えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??   作:朝食付き

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10.えっ、やっぱり私たちも塔に登るんですか??

「そろそろ私たちに招集が来るよ。だから塔の攻略に備えて必要なものを集めておいてもらえるかな」

 

 くたくたになりながら戻ってきた次の日。

 

 朝ご飯をもりもり食べていると、小さなパンとささやかな野菜をつついているリーダーが不穏なことを言い出した。どうもここ何日かで状況が変わったらしくて騎士団とギルドが何やら慌ただしいとか。

 

「こう言っちゃなんですけど、なんで今更そんなことになってるんですか?」

「君たちが王都を離れていた間にね、塔から魔獣が溢れ出したんだ。騎士団が何とか押しとどめたんだけど、城の貴族連中がパニックを起こした。こんな危険な塔だとは思わなかったらしいよ」

「んん? 危険だから騎士団を送ってたのでは?」

「王やまともな貴族はね。それ以外の声だけは大きい連中はなーんにも考えていないのさ。塔を王都の新しい象徴にしようって言い出す輩もいたらしいよ。もちろん、今では騎士団に早く壊せって日参しているとさ」

「いつ塔を崩すんだ、ですか」

 

 リーダーは頷く。気のない様子でパンをちぎって口に入れている。もぐもぐとよく噛んで食べるものだなぁ。私も釣られてよく噛むようになってしまう。

 

「そんなうるさい連中に私たちのことがばれた。しかも塔を完全に消滅させたって話だけが一人歩きして伝わったから大変だ。なんで専門家を使わないんだってお怒りらしいよ?」

「専門家って……。こないだみたいな解体したら王都壊滅ですよ? そんなことになったらもう行き場なんてなくないですか?」

「その時は俺たちも行き場を考えるどころじゃないだろうがな」

 

 おや、師匠もおはようございます。そのまま私の隣に座ろうとした師匠は、私の目の前に盛られたパンをみて嫌な顔をした。この人も割と小食だからな。あんまり朝からたくさんの食べ物を見ると食欲がなくなるんだとか。しかし今更席を変えるのも面倒なようで、仕方なさそうに腰を下ろす。食卓から目をそらしながら、水差しから注いだ水を一杯飲んでいる。朝ご飯は一日の元気の素ですよとパンを一つ差し出せば、ため息をつきながらちびりちびりと食べ始めた。

 

「実際のところどのくらいで呼び出されそうです?」

「二、三日中には呼び出しが来るんじゃないか。俺たち全員が揃うのを待っていただろうからな」

「今日にも使いが来てもおかしくないと思うよ」

 

 私としては呼ばれないことを祈りたい。せめて五日、いや十日はゆっくり休みたい。まだ先輩とお買い物に行ってないし、書士さんとご飯を食べに行く約束も果たしてない。追放される前に、いや追放されるとは限らないけど、それでも楽しいことは先に済ましておきたい。

 

 というか書士さんだ。

 

「師匠、書士さんはどんな感じですか??」

「ん? 順調だ。旦那から聞いた情報を共有するつもりだが、かなり面白いことになるぞ」

「……別にそれはいいんですけど、前に約束したじゃないですか、ご飯行こうって。その余裕がありそうかってのを聞きたいんですよ!」

「ならはじめからそう言え。まあ大丈夫じゃないか? 今日会ったら聞いておいてやる」

 

 やたっ! 優しくて頭のいいお姉さんとのお食事、楽しいに決まってる! ええと、どこのお店がいいかなぁ。いえ、お店は私が決めます。リーダーは黙ってて下さい。なんとなくだけどね、リーダーの感性と書士さんの好奇心は相性が良すぎる気がする……。壁に飾られた得体の知れない動物の骨について早口で話し合う姿が想像できてしまう。私としてはお上品にお肉の焼き加減を語り合う感じの、女の子っぽいやりとりがいいのだ! なんですか、文句があるなら聞きますよ師匠?

 

「……何にしても、塔への準備はしておけ」

 

 了解です!! 

 

 ***

 

 急ぎ飛び出して消耗品の手配にいそしむ。いそしんだ。

 あまり治安の悪そうなところは行かない、寄らない、入らない。騎士君にもらった忠告を忘れずにと。大通りに面した明るい雰囲気のお店に顔を出せば用は済む。しかし傷薬とか消毒薬の値段が妙に高くなっていることには閉口した。値切りがてら話を聞いてみれば、街の中まで魔獣が溢れた話が伝わっているみたい。まあ死活問題だもんね。王都から逃げるのも大変だし、せめて何かあったとき家の中に隠れられるように準備する。私だってそうするもんな。

 割と早く宿を出たのと、最近は冒険自体をろくにしていないこともあって補充はすぐに済む。太陽が真上に昇る前には無事完了した。

 

 そんなに重要っぽい話が聞けたわけじゃないけど、一応はみんなに向けて状況を報告する。例によってリーダー達男子の部屋に集合して、好き勝手に腰を下ろしている。さすがに寝坊すけの旦那と先輩も起きてきているから、全体での情報共有と今後の行動について話し合いを実施中の真っ最中。

 

「今のところ魔獣は押さえ込めているみたいだね。でも多分長くは持たない。騎士の専門は人間相手の治安維持と街道の魔獣たちだからね。だだっ広い外で魔獣を相手にするのと、塔の狭い通路で魔獣と戦うのじゃ勝手が違う」

「冒険者連中も同じだ。むしろ王都じゃ戦闘を騎士に投げられる分、調査や探索を専門にする連中が多い。塔の探索自体はそれでいいが、戦力としてはな」

 

 いつものようにリーダーが話し、師匠が補足する。先輩と旦那が気になることを指摘し、やるべきことがはっきりとしていく。私は、まあ賑やかしだけど。でも黙って聞いているわけではないのだ。

 

「師匠、私たちが呼ばれるとしたら、それは誰からの依頼になるんですか?」

「……ギルド、いや騎士団になるか? 分からんな、リーダーの意見は?」

「んー、ギルドかなぁ……。騎士団がってなると面子に関わるし、貴族連中が金を出すとは思えない。それもあって揉めているのかも知れないね」

「言っとくけどね、ただ働きも奉仕価格も嫌よ? むしろ私たち指名ならがっつり報酬はふんだくらなきゃ。王都のギルドなら足下見たって良心がうずくこともないでしょ?」

「そこはね、私も遠慮するつもりはないよ。別に拠点というわけでもないし、彼らにも勉強して貰うさ」

 

 ふふふと笑う二人にややドン引きである。でも報酬が多いに越したことはない。消耗品費もそれなりにかかってるし、私のご飯やおやつと服にもたくさんお金がかかる予定なのだから。

 

 想定される条件について好き勝手話していると、部屋の外が少し騒がしくなった。そして階段を上がってくる足音。1人ではなく、二、三人はいると思う。ピタリと口を閉じた私たちとは対照的に、いかにも急ぎですという雰囲気で扉が叩かれる。

 

 代表して旦那が応対する。一番扉の近くに座っていたからだ。正直私が対応することにならなくて良かったなって思った。なにせ旦那のふくよかな体越しに見えた来訪者はとても汗だくで、特徴的な話し方のせいで微妙につばが飛んでいるのが見えたからだ。

 

 分かった分かった、すぐに降りていくから外で待っていろ。旦那が私たちにも聞こえるように少し大きな声で言って来訪者を追い払う。やれやれ、短いお休みだったなぁ。これからはじまるめくるめく階段地獄に眉も下がるってもんだ。

 はじまっちゃいましたねと振り返れば、リーダーと師匠は既に腰に剣を佩いている。いつの間に……。

 

「ほら、私たちも準備するわよ。どうせ外に馬車を待たせてるんでしょ?」

「みたいだなぁ。依頼受理して、急ぎ塔に向かって欲しいとさ」

「あーあ、うかつな動きねぇ。ここまで急ぎってなると、かなりふっかけても良さそうよ?」

 

 悪い顔をしている先輩の背中を押しつつ急ぎ女子部屋に戻る。ある程度用意はしているからそこまで慌てることはない。普段着を脱いで丈夫な麻の服に着替える。ゴワゴワで着心地は良くないけど、きっちり編まれた生地は多少の攻撃では破れない。その上から革の前掛けをする。胴体に巻き付ける様にして大事なお胸とお腹を守るのだ。そしてその上にいつもの薄紅のローブ。首元に狼と森林が刺繍された、お気に入りだ。色んな道具を入れたポーチを腰に巻いて、小さめの背嚢を背負えば準備完了! 軽鎧を身に付けた先輩とお互いの装備を確認し合う。これで良し!

 

 タッタカと宿を出れば、これで全員集合。迎えの人に急かされながら馬車に乗り込む。これがまた豪華な馬車なんだよね。

 

「随分と物々しいな」

「そんだけつつかれているんだろうて。こりゃ責任重大かも分からんぞ」

「負う気もないくせによく言うわ」

「冒険者だからなぁ。ま、信用だけは大事にしてこうや」

「ピカピカした金色のヤツだね。さ、馬車が動くよ」

 

 がたぴしと王都の街を馬車が走る。しかし何かおかしいね。ええと、ギルドがあるのは街の中央で、宿からなら太陽に向かうはず。でも逆に向かっているね?

 

 不思議に思ってみんなの顔を見る。

 嫌そうな顔の先輩。口を引き結んだ旦那。天を仰ぐリーダー。目が死んでいる師匠。いや、これは元からか。

 

「これってもしかしなくても切羽詰まってるってことです?」

「それも相当にな。ほとんど現地徴用だ。これだと実績ベースでの交渉になるな。なかなか大変だぞ?」

 

 皮肉っぽく笑う師匠に先輩がかんしゃくを起こす。

 

「ああもう! いっちばんめんどくさい奴じゃない! あんたたち、塔に入ったらやったこと全部覚えておきなさい! 交渉に使うから、どんな些細なことも忘れるんじゃないわよッ!」

「んな無茶な……」

 

 あとから報酬を決めるのって揉めるんだよなぁ。先輩が無茶を言うのも無理はない。終わりよければ、みたいな顔してガンガン値切ってくるもんね。私の楽しい王都生活のために、私も先輩に貢献しなくてはなるまい。できるだけ書き留めるようにしておこうかな。

 

***

 

 塔の入り口にぽいと放り出された私たちの元に、ギルドのお偉いさんが駆け寄ってくる。

 

「状況は分かっているな? 緊急依頼だ。君たちにはうちの冒険者と、騎士団の精鋭とで協力し塔の無力化をしてもらいたい」

「連携ですか。まずは状況を説明していただいてからでなければなんとも言えませんな」

 

 とぼけた顔でリーダーが嘯けば、お偉いさんは青筋を立てそうなくらいに顔を真っ赤にしながら説明を開始する。

 

「塔の内部では魔獣が大量に発生している。騎士団が即時対処しているが、だんだんと発生間隔が短くなっている。このままでは王都に魔獣が溢れる。その前に何とかしてくれ!」

「委細承知した。その依頼は我々静かなる狼が承る。期待に添うよう全力を尽くそう」

「……頼む」

 

 焦燥感に焼かれたような顔だ。街を守るのは騎士団である。でもギルドが守らなくていいってことにはならない。むしろ騎士の手が届かない役目を果たしてきたという自負があるんだと思う。だからこそ、その平和の崩壊が目に見えている状況が歯がゆくて仕方ないのだろう。

 

 報酬の話をしなさいよ……と先輩が後ろでため息をついている。でも仕方ないね。私たちは、そういうことの専門家なのだから。

 

 街道に魔獣が出たなら騎士団が頑張る。遺跡の罠や仕掛けであれば冒険者がやる気を出す。じゃあ禁術まみれの謎の塔、これはどうだろう? 実際のところ対処できる人間なんてそうはいない。魔術や禁術への深い知識、古い時代の塔自体への知識、現れる魔獣を即排除できる戦闘力。

 

 冒険者のパーティがどれか一つでも持っていれば立派なものだと胸を張れる。そんな技能と知識をばっちり備えているのが私たち静かなる狼なのだ。実績も十分。私たちほど適したパーティは他にいないのである。

 

 

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