「はぁ、最悪の目覚めだ…」
まだ日の出までかなり時間がある深夜、一誠は予期せぬ悪夢によって目が覚めてしまった。堕天使との騒動はめでたく大団円で終わったのだから、さぞ良い夢が見れるだろうと思っていたのに台無しだ。
夢に現れた‶赤い龍“。
その山のような巨体に腰を抜かす一誠に龍は語りかけた。
【俺はずっとお前に話しかけていた。だが、お前が弱小過ぎたせいか俺の言葉が届かないでいた】
食べられるんじゃないかと怯える自分に龍は嗤う。ただ挨拶がしたかっただけだと、これから共に戦う相棒として――
夢では何のことか解らなかったが、頭が冷えた今ならなんとなく心当たりがあった。視線を落とすとそこには己の左腕がある。
(まさか…あいつが…)
夢の最後でこの左腕は人間のものではなくなってしまった。言い知れぬ不安を胸に抱きながら、一誠はリアスとの早朝トレーニングに向けて支度を始めるのだった。
◇
「アーシア・アルジェントと言います。日本に来るのは初めてなので至らぬ点があると思いますが、どうか色々教えてください。よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀する彼女に向けて、教室内で歓迎の拍手が沸き上がる。可憐な容姿と初々しい姿勢は庇護欲が湧くのか、駒王学園への転校デビューは無事に終了した。それ見て元浜は少し安堵する。
(あの子が悪魔だなんて、誰も信じねぇだろうなぁ…)
最終的に、今回の騒動の発端となった彼女はリアスに我が身を差し出した。加害者ならまだしも被害者の彼女がそんな真似をする必要はない。ヒルダを始めとした修道士達が制止する中、彼女は面と向かって説得した。
『全ては私の行動が始まりでした。傷つき苦しんでる人を助けたい。人間、悪魔、堕天使…きっと誰に対しても同じ感情を持つでしょう。だから、私は
ここまで言われて元浜はアーシアが駒王教会の皆を守ろうとしているのだと気づく。どんな理由があるにせよ、今回堕天使は教会の中で事を起こした。それを教会と悪魔が協力して解決したとなれば、3大勢力の均衡が崩れかねない。
教会だけに限った話でも、恐らく悪魔
そうなるくらいなら、
(でも、それならヒルダ先輩達は何の為に戦っていたんだよ…)
元浜はやり切れない気持ちがドロドロと胸の奥で渦を巻くのを感じていた。善き者、正しい者、優しい者が報われずに
(だから…頼むぞ、イッセー。あの子の笑顔を…覚悟を…守ってやれよ)
美少女に涙は要らない。
知らないうちに同じく悪魔となっていた親友にアーシアの未来を託しながら、通り過ぎる彼女の横顔を見つめていた。
◇
駒王学園剣道場はかつてないほどの緊張感で包まれていた。その原因は2人の人物にある。
1人は白の道着を着たヒルダ。
もう1人は黒の道着を着た男子生徒――木場祐斗
両者は竹刀を正眼に構えたまま彫像の如く動かない。殺気とでも言えばいいのか、空気が張り詰めて見学している部員は今にも逃げ出したかった。けれども、2人は男子部員と女子部員のツートップ。どちらが強いか知りたいという好奇心が勝る。一部の部員には勝った方が負けた方へ強い態度を取れるという下心もあった。
そして誰かの唾を飲み込む音が鳴ったと同時に2人は動いた。
竹刀がぶつかり、剣戟音が轟く。空気が弾けて一陣の風が巻き起こる。更なる追撃に体を強張らせて備える部員達。しかし、それは叶わなかった。
「そこまで! この勝負、引き分け!!」
ヒルダと木場の竹刀が破裂したように砕けている。彼らの剣腕に刀身が耐えられなかったのだろう。審判を務めていた顧問がこれ以上の試合は不要とみなし、駒王剣道部最強決定戦は幕を閉じたのだった。
勝負の後、防具を外したヒルダは道場の片隅で休んでいた。柄にも無く部活動で悪魔祓いとしての顔を見せてしまった事に、己の未熟さを痛感していたのだ。
「ヒルダ先輩、お疲れ様です!」
落ち込むヒルダが気になるのか、松田が声をかけてくる。
「お疲れ様。こっちに来て良いのか? 労いの言葉なら木場にもかけてやれ」
「大丈夫でしょ。あいつならとっくに女子に取り囲まれていますよ。俺達は近づくことすら出来ないです」
聞いてヒルダは女子の行動の早さに溜め息をつく。男にアプローチするのは良いが露骨過ぎる。あれでは木場も男子達と交流しづらく、孤立するだろう。せっかくリアスが彼の為に共学にしたのに、これでは意味がない。
「ヒルダ先輩、何かあったんですか? 今日はいつもらしくないというか…その…」
「……
原因は分かっていた。アーシアの悪魔化を引きずっているのだ。もっとやりようは無かったのかと後悔しているからだ。だが、その苛立ちを剣に載せてしまったのはヒルダの落ち度である。悪戯に周囲を怯えさせてしまった。
(こんな事だから未だに『空』の技が使えないんだよなぁ。いつになったら出来るんだろ)
アバン流刀殺法を極めるには、心技体が三位一体となる必要がある。
『地』は体、『海』は技、そして『空』の技は闘気のコントロールを必要とする、アバン流の最難関にして奥義。
心を鍛え直す目的で剣道を始めたのに、これでは先が思いやられる。
落ち込むヒルダにどう接したらいいか分からない松田。そんな彼女達に1人の女子が話しかけてきた。
「ツーベルク先輩。リアス部長がお呼びです。部活終わりでいいので、オカ研部室に寄ってくださいますか?」
その雪のように純白の髪と肌にはヒルダも見覚えがあった。駒王学園1年生の塔城小猫。リアスの眷属で
(ひょっとしてもう次のイベントか? でも、なんだか早いような…)
これも