さて、ギルドの人に案内されて個室に移った私たちである。
私たちをわざわざ王都まで呼びつけた理由とは一体なんなのだろうか。
……はい、もう想像は付いていますね。ズバリ、お城の後ろにそびえ立つ塔についてでしょう! こんなん誰でも分かるわい! もし手元にお酒があったらやけ酒ですよこんなの!
いやね、王都では元々あんな風に塔が建っていたというならそれはそれでいいんだけど、明らかに周囲の建物と塔の形式やデザインはちぐはぐ。きらびやかな王城と、飾り気どころか苔生したような質素な塔。更に言えば王城よりもなお高いのだ。そんなものを王都の偉い人達が許容するはずない。という至極当然の推理である。旦那はもう少ししっかりとした推測を言ってた気がするけど、まあ同じようなものでしょう!
そして案の定、指名依頼としては塔に関わることであると、私たちの対面に座るギルドの偉い人(多分)が言った。おひげをにょろりと伸ばした痩せぎすの男性で、やや神経質そうなおじさんだ。
「現在、王都の騎士と冒険者が連携して塔の攻略に努めている。しかしながら、内部の罠は悪辣であり、攻略は遅々として進んでいない。あのようなみすぼらしい塔がいつまでも王城の背に控えているのは許せぬと、日に日に貴族からの圧がかかっているにも関わらずだ。よって、我々王都の冒険者ギルドとして、塔の攻略実績のある君たちを招集したというわけだ」
「確認をさせて頂きますが、我々を塔へ投入する、というわけではないのですね?」
「ああ、その認識で合っている。私たちも、騎士団も面子というものがある。ただ遅れているというだけの理由でよその人間に丸投げとはいかないさ」
そう言うけれど、この人はそうしたがっていそうに見える。この人よりももっと偉い人達からさっさとなんとかしろと無茶ぶりを受けているのだから、解決するのにどんな手も使いたいんだろうなと。でもそうすると自分の立場もなくなるから、ぎりぎり受け入れられる範囲として、私たちの経験談を聞くって言う対応を選んだんだろうな。いやぁ偉くなるって大変! ふと視線が合った先輩と小さく頷き合う。
「条件としてはこちらの通りだ。君たちが塔で遭遇した魔獣、罠、その他特異な現象について報告して欲しい」
「報告自体はギルドを介して行われているはずだが?」
「より、実態に近い情報を知りたい。君たちはたった一度の探索で塔を攻略し、破壊まで達成したと聞いている。生きた情報を聞かせて欲しい」
リーダーが横並びで座っている私たちの顔を確認する。この期に及んで断る選択肢はないけど、一応確認というわけだ。私としてはやらかしたことを掘り起こされる感覚だけどね。でも先立つものはいくらあっても困らないから。ということで依頼を受けることは確定だ。依頼票に"静かなる狼"と一筆書けば契約成立になる。私ならすぐに書いちゃうけど、うちのリーダーはここからが違う。
「依頼については我々は前向きに考えている。ならばあとは、契約について細かく詰めていこうじゃないか。ギルドは情報を重要と捉えている。結構! なら、それにどのくらいの値を付けるのかを聞かせてもらおうじゃないか」
ギルドの偉い人の顔が曇る。隣で同じように表情を曇らせている人に顎をしゃくる。多分実務的な話はその人の担当なんだろう。昔散々やり込められてきたんだろうな。
悲し気な担当者さんに比べると、リーダーの楽し気な笑顔は間違いなく暗黒無限。いついかなる時も最大利益の追求にいそしむ先輩とは違ってリーダーは立場の弱い人達には優しさを見せる。時には赤字覚悟の大盤振る舞いだってする。でもギルド相手なら気を遣う必要なんてないんだよね。むしろ対等にやり合える遊び相手だと思っている節がある。すごい見た目は悪い人って感じだけど、素で楽しくなってるんだよね、あれでも。まさに蒼貌の邪剣士そのものだけど。あんまりにもあんまりなその二つ名に、私はそっと目を伏せるのだった……。
***
リーダーとの金額交渉や師匠からの調査に必要な手続きを押しつけられて、ギルドの職員さんは随分と萎れてしまっていた。ほくほく顔の二人と肩を落として出て行く職員さん。せめて彼らへの幸運を祈りながら見送る。ちなみにせっかくなのでこの部屋をもう少し使わせてもらうことにした我々である。
「明日から依頼対応に入る。基本的には俺とリーダーでの報告となるが、細かい質疑についてはお前達にも当然協力してもらうことになる。うっかりうたた寝などしてくれるなよ?」
当然優先順位としては依頼対応になる。今日はギルドの人達が話し合い相手だったけど、明日からは実際に塔に入っていく冒険者や騎士団の人が相手になる。同じ冒険者なら身近ではあるけど、騎士の人に失礼があってはいけないと思う。が、騎士に会ったことがないからどのくらい偉いのかがよく分からない。
「師匠、質問があります!」
「なんだ」
「明日騎士の人達も来るんですよね? 騎士の人ってどのくらいすごいんですか?」
「当然来る。で、二つ目の質問については、騎士は単独で上位の冒険者と同程度の実力があると考えろ。馬に乗った状態であれば、それこそ冒険者では太刀打ちできないだろうな」
え、そんなになんですか??
「師匠やリーダーよりも強いんですか?」
「嫌な質問をするな、馬鹿者。まあ騎士の半分は俺たちよりも上の実力があると考えて良い」
「彼らは国を守るために、戦いの技をひたすら磨いているからね。上位騎士になると剣と魔術を平気で組み合わせてくる。一人だけでも何でもできる、それが集団戦をこなすんだから、そこらの冒険者では相手にならないよ」
私なんて魔術を歩きながら使うのでさえ大変なのに、剣を振るいながらだなんて信じがたい。師匠だってそこまでイカレたこと──してるな? 普通に前衛に混じって剣振ってるわ、この人。
私の気づきに師匠が咳払いをする。
「一応言っておくが、俺のはリーダーと旦那の援護ありきだ。さすがに騎士ほど自在じゃない」
どうもこの人達の発言は信用して良いのか怪しいんだよなぁ。だって塔を苦戦するほどでもなく攻略しているし。騎士に忖度しているのでは? 疑問が顔に出たらしい。先輩が横から私の頬をつねり上げる。痛い、痛いから止めてぇ!
「アンタは気付いていないようだけど、私たちが攻略した塔の倍くらいはあるわよ、王都の塔は。それに一度会えば実力なんて分かるものよ。明日、アンタが失礼な真似をしないように、今体に覚え込ませてあげる。変に舐めたこと考えるんじゃないわよ」
「ふぁい。わあっあのではなひてくだはい……」
痛いなぁもう! どうにも先輩や師匠は私のほっぺたをつまんで楽しいおもちゃのように考えているふしがある。いつか下剋上を果たした日には、二人のほっぺたも散々引っ張ってやるからな、と密かに復讐に燃える私である。
ちなみに私たちの街は冒険者という戦力が豊富だから、わざわざ騎士が派遣されることはないんだって。
さて、散々脱線したけど、基本的には聞かれたら答えるってことで良いんですね。じゃああんまり話すこともない気がしますけど。その考えはみな同じだったようで、四対の瞳が真っ黒くろすけ師匠にぶつけられる。もし視線に熱があったらこの黒いローブは燃えていただろうな。
「一つだけ注意をしておく。魔人についてだ。恐らくは王都の塔にも守護者として魔人がいるはずだ。塔の規模から言えば、俺たちが相手をした魔人よりも格上のがな」
そりゃそうだろうけれど、それがどうしたんだろう? 大人しく師匠の言葉を待つ。
「どんな魔人だったかは俺がまとめて話す。おかしな伝え方をすれば騎士団の壊滅に繋がりかねん。騎士は練度が高い分、プライドも相応にある。下手に騎士道精神を発揮されて全滅されてもかなわん」
騎士道精神って、そんなに危険な考えなんです? お姫様を助けに行く高潔さ、みたいなものじゃないのかな? ……どうも違うみたい。師匠は真面目な顔を崩さないし、リーダーは頷いている。え、本当に?
先輩に後でこそっと聞いてみたら、一対一で戦おうと言い出すのを懸念してるんだって。そんなことある??
***
打ち合わせを終えてギルドを出れば外は既に夕暮れ。とりあえずは食事かなぁ。一度宿に戻っても良いけれど、わざわざ出直すのも面倒な気がする。
昨日はとりあえずでお店に入ったけれど、ここには二人王都に慣れた人がいるわけで。さてさて、おいしいお店を教えて欲しいなとねだってみる。
「構わんが、まだやってるかは分からんぞ」
「極黒の苗木亭かな? 私たちのこと覚えていてくれるかなぁ」
多分覚えてると思う。青白いのっぽと全身黒づくめ、嫌でも覚えるって。
王都の大通りを固まって歩く。あちらそこらに街灯が灯っていて歩くのには困らない。手持ちのランタンなんていらないんだね、王都では。道理で道行く人も手ぶらが多いわけだ。地元じゃ手持ちの明かりは必須だもんなぁ。基本手ぶらなんてありえないことを考えると、王都は先進的だね。
これから食べるべき食事のメニューを想像しているうちにお店に着いた。ガランガランと扉に着けられたベルが来店を知らせている。
店内に入れば案の定店主は二人のことを覚えていた。しかもこの人、リーダーとかなり感性が近い。店名が極黒の苗木だという時点で少し怪しく思ってたけど。まあおいしいご飯が出てくるなら文句はない。リーダーのセンスに限ってはつける薬はないからね。
リーダーが気取っていつものを、と言う。店主は何も言わずニヤリと笑う。……もう何なの? 言いたいことはたくさんあったけど、師匠が死んだ目をしていることで私たちも察する。
店内を見回せば壁に据付られた棚には種類豊かに珍妙なものが置いてあるのが見えた。何かの頭骨、角、使いにくそうな形のナイフ、きれいに磨かれた水晶。脈絡も何もない。しいて言えば男の子が好きそうなものってくらいか。リーダーが時々私たちに自慢する自称逸品に似た雰囲気のものばかりだ。
「この店に、通っていたんですか」
「味はな、いいんだ……」
「じゃなかったら酷いわよ……ほんとに」
「それなりに繁盛しとるようだし、王都で何年も店を維持できるだけの味ではあるんだろうなぁ。というかそうであってほしいもんだ」
そんなことをひそひそ話す。さすがに悪口に片足突っ込んでいるから聞かれないようにだ。
でもご安心。運ばれてきた料理はどれも見た目はばっちりで、中身も最高だった。店主の人がいろいろと料理について解説してくれていたけど、どれもこれも耳に滑る話だったのはここだけの話ね。
しばらくは舌鼓を打って、ある程度お腹が満たされたら話も弾む。なにせ王都だ。依頼対応とかは置いておいて、楽しい話をする。やっぱり王都の人はおしゃれな人が多いよねとか、夜なのにランタンいらないことも話した。ちゃんと火をつける時間とかも決まっているんだって。さすが王都。さらに言えば、王城の中は火ですらないらしい。魔術による明かりで夜まで明るいんだとか。私も師匠も明かりの魔術くらいは使えるけど(最近覚えたのだ)、あんな巨大な建物の中を照らしつくすなんてすごすぎる。
なんてことを楽しく話していたら、いきなり知らない人が机をバンと叩いてきた。え、何事ですか??