━━━━━━━━━━━━━━━宇宙統一暦608年、統一連邦政府の火星圏にある衛星基地を襲撃、秘密裏に研究されていた実験体自らをNAGIと名乗る少女を確保。無事基地を脱出し味方の輸送艦で本隊であるアルゴー号へと合流した。
これより艦長イアンへ報告書を提出、次の任務に備える。
ゼニスフレーム・アルケイデス及びパイロット、レイ・アルバート。
『以上、記録終わり』
アルゴー号の一室で何時からか始めていた誰に聞かせる訳でも無い、音声記録を終えて自室にあるベットに横になる。
そして考えを巡らすのは輸送艦からアルゴーに戻ってきた際にあった出来事についてだった。
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あの後、アルゴー号への合流は難なく行われた。どうやら基地に勤めていた統一連邦政府軍は俺が基地からNAGIを連れ出した事に、慌てて軍を基地へと戻させたとの事だった。
アルゴーの格納庫にアルケイデス、ヒュラースを移して、NAGIも大人しくアルゴーへと移った。ヒュラーはその際少し不貞腐れている様な様子だったが、NAGIについては我関せずと言った感じで何も言わなかった。
格納庫でアルケイデスから降り、艦長室へと向かう。そこには艦長のイアンさん、それと俺を除くアルゴノーツ所属のゼニスフレームパイロット、4名が揃っていた。
「お、隊長様のご登場だ」
「隊長、お疲れ様です」
「アルバート、任務ご苦労さま」
「…………そのッ……お疲れ……様です……」
「おー我らがエース。任務達成ご苦労さまだ」
上から順に、
ゼニスフレーム・テーセウスのパイロット、キザな雰囲気のアキラ・シロガネ。
ゼニスフレーム・アタランテのパイロット、深緑色がかった髪が特徴的な女性のカレン・モーリス。
ゼニスフレーム・ペーレウスのパイロット、グレーの髪で穏やかな雰囲気の持ち主な細身の男がアスティ・ジェームス。
ゼニスフレーム・ヒュラースのパイロット、俺の部下として共に行動することが多いヒュラー・スメラギ。
最後は艦長のイアンさんだった。
『あぁ、遅くなった』
「なぁに、単独潜入任務の苦労を思えば、この程度の労いの言葉と多少の休憩も許される。いや艦長のオレが許す!」
破顔し俺の肩に手を回して肩を組むイアンさんは、相変わらずと言うか叔父という者がいたらこんな人なのだろうか、と思わせてくれる気のいい人だ。
「それなら本隊を守ったおれ達にも、休暇とボーナスが欲しいなぁ!」
アキラはイアンさんへボーナスと休暇の要求をする事も何時もの流れだ。
それに対してイアンさんが、何時も通りの返答をする。
「おうおう、そうだな。お前達も良くこのアルゴーを守ってくれた。当然、次の目的地までは休暇としようじゃないか!!」
まぁ、その前にアルバートからの報告と今後の作戦についても軽く説明しておこう。とイアンさんは先程迄の様子からキリッとした仕事モードに変わった。
今回、統一連邦政府の衛星基地を襲い連邦政府が秘密裏に研究していた
【Neo Genesis Artificial Gestation Interface】計画の実験体の確保又は研究資料等の破棄が上からの指示だったな。アルゴーを囮に衛星基地にアルケイデス単騎の潜入、単純ではあるが意外な事にコレが上手くいった。
イアンさんは先の作戦について改めて話始め、俺の報告書についての内容に触れていく。
「━━━━━━━━━━━━━━━てな訳で、アルバートは無事実験体Archetype1号ちゃんを確保、ヒュラーと合流の後アルゴーに帰還出来たという訳だな。で、問題のArchetype1号ちゃんだが自らをNAGIと名乗り、自身を太陽系の外へ連れて行けって言っていた」
太陽系の外は人類の未進出域で、何より統一連邦政府は8年前に太陽系外縁部の探査は行うものの、それより外に出るつもりは無いと政府の許可なく探査や研究を行う者たちを取り締まってきた。統一連邦政府が何を考えてるのかオレにはさっぱりだな、とイアンさんは語る。
「そのNAGIという子の言ってる、自身を太陽系の外へ連れていくという事と統一連邦政府の政策が一致しないのは、彼女の思惑と統一連邦政府の考えが一致していない」
そう考えるのが自然な事だと思うのだけれど。と疑問をあげるのはカレンだ。当然の疑問に全員が頷く。
「仮にそうだとして、その少女が何故太陽系の外へ向かいたいのか、その確認位はしたい所だね」
最も、アルゴーに移ってからは部屋に閉じこもっているようだけど……。と若干こちらに非難の眼差しを向けるのはアスティだ。なんでこっちを見る。俺は何もしていないぞ。
アスティは少しして呆れたようにため息をこぼしていた。
「そりゃあ、連邦政府で実験体だったのが今度はお尋ね者の捕虜ときたら部屋にも閉じこもりたくなるだろ」
隊長が一度話を聞きに行ってやればいいんじゃねぇの? とアキラは気だるそうに答える。
え、俺がやるの?
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『と、言うわけでその使命とやらを詳しく教えてくれないか?』
目の前には、アルゴノーツの制服を身に着けるNAGI。艦内の照明が穢れを知らない真っ白な髪を照らし、キラキラと反射している。腰掛けていたベッドから立ち上がると、こちらを向き話し始めた。
「いいよ……代わりに私を連れて行ってくれるのなら」
それは、俺一人が判断できることでは無い……そう答えようとしたらそこに被せるようにNAGIが素早く否定した。
「なーんてね。そんな約束出来るわけ無いよね。無理を言ったね、うん。教えてあげる、なんで太陽系の外に行かないと行けないのか」
「声がね、聴こえるの。あ、待って私は正気だよ。なんて言うのかな、私の身体は次世代の人類と呼んでも差し支えない存在で、資料を見たのならある程度分かると思うけど、そう、遺伝子の調整やナノマシンが私の身体には施されているの」
『あぁ、そうらしいな。真の不老不死その為の実験体、全く大した研究だ』
「それでね、私の脳は特殊な波形を捉える事が出来るみたいで産まれてしばらくした頃かな。凄い遠くからね、私にだけ聴こえる声が響いたの」
「なんて言ってるか、それは分からないんだけど意味だけは伝わって、太陽系の外そのとあるポイントに来いって事だけが分かって。その声はどんどん大きくなっていて、私の名前を考えてくれた親切な人が言うには【干渉力が高まった事で声を拾いやすくなったんだろう】って言ってたけどそれが何への干渉力なのかは教えてはくれなかった」
『その親切な人ってのは?』
「……もういないの」
そう答えるNAGIは哀しそうな顔をしていた。きっとそういう事だろうと思った。
「でもね、私は行かないと行けない。行ってそこに何があるのか確かめないと行けないの」
『それは何故だ?』
些細な疑問。そんなよく分からない声を前に何故そんなに前を向いていられるのか、恐怖は無いのか。様々な事が浮かんでは消えていく。
NAGIは聞かれると思っていなかったのか、今までで1番驚いた顔をしていた。そんな当たり前な事を何故聞いてくるのだろうと……。まるでその日の朝ごはんに何を食べたか聞かれた時のように、平然と答えた。
「そんなの私がこの世界を生きる為。四六時中声が聞こえていたら、自分の人生なんて歩んで居られないでしょう?」
そう言って笑う彼女の姿に、俺は……。この時からだ。俺が何処かこの少女に惹かれ始めたのはきっとこの時だった。