VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで 作:クソ煮込みうどん
お久しぶりでございます、クソ煮込みうどんです。棺桶に半身浴キメかけてましたが執筆再開いたしました。
昨年末まで頭の中に在った「ぼくのさいこうのぷろっと()」に従って執筆していたところ、なんか書く予定だった話とこの流れで繋がらないな…?とか、このセリフ言わせたら流石に不味くない…?みたいなのが散見された結果、書き直しを続けてる内に書きたかったものがよく分からなくなってきた次第です。
端的に言ってスランプです()
なので今回の話も何とか無理やり次につなげる為に書いた話なので、半分くらい妥協と諦めの産物です。申し訳ありません。
あと淫夢語録すらパッと捻り出せない頭なのに、半オリキャラ化した二名用の忍殺語録の勉強でキャパオーバーになりかけてます。
迷走中につきお見苦しい話がしばらく続くと思いますが、なにとぞご容赦いただけると幸いです_(:3 」∠)_
あと誤字見つけたら報告お願いします_(:3 」∠)_
露店を撤収し、話し合いの為に場所を移した近くの空き家の一室。簡素な丸テーブルと椅子が数個置かれただけの生活感の無い部屋は、その無機質さと相まってまるで告解室か……あるいは、裁判所のような重苦しい空気を放っていた。
「……《レジェンド・ブレイブス》は元々、このゲームの発売3ヶ月前に出た、ナーヴギア用のVRアクションゲームで組んでたチームなんです」
懐かしむような、懺悔するような。不思議な語調で鍛冶師ネズハ──《ナタク》と名乗るはずだったプレイヤーは語り出す。
彼ら6人が出会ったのは、ナーヴギア発売当初に生み出されたロープライズゲームの一つだったらしい。
このSAO発売前、ゲームの世界に没入できるという触れ込みからか、多くのゲーム会社がこぞってナーヴギア対応のゲームを開発・販売していた時期がある。既存のゲームハードとまるで異なる動作環境・操作体験が確約されたナーヴギア対応タイトルとは、それだけで競合がほぼ存在しない……言わばブルーオーシャンだった。
大手IPを多数抱えた大企業は今後のシェアも握るべく、反対に小規模開発だったインディーズ企業も、技術的ノウハウの差を気にせず勝負に出られると見たのだろう。数撃ちゃ当たると言わんばかりに、多数のゲームタイトルが生まれた。
それだけ各企業が力を入れていればプレイヤーの期待も当然高まる。そうして俺を含むゲーマーたちは、新たなゲーム体験を求めてナーヴギア対応タイトルを手に取って遊び……皆一様に失望したものだ。
ゲームの世界を実際に歩けるのに、すぐに
俺も何作か手を出したものの、ナーヴギアによって実現されたフルダイブの感動に追いつくに足りない、言葉を選ばなければ『ショボい』と感じるタイトルが多かった。
「僕らがやっていたそのゲームは、一本道のステージの奥から湧いてくる敵を、剣や斧で倒してスコアを競うだけの……言ってしまえば、SAOの戦闘よりも、ずっとチープなものでした。……でも、僕にはそれすら荷が重くて。何度も敵に接近されて、ダメージを受けてしまって……僕のせいでスコアが伸び悩んで、チームのスコアがランキングに乗ったことも無いくらいでした」
「昔から他人の足引っ張るの得意だったんだ」
「ホルン!めっ!」
「……その、こういうこと言うと悪いんだけど、あまり難しそうなゲームに聞こえないんだけれど。何がそこまであなたを苦しめたの?敵のステータスが異様に高いとか、それか異常な物量で押してくるとか?」
相も変わらず毒吐き虫なホルンをストレアが窘める中、会話をつなぐ為かアスナがゲームの内容に触れていた。俺もネズハの古巣のタイトルを聞いてもいまいち思い出せなかったので正直気にな……じゃない。
中々いい話題選択ではないだろうか。ネズハは自分から話題を切り出すのが苦手そうだし、こうやって質問の形で答えやすそうな聞き方をするのがマストだろう。何よりゲーマーは自分の関わったゲームタイトルの話をするときは舌の回転に30%くらい速度バフが掛かる生き物だし、彼も話しやす…………あれ。ひょっとしてこれ…俺が原因で磨かれた対ゲーマー会話術なのでは……?
静かに俺がダメージを負っていると、ネズハはアスナのした質問にゆっくり首を左右に振って否定の意を示していた。
「……いえ。ゲームの仕様や、調整ではなく…僕の、個人的な問題です」
「それってどういう……」
今度は返答がなかった。彼自身、言葉を選びかねているのだろう。落ち着く為か、アスナの用意したお茶*1の入ったカップへと手を伸ばし……何故か。取っ手から数センチ離れた位置で、虚空を掴むような動作を取ってから、そろそろと指を近づけてようやくホールドした。
その仕草に違和感を覚えた俺に彼も気付いたのだろう、こちらに弱々しい笑みを向けた。
「……ネズ…えっと、ナタク。きみは」
「ネズハで結構ですよ。そう呼んでもらうつもりで付けてますから」
「じゃあお言葉に甘えて。……デリケートな話なんだけど、ひょっとしてFNCなのか?」
「何それ?」
小さく彼が頷くのと同時、壁に寄りかかっていたホルンが疑問の声を上げる。俺やネズハと丸テーブルを囲んでいるアスナも似たような表情だ。
「
本来は脳なんてデリケートなものと直接信号でやり取りするんだから、機械側をユーザー個々人に合わせてチューニングするべきなんだろうけど、1万台全部にそんなことできない。だから初期設定時のキャリブレーション作業*2とか、接続チェックでできるだけシステム的に調整は入るんだけど……」
「…………僕の場合、その自動調整で補正しきれなかったみたいで。初回装着時……プレイ中の視力に、影響が出ました。見えはするんですが……遠近感が掴めなかったんです」
ストレアの補足説明に続けるようにそう零した。
これがSAOでなければ、遠距離から魔法などの必中攻撃を使えばよかったのだろう。しかし近距離戦前提のゲームバランスであるSAOで、距離感が分からないというのは致命的だ。何せ、俺たちの戦闘の根幹にあるのは、この現代日本に無縁の剣が欠かせないのだから。
大多数の人間は実剣はもちろん、竹刀や木刀すら縁遠いものだ。中高の体育で触れる機会があるかどうかというレベル。クラインに指導した際も武器の間合いと振る際の姿勢は特に意識させた。自身の剣を正しく扱うことが、ステータスを上げることよりもずっと必要な資質だからだ。
つまり、非日常の産物である剣を用いられない者は、この世界で
FNCは重度の場合フルダイブそのものを受け付けない場合があると聞くが、デスゲームに巻き込まれた上にハンデを背負わされている姿を見ると、いっそ彼もそちら側だったほうが幸せだったのかもしれない。
「……僕はこの目なので、戦うことなんてロクにできません。それどころか鍛冶作業みたいな…金床の上の剣を、短いハンマーで叩くのも、かなり難易度高いくらいで……」
「それであんな丁寧に剣を打っていたのね」
「はい…。砕いてしまう剣に、申し訳ないって気持ちもあったんですが」
僕が言っても信用ないでしょうね、と自虐的な応答をするネズハに、アスナは思わずと口をつぐんでいた。許す余地はあっても、まだ内心複雑なのだろう。
それに引き換え。
「────ふーん」
「……あの…何か、変なところあったでしょうか…?」
「いや別に。さっさとつまらない話続けろよ。眠い中聴いてんだから」
「おいホルン…」
壁の方からは二の句が継げぬアスナに代わるよう、ホルンの適当な相槌が挿まれていた。妙に喧嘩腰だ。ついでにキバオウを煽っていた時の二割増しくらいで目付きが悪い。
が、内罰的な性格のネズハはかえって気が楽なのか、苦笑を零して聞き流してくれた。
「そ、それにしても。皆さんよくこの名前の意味に気付きましたね。……正直その…誰にも気づかれないと思ってたんですが」
「こればっかりは偶然だよ。情報屋経由で《レジェンド・ブレイブス》の
「……名前一つで、そこまで。僕が言うのもあれですけど…お見事です」
世界最古のSF作品とも呼ばれる『
様々な武具を扱う武神であり、物語の中では蓮の化身として生まれ変わった美しい少年神とされている。信仰の対象としてはもちろん、極めて高い人気から前述作品以外にも多数登場する、まごうこと無き英雄の名だ。
本場である中国・台湾といった地域から外れてもそれが知れ渡った影響か、地域や作品によって呼び名や表記がブレることが多い。ノーチャー、ネーザ、ナーザ、ナタ太子など。
そして英字で綴る場合はナーザないしネーザに該当する……《Nezha》とされる。らしい。
ウィ○ペディアも無いのにアルゴはどうやってこの情報を調べたんだろうか。余程歴史マニアな協力者でも居るのか。今度機会があったら聞いてみようと思う。
「つまり、その……ネズハは他の5人にはその名前の由来とか、教えてないの?」
「……はい。僕も前までは、みんなみたいにメジャーな英雄の名前を使っていました。名前を変えた理由は彼らへの遠慮…いえ、おべっかです。何度も何度も、前のゲームで足を引っ張ってしまった僕を…それでも、チームを抜けてくれと言わないでくれた彼らへの……甘えなんです。今度は本名からもじった名前にしたんだって、誤魔化して伝えました。もう…みんなみたいに英雄の名前なんて語らないから、仲間のままでいさせてくれって」
ストレアの合いの手を肯定しつつ、ネズハは力なく笑った。諦観とも、自嘲とも見える、苦し気な笑顔だった。
「チームに拘ったのは別に、あのゲームが好きだったわけじゃありません。……《レジェンド・ブレイブス》がSAO正式サービスに合わせて、こちらに移住することが決まってたからです。
………………僕は……僕はどうしてもSAOを体験したかった。でも、FNC判定のこともあって、一人でゲームを始める勇気が無かったんです…。それでオーさん……オルランドたちのパーティーに入れてもらえば、その……まともに戦えなくても、強くなれるんじゃないかって。
そうやって、僕の在籍を認めてくれた彼らにさえ……みんなにネズオ、ネズオって呼ばれるたびに…心の中で、僕だって英雄の名前なんだぞって……本当に…どうしようもないですね……」
……気持ちは分かる。それこそ、俺だってβテストの発表を知った瞬間から、何が何でもこの世界に行くのだと息巻いた一人だ。購入資金を捻出する為、泣く泣く過去の愛機であるゲームハード類を売るくらいに魅せられていた。きっと彼のように多少FNC判定をもらっていても、この世界に来ていたことに変わりはないだろう。
そんな世界で己の成りたい姿形で、あるがままに振る舞いたいなんて言う想いを。誰が軽々しく否定できようか。ネズハはどこまでも内罰的に己を評しているが、俺は決してそれがおこがましい願いだとも、恥ずべき欲だとも感じなかった。
だがそれに同意する資格なんて無い。
あの忘れもしない1ヵ月前。俺が見捨て、《はじまりの街》に置き去りにしたのは──彼と同じような、助けを求める人々なのだから。
こちらが返す言葉を見つけられずにいる中、沈黙を嫌がったのか、ネズハは落ち着かなさげに言葉を続ける。
「……僕が『
そして一応、見つかりはしたんです。たった一つだけある、飛び道具の使えるスキルが」
「《投剣》ね」
「はい。……でもあれは、持ち込んだ武器のストックが尽きたら何もできないし…フィールドに落ちてる石とかじゃ、ろくにダメージも出なくて。それで僕は、熟練度が50になる頃には戦闘職になるのは諦めたんです。
……でも、その熟練度上げに、ブレイブスのみんなを付き合わせてしまったせいで…僕らは最前線集団に乗り遅れて……」
当パーティー在籍のイレギュラーが例外なだけで、本来《投剣》ってそれくらいパッとしないスキルだよなぁ、とは思った。空中落下してる敵の防具の隙間をぶち抜いたり、フロアボスの片目をぶち抜いたりとか、そんなトンチキ武器じゃないよなぁアレ、と。
何よりそのヘッドショットマシーンの活躍にしたって、左利きというハンデにホルンなりに向き合った結果、特殊なステ振りが奇跡的に噛み合っただけに過ぎない。ここぞという場面を逃さず当てる勘の鋭さ、少ない弾数で効果的な嫌がらせを実行する判断力、それらを発揮する為の空間認識力などは本人の地力によるところが大きい。
ただ当てられるだけじゃさほど強くない補助スキルに、ネズハの期待したようなメインスキルとしての運用は無理がある。
もっと言うのであれば、そもそもネズハたちが前線に追いつけなかったのは、俺含むβテスターたちが猛烈なラッシュをかけて狩場が飽和してたからだと──
「キリトくん」
そう口から出そうになる前に、アスナの方から鋭い静止が入った。口にこそしていないが『余計なことを言うな』という圧を感じる。開きかけた顎がガチンと音を立てて閉じた。
不思議そうにこちらを見るネズハに穏やかに続きを促しているのが同一人物には見えない。
「……僕が戦闘職を諦めると決めた時の話し合いは、かなり険悪な雰囲気でした。口にこそされなかったけど、僕を抱えてたせいで出遅れたって……いっそこのまま《はじまりの街》に僕を置いて行くって、誰かが言い出すのを待っているような状況でした。本当は…、僕の口から言うべきだったんでしょうけど、その……怖くて、できなくて。
鍛冶屋に転向するって言っても、やっぱりお金はかかりますから。足を引っ張ってた僕に、そこまでしようって誰も本心では思ってなかったんだと思います。…………そんな時でした」
──そいつが戦闘スキル持ちの鍛冶屋になるなら、すげぇCoolな稼ぎ方があるぜ
「今まで酒場の隅に居た、NPCだと思ってた人が急に近付いてきて話し掛けてきたんです。なんて言うか…変わった格好の人で。外は晴れてたのに、黒っぽい……雨合羽みたいなのを着てて。《クイックチェンジ》と《ベンダーズ・カーペット》を使った手口は、その人が教えてくれたものです。……その、信じていただけるとは、思ってませんが」
「いや、信じるよ」
ネズハを宥めつつ横目で壁際のホルンを見やる。大人しくしてると思ったが、今の彼からは強烈な敵意が発せられていた。反応から見て例の──《
穏やかならざる雰囲気のホルンに先んじ、アスナが本題へと切り込む。
「ネズハさん。その黒いポンチョの男だけど……まだ、交流はあるの?」
「い、いえ……。酒場で会って以来、一度も会ってないんです…」
「取り分はまだ渡してないってことよね?受け渡しの方法と日取りの指定とかはどうなってるのか、教えて」
なるほど、仮に直接手渡しなら次の利益分配のタイミングで張り込めるし、仲介人を挟んだやり取りだとしても他の協力者などを特定できる。最悪動いた金額だけでも分かればアルゴに調査依頼をすることも視野に入る。アルゴはその程度の情報でも飯の種にする能力がある。情報を抜かれる側は堪ったものではないが、こういう時の彼女は無類の強さを発揮するのだ。
他の二人も感心するよう小さく頷いていたし、客観的にも悪くない切り口だったはずだ。
しかし。
「すみません……特にそういった話は…」
「……?どういうこと」
「ですからその……先ほど言ったように入れ替えの方法を教えてくれただけで、分け前とかアイディア料とかの話は、一切なかったんです。なので…その、連絡先を知ってるメンバーも、居ません」
んなアホな、と口にしそうになる。予想外のネズハの返答に俺以外の三人も呆然としていた。
先ほど俺が感心したように、今回の詐欺は実に巧妙なものだった。それこそ、βテストで先にプレイしていた1000人の誰も思いつかなかったであろう手口だ。悔しいがネズハの名前からトリックを偶然暴けただけの俺より、発案者であろう件の人物の頭が切れるのは疑いようもない。
であるからこそ、解せない。それだけ優れたトリックを惜しげもなくブレイブスに提供する意味が。
(無償の善意……ではない、よな。教えてるのが詐欺の方法なわけだし)
ならその人物は、手放した詐欺のトリックに代わり、何を得たというのだろうか。
金銭も、レアアイテムも目的でないのだとしたら。何の為に《レジェンド・ブレイブス》に接触をした?
俺が背筋を撫でる嫌な悪寒の正体を突き止めようとする中、ストレアがたどたどしく声を繋げる。
「……その人、ブレイブスのみんなの話し合いにいきなり割り込んできて、すり替え手段だけ教えてすぐ消えた……ってことなの…?何の見返りも求めず?代わりにレアアイテムの取引とかもなかったの?」
「ええと……大体そんな感じなんですが、正確には少しだけ、話しています。なにぶん内容が詐欺ですから、最初の内はオルランドたちも否定的だったんです。そんなの犯罪じゃないかって。そしたらそいつは、『ここはネトゲの中だ、やっちゃいけない事は禁止されてる』『なら他はなら他はAll OK……そうは思わないか?』って」
「うわぁ…めちゃくちゃアイツが言いそう……」
俺たちの中だと唯一直接
究極的に言えば、ゲームのペナルティーだけがこの世界に於ける絶対原則なのだろう。不備があったとしても、それは遊ぶ場を整えるべき
しかし、そんな中でもモラルだとか、マナーだとかはある。これをやったらダメだ、許されない……そんな理性が引いた線引きが。他人を不快にし合わない為の境界線が。
《
ましてやSAOは今や現実の生き死にのかかったデスゲームだ。奴の言ったように、ペナルティさえ呑めるなら──
「……そいつ、他に何か言ってたか…?」
「あ……いえ。僕らが頷くと、グッドラック、と言い残して酒場を立ち去って…それっきりです……。お役に立てず、すみません……」
「……別にいいよ、気にしないで」
おお、ホルンが大人の対応をしている。色々な感情とか言葉を飲み込んでそうな百面相をしながら。今回の件、ずっとピリピリしてたからそろそろ爆発するかと思ってたのに。
俺は素直に彼の成長に感心した。
「──僕はお前に詐欺やらせた連中と違って、お前が役に立つとか期待してないし」
訂正、友人はやっぱり
上げて落とす、の見本のようなやり取りのせいでネズハがまた俯く。
「なんで吐いた…毒……!!」
「ごめん。割とマジでごめん……。いい加減『自分が世界で一番不幸なんです』みたいな面うぜぇな一丁前に視力障碍者気取りかよ、他人の不幸も自分の人生も舐め腐りやがってヨーグルトの蓋の裏じゃねぇんだぞ…ってちょっと我慢しきれずポロッと出た」
女子二人がネズハを宥めに向かったので煽りカスの方に小声で詰めたのだが、困ったことに本人も意図したわけではないらしい。結構真面目に後悔してるのかいつもみたいに『僕は悪くない』ではなく普通に非を認めている。
それだけにちょっとこいつヤバいなと感じた。自重の末についポロッと出た言葉がここまで殺傷力あるの怖いわ。つーか今も小声で割ととんでもない罵倒出てきてるし。我慢しなかったらどんだけライン越えてたんだよ。
「頼むから抑えてくれ…!そもそもお前、今回ネズハの口から事情聴く前からある程度把握して同情気味だっただろ……。なんで本人前にした途端ここまで酷くなるんだ」
「あれは同情って言うか…共感性羞恥って言うか……」
妙に歯切れが悪い。普段歯に衣着せぬ物言いが多い皮肉屋が、今日は不思議なくらいに口ごもっている。やはり何かおかしい。
ひとまず彼は置いておき、頃合いを見てネズハの方へと声を掛ける。
「と、とりあえず…さ。きみはもう詐欺とかする気は無い……ってことでいいよな?」
「…………はい。それだけは、もうしません…」
「……その、今後はどうするんだ?」
出来るだけ刺激しないように言ったつもりだったが、俺の短い問いにネズハの肩が震え出す。既に悲観的な結論があるのだろう、どこか自暴自棄な雰囲気さえ感じる。
「……………………やっぱり…僕が死ぬのは、ダメなんでしょうか……」
……ここからネズハを立て直させるの難しすぎでは。吐きたい。
「……ネズハ。俺たちは別に、命で償えだなんて思っていない。寧ろ悔い改めたのなら、今後も生きていてほしいと思っている。そこまで悲観的にならないでくれ」
「でも…………お返しできるものなんて…残ってないんです。剣も、換金したコルも…ブレイブスのみんなで使ってしまいました……。それにこの目じゃ…簡単なクエストすらできません……自分で稼いで弁償することすらできないんです…」
「……『泣き寝入りしてください』ってはっきり言えば?今更お前に誠実さとか求めてないし」
「ホルン言い過ぎ!めっ!!」
「今のアインクラッドでは自殺は重罪よ。詐欺は依頼人への裏切りだけれど、自殺はゲームクリアを目指す全ての剣士への裏切り。償う気があるならそんなの論外だわ」
ホルンだけ押さえとけば安パイだと、俺もストレアも思っていたのだろう。
忘れていたのだ……アスナも割と言い方キツいのだと。もっと言うのであれば、剣を取り返せはしたものの被害者の一人だ。恐らく彼女もどこか冷静さを欠いている部分があった。
しかしそんなことに気付いても後の祭りだ。既に罪悪感と煽りカスの追撃で弱り切っていたネズハは、アスナの正論パンチに耐えられるほど強くない。一瞬震えながら縮こまった小柄な背は、限界を超えて内に押さえつけていた感情を爆発させた。
「どうせ僕みたいなノロマな愚図は、いつか必ず死ぬんだ!生きてるだけで誰かを不幸にし続けながら!!……それなら…それなら、少しでも早く……死ぬべきじゃないか…!!」
言い切るや否や、彼はテーブルに額を打ち付けた。二度、三度と繰り返されるそれは、全てが《圏内コード》の紫色の障壁に阻まれる。
やがて、力なく突っ伏したネズハの口からは、か細い嗚咽が零れ出した。この場で自身を罰したいのだろうが、残酷なシステムの壁がそれを許さず、障壁に守られたHPは微塵も減らない。
詐欺をする気はもうない。しかし、その罪の償い方も解らず、ブレイブスに戻ることもできない。そんな真綿で首を絞めるような苦しみが、叶うはずのない自傷行為へとネズハを駆り立てたのだろう。
あまりの剣幕に煽りカスすら黙る嫌な沈黙が広がった。
しかしそんな中。気付けば俺の口からは、場違いなほど気の抜けた笑いが零れ出ていた。
「どうせ死ぬ、か」
瞬間、それを聞き咎めたストレアからの鋭い視線が向けられる。
慌てて精神防壁的な何かの出力を試みるよう両手を振ると、その様子に困惑したような鍛冶師の視線が追加された。やや間を空けて、隣からじろりと睨み付けるはしばみ色の目と、攻撃的に細められたワインレッドの目が向く。
「ごめん、ごめんって。いや別に、きみの言葉を笑ったわけじゃないんだ。ただなんて言うか……そっちのお姉さんも、少し前に似たようなことを言ってたのを思い出して、ちょっと懐かしくなってしまってさ」
「……あー。あったねぇそんな話」
「うちにも生死観めんどくせーの居たな。そういや」
「やめて……その話ほじくり返さないで…………私もちょっとどうかしてただけだから…!」
「……アスナさんにも、そんなことあったんですか…?」
誤解を解いていると、唯一事情を知っていなさそうなネズハからそんな声が上がった。
アスナがキョトンとした顔で「名前…知ってたの?」と尋ねるのを見て、そう言えば今の今までまともな自己紹介もなく内輪ノリみたいなことしてしまってたのが申し訳ない気分になる。幸い、当人は気にしていなさそうだったが。
「ええ……前線で女性プレイヤー、情報屋さん抜くとあなた達お二人くらいしか居ませんし…。それに、噂になってましたから。赤いフードの凄腕
「すっかりアスナのトレードマークになってるね~、
「……ストレアさんも他人事じゃないでしょ。お気に入りが普段使いできなくなるんだから。……とりあえず、変装用は色を変えることにするわ」
「ち、ちなみになんだけど。俺やホルンについては?」
「余計なこと聞くな」
「…………すみません。名前だけは、聞いたことがあるような…って感じです……」
ちょっと心にクるフォローだった。……別にいいんだけどな。俺もこいつもちゃんと変装機能してたって話だし。女子二人が『ほら、そんなに気にしなくたっていいじゃないか』とばかりにちょっと得意げなのが納得いかないけど。ホルンの口から舌打ちが鳴った。
そんな俺の内心を知らずか、ネズハの視線はどこか懐疑的だった。時の人みたいになってる連中がこんなとんちんかんな会話してるのだから当然だろうが。
「……さっきの話、本当なんですか?アスナさんみたいな凄い人がその…僕みたいなこと言ってたなんて…」
「ほんとだよ~♪最初に会った頃のアスナ、今のホルンみたいにツンツンしてたもん。笑ったら可愛いだろうにずぅ~っとムスーってしてたし。まぁさっきのを直接聞いたのはキリトだけなんだけどね」
「すごかったなぁ、あの時のアスナ。迷宮区で四日もキャンプしながら狩り続けて、俺の目の前でぶっ倒れてさ。仕方ないから一人用寝袋に詰めて引きずっ「二人とも」」
ドスの利いた声アゲイン。俺の顎が再び勢いよく閉じる。ストレアは口の前に指でバッテンマークを作って黙った。
「……確かに、私にもそういう時期があった。1ヵ月で2000人も犠牲が出て、それでも1層から出られなくて。きっと自分も、すぐに犠牲者っていう数字の一部になって消えるんだろうって。……でも死ぬ為に生きるのは、もう辞めたの。こんな世界でも必死に抗って、自分の足で立って戦ってる人たちと出会えたから。私だけが膝をついて諦めていい理由なんて無いって、今はそう思える」
「…………」
かつて1層迷宮区で見た、あの鋭いヘイゼルの瞳。擦り切れ、
同じ絶望を抱いた彼に語り掛けるアスナの瞳は、穏やかでありながら、自らの意思でこの残酷な世界に立ち向かうのだという、確かな意思を宿していた。
「それに…自分の意思で《はじまりの街》を出たことを、この世界と戦うんだって決めたことを、嘘にはしたくない。あなたもそうじゃないの?」
「僕は……」
アスナとネズハの視線は、共に小柄な鍛冶師の足元に向いている。俺はそれを辿ってようやく、ネズハの履いている物が街中用のシューズ類などではなく、戦闘職の用いるレザーブーツであったことに気付く。
彼も恐らく、本心ではまだ諦めたくないのだろう。だがその想いを、客観視した事実と生来の気の弱さが諦める方へと持って行こうとしている──そんな印象を受けた。
であるならば、今の彼に必要なものは償い方ではなく、彼が生きようと前を向くに足る何かではないだろうか。
しかし自信を付けさせようにもどうしたものか。
現実的には《はじまりの街》の隅で彼に恨みを持つであろう誰かと遭遇しないよう、静かに身を潜めさせるのが最良だが、今ようやく立ち直る兆しの見えた彼に水を差すようで気が進まない。
鍛冶師をやめて戦闘職に再転向して大活躍!……というのも難しいだろう。何せ彼の後ろ向きな言動の根底にあるのは、FNCの視力障害のせいで剣を握って戦えないという諦観にある。ここを解決できない限り彼を前線に向かわせるのは、先ほど止めたはずの自殺させるのと何ら変わらない。
だが現状ネズハが使えるのは弾数制限の厳しい《投剣》スキルくらいのものだ。いっそ三日前の晩に話題に上がった弾数∞《投剣》の裏ワザを考えるべき──
(いや、待てよ。あれが役に立つか?)
ふと思い出したのは《クイックチェンジ》習得の為のフィールドワーク中、気分転換にパーティー内のみんなで投げて遊んだ、とあるドロップアイテム。うちのメンバーだとホルンしかまともに扱えなかった……特殊な遠隔型武器。
性質的に間違いなく投擲武器であるそれを、俺は何故か半分だけ装備条件を達成していた。結局正常な装備状態にはならなかったせいでシステム補正は受けられなかったが、今思うと妙な話だ。《投剣》スキルを持っていない俺が、投擲武器の装備条件に合致する何かを有していたこと自体。
そして俺とあいつのスキル構成で同じものなんて、一つだけだ。
「……ネズハ。今、レベルはいくつだ」
「…………10、です」
「ならスロットは3つか…。取ってるスキルは?」
「《片手武器作成》…《所持容量拡張》…………それと、《投剣》…です……」
よし、アルゴから聞いた通りだ。まだ彼は《投剣》スキルを捨ててはいない。ならば十分可能性はある。
あとは
「その、彼にアレ…いいか?」
「……ご自由に。僕はその辺歩いて頭冷やしてるから、後勝手に話まとめといて」
「ご自由にって……おいホルン!」
言うが早いかホルンは踵を返してそのまま空き家を出て行った。続く言葉を掛ける間もなく、コバルトブルーの裾がドアの向こうへと消える。こちらの伸ばした右手が所在なく虚空を掻いた。
ストレアも今までこういった態度は見たことが無いようで珍しくおろおろしてる。しばし追うか悩んでいたようだが、今回はネズハを優先してか着席した。その割には、視線が不安そうにホルンの消えた方向を行き来していたが。
「どうしたんだ今日のあいつ……ストレア、何か知ってる?」
「分からないよ…。フレンドメッセージは昨晩23時までしりとりで返信してくれてたし、23時1分に送ったメッセは朝まで未読スルー。これもいつも通りだね。今朝既読が付いたの5:45だから起床時間も特に変なとこないし。でもひどいんだよホルンってば!折角迎えに行ったのに、アタシとアルゴの目を撒く為にダミーの宿を5個も確保してたせいで今日は朝イチで会えなかったの!!それで頑張ってしらみつぶしに探して回ったら、呑気にご飯食べてたし!アタシも一緒に食べたかったのに!それでちょっと怒り目に話しかけちゃったんだけど、代わりにご飯奢ってくれたのは高得点かなぁ♪こういうところで何だかんだ優しくされて許しちゃうのはアタシとしても単純だなぁとは思うけどさ、あんまり引きずり過ぎちゃうとせっかくのご飯が台無しになっちゃうし?こういう事もあるよねってことでその話は終わったんだ~。でも挨拶返してくれる前にホルンってばため息を二回も零してて。悩みがあるなら教えてって言ったのにそっちは答えてくれないの。相変わらず変なとこでムキになっちゃうんだ。まぁそういうところも可愛いんだけどね。そうそう、朝ごはんのメニューは黒パンと牛串以外の串焼き肉にフルーツ牛乳だったかな。食堂みたいな人が集まるところ嫌いだから適当な屋台でテイクアウトして食べてるの。今日は《ウルバス》外縁部に積まれてた木箱に隠れて食べたんだ。目立ちたくないのは分かるんだけど、ちょっと埃っぽい場所ばかりお気に入りスポットにしてるのはアタシとしてはいただけないかなぁ。ご飯食べるならもうちょっと気分晴れそうなところで食べればいいのに、って。まぁそんな感じだったから特筆することも……あ、昨日と違って味付けはタレじゃなくて塩だったよ。タレとフルーツ牛乳だと口の中甘すぎるとか言ってたし。でもホルンに好き嫌い多いのなんていつものことだし……そんなことであんな機嫌悪くなるかなぁ」
「……………………知り過ぎなくらいに知ってるわね。色々限界だっただけなんじゃないかしら、彼」
寧ろあいつ、ここまでされてよくため息二回で堪えたな。しかも日常的にやってるのかよ。
一緒に聞いてたアスナとネズハもドン引きしてるんだけど。こっちの想像の三倍くらいプライバシー侵害されてた。もはや荒れるべくして荒れたまである。少しそっとしておいた方が良いかもしれん。
「……一旦、こっちに話戻そう」
「あの…僕が言うのもあれですけど、いいんですか……?」
「あれでなんだかんだ初日からコンビ継続してきてるし大丈夫だと思うよ。……多分」
そう返すと、彼は何故か感心するように薄く息を零した。俺たちのことをデリケートな話題にも踏み込める信頼関係があるとか思ってくれてるのだろうか。
こっちとしてはあの赤眼コンビのあれこれは踏み込む予定も知る予定もなかった領域なんだが。何でもかんでも知ってればいいってもんでもないと思うよ俺は。……という言葉は、仲間関連のあれこれで悩んできたネズハに言うには流石に酷だったので、ぐっと堪えた。
「……ネズハ。もしまだ身の振り方が決まっていないと言うなら、俺から一つ提案がある」
気を取り直して発した第一声に、ネズハはギュッと服の裾を握りしめる形で答えた。
その背が再び縮こまりそうになるのに先んじ、ストレージからオブジェクト化したあるものをテーブルに置く。彼は置いた際の硬質な音に驚いて目を逸らしたが、こちらが根気強く言葉を続けずに待っていると、好奇心に負けたのか恐る恐るこちらの方へと向いた。
「…………それは、一体…?」
「きみがこの世界で、戦えるようになるかもしれない武器だ」
途端、ネズハの目の色が変わった。それまでの諦観と絶望、深い後悔に沈んでいた目に、耐え難い渇望の光が浮かんだような気がした。
彼の視線と意識が俺の手元に置かれたそれ──アイテム名《アイアン・チャクラム》という、グリップ部分に革布が巻かれただけの、小振りなリング状の刃物へと固定される。
「もしきみが一人のプレイヤーとしてやり直すと言うのなら、これを譲ってもいい」
「…っ」
「ただし…………条件として武器作成を、鍛冶スキルを捨ててもらう」
俺の非情とも言える宣告に向いていた目が愕然としたように見開かれた。パーティーメンバーでもない人間が自身のスキルビルドに口出ししてきたのだ、無理もない。
そもそもスキルの熟練度上げは時間と根気が要る。特に彼の取った生産職系スキルは素材加工時に熟練度が上がる都合、少なくない
もちろん、この行為そのものが贖罪に繋がるわけじゃない。鍛冶スキルを捨てた程度で他の被害者が納得することも無いだろう。結局のところ、最後は自分でけじめをつけるしかないのだ。
だからこれは、究極的に言えばただ俺の自己満足でしかない。もしこの武器が、彼の立ち上がる切っ掛けになってくれたのなら。……なんて、いつだかの自分を重ねた感傷。
これを知ったら友人は何と言うだろうか。『お人好しめ』?『余計なことを』?多分、俺の想像よりもキツい皮肉が返ってくるだろう。
だけど最終的に──ため息を吐きながら、また手を貸してくれると思っている。あの日全てを諦めようとした俺を、胸ぐらを掴んでもう一度立ち上がらせてくれたように。
「……聞かせてくれネズハ」
「きみは、どうしたい?」
◆ ◇ ◆
一方その頃。
「今回の終わってんだろマジで…もう僕死んだ方が良くない……?」
《タラン》村の外れで、植え込みと同化しつつ呻き声を零す変質者が居た。僕である。絶賛自己嫌悪中。
一応言い訳をさせてもらうなら、僕も初めの内は自重してたのだ。そもそも当パーティーの方針は純粋な被害者だったアスナが許すことにした段階で決まっており、僕としてもどうせ
そうである以上ネズハを必要以上に刺激してボロを出させる意味も、過剰にストレスを与える必要もない。適当に茶々入れる賑やかし要員くらいに落ち着きつつ、奴が口にするであろうお涙頂戴なストーリーを聞き流す作業をしていればいい。頭ではそう考えていた。
結局僕の自重は、ネズハの話を聞き始めて5分もしない内に『するつもりだった』に格下げされた。
(いやさ…同類の気配は感じてたけど、
知っていた。他人と同じ世界を視れない心細さも、そんな自分が居られる場所の為に道化に甘んじる屈辱も。ネズハの語ったモノには嫌というほど覚えがあった。
そんな自分が5年近く腐るに至った過去と、似通う境遇の誰かが居て。そいつが僕を仲間と呼んでくれたアスナに、被害を出した。
ネズハは自分の後悔を口にしただけだったのだろうが、僕には彼の言葉が……まるで、少しでも立場が違えば、僕が同じことをしていたと糾弾されているようで。
受け入れ難かった。否定したかった。僕はお前とは違う、ここで変わるんだ…そんな虚勢。
確かに僕は変わったのだろう。
かつての自分と同じ傷を抱えて生きてる彼を、僕の嫌いだった連中と同じように言葉で傷つける、そんなクソ野郎に。
「僕のなりたかったものって……こんなものだったっけ…」
もっと、苦境にくじけず強くあろうと振る舞えるような、カッコいいものに憧れていたのではなかったのか。キリトのように。
もっと、筋を曲げずに正しくあろうと居られる、高潔なものが欲しかったのではないのか。アスナのように。
もっと、自分の傷も他人の傷も投げ出さずに人と触れ合える、胸を張れる生き方をしたかったのではないのか。ストレアのような。
身近にいくらでも良き手本があったというのに。どうして僕は、こんな愚かな振る舞いばかり繰り返すのだ。
醜い。醜い。醜い。
陰鬱な自問自答を続けること暫く、耳元にシステム通知の音が届いた。どうやらフレンドメッセージに新着があったらしい。差出人はストレアだった。
件名は無し。本文は簡潔に二言だけ。
【ネズハのこと、なんとかなったよ】
【あと、キリトとアスナはそんなに怒ってなかったから】
どうやらあっちは何とかなったらしい。横から余計なこと言っただけの僕がそれに安堵するのは何か違う気がするが、情けないことに、僕の口からは気の抜けた息が零れ出ていた。果たしてどちらの情報に安堵したのかは、自分でもよく分かっていない。
しかしそんな気の緩みを咎めるよう、続けざまに二件分の通知音が僕のノミの心臓を跳ねさせた。差出人は…キリトとアスナから、それぞれ一件ずつ。
(……まぁ、そうだよね。ストレアは気を利かせて
解決のために知識面でも行動面でも尽力したキリトの顔に泥を塗り、赦そうと決めた被害者のアスナの優しさと決断を無駄にしかけたのだ。
恥ずべき行いだ。そればかりか己の感情を優先して幼稚にも事態の収拾すら放棄して退席した。これで思うところが無いはずがない。
もはや後悔しても遅いが、だからと言って何もかも投げ出していい理由はない。僕にできるのは…せめて、迷惑を掛けてしまった仲間たちのメッセージから目を逸らさない事だけ。
そうして登録順の都合先に来たであろう、キリトのメッセージタブを緩慢に押す。
【さっきはごめん。言い過ぎた】
……いや、なんでお前が謝ってくるんだよ。おかしいじゃん。お前僕を叱責する権利バリバリにあったじゃん。話し合い纏めようとしてるところ邪魔した僕になんで謝ってくるんだよ。
ふざけんなよ正しいことしたお前に先に謝られると僕の立つ瀬がないんだよ。どう答えりゃいいの?『別に気にしてない』だと何様だお前って感じじゃん。でも『こっちもごめん』って後から言ってもいや、先に謝るべきなのこっちだろって話だし。じゃあ合体させればいいのか?僕ならこの2フレーズ組み合わせて、やらかした側が後から謝ってきたら普通に腹立つんだけど。キリトはお前それで許せるのかお前。
ダメだ、いい返事を思い浮かばない。今返信したら妙な気の遣い合いで余計に罪悪感抉られそうな気がする。悪いがキリトへの対応は後回しだ。
気を取り直して開いたアスナのメッセージには。
【大丈夫?悩みとかあったら相談してね】
…………いや、なんでお前が僕の心配してくるんだよ。おかしいだろお前こそ怒れよ。流石にジャブだろうし追加の小言くらいは来るだろって身構えたまま2分経ったんだけど今。怖いよ。
というかなんで僕のこと心配してきたの?悩みが無かったらあんなことしないと思われてたの?普段から僕は醜態晒しまくってる社会性皆無の問題児だろ。それこそ普段そんな僕を諫める側じゃんアスナ。なんで今日に限って心配されてんの?
マジでどういう返信すればいいのか分からないんだけど。お言葉に甘えてお悩み相談すればいい?今のアスナの態度が謎過ぎるのが一番の悩みなんだけど。
本当に、僕が尻尾巻いて逃げたあとの20分くらいでどんなやり取りがあったのか。何となくだが、逆に普段通りの態度のストレアがなんかしたのでは、と思わなくもない。確証はないが。
そうして悩みに悩み、仲間たちへの誠意ある対応を何とか捻り出そうとした僕が、熟考の果てに選んだ答え。それは──
「……よし。買い物でもして気分転換しよう」
現 実 逃 避 。誠意とは何だったのだろうか。
しかしだ。どうせ僕のような失言モンスターは
失点を減らす方法が分からずとも、失点を増やさない為の振る舞いはできる。長年の敗戦記録がようやく役に立つとしたら、今がその時なのではないだろうか。多分。
そうして後ろ向きな英断(?)をした僕は二人への返信を放棄し、比較的気にせず話せるストレアにだけ「頭が冷えてから返事するって二人に伝えといて」と逃げの一手を打つ。
幸いすぐに彼女から「わかった」と返信が来た。いつも通り10秒と経たずに返信してきたのは気にしたら負けである。こういう時は普通に早くてありがたい。
考えてみればストレアに絡まれない買い物なんてここ最近、奴が健康的に寝てる時間にこっそりするのを除けばほとんど無かったのではないだろうか。ちょっと気付きたくはなかったが。
そう思うと無性に開放感が湧いてくる。そうだ、こういう心の余裕を得る為の買い物と考えるべきだ。今この瞬間くらいは気楽に買い物を楽しもう。
「っと……すいません、前見てなくて」
「おっと」
「気に召されるな。こちらも不注意でござった」
いけない、考え事しながら歩いてたせいで人とぶつかりかけた。先方はこちらを咎めないでくれたが、夜道をボーッと歩いていた僕の方に非がある。流石に気を抜きすぎたか。
などと自戒しつつ歩き出すと。
「そこの御仁!待たれよ!」
後方から先ほどの二人組の片割れと思われる鋭い静止の声が掛かる。やはり一言物申したくなったのだろうか。僕としては水に流したままでいてほしかったのだが。
少しばかり肩をびくつかせながら振り向くと、すれ違う時はさほど気にしていなかった、先方の容姿が街灯に照らされて浮かび上がっていた。
その姿はやや珍妙なものだった。二人組の装備は武器から防具まで完全に同一の物であり、パッと見で両者を区別するのは難しい。その上どちらも、まるで夜闇に溶け込むかのような、濃い灰色の布装備での統一だ。ぶつかりかけた僕が言うとあれだが、この装備で夜道を歩いていた二人組の方にも問題があるような──
(……あれ。なんか見覚えあるなコイツら…?)
背負った武器。曲刀一振り。
防具。布系、グレー統一。あとなんか顔をなんかのマスクとバンダナで覆って…。
と、そこまで考えてようやく僕は思い出した。
あのファッキンハゲ師匠の修行場に赴く前に出会った──忍者コスっぽい変人達を。
途端に湧いてきた嫌な予感に従い、僕の足は忍者もどき二名に背を向けガンダッシュを決め込んでいた。全力で逃走を始めた僕の背に、慌てたような息遣いが二つ向けられる。
「なぜ逃げるのでござる!?呼び止めただけでござろう!」
「黙れ不審者!追ってくんな!!?」
「拙者たちは怪しいものではござらん!貴殿に折り入って頼みがあるだけでござる」
「鏡を、見ろ!!頭のてっぺんからつま先まで怪しさたっぷりだよトッポかテメェらは!!」
【悲報】気楽な買い物、開始前に終了。
不幸があまりにもドンピシャすぎる。
あの、違うんです。責任逃れとかそういうあれじゃないんです。ちゃんと反省する為にクールダウンする時間欲しいなってだけなんです。なので勘弁してください追加の悩みの種対処できる余裕ないんです。
聞こえているかもわからない神への言い訳を内心で零しつつ走り続ける。が、相手はあのアルゴすら振り切れなかった
そして進行方向が柵に覆われた崖だったからだろう、どこか勝ち誇ったような息遣いが届く。
それらを無視し、僕は勢いよく柵を跳び越えて身を投げ出した。
「アイエエエ!?身投げ!?身投げナンデ!!?」
「ちょ、人生リセマラはファンキー過ぎるでござるよ!!?」
そこまで思い切ってねぇよソシャゲじゃねぇんだぞ。
文句を飲み込み、強烈な浮遊感から意識を切り離しつつ下を見る。
高度差、5m程度。垂直落下した場合、着地点は浅めの用水路。
身体が地表3mほどに差し掛かったタイミングで《体術》を起動。背後の壁を蹴りつけて落下の勢いを殺し、前方向に向けて受け身…!
現実では不可能な判断も、このゲームの世界では実行命令さえ正確なら挙動する。仮想の身体は脳内シミュレートの動きを完璧に再現し、狙い通りに下のフロアに軟着陸を成功した。
後方を見上げると僕の変則パルクールに度肝を抜かれたのか、忍者もどき二名がマスク越しでも分かるくらい顎を開いて呆然としていた。割と無茶したがこうもうまくいくと気分が良い。いつぞやの相棒の身投げ未遂を思い出して心臓バクバクなのを隠し、ついドヤ顔で応じてしまう。
「オタッシャデー、なんてね」
さて。一時はどうなるかと思ったがこれで晴れて自由の身だ。距離は稼いだし適当に追跡撒きながら今度こそ買い物……
なんて甘えた考えが良くなかったのか。
──Wasshoi!
……背後から変人共の近所迷惑なシャウトが迸り、それとは逆に先ほどの軟着陸地点の辺りに、シュタッという軽い音が響く。
連中は僕と違って壁を蹴って減速とかせず、ちょっと低めの跳び箱飛んでみましたくらいの気安さで着地してみせたのだ。今度は僕が顎かっぴらいてビビる番だった。
ドン引き中の僕に、二人の変質者の荒い鼻息が聞こえる。ついでに心なしか、先ほどよりも奴らの眼光がギラついていた。
「語録が分かり、身のこなしも十分。期待以上でござる…」
「ならば遠慮は無粋というもの…ここからは、全力でインタビューするのみ……!」
なんかピンピンしてるし、なんか活き活きしてる。端的に言ってキメェ。
言葉なく罵倒しようと状況は変わらない。しかし何故あの高度から着地してあそこまで元気なのか。僕は今もちょっと足痺れてるのに。
そういえばキリトが移動関連のステータスは大体AGIに集約されているからノーダメで着地できる高度はレベルとAGI値で判断する、とか言ってたっけ。いつか10mくらい無傷で着地できるステータスになったらアインクラッドの外壁をよじ登ってみたい、とかいう下らない話のついでに。
ならああいう無茶な着地とかもステータス次第では誤魔化しが効く──
(……待てよ。コイツらアルゴのこと普通に追いかけて捕まえてたような…?)
特に待ち伏せとか、罠とか、そういうの無しで背後を駆けずり回ってアルゴを根負けさせていた。つまりあの二人は最低限あの出歯亀ネズミより速いことになる。
そしてそのアルゴはと言うと、ストレアよりちょっと速いだけの僕は当然として、
アスナは逆にAGIに偏り気味だが、真面目なので確か装備重量や命中精度も考慮してSTRや
以上を踏まえて、僕の知り合いを当て嵌めつつ速度関係を図解すると。
ニンジャ≧(>?)アスナ≒アルゴ>>>キリト>>僕≧ストレア
こんなところだろうか。
……ひょっとしなくてもこの変人共、数値上ほぼ何の変化もないDEXに振ってる僕よりステータス高いな??
鼻息荒い変質者共と違い、僕の背中は冷や汗で湿りつつあった。またロクでもないことに巻き込まれたようだ。勘弁してくれ。
「さぁ!行くでござるよ!!」
「追跡者のエントリーだ!!」
「…………上等だよ。こちとら無様に逃げ回るのは大得意だ…いじめられっ子舐めんなよ……!!」
舐められてたからいじめられっ子だったんだよなぁ、というセルフツッコミを飲み込みつつ。
もはやヤケになったなった僕は、忍者もどき二名との鬼ごっこを開始した。
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