えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??   作:朝食付き

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16.えっ、私その話聞いてないんですけど??

 

 ひいひい言いながら階段を上る。腿とお尻が疲労でパンパンである。太もももももももものうち。登るのが嫌すぎてよく分からないことをつぶやく。ハッとして口を押さえる。あまりにアホなことを言った自覚に、誰かに聞かれてないだろうなと周囲を伺う。先輩の切れ長の目とバッチリ視線がかみ合う。聞いていてくれるなよ~。聞いていないでくれぇ……

 

「太腿と腿は同じものよ」

 

 聞かれてる……。そんな真顔で言わないでほしかったなぁ……。

 

 ***

 

 あと2回階段を登れば最上階。楽しいことはここにはないけど、楽しくするためには進まないといけないのだ。さくっと終わらせて王都巡りの続きをしたい。結局ほとんど街歩きが出来ていないんだもの。騎士くんと一緒に食べたあの焼き菓子を先輩に紹介したいし、新しい帽子が欲しいから見立ててもらいたい。新しく試してみたい構成を師匠に聞かないといけないし、うまく使えるかを試すために簡単な依頼を受けてみたい。これはリーダーの許可が必要だし、こないだみたいに旦那に前衛を頼むのがいいかも。そう考えると、やっぱり塔でのんびりなんてしていられない。

 

 ふんふんと騎士の人たちに負けないくらい気合が入る。

 

「やる気満タンなところ悪いけど、あまり前に出ないように。最上階までは騎士が前だからね」

「リーダー達より前に出るつもりはないですけど、騎士団にずっと前にいて貰うのって申し訳なくないですか? せめてこの階ごとに交換とかすればいいのに」

 

 私の発言は割と妥当な気がするんだよね。私たちって戦闘要員として来ているわけだし。地図作りも王都の冒険者が先頭で書き続けているから本当にやることがない。少しは貢献したいなって思うわけ。

 しかしそんな私の心優しく美しい思いやりある発言に対して怪しい影! ぬッと現れたのは騎士団の隊長さんだ。好き勝手伸びている髭がとても野性味がある。騎士というか、野伏とかそういう感じ。

 

「気持ちはありがたいのだがね、我々は騎士だ。守られながら進むというのは、沽券にかかわる」

「そういうことだからお任せしよう。なに、私たちの出番は最上階にこそ、だ」

「私はまだそれについて納得していないけどな。お前のちゃらんぽらんな交渉じゃまとまるものもまとまらない」

 

 私を置き去りにしてリーダーと隊長さんが喧々諤々に言い合い始める。ぽかんとしていたら首元を引っ張られる。ぽよんと後ろ頭に柔らかな感触。これは先輩のお胸だな。私には分かる。せっかくなので豊かなお胸を枕にするようにそのまま聞いてみる。

 

「ええと仲はいいんですよね?」

「楽しくて童心に戻ってんのよ。年甲斐もなくね」

「言っておくがあいつらはまだそこまで歳を食ってるわけではないぞ」

「師匠はリーダーの歳に近いですもんね。そりゃあ弁護に回りますよね」

「……いいだろ」

 

 珍しく返す言葉が見つからなかった師匠が黙り込む。先輩がクスクスと笑うのが後頭部に伝わってくる。師匠に打ち勝ち、先輩の笑いを得た。これは幸先がいいなぁ。 まあじゃれあいはほどほどに、先に進まないと話が進まないから気を付けなくちゃ。というか隊長のくせに部下に任せっきりで遊んでていいんだろうか。きっと後で怒られるに違いない。私も先輩に怒られないうちに胸枕から離れる。

 でもせっかくだからちょっと聞いてみよう。怒られるのは私じゃないから気楽なものだ。

 

「そういえば隊長さんたちは他の騎士の人たちを待ったりはしないんですね」

「ん、ああ。別に数がいればいいわけでもないからな。俺たちが精鋭ってのはな、王都で一番色んな現場に突っ込まれてるからなんだよ。犯罪者のねぐらに突入したり、人質とって暴れる輩から救助したりな。そういう任務をしてれば数だけいても意味のないことが分かってくるんだ。人間ってのは、初めての状況に反応できる奴ばかりじゃないからな」

 

 なるほど。確かにそうかも知れない。私も初めて行った図書院ではずっとまごまごしていたし、慣れてないと判断できないものね。

 

「あとはさんざん急かされてるんでな」

「人が増えると調整も大変になるからねぇ。動ける少数っていうのが結局一番早いんだよ」

 

 はぇ~、なんというか色々しがらみもあるもんだね。私はそういうのに関わらず生きていたいものだ。

 

「そういうのもあるがな、一番乗りってのはいつの世も価値があるってもんよ」

「騎士団も一番槍って重視されるんでしょ?」

 

 旦那と先輩が悪い顔をしながら話に入ってくる。警戒こそ欠かさないけど、実際歩いているだけで暇なのだ、みんな。

 

「やはり一番になった人間にしか見えない景色ってもんがあるわけだ。誰も踏んでいない新雪、見たことのない景色、未知の遺跡。掻き立てられるものがある。お前さんだってこないだ遺跡に潜ったんだから、踏破する気持ちは分かるだろう?」

「俺もそれはわかるぜ! 朝一番の哨戒任務とか、誰もいないような道を馬で駆け回るのは楽しいんだ。それが前人未踏だったら、そりゃ最高だ」

「た、確かにそう言われると一番なのはいい気がしてきました!」

「遺跡も道も作った人間がいるんだから一番じゃないでしょ」

 

 確かに。何となく耳障りのいい旦那の冗談に惑わされるところだった……! もうだまされまいと距離を置く。

 

「危険も一番なのに、よくやりますよねぇ……」

「冒険者がそれ言う?」

「そりゃそうだ!」

「命知らずは一緒だ、一緒!」

 

 旦那と隊長さんが豪快にわっはっはと笑う。そこそこ広い通路に声が響く。

 

 前を行く精鋭騎士の皆さんが何事かと振り返ってこちらを見ている。慌てて問題ないですと声を張り上げる。全く、こいつらときたら! 何がそんなに面白いというのか!

 さすがに騎士の一人から隊長さんを呼ぶ声がかかる。ばつの悪い顔で持ち場に戻っていく隊長さんである。

 

 しかし旦那が冒険中にここまで無遠慮に笑うのは珍しい。そんなに面白いやり取りだったとも思えないのに、ちょっと大げさだったような気がする。気がする。気がした。気をする。……気になってきた。気になるぞ?

 

 すすすと旦那の隣に位置取りを変える。

 ピタリと横に立ち、ちらちらと旦那を見る。周囲を警戒しながら、旦那へ精いっぱいのアピール。警戒、チラ見、警戒、チラ見。

 

「……圧を掛けるのはやめい」

 

 別に圧なんてかけてないですが? やれやれと旦那が首を回す。私がしれっとしていると、お尻をパァンと叩かれる。そこまで痛いわけではなかったけど、私のお尻は薄いのだ。そして繊細である。これはお尻をこそを守らなければならない! 慌てて旦那から距離を取り、威嚇する。が、効果はない。私以上にしれっとした顔で普通に理由を話し始めた。

 

「ま、よくある話でな、何が何でも一番が良かった時期が俺にもあるってわけだ。誰もいけないところに行きたい、誰も知らないことを知りたい。そう思って他を全部後回しにして冒険に出たのさ。一番だけに価値があって、それ以外は下。ヤな奴だろう? 全く馬鹿らしい」

「じゃあ昔はもう少し痩せてたってことですか?」

「……まあ、無駄な肉はなかったな。とにかく急ぐために飯も適当だったし、いつも走っとったからなぁ」

「私は今の旦那しか知らないですけど、それを聞くと悪いことだけじゃない時期だったように思えますよ」

 

 ふふはと旦那が笑う。わざとらしさのない、いつも通りの自然にこぼれた笑顔だ。

 

「それ以外にもいい部分はあったろうさ。ま、昔も今もいいところと悪いところがそれぞれあるってこった」

「ちょっとうらやましいですよ、そう思えるのって」

「お前さんにはまだ早い。でも俺にとってもまだ早いかもしらんなぁ」

「・・・・・・今の旦那は、じゃあどうして冒険してるんですか?」

「ん? そうだな、この危険を楽しんでるのさ! それに、お前らの前に立って、命を拾う瞬間が病みつきなのかもしらん。ずいぶん丸くなったと思っとったが、俺も存外とがったままだな」

 

 冗談を好む旦那だけど、多分本音なんだろうな。危険に挑むなんてどうかしていると思うけれど、危機に立ち向かうというなら立派な人だ。仲間のためならなおさらに。その姿をただ丸くなったとは言えないよね。でも。

 

「尖る尖らないだの、そのお腹を引っ込めてから言ってくださいよ」

「この肉が力の源よ。それに、嬢ちゃんも赤毛も、もっと肉が付いた方がいいと思うがなぁ。その方がモテるぞ?」

 

 え、そうなの? ほ、ほほう? それはちょっと気になるな? やや前のめりになる私と呆れたような先輩の冷たい視線。思い切り首根っこを掴まれ引き戻された。

 

「まずこいつがモテるかどうかを考えてみなさい」

「……そうですね」

「もう少し柔らかく伝える努力をだな……」

 

 さあて、私も警戒を続けなきゃ。あんまりおしゃべりばかりしてると道を確保してくれてる騎士さんたちに悪いもんね!

 

 ***

 

 てくてくと相変わらず代わり映えのしない道を歩いている。前を行く精鋭騎士は時々配置を入れ替えていて、あまり見たくない背中が見えた。酒場で絡んできたり、打ち合わせで難癖付けてきた長髪の騎士だ。思わず眉をむむむと近づけてしまう。

 

 でもあれだな、思ったより全然こっちに口出ししてこない。むしろずっと距離を取っている。心なしか雰囲気自体がおとなしさというか柔らかさが感じられる。これは一体どうしたことか。

 気になったのでちょっと先輩に意見を聞いて見る。すると先輩は事もなげにさらりと告げる。

 

「ああ、リーダーと一発やり合ったのよ。決闘ね」

「はい? え、それ私聞いてないですよ?」

 

 耳ざとく旦那がくちばしを突っ込んでくる。

 

「なんだ、そんな面白いことしてたのか。俺たちが遺跡に潜ってる間か?」

「そ。王都のカフェでのんびりしてたらあの長髪に絡まれてるリーダーを見ちゃったのよね。あんまりに騒がしいし、自分勝手な言い分にアタマきちゃって、うだうだ言わず決闘でケリ付けなさいって割り込んじゃった」

 

 割り込んじゃったって・・・・・・。そんなちょっとかわいく言っても駄目です。なんで、なんでそんな・・・・・・面白そうなことを私がいない時にやるかなぁ。ええ、すごい見たかった・・・・・・。

 

「んでリーダーが勝ったわけかい」

「柔らかぁくね。そのせいで全然あっちも納得してなかったから、今度は私が代わりにぶちのめしてあげたわ」

 

 おおう、この人は全く……。人の因縁を横からかっさらう真似を平気でするもんなぁ。しかし聞き逃せないことも言っていたな?

 

「それは分かりましたけど、そのかへぇってのは何なんです?」

「カフェね、カフェ。要は軽食屋よ。南の方で取れる木の実を使ったお茶を出してくれるの。最近の流行りらしいわ。あんたには……まだ早いかもね」

「そんなことないと思うんですけど!」

 

 私だって結構成長しているから全然早くないと思うんですけど! けど!!

 

「それはいいんだが、そのあとどうなったんだ?」

「……さあ?」

「無駄ですよ旦那。先輩は一度自分がさっぱりと納得したらおしまいなんです。後のことなんて覚えてるわけないです。どうせ気絶した騎士をリーダーに押しつけて宿に戻ったに違いないです」

「お前さん、そういうところあるよな」

「う、別にいいじゃない。ほら、揉めてる様子もないしお互い腹を割って話したのよ、きっと」

 

 はいはい、そうですねー。

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