フリードに殺されかけたところをリアスに救われた一誠。しかし、その内心は穏やかではいられなかった。自分を庇ってくれたアーシアを置いてきぼりにしてしまったからだ。部室に強制帰還した後も、彼女があの狂人に酷い目にあわされているのではと心配でならない。
そんなところへ現れたヒルダによると状況は更に最悪だった。神器は魂と直結しており、それを奪われた者は例外なく死亡するらしい。救援を求めるヒルダだがリアスには拒絶されてしまい、単身乗り込もうとしていた。
そんな彼女の姿に居ても立っても居られず、一誠はリアスが止めるのを無視して自分もアーシア救出の手助けがしたいと申し出たのだ。
馬鹿な行動だと思う。恩知らずだと思う。
けれども、アーシアの為に何かしたいという気持ちは抑えられなかった。聖女と崇められていたにも拘わらず、一時の情けを悪魔にかけたせいで転落した人生。頼れる者がいない異国の地はさぞ心細かっただろう。今度は失敗しないようにと心掛けていたはずだ。そんな彼女がまた
兵藤一誠はアーシアの勇気に応えたい。
故に、恐怖はあっても一誠の歩みに迷いはない。この道は確かに己の意思で選んだ道なのだから。
「なぁ、お前らほんと帰れよぉ。危ないんだぞ?」
「その危ないところに先輩は行くんだろうが。お前だけにいいカッコさせっか」
「諦めろイッセー。こうなった松田は止められんねーよ。でも先輩、俺もここは素直に警察を頼るべきだと思います」
恐らく人生最大の選択をしただろう一誠。しかし親友2人にヒルダとのツーショットを見られたのは不味かった。誤解を解こうとするものの、時間が無いと焦る様子が却って怪しいと彼らは着いてきてしまう。とりあえず教会内で諍いが起きてアーシアの身が危ないとだけは伝えたのだが、やはり納得はしてもらえそうにない。
「教会の権威を象徴する由緒ある
かなり言葉を選んでヒルダが説得する。しかし、それが‶ある男″にとって逆効果だと一誠と元浜は知っている。
「何を言うんです! この松田、ヒルダ先輩の為ならたとえ火の中、水の中、喜んでお供いたします!!」
ヒルダの気遣いも愛の戦士と化した松田には通じない。説得を諦め、くれぐれも無茶はするなと伝える彼女に一誠はそっと声をかける。
「いいんですか? あいつ等を連れて行って…」
「危険な事をさせなければ良い。安全とはいえないが、強引に帰らせてコッソリ後をつけられるよりマシだ」
コントロールできないならいっそ予めルートを作ってやればいい。目指すのはベストよりベター。それは被害
◇
駒王教会の地下祭儀場。
物々しい器具に磔にされたアーシアの前に複数の人影が佇んでいた。
「うふふ、順調にいって嬉しいわ」
その一団の中でただ1人、黒翼を生やした者――堕天使レイナーレはほくそ笑む。
厄介な修道士は監禁済み、悪魔祓いは懐柔した。教会内だから悪魔の介入もできない。悠々と神器の抽出に専念できる。
今から取り出すのは世にも珍しい回復系の神器。それを手中に収めれば組織内での地位は盤石だろう。誰もが自身を羨むに違いない。
(そうよ、上手くいけば
薔薇色の未来をレイナーレは恍惚とした表情で想い描いていた。しかし、その至高の一時を配下の悪魔祓いの声で台無しにされてしまう。
「レイナーレ様、装置の電源が落ちました!?」
「ハァッ!? さっきまで大丈夫だったじゃない! なんで急に……アイツか…」
不測の事態に驚くもレイナーレはすぐに冷静さを取り戻す。
「さすがは神の狗。わざわざ殺されに戻って来るなんて大した忠犬ぶりね。でもいいわ。上手くいき過ぎて少し退屈だったし、余興として楽しませてもらおうかしら」
主電源が落とされても、ここは本来シェルターとして設計された場所だ。すぐに予備電源の発電機に切り替わる。アーシアの死の間際にあの女の首を見せつけるのも悪くない。
レイナーレは余裕の態度で襲撃者の到着を待ち構えるのだった。
◇
時は少し遡る。
ヒルダ達は教会に着くとヒルダは正面、一誠達は裏手と二手に別れた。地下祭儀場は礼拝堂の祭壇下にある入口の他に非常用の裏口がある。食堂に閉じ込められた修道士達を助けるついでに裏口を確保して、レイナーレ達の逃げ道を封じる作戦だ。
「すまない。キミ達のおかげで助かった」
「い…いえいえ、当然の事をしたまでです!」
駒王教会のトップである司祭が深々と頭を下げる。普段から人に疎まれる事はあっても敬われる事のない一誠達は、その礼儀正しい態度にたじろぐ。
「後は我々に任せてくれ。皆、準備は良いか?」
司祭の問いに部下の修道士達が頷く。どうやら特攻を仕掛けるつもりらしい。彼らの覚悟にアーシアとの強い絆を感じ目頭が熱くなる一誠。しかし、修道士の1人から待ったが入る。
「司祭様の体格では裏口は狭すぎますよ。救出は私達が向かいますので、あなたは出口で待機しててください」
一誠達は司祭の体躯を改めて見つめ直す。2m近い長身にカソックの上からでも分かる引き締まった筋肉。顔には大きな傷痕があり、どう見てもカタギには見えない。一時期、ヒルダも鍛えられていたらしいので戦力にはなるだろうが、今回は場所が悪すぎた。
もし彼が裏口に入れば屈むような不自然な姿勢になる。そうなれば敵の襲撃からの対処が難しい。よって司祭はやむ無く後方に引き下がった。
「あ、あの! 俺もついていって良いですか!? みなさんの邪魔はしません! 俺もアーシアを助けたいんです!」
一誠が手を挙げる。彼らを信用してない訳ではない。堕天使と悪魔祓いの強さを身をもって知っているからこその言葉だ。それを見て仕方ないと溜息をつきながら松田と元浜も賛同する。
「…良いだろう。だが、危険だと思ったらすぐに逃げろ。他人の為に命を張るには、キミ達は若すぎる」
司祭の指揮の下、救出作戦が始まった。
救出部隊は地下深くへと続く階段を降りていき、一際広い空間に出る。
目にしたのは十字架に磔にされたアーシアとそれを固唾を飲むようにして見つめる集団。異様な光景に思わず飛び出そうとする一誠を松田が抑え、付き添いの修道士が
閃光と爆音が場を支配する。
祭儀場に静寂が戻ると全員が地に伏せていた。それもそのはず堕天使も悪魔祓いも、常人より遥かに高い身体能力を持つ。五感もそうだ。視覚と聴覚が優れているが故にダメージは比例して高くなる。
無力化に成功したのを確認し、修道士達が次々に敵を拘束していく。その中で一誠と松田はアーシアを解放し、彼女の両腕に肩を回して脱出しようと出口に向かう。
「イッセー、さん? 私…」
「アーシア、遅くなってごめん!」
「喋るな一誠! 安全な場所に行くまで気を抜くな!」
意識を取り戻したアーシアに安堵する一誠。それを嗜める松田。互いに励まし合いながら階段まで辿り着いたが、3人の間を抜くように
「は!? な…なんだよ、あれ?」
「松田、お前はアーシアを連れて先に行け! あいつは俺が止める!」
黒翼を広げて向かって来る化け物に、松田の声が上擦る。そんな親友にアーシアを託し、一誠が庇うように前に出た。
もう十分だ。これ以上はこちらの事情に深入りさせてはならない。
そんな一誠の覚悟を読み取ったのか、左腕を赤い手甲が覆う。
「来い! ここから先は通さねーぞ!!」
◇
教会の礼拝堂にてぶつかり合う金と白。2人の剣士が死闘を繰り広げていた。
刺突、横薙ぎ、唐竹、逆袈裟とあらゆる角度から振り払われる2本の光剣。実力は互角――ではない。飛び道具も用いる
「ひゃははは! ほらほらどうした、ヒルダちゅわん! もっと元気よく動かないと、ボクちゃんの熱いのがイケナイところに挿入って昇天しちゃうよん!?」
耳障りな声にヒルダは眉を顰めながら打開策を考える。学園に危険物を持ち込めないと武具一式を自室に置いていたのが悔やまれた。
唯一所持していた光剣だけで対応しなくてはならないのだが――
「やむを得ん…な!!」
ヒルダは礼拝堂の長椅子を敵目掛けて蹴り飛ばす。参拝者が2~3人は座れる長椅子の重量は数十kg。それが飛んでくれば正しく砲弾級だ。さしものフリードもこれは躱すしかない。
「うおっと! うい?」
「熱烈な
回避先を読んでいたヒルダが光剣を走らせる。しかし野生の勘が働いたのかフリードには紙一重で躱してしまう。再び襲う銃弾の雨を光剣で弾きながら距離を詰める。
(弾も無限じゃない。焦るな私!)
そう己に言い聞かせるもののアーシア達の事を考えれば上手くいかない。望む未来の形に対し、己の力量が釣り合わないのだ。
(だが、諦めてたまるか!)
泣き言は言ってられない。今こうしている間にもアーシアは、同胞は、一誠達は危険に晒されているのだ。この程度の苦難乗り越えられずしてなんとするか。
「お前は邪魔だ。そこをどけっ!!」
ヒルダは理不尽な現実を否定するかのように剣を振り下ろすのだった。
駒王教会司祭
モデルは荒川アンダーザブリッジのシスター。
一応転生者ではありません(今のところはですが) そこそこ強い聖職者をイメージしたら彼を連想したのが理由です。