えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??   作:朝食付き

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5.えっ、私のアホがバレちゃいませんか??

 紆余曲折あれど、報告会は無事終了! 半日以上しっかりと質疑応答したんだからご満足いただけたことでしょう! 明日もやるとか言われたら泣く。当然そんなことはなく、部屋を出ていく騎士や冒険者を見送る。同じく見送りしているギルドの偉い人と最後に少し話して、後はご自由にと言うわけだ。

 

 半日以上しっかりと質疑応答したせいでリーダーの声がちょっと枯れてる。ねぎらいの意を込めて水を差し出す。ついでに師匠にも。

 

 あとはここのギルドに完了の報告をして、それでおしまい。本当なら依頼が終わった森の街へと帰るべきなんだけど、一応私達って追放された身なのである。少なくとも私の魔術で崩壊した建物の類が直るまでは帰るわけにはいかない。悲しいことに、私たちは王都で当分は過ごすことが決まっているわけだ。とはいえこの依頼を仲介してきたのは森の街にあるギルドだから、そっちへの報告もしなくちゃならない。直接というわけにはいかないからお手紙だ。きっちり書面で書きあげる必要があって、それで二、三日ほどかかった。でもやらないとならないことはそれでおしまい。もう、自由なのだ!

 

 ああ仕方ない仕方ない。何もすることのない時間が発生したというのはとても仕方のないこと。だからね、このおしゃれのあふれる街をね、練り歩くしか時間をつぶす方法などない! と思っていたのはどうも私だけだったらしい。

 

 今日は出かけてきますねー、とウキウキの所を師匠に捕まってしまった。師匠は真っ黒な目で私に良い所に連れて行ってやると言ったのだ。正直碌なところじゃないだろうなと思いつつも、私は従うほかなかった……。なにせ私ったらこの黒いのの弟子だから。

 

 ***

 

 そうしてやって来たのがここ! 大きな建物が並ぶ王都の中心部である。不思議と静けさが満ち満ちているそこは、この国最大の魔術師の巣窟、魔導学院であった。

 

「ここが、魔導学院なんですか……?」

「さっさと入るぞ」

「待って! 待ってください!!」

「……なんだ、いきなり」

「見て下さい。周りの人たちと、私を。……大丈夫ですか? 私浮いてません? 浮いてますよね? こんなアホが浮かれて紛れ込んだのかって思われてますよねっ?!」

 

 私は心からの不安を吐き出した。だというのに、師匠はすでに歩きだしている。なんてことだ、弟子の悩みを優しく受け止めるのが師匠の役目ではないのか?!

 まあ、この真っ黒くろすけがそんな風に優しくしてくれたことなんて無いんですけどね……。さてさて、私たちが何でこんな賢げな場所に来たのかと言えば、……何でだ?

 

「師匠、私たちここになにしに来てるんです?」

「学院だぞ? 学びに来た以外に何がある……」

「友達探しとか……? 師匠も学院に一人くらいは……いますよね?」

「いない前提で言うのはやめろ。そもそも俺は学院の卒業生ではない」

「あれ? じゃあ部外者が中に入っちゃ駄目なのでは?」

「ギルドとの打ち合わせで何を聞いていたんだお前は。塔について調査する題目で許可を申請していただろうが」

「あー、師匠の分担かと思ってました! やめて! 顔掴まないで!」

 

 師匠の無駄に有り余る握力が私の顔面を握りしめるのであった。

 

 そう、師匠は塔についての報告および調査協力の見返りに、しれっと王都での魔導学院立ち入りの許可をもらっていたのだ。全く抜け目がないとはこのことだね。

 ちなみに魔導学院ってのは貴族とか裕福な家の子女、才能あふれる人間が通う場所で、私や師匠のような木っ端はお呼びではない場所なのだ。師匠は知識や技術はともかく魔力が全然足りないし、私は頭が足りない。……。師匠は頭のできなら余裕だと思うけど、なにせ魔導学院だから。魔術を十全に使えないって判定になっちゃうんだろうね。魔力タンク使ってるなんて聞かれたら馬鹿にされそう。私もなるべく口を閉じておこう。だってこの賢い人ばかりの空間では口を開くだけでアホがバレそうだからね!

 

 わちゃわちゃと私と師匠は頭の悪そうな(確定はさせない)やり取りを終えて受付に向かう。この学院はこの国、いや大陸で最大の魔術師の聖地?なのでとても広い。他では見られないような四階建て五階建ての建物が並んでいる。高さだけなら塔の方があるけど、ずらりと大きな建物が並んでいるのは壮観だ。

 

 中でも一番大きくて立派な建物へと師匠はズカズカ入り込む。なんでこの人はこんなに我が物顔で進めるんだろう……? 重そうな扉をくぐれば中は耳が痛くなるほどの静寂が響く。何も聞こえないのが聞こえる! もう何言ってるか分かんないけど、これはなかなか出来ない体験ですね! と、横にいるはずの師匠に話しかけると、それは全然知らない人だった。

 

 はぁ、と会釈されてそのまま知らない人は去っていく。師匠はさっさと正面にある受付で話を始めている。多分私の顔は熱した鉄よりも真っ赤になってる。軽口にすら付き合ってくれない師匠を許していていいのか? いや良くない!

 

「なんで先行っちゃうんです!? 恥かいたじゃないですか!」

「いつものことだろう……。お前の奇行にまで責任は持たん。それより騒ぐな。つぶすぞ」

 

 つぶす?! いつになく過激な言葉。これはあれかな、師匠もそれなりに緊張してるのかな。じゃあ仕方ない。そもそも私も騒ぎたくて騒ぐわけじゃないし。口論は良くないことだ。ただし、ここを出たら覚えていろよぉ……!

 

「お待たせしました、こちらが登録証になります。もう一枚はこの方ですか?」

「ええ、その通りです」

「承知いたしました。こちら証明書に魔力を注いでいただけますか?」

 

 差し出された証明書とやらに手をかざして魔力を注ぐ。それは手のひら程度の小さな板なのだけど、魔力のナンタラカンタラで識別が出来るらしい。要はこれがあればここにいていいってことだな!

 

 証明書を受け取ると、ようやく本の森への入場が出来る。入り口は魔術による結界が張られていて、証明書なしだときっとすごいことになってしまうのだというのが肌で分かった。そして中に入ると、軽くゾッとするほど本が並んでる。こんなに大量に。よく書くことがあるものだなぁ。などと感心しきりである。

 

 しかしそんな人間的な情緒を一切解さない人間がいる。師匠だ。感動にむせぶ私を一顧だにすることなくさっさと歩き出していたらしい。すでに師匠の姿は見えなくなっている。

 まずい。こんな右も左も本だらけの場所で置いてかれたら困る!

 

 なんで連れられてきたのかさえ教えてもらってないのだ、私は! 仕方ないからと言って適当に面白そうな本を読んですごすか……? いや、それでは師匠は納得するまい……。さ、探さなきゃ! ようやく私は慌てて辺りを捜索し始める。まだ遠くまでは行ってないはず! 私の目の前を通らなかったし、後ろに回り込むはずもないから、探すべきは右手側!

 

 はずれ! 誰もいねぇや。

 

 しかしなんでこうも迷路のように妙に入り組んだ造りにしてるのか! そのせいでいちいち奥まで覗き込まなきゃならなくて時間がかかる。もはや師匠を探すどころではない。なにせ焦って本棚の群れに突っ込んだせいですでに現在地を見失ってるのだから。

 

 どこをどう見渡しても本と本棚と本と本しかない。入口どころか出口も見つからない! 何日もこの本の森でさまよう姿が脳裏に浮かぶ。げっそりとやせて元気のない私だ。かわいそう……。いやいや、そんなことになってたまるか!

 

 勢い込んで通路を驀進し、ひたすらに出口を探す。難なら知らない人でもいい。とにかく道の分かる人に会いたい。

 

 ……もう笑うしかない。しばらく歩き回っているというのに、人っ子一人いやしない。もはや師匠の顔でさえ懐かしく思える。私はこの本の中で遭難した愚か者として語り継がれることになってしまうなぁ、と一人で泣き笑いをする。うううとブツブツ言いながら歩き続けていると、突然知らない人と目が合った。

 

 明らかに異常行動をしている私にドン引きしている。だがこれは千載一遇のチャンス! 森歩きで培った滑らかな歩法で逃げられる前にその女性の手を取る。思わずといった風に手を振りほどこうとする女性。気持ちは分かるけど、私も必死なの。ごめんね、とばかりに離さない。

 

 悲鳴を上げられる前に助けを求める!

 

「ごめんなさい、すみません、迷子なんです! 出口を教えてください……!」

「離しなさ──え、あ……迷子?」

「そうなんです! 師匠に連れられて来たんですけど、何にも言わずに師匠はどこかへ行っちゃって……。探してたらもうどこがどこかも分からなくなってしまったのです……」

 

 できるだけ哀れっぽく、演技1割本音9割のほぼ本音で助けを求める。その女性、きっちりとしたシャツとタイトなスカートのお姉さんは、警戒しつつも抵抗を緩めてくれた。

「……ここに来たのは初めて?」

「はい! 王都にきてから三日目です!」

「ええとそうではなくて、図書院に来たのがなのだけれど」

「あっはい、初めてです」

「一応証明書を見せてもらえますか? ええと、私はこの図書院に勤める書士です」

 

 今更ながらに自己紹介。別に助けてくれる人を疑うことはないけど、むしろ問題は推定不審者の私だろう。

 懐から入館証を取り出す。こうやって見せないとならないなら紐でもつけてぶら下げたほうがいいのかな。書士さんは私の証明書に何か小さな箱を当てている。きっと何かが分かるんだと思う。

 

「はい、結構です。では出口まで案内をさせてもらいますね。皆さん、初めてだと迷われてしまう方は多いんです」

「ですよね!」

 

 優しいフォローにちょっと泣きそうだ。さすがに半べそをかく人間はそうはいないよね……。

 本棚の迷路を書士のお姉さんは迷うことなく歩く。実のところ、本棚には一つ一つ番号が振られているのだそうだ。確かに本棚の上の方に大きく数字が描かれている。これで大体の位置が分かると。これなら待ち合わせとかも出来ちゃいますねなどと歓談する。優しいお姉さんを見つけられてよかったなぁと思っていると、通路に立ったまま本を読んでいる邪魔な影。もう通りにくいなぁと思って眉をひそめてみれば、それは師匠である。そうだ、師匠を探しているんだった。忘れてた。

 

「あの、そこに突っ立ってるのが私の師匠です。なので、外まで出なくても大丈夫になりました。ありがとうございます」

 

 丁寧に頭を下げる。なのに何にも反応がないものだから、ちらりと目線を上げる。おや、なんだか書士さんの表情が固くなっているぞ? やっぱり通路の真ん中で読書は良くないってことかな?

 

「なぜあなたがここにいるのです?」

 

 私に親切にしてくれた書士さんは、師匠の顔を見るや血相を変えてきつい言葉で詰問し始めた。これは、ことだぞ? いや、落ち着いて下さい、その人は私の師匠なんですと袖を引くが、どうにも止まらない。

 

 師匠はと言えば、本をゆっくり丁寧に閉じている。そして本棚に本を戻してから、ようやく書士さんに向き直る。少しはこの状況にあせったらどうなんだと言いたい!

 

「証明書だ。確認しろ」

 

 師匠は懐から証明書を出してお姉さんに差し出す。お姉さんはぎゅっと口を引き結んだまま、その証明書を穴が空きそうなほどに見つめている。さっきと同じように小さな小箱を使って何やら確認し、それから証明書を師匠へと差し戻す。

 

「構わんだろう?」

「ええ。間違いなく、正式な証明書だもの。……随分かかったみたいだけど、ようやくここに来られたのね。歓迎するわ、黒の術士殿?」

 

 え?

 ええ??

 

 あんなにとげとげしてて、いかにもあなたはここにふさわしくありません! とか言いそうだったのに、すごいほんわりと師匠へと笑いかけている! なに? 一体どういうことなの??

 混乱している私にお姉さんが気付き、照れくさそうに笑う。

 

「一応私はここの書士だから、ちゃんと確認しないといけなかったの。この人ね、昔偽造の証明書つくって入ろうとしてたことがあるから」

 

 師匠を見れば、あさっての方向を見ている。これはやってるやつだ! もう何してるのこの人! 国で管理しているような魔導学院の図書院だぞここは! そんな所に偽造した証明書で入りこもうだなんて、まともな人間の考えではない。むしろこのお姉さんの対応で済んでるのが奇跡なのでは? やはり不審者としてしょっ引くべきでは?

 

「い、一応ね、当時は実践する前に自分で破棄してたから……」

 

 焦りながら師匠を擁護する書士さん。これはこの人も偽造に噛んでるな? なんだかこの人も師匠と同類な気がする……。普通は偽造の時点で牢屋行きでしかるべきでしょ、こんな不審人物! 過激な私の発言に書士さんがちょっと引いている。おっと、本音が出すぎたかな?

 

「さっさと行くぞ、馬鹿弟子。……いや、書士殿にも来てもらうべきか」

「私も……? ええと、文書検索とかの対応であれば受け付けるけれど……」

「調べたいことがある。できれば詳しい人間の知識が必要だ」

「そう? なら少し待っていて。対応業務として申請してくるから」

 

 そういうとスタスタと書士のお姉さんは姿を消す。どうも師匠はがっつり調べたいことがあるらしい。これは弟子としての勘だけど、かなり大変なことだと思う。きっと書士のお姉さんも後々後悔することになるんだろうなと、私は他人事のように考えるのだった。

 

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