなきゃいけないのかしら?」

 

当然の指摘にヒルダは唇を噛み締める。

全ては自分達の見通しの甘さが招いた事態。それを天敵である悪魔に助けを求めるなど教会の恥晒しもいいところだ。

 

「それに悪魔との取り引きは等価交換が原則。あなたが私に差し出すのは何?」

 

一番聞きたくない、されど避けられない問題が挙がる。そう、ヒルダには交渉に使えるような手札(カード)が無い。公爵令嬢からすれば清貧に生きてきた修道女の貯蓄なんて無いに等しい。悪魔祓いの戦闘力も彼女の眷属がいるのでこれも不要だろう。

 

「お金は要らないわ。生まれのおかげで困ってないの。ここはそうね――あなた自身なんてどうかしら?」

 

紅い悪魔が妖艶に微笑む。

 

「幸い悪魔の駒はまだ余裕がある。実はあなたの容姿も実力も私は気に入ってるの。それに自分の不始末を我が身で償えるなんて、願ったり叶ったりじゃない?」

 

その話にヒルダは思わず頷きそうになる。

 

悪くない。むしろ悪魔の交渉にしては破格の好条件だ。リアスは己の配下に深い愛情を注ぐ。同年代の悪魔の中では権力、財力、武力もトップクラス。しかも兄は魔王という要人なので人脈もある。

 

彼女の眷属になるという事は〝人生安泰″の道がほぼ約束されたようなものだ。

 

これを袖にする愚か者などいるまい。

 

「……そうか。すまない、世話になった」

 

ヒルダはそう言って立ち上がると、リアスに背を向けて歩き出す。

 

「交渉は決裂…。残念ね、あなたは誰も救えない。神様が大事なのも良いけど、ほどほどにしなさい。これは悪魔ではなく、友人としての言葉よ」

 

その忠告にヒルダは歩みを止める。そして振り返ると友人の目を見据えて、己の信念を吐露した。

 

「人はパンのみで生きるのではない。神の口から出る一つ一つの言葉で生きるんだ。確かにここで承諾すればアーシア達は助けられるかもしれない。だが、それでは彼女達の信仰心(・・・)はどうなる。生涯を神に捧げ、今でも神の救いを求めている。だというのに、神の剣たる悪魔祓い(わたし)が悪魔となって助ければ、それは〝神はいない”と認めたも同然だろう」

 

生きている限り、食べなければ生きていけない。

 

しかし人間は違う。

 

いくら腹が膨れても心が満たされなければ〝生の幸福″を実感できない。人間はそんな業の深い生き物である。その心の空虚を満たす存在――それは他者だ。

たとえどんなに苦しくても、寂しくても、悲しくても、周りにいる誰かが支えてくれる。立ち直らせてくれる。お前は孤独じゃないんだと諭してくれる。

 

その中でも決して離れる事がない者。

祈る人間にそっと寄り添う慈悲深き者。

 

人間はそれを〝神″と呼ぶ。

 

だからヒルダは人間である事をやめない。神を信じる人間が1人でもいる限り。

 

「…だからと言って無謀よ。たった1人で乗り込んで、救えずに終わったら意味ないじゃない。最悪、全滅だってあり得るわ。あなた個人の我儘に同朋を付き合わせるつもり?」

 

「殉教という言葉を知らないのか? 彼女達も神に仕える者。覚悟はあると信じている。リアス、期待に応えられなくてすまない。これが私の精一杯だ。もし失敗したら情け無い奴と笑ってくれ」

 

そう言って今度こそヒルダは退室した。

 

 

 

夕暮れの廊下をトボトボと松田が歩いている。今日もヒルダ不参加の部活への足取りは重い。

 

「いかんいかん、こんな調子でどうする。先輩が帰ってきたらドヤされるぞ」

 

それはそれでご褒美な気もするが男としては不味い。彼女と出会い、自分は変わると決めたのだ。あの誓いを反故にしない為にも松田は心身に気合いを入れる。

 

「あれ、元浜じゃんか。こんなとこでなにやってるんだ?」

 

「松田か。ローアングルのベストポジションは風紀委員(おまえら)に目を付けられてるだろ? 仕方ないから上から探してるんだよ」

 

見ろよと言われるがままに下界を見下ろすと、なるほど――運動部の胸部装甲の揺れがよく分かる。普段あれほど警戒されている中でこの絶景を見つけられる眼力はさすがと言えよう。

 

「どうだ? こっち(・・・)は良いぞ~。意地張ってないで素直になれよ」

 

「悪いがそういうのは卒業したんだ。もう昔の俺じゃないぜ」

 

眼鏡を光らせながら誘惑する悪魔を鋼の意思で撥ね退ける。昔ならいざ知らず、今の自分には通用しない。我が心は女神の加護があるからだ。

 

「ケッ、良い子ちゃんぶりやがって。俺は予言してやる。いつか化けの皮が剥がれる時がくるとな!」

 

「お生憎さま、そんな日は一生来ねーよ」

 

追う者と追われる者。松田は変わった代償に親友とは敵対する立場になった。だが、今でも悪態をつけあう間柄でいられているのが不思議な話だ。

神様なんて信じていなかったが、こんな時は何かに護られているように感じる。

 

(これも先輩のおかげなのかな…)

 

信心深い想い人の姿が脳裏に浮かぶ。彼女が信じているならば神も奇麗事も信じてみたくなる。今まで灰色で無機質だった世界が彩り豊かな美しいものと思えるようになり、力が湧いてくる。

 

「あ、ヒルダ先輩だ」

 

「は、どこ!?」

 

元浜の声に釣られて視線を松田は向ける。そこには何故か兵藤一誠と校門から出て行くヒルダの姿があった。

 

 

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