えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??   作:朝食付き

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12.えっ、冗談は服装だけにしてくれませんか??

 

 騎士団の人達に護衛されつつ塔の中に入った。中はといえば、思い切り薄暗い。いや、明かりもない塔の中なんだから当然なんだけども。森の塔だとなぜか明るくて見通しが良かったから、同じ塔でも随分違いがあるってのが早くも分かってしまった。

 

 まずは今いる一階から八階まで一気に駆け上っていくことになる。外から確認できる限り十二階建ての塔だから、結構上まで騎士団の人達は進んでいるみたいだ。例によって禁術で見た目よりも遥かに広い塔の中だ。護衛される側だから歩くだけとはいえ、適度に休憩を取りつつ向かわないとね。長丁場になるから水も食べ物も持ってきていることだし、ご用命はいつでもね!

 右手に構成を組んで、明かりの魔術を起動する。騎士の皆さんもおのおの松明を持っているけど、明かりなんてたくさんあるに越したことはないからね。

 

 松明の揺れる灯りと私のぺかっとした明かりの下、てくてくと塔の通路を歩いて行く。床は茶色い石畳というかそんな感じ。薄暗い割には苔生した感じはしない。こないだの遺跡と比べると平坦で歩きやすいけど、代わりに道が複雑だ。今回に限って言えば既に地図は完成していて、おまけに何度も騎士さん達は何度も往復している。だから迷うことだけはないのが安心だ。

 

 代わりと言ってはなんだけど、魔獣の出現数が多い。本当に代わりにはならないな……。時々というよりは短い間隔で戦闘が行われている。

 

 ざっくりこの行列を説明すると、一番前に冒険者の斥候役がいて、次に護衛と戦闘を担う騎士団の人達がいる。私たちはその後ろにいて、一番後ろにも護衛の騎士さん達がいると。

 先頭の斥候役が魔獣を確認するやいなや、素早くその情報が共有される。先制攻撃をするために、言葉ではなく身振り手振りによる無声連絡だ。騎士が一気に突進、制圧を行っていく。どんな魔獣だったのかを私たちが知る頃には撃退済みというね。いやはや、さすが騎士としか言えない。あまり狭い塔の中で戦うことになれていないっていうけど、安定感が違うね。私たちが戦うのとも遜色ないんじゃないかな? いやはや頼もしいことである。

 

 私たちと言えば戦いこそしないけど、それぞれやることはある。旦那と先輩は受け取った地図と現在位置を都度確認している。間違いはなくとも、前みたいに全力疾走で撤退する可能性がないでもないし。

 塔の攻略は私は二回目だけど、魔獣の相手をしなくて済むということと、地図がすでにあるという二点だけでものすごい差を感じる。特に地図はね、とにかく描くのに時間がかかるから。地図を描き間違えたりすると一階層丸々描き直しとかも普通にあるらしいし。旦那でもやらかすことはあるみたいだからその難易度がよく分かる。

 

 先輩の肩越しにのぞき込んでみる。きれいに書き上げられた地図には階段への最短経路が載っている。きちんと線の一本一本がはっきりと書き込まれている。略語だとか崩し文字も一切無し。うん、わかりやすそう。いつだったか書き方を教えてやる、なんて言われてたけど、できれば私はやりたくない。ここまできっちり書くってのが大変そうだって思うのと、責任の重さがね……。いや、やり方だけは覚えておきたいけど。さすがに私にお鉢が回ってくることはないだろう。

 

 私から見れば完璧な地図だけど、旦那はなんとなく書き込みしたそうな顔をしている。まだまだ書き込めると思うのか。さすがですなぁ。それとも人の書いたものじゃ落ち着かないんだろうか。とはいえのんびりする暇はないから我慢ですよ。

 

 地図を元に選んだ道に従い、寄り道一つせずにサクサクと進む私たちご一行。非常に順調だ。護衛の騎士さんたちは大変だろうが、私たちは歩くだけだものね。コツコツと石造りの床に私たちの足音が響く。薄暗い通路に足音だけが。これじゃ怖い話の導入だね。

 先輩達は地図を確認する。師匠と私は塔の禁術を確認する、と。間違いなく魔術師の領分……といいたいけど、禁術は魔術師の手に余る。私に限っていえばちんぷんかんぷん。一応こまめに塔に組み込まれた術式を読み解こうとするけど、ごちゃごちゃしすぎて目が回りそうだ。あんまり役に立てそうにない身としては、せめてと明かりをもう少し強くするしかないのだった。

 

 この行程は私たち静かなる狼的には余裕のある攻略だ。けど、騎士団の人からすれば大変な道のりだよね。止まらないように速攻で魔獣を倒し続けなきゃならないんだから。それも大量に。三階まで上ったところで小休止。少し大きめの部屋で荷物を下ろして水分を取る。そこに護衛をしてくれていた騎士さん達の隊長がやってくる。どうもここからはまた別の部隊が護衛をやってくれるみたい。交代式とはなかなか準備がいいなぁ。

 

「いやぁ、歩くだけなのに意外と気疲れがあるね。それで、何か気になることとか分かったことのある人はいるかな?」

 

 全体への質問だけど実際は地図を照らし合わせていた旦那と、塔に蔓延る禁術を見て回ってきた師匠への質問だ。

 

「今のところ森にあった塔との明確な違いは見つからんなぁ。明るくないってことと塔の材質くらいか。それもまぁ、この辺りの石材を使った以外の理由はなさそうだし、多分基本は変わらんよ」

「禁術も表層で確認できるのは同じだな。動き続けていることも含めてだ。ただ、塔の大きさに応じて多少は修正されているようだが」

「ねぇ、禁術って先にどうにか止めることってできないわけ? 今のところの状況からすれば、最上階は魔人がいるってことになるわけだし、下手に利用される前にこっちで停止させたりとかってどう?」

 

 先輩の提案に師匠が口をひん曲げる。嫌そうな顔だ。

 

「できればそうする。出来ないからそうしない。ただでさえ禁術を解きほどくのは難しいんだ。それが何百年規模で魔力を蓄え続けてるんだぞ? 停止と一言に言っても、土石流を止めろというようなものだ」

「あー、了解。あんたがそこまで言うなら無理ってことね」

 

 私が言ってたらどうだったんだろう? いや、聞くまでもないか。しかし禁術の塔なんて王都に残しておくわけにもいかないだろうに、攻略後はどうするつもりなんだろう? 気になったので師匠に聞いてみれば、

 

「魔術院がどうにかするだろう」

 

 とのこと。それ、本当にどうにかできるんですかね……?

 

 ***

 

 小休止もほどほどに移動を再開する。なにせ先は長い。今は道が分かっているからいいけど、8階から先はまだ進めていないらしい。となればサクサク進むに越したことはないのだ。体力と魔力を温存しつつ歩けるというのは余裕があると言うこと。黙って歩くのも気が滅入るから、いろいろとおしゃべりをする。

 

 当然話題はこの先に待ち受けるモノについてだ。

 

「まずは九階への階段探しからですよね。しらみつぶしに探すとしても結構かかりそうですね。最短距離でもそれなりに歩いているわけですし」

「あんたは気付いてなさそうだけど、出現する魔獣も手強いのに変わってきてる。あんまり楽はできそうにないわよ」

「しかも頑張った先にはアレですもんね……」

「まあアレでしょうねぇ……」

「魔獣発生を停止させるのって、魔人を素通りしてできたりしないんですかね?」

「私が聞きたいわよ、そんなの。ちょっと、どうなのそこんところは」

 

 私たちの後ろを影のように歩く黒い師匠に尋ねる。歩きながら資料を読む器用な真似をしているからいつもより更に静かだ。

 大して期待をしているわけではないけど、何かいい方法があったりはしないのかな? かな?

 

「魔人の座っている机に赤いボタンがある。それを押せば止まる」

「…………」

「……冗談だ」

 

 先輩と二人してケッと悪態をつく。全く、自分が冗談を言えるほど上等な人間と思っているなんて驚きだ。そうだそうだ。

 

「酷くないか……?」

「いや、君が悪いよ、今のは」

「……そうか」

 

 顔を洗って出直しな! 普段冗談言わないからこういう時に外すのだ! 愉快な人になりたいならまずはその黒いのやめろ! などと調子に乗っていたら真っ黒なまなざしが刺さる。いえ、師匠が気さくになってくれたらという弟子からの心遣いでして……。思い切り頬をつねられた。

 

 ***

 

 ま、それはいいんだ。それより魔人ですよ、魔人。

 

「魔人、留守にしてたりしないですかねぇ……」

「在宅でしょうよ」

 

 ため息が出る。ですよね。魔人はねぇ、できる限り相手したくない。単純にすごい怖いんだもの。そりゃ別の魔人を私たちは一度やっつけてる。やっつけてはいるけど、自力というより思いっきり罠にはめてようやくって感じだもの。塔、禁術、そういう環境要素を全部使ってなんとか倒したわけで。私は魔力が人一倍多いことを自認しているけど、それだってあくまで人の枠組みでしかないんだ。魔人ほどじゃない。そもそも桁が違う感じするし。そんな魔力にみちみちた人外が何百年と生きているんだ。魔術も相応以上にとんでもない。ゴーレムと合体なんて人の魔術師にできることじゃない。

 

 なにより、硝子玉のように無機質な目が恐ろしい。

 

 ぶるりと身体を震わせる。

 

「魔人については正直どうしたものかね。なんかリーダーは考えがあったりせんのか?」

「そう言われてもね。基本的には戦い方は変わらないよ。前衛が抑えて魔術士が叩く。生きていればさらに前衛が追撃。いつも通りだ」

「相手がいつもと違いすぎるのは……」

「臨機応変に。いつもと違って騎士が手伝ってくれるからマシなんじゃないかな。剣も魔術も増えるよ」

 

 一緒に向かうのは精鋭だって聞くし、立ち回りも悪くはないと思う。だから足を引っ張られることはないと思うよ。などというリーダー。みんなはいいとして、私は引っ張る側になりそうで怖いんですけど?

 

 この際だから不安要素を全部吐き出しておくけれど! 私はまだ大人数での戦いってのをしたことがない。静かなる狼はそもそも少数パーティだし、前にいたところも人数は大して変わらなかった。あの街ではそもそも森での活動が一般的だから、そんなに大人数で戦うってことがないのだ。まして、初対面の人と連携を取れと言われても困る。

 

 ということを師匠にぱかぱかと言ったのだが、問題ないとの一言だけが返ってきた。いや問題あるでしょ。だって私がどこに位置取りするかとか、魔術のタイミングとか……。あれ、まてよ? 私は基本的に師匠の隣にいるわけだし、魔術も私が使う場合には師匠からの指示がある。あれ、じゃあ問題ないのか。よし、問題は解決した! さあさ、魔人なんぞどうするものぞ!

 

 ……虚勢ですけど?

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