ハイスクールC×P~駒王の騎士乙女~   作:マルク

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なんとか連休中に書き上がりました。
ようやくレイナーレ編も終了です。


人間とは

 

 

『カイの怪冒険』

 

それは国民的TVゲームの世界観を基軸にして生まれたファンタジー漫画だ。

少年誌ジャンボにて戦闘物(バトル)のドラゴ・ソボール、ギャグのギンタマン、サスペンスホラーのピンクダークの少年に匹敵する名作である。今でもその人気は衰えを知らず、アニメ、映画、ゲーム、スピンオフ作品と多くのファンを獲得している。

 

そして作中で主人公が使う剣術こそ『ババン流刀殺法』――力の『地』、速さの『海』、闘気の『空』の三つに体系された技だ。更にその先には奥義となる必殺技があるのだが、それが世の少年達の心を鷲づかみにした。傘を剣に見立てて真似をする者が後を絶たなかったのだ。

 

ヒルダの愛読書であり、悪魔祓い(エクソシスト)としての基軸となった指南書でもある。

 

 

「ヒルダ先輩もジャンボ読んでるんですね! ちょっと意外です!」

 

「失礼な。私だって漫画ぐらい読むぞ。面白いと感じる心に年齢も性別も関係ないだろう」

 

新たな一面を知って喜ぶ松田をいなすと、今度は元浜が問いかけてきた。

 

「まさか漫画の技を再現するとは…恐るべし。けど何で名前がアバン(・・・)なんですか?」

 

「……そのままの名前だと少し抵抗があってな。アーメンとババンを良い感じで足したんだ。悪いか?」

 

そう言いつつヒルダは剣をチラつかせて2人を黙らせると、床に倒れ伏すフリードへ視線を移す。出血量から放置しておけば勝手に死ぬだろうが、今はその傷も塞がりつつある。アーシアの神器(セイクリッド・ギア)聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の力だ。淡い光が起こす奇跡を一般人(松田と元浜)はまじまじと見つめていた。

 

「ヒルダ姉さま、ごめんなさい。私、どうしても放っておけなくて…」

 

できればすぐにでも地下に向かうべきところを自分のせいで足止めさせてしまっている。それを申し訳なく思って涙を浮かべるアーシアに、ヒルダは安心させるように微笑む。

 

「許可したのは私だ。全ての責は私にある。体は拘束したし、治癒も最低限にとどめている。下手に動けばすぐに傷が開く程度にな。それに…」

 

死なせてしまえば松田達の行動は殺人幇助(・・・・)になる。善意で動いてくれた彼らにそんな罪を背負って欲しくない。アーシアには悪いが、これは打算あっての行いだった。

 

「兵藤も先輩方が一緒にいるんだ。私達が信じなくてどうする」

 

「グスッ…はい!」

 

信じる。

 

言葉にするのは簡単でも、いざ行うとこれほど難しい事は無いだろう。しかし我らは信じなければならない。何故ならこの身は神という存在不確かなものを信望する聖職者なのだから。

 

 

 

「雑魚め! 鬱陶しいのよ!!」

 

レイナーレは黒翼を振り乱しながら、飛び掛かってきた悪魔祓い(エクソシスト)達を蹴散らす。

悪魔祓いは基本的に多対1を得意とする戦闘集団だ。己の双肩に人命が掛かっているというのに、貴族の如く1対1で尋常に勝負など通常ではありえない。それこそフリードのような狂人でもない限り。故に、彼らにとってこれは狩りなのだ。害獣駆除の為に磨き上げられた一糸乱れぬ動きはレイナーレを翻弄していた。

 

心に焦りの色が生じる。

先刻の奇襲によって、せっかく懐柔した悪魔祓い(エクソシスト)は役立たず。しかも敵はその武器を奪って襲って来る。閃光手榴弾(スタングレネード)の余波で平衡感覚が上手く働かず、更に狭い屋内では持ち味の機動力を思うように発揮できない。2重、3重と己に包囲網が敷かれていくのを感じる。腹立たしいが、敵の司令官はかなりの手練れのようだ。

 

(穴があるとすれば、ここっ!!)

 

この場で唯一の素人である一誠に狙いをつけて、レイナーレは光の槍を投擲する。

 

「うおっと!?」

 

距離があるので一誠には躱されてしまう。けれども、それで良い。

人間を守るという大義上、悪魔祓いは一誠の方への注意を決して怠らない。そう教育(・・)されてきた者達なのだ。僅かな時間だが気を逸らせた。

 

「まず1人っ!!」

 

レイナーレは猛スピードで突貫して手頃な悪魔祓いを壁にめり込ませる。後頭部を強く打ち付けたせいか微動だにしない。今度は拘束された自軍の悪魔祓い(エクソシスト)に向けて光の槍を投げつける。彼らの頭上に突き刺ささる事で天井が崩落。瓦礫の雨から敵のうち3人が庇うように彼らに覆い被さった。

 

「これでラストぉおお!!」

 

「させっかよぉおお!!」

 

最後の2人を全速力で飛翔して捕獲し、そのまま壁に叩きつけようとする。しかし、一誠の決死の体当たりによって防がれてしまう。

 

『Boost!』

 

彼の赤い手甲に嵌め込まれた宝玉から音声が流れる。

 

まただ。これで何回目だ。

 

おそらく兵藤一誠の神器は龍の手(トゥワイス・クリティカル)。保有者の力を2倍加するというシンプルな能力だ。人外ならいざ知らず、生物として身体能力が格下の人間が保有していても大したメリットのない雑魚神器のはずなのだ。

 

(なのにどうなってんのよ。どこまで力を上げられるの!?)

 

もし『Boost』の掛け声通り、その回数分倍加しているのだとしたら、制限が無いのだとしたら、今の状況は不味い。

 

「ずいぶん頑張るわね。そんなにアーシア(あの子)が大事? それともあなたを騙していた私への恨みかしら?」

 

長期戦は不利。ならば次の攻撃で仕留めるまで。怒りを誘い、攻撃が大振りになった一瞬の隙を突く。長年の戦闘経験から答えを導き出したレイナーレは挑発を繰り返す。

 

「無駄よ。異質な力を持った者はそれに見合うだけの試練が課せられるの。運命とも言うんだけれどね。色んな人間がそれに抗おうとしたわ」

 

戦う者、逃げる者、隠す者。向き合い方は人それぞれだが、一番悲惨なのは組織に属する者だ。

 

「知ってるかしら? アーシアはね、教会が管理する片田舎で言われるが儘にその力を使い続けたの。何も知らない人間はあの子を聖女様と崇めていたわ。おかげで教会はその権威を盤石にしていった」

 

聖女とは名ばかりの客寄せパンダだ。自分で語って改めて思う、人間は愚かだと。そんな連中より、堕天使にこそ神器(セイクリッド・ギア)は相応しい。

 

「でも悪魔の傷を癒してしまったのは不味かったわね。天敵に対してやっていい事じゃ無かった。あの子は教会を放逐され、こんな僻地で暮らさざるを得なくなった。いつ死んでもいいようにと悪魔の治めるこの町にね」

 

「黙れよ…」

 

「ああ、なんて面白いの! 人間の為にと与えられた力で人間を救っていたのに、その人間に迫害される。さんざん利用された挙句、用済みと使い捨てにされる悲しき人生。あの子は聖女より道化師(ピエロ)の方がお似合いよ!!」

 

「黙れぇええ!!」

 

『Explosion!!』

 

手甲から眩い光が迸り、一誠が突進する。狙い通りの反応にレイナーレは口角を吊上げて光の槍を構えた。そして敵の腹目掛けて突き立てようとしたところで、彼女の両脇を光が奔る。

 

「ぐっあああ!? このゴミクズ共がぁあああ!!」

 

息のある2人の悪魔祓いがレイナーレの黒翼を斬り落としたのだ。

 

「吹っ飛べ、クソ天使!!」

 

それが致命的な隙となり、レイナーレは一誠の渾身の一撃を受けて意識が闇の中へと沈んでいった。

 

 

 

リアスが到着した時には全て決着が着いていた。一瞬立ち眩みしたが根性で堪え、余裕の表情で一誠の健闘を労う。

 

「お疲れ様、一誠。なんとか勝てたみたいね。さすが私の下僕くん」

 

「ははは…なんとか」

 

悪魔祓い(エクソシスト)の協力があったとはいえ堕天使を倒した。この経験は自信となって彼の中で大きく根付くだろう。

 

「遅れてごめんなさい。でも、あなたの真の実力を引き出す為にも手を出す訳にはいかなかったの」

 

言葉の意味が分からずキョトンとする一誠に構わず話を続ける。

 

「あなたの神器(セイクリッド・ギア)の正体は『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』。効果が似てるから龍の手(トゥワイス・クリティカル)と間違われやすいんだけど、これは10秒毎に持ち主の力を倍にしていくことができるわ。極めれば神すらも屠れる上級神器――神滅具(ロンギヌス)の一つよ」

 

「そんな大それた物が俺の中に…。ハハッ、なんかあまり実感湧かないですね」

 

怪我と疲労で力なく笑う一誠。そんな彼に対してリアスはある方向を指差す。

 

「見なさい。あなただけの力じゃないとはいえ、あの光景を作ったのよ。もっと自分を誇りなさい」

 

そこには助けたいと思っていた少女とその無事を祝う駒王教会の面々が笑い合っていた。

 

「あなたの学園での噂は知ってるわ。有名だもの。たくさん女の子達を泣かせてきたんですってね。でも、今回はどうかしら?」

 

一誠は答えない。ただ呆然と目の前の光景を眺めていた。

 

「悪くないでしょ? 誰かの為に行動するのって」

 

「…はいっ!」

 

恋人が欲しいから、ハーレムを作りたいから、自分(・・)が幸せになりたいからと生きてきた少年。しかし今回は違う。不憫な少女を助けたいと他者の為に行動した。人間だった頃と比べれば別人かと思うような成長ぶりである。これだけでも危ない橋を渡った甲斐があったとリアスは思う。そして一誠も親友達と再会するのを見届けてから、そっと一団から離れた。

 

 

それを見計らったように隠れていたヴァニタスが声をかけてきた。

 

「それで、そろそろ聞かせてもらってもよろしいですか? このような真似をしなくても、お嬢様なら幾らでも一誠様を篭絡できたでしょうに…」

 

確かに色仕掛けの一つでもやれば童貞(一誠)を虜にするなんて簡単だろう。いざとなれば肉体関係を持つ事も辞さない。それだけの価値が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)にはある。かつての大戦で3大勢力相手に大暴れした赤龍帝の魂を宿す神器(セイクリッド・ギア)だ。兵士(ポーン)の駒8個で眷属に取り込めたのはむしろ幸運と見て良い。

 

「昔、あなたが言ってたじゃない。人間というものをもっと知って欲しいって。これからは眷属として長い付き合いになるんだから、相応の人格を持ってくれないと後々困るでしょ」

 

リアスの解答が予想外だったのかヴァニタスが目を丸くする。滅多に見られない表情に、してやったりと笑みを浮かべながらリアスは心に刻まれた言葉を口にする。

 

「悪魔より醜悪で複雑な悪意を持ち、嘘つきで…」

 

ヴァニタスもその言葉の先を紡ぐ。

 

「必死で他人を蹴落とし、奪い奪われ、言い訳を繰り返しながら丘を越えた彼方を目指す。だから人間は面白い。ええ、ちゃんと覚えていますよ」

 

「駒王町に来て色んな人に出会ったわ。最初はあなたの言う通りだと思って接していたんだけど、少しずつ違和感を感じてきたの」

 

人間との契約がいい例だ。

もしこの世が欲に塗れた人間だらけなら、契約書配りに何故あそこまで苦労するのかが分からない。100枚も配ったのに、食いついたのは10人程度の日もあった。

 

「人間ってそんなに単純じゃないのかなって、思うようになったの。ヴァン…私っておかしいのかしら?」

 

「いいえ、何もおかしくありません。どうやら人間は思っていた以上に奥が深いようです。私も、まだまだですね」

 

喜色の笑みを浮かべて肯定するヴァニタス。それを見て、リアスは少し安堵する。様々な経験を積んで得た彼の自論を否定して、嫌われたらどうしようと思っていたからだ。

 

(人間って何だろう)

 

神は信仰。

 

悪魔は欲望。

 

人間が生み出すそれらが無ければ存在できない。言わば人間こそが、あらゆる人外の根幹を支えているのだ。なのに自分達は彼らのほんの一面だけを見て、脆弱と蔑み貪っている。はたして、このままで良いのだろうか。

 

ひょっとしたら悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は、そんな人間を身近に置く方便として作られたのでは――

 

(考え過ぎか…)

 

かぶりを打って、リアスは思考を中断する。今はまだ時期ではない。

成すべき事はおろか、やりたい事も分からない。そんな未熟者が考えて良い事ではない。

 

しかし、いつかはその何かを見つけて全力を尽くしたい。きっとその時、自分はこの世に生まれた事を感謝できる気がする。

 

そう思いつつ、リアスは一足早くそれを見つけたヒルダ達を羨ましく見つめるのだった。

 

 

 




ちなみにレイナーレ側の死者は堕天使トリオ(ドーナシーク達)だけです。
レイナーレは堕天使側への交渉材料、フリード達は本国へ強制送還されました。
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