ハイスクールC×P~駒王の騎士乙女~   作:マルク

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新章に入りました。


新たな火種

 

 

「ヒルダ様。どうぞ、使ってください」

 

リアスの親友にしてヴァニタスと双翼を成す『女王(クイーン)』――姫島朱乃がタオルを差し出してくる。礼を言いながらそれを受け取ると、ヒルダは眼前の光景を眺める。

 

リアスを背に乗せて一心不乱に腕立て伏せする兵士(ポーン)の一誠。

 

先ほどまでヒルダと組手をしてへたり込む戦車(ルーク)の小猫。

 

神器(セイクリッド・ギア)の創造速度を向上させようと奮闘する騎士(ナイト)の木場。

 

そんな彼らを全員回復させる為に魔力量向上の瞑想を続ける僧侶(ビショップ)のアーシア。

 

ここは駒王町外れにあるリアスの別荘。ヒルダはオカルト研究部の強化合宿に付き合っていた。

 

(ほんと何でこうなった…)

 

 

ヒルダはつい先日の出来事を思い返す。

 

呼び出された先で待っていたのはリアスからの交渉とは名ばかりの懇願であった。彼女の婚約者が予定を早めて結婚を迫り、それを破断する条件に『レーティングゲーム』を行う事になったらしい。

レーティングゲームとは文字通り、互いの眷属を駒に見立てて戦う悪魔社会の娯楽の1つだ。今回はリアス側が未成年なので非公式のものとなる。そこで1名だけ助っ人枠を用意してもらったのでヒルダも参加してほしいとの事だ。しかしその無理を許してまで推し進めるという事は、少なくとも両家の親側はこの縁談に乗り気である事が伝わる。これを機に我が儘娘(リアス)の首根っこを掴みたいのかもしれない。

 

「相手はあの『フェニックス家』。しかも猶予はたった10日間しかない。どこまで鍛えられるかな」

 

「全ては私達次第…。ヒルダ様にも期待しております」

 

「朱乃…私は部外者で客人かもしれんが、それ以前に同級生なんだぞ。敬語は止めてほしい。私はフランクにいきたいんだ。キミもそっちの方が気楽だろう?」

 

この中で最も実戦経験のあるヒルダが指導しているとはいえ、状況は厳しい。リアスの眷属は神器(セイクリッド・ギア)所有者が複数おり、所有していない朱乃と小猫も年齢の割にかなりの実力を持つ。しかしそれでも今回の相手は手強い。

 

ライザー・フェニックス――フェニックス家の三男坊で既に公式のレーティングゲームに参加して多くの勝ち星を得ている。更に彼の眷属は悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を限界ギリギリまで使い切り、総勢なんと15人。少数精鋭のリアスとは相性が悪い。

ここまで大所帯だと人間関係に苦労するものだが、ライザーはその好色な性格もあって全員を女性で固めている。皆がライザーという(キング)を慕い、固い結束を維持していた。言わば、一誠の理想像のような男である。

 

家柄、財力、実力、容姿、カリスマetc、全てにおいて高水準の好物件。軽薄な性格と高い自尊心、強い性欲に目を瞑ることが出来れば、大抵の女は放っておくまい。ハーレムを構築できたのも頷ける。しかし同等のスペックを持つリアスにはライザーの言動は刺さらなかった。彼女の側には違う意味で別格の男がいたのも理由の一つだろう。

 

「皆様、もうじきお食事の時間です。湯は沸いておりますので、身を清めてから食堂までお越しください」

 

突然現れたヴァニタスがリアス達に伝えると、黒い燕尾服を軽く翻して邸内へと去っていった。その‶優雅“を体現した仕草は洗練されており、弛まぬ努力に培われた自信を感じさせる。同じ成人男性だというのにライザーとは真逆のひたすら相手を立てる従者スタイルだ。

 

あんな男と共に暮らしていれば、ライザーも王様気取りの子どもに見えても仕方ない。

 

「その婚約者もかわいそうだな。結婚を早めた気持ちが分かる気がする」

 

「うふふ。それ、実は私も思っていました。知ってます? リアスってミカエリス先生の前では見た事ない顔をするんですよね。あそこまで信頼されていると、女の私でも嫉妬しちゃいます」

 

「恋と友情は別物。人によって顔を使い分けるのは誰にでもあることだ。朱乃も好きな男ができれば解るさ」

 

淋しく笑う朱乃を慰めながら、ヒルダはリアス達と共に別荘の中へと入っていった。

 

 

 

「もうすぐ結婚をかけたゲームだというのに…相変わらず余裕綽々ですわね、お兄様」

 

眷属の1人と睦み合う兄の姿に、妹にして僧侶(ビショップ)のレイヴェル・フェニックスは呆れながら見つめる。

 

「当然だ、レイヴェル。俺達の勝利は確定しているからな」

 

「あちらも10日間でかなり腕を上げたと聞きましたわ。不確定要素の高い神器(セイクリッド・ギア)持ちもいますし、あまり油断していると万が一…」

 

「万が一はない」

 

レイヴェルの諫言もライザーは聞く耳持たず切って捨てる。実の妹に対しても不遜な態度が変わらない兄に、諦観と同時に恐怖を感じていた。

 

「最も警戒していたあの男(・・・)は不参加。こっちはどうやって出し抜こうかと考えていたんだが、向こうから言い出してくれたのはありがたい。遠慮なく勝たせてもらうとしよう」

 

「以前から思ってましたけど、お兄様がそこまで気に掛ける男ですの? 確かに容姿は整っていましたけど…」

 

「あの男の恐ろしさは‶強さ“じゃない。最強の女王(クイーン)と称されるグレイフィア様の教え子だから最低限の強さはあるだろうが、警戒すべきはそこじゃない」

 

そう言うとライザーは行為を中断して眷属を退室させた。激しい運動で渇いた喉をワインで潤しながら、先日のリアスとの会合において彼女の傍らに立っていた従者について語る。

 

「奴は何をしでかすか分からない。『底が見えない』とでも言えばいいか。あの男と関わった者達から聞いた話だと、どんなに無理難題も解決してみせた。まるで魔法にかけられたようだったとな。誰が言ったのか『万能(・・)の悪魔』と呼ばれている男さ」

 

レイヴェルの体に鳥肌が立つ。ここまで兄が同性を称賛、いや畏怖しているところを見た事が無い。そんな人物と戦わずにすむなら、確かに幸運だったのかもしれない。

 

「でも、代わりに入った助っ人は悪魔祓い(エクソシスト)――私達(悪魔)を知り尽くした人間。こちらも油断できない相手ですわ」

 

「奴らがいくら同胞を狩ってきたか知らんが、その中にフェニックスはいなかった。恐れるに足らんさ」

 

そう言って嗤う兄に溜息を吐き、レイヴェルは自分がしっかりしなくてはと改めて気を引き締めるのだった。

 

 

 

冥界に構える大邸宅にて、紅髪の青年――魔王サーゼクス・ルシファーが眷属兼メイド兼妻であるグレイフィアの報告書に目を通していた。

 

「ううむ、なかなかこちらの思うように動いてくれないな…」

 

ヴァニタス・ミカエリスという人物は自分はおろか、彼を師事したグレイフィアですら掴み切れない男だ。グレモリー家にやってきた当初は何処にでもいる1人の悪魔でしかなかった。けれども誰よりも貪欲に技術・知識・作法を身に着け、グレイフィアのしごきに唯一耐え切った男でもある。その姿に最愛の妹が心を奪われたのは必然だったのかもしれない。両親すら認めつつある。自分もそうだ。彼のような優秀な悪魔の血なら受け入れても良いとすら思いかけている。もしや我が家を乗っ取るつもりなのではとも邪推していたが、今回の件でそれはほぼ否定された。

 

「ヴァニタス…キミは一体何者なんだ?」

 

微笑みを崩さずに悠々と仕事をこなす彼の姿が頭から離れない。地位も名誉も金も女も彼を縛れない。一体ヴァニタスは何を支えにして生きているのだろう。それがサーゼクスの悩みの種だった。

 

「待て、まさかこちらの思惑がバレているのか?」

 

「さすがに考えすぎですよ」

 

馬鹿げた考えだといつの間にか入室していたグレイフィアが一笑に付す。

 

「あの男にそんな神懸かりなものはありません。あれは地道に努力を積み重ねていった結果です。ただし、悪魔らしからぬレベルだとは思いますが…」

 

「どういう意味かな?」

 

愛妻の見立てが気になり先を促す。

 

「悪魔は万年の寿命を持ちます。莫大な時間がある故に、研鑽を怠る者が多い。それどころか、才能に胡坐をかいて他者を必要以上に見下す傾向があります。年若い者が年長者を追い抜く事態は決して珍しい事ではありません。そういう意味では、彼の感性はむしろ人間(・・)に近いと言えるでしょう」

 

「彼の事をよく見ているんだね。少し妬けてしまうな…」

 

「未熟な頃を知っていますからね。私からすればあの子の得意げな顔を見ると、思わず笑ってしまいそうになります」

 

言っているそばから笑みを浮かべる愛妻に僅かながら嫉妬心が湧き上がるものの、ひょっとしたらヴァニタスから見たリアスも同じ感覚なのかもしれないとサーゼクスは思った。兄の後ろを追いかける可愛い妹分――そう考えると彼がリアスの思いに応えられないのも理解できる気がする。

 

(上手くいかないものだ)

 

魔王という大層な肩書を持っていても別に全知全能ではない。これなら万能の悪魔と呼ばれるヴァニタスの方が神に近いだろう。己の非力に憂いを感じつつも妻に愛想を尽かされないよう、今日もサーゼクスは雑多な執務に勤しむのだった。

 

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