えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??   作:朝食付き

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17.えっ、みんなの夢と私の夢ですか??

 適当な話ばかり続けている私たちだけど、時々は戦闘もしている。現れる魔獣にはすばしこかったり数の多いのもいるからだ。

 

 抜けたぞ! との言葉が騎士から飛んでくる。当然迎撃の準備はできている。

 

 リーダーが静かに剣を引き抜く。いつものことながら、様になっている。ぶつぶつ呟いていることを除けばの話だけど。すらんと一刀のもとに魔獣を斬り捨てる。精鋭騎士にも匹敵する見事っぷり。やんややんやと声を上げたいところだけど、警戒が先。明らかに魔獣との遭遇頻度が増えている。それに強い種類ばっかりだ。塔の下の方では犬とか狼みたいな四足の魔獣が多かった。登るにつれて同じ四足でも大きく凶暴さを増している。今戦っていたのは六本足の牛みたいな魔獣だ。はっきり言って普通の獣ともかけ離れていて不気味な奴らばかり。ほんと嫌になっちゃう。これ、最上階もこんなのだったら嫌だなぁ……。

 

 次々に見たことないような魔獣がこんにちはしてくる。挨拶はいいからもういなくなってくれ!

 

 一度戦いが始まると付近の魔獣が集まってくるからなかなか戦闘が終わらない。今先輩が串刺しにしたのはいわゆる一つ目山羊。視線で人を縛り、おっきい角で串刺しを狙う凶暴な魔獣だ。リーダーが目潰しの砂を投げて、ひるんだ瞬間にサクリと刺す先輩。こいつらは通路の壁を蹴ってとんでもない軌道で動き回るから早々に処理が必要なのだ。慣れが必要な魔獣は私たちが、そして狼やトロルみたいな数だとか巨体を頼りに襲ってくる魔獣は騎士団にお任せ。適材適所っていうんだぜ! 王都での友達一号である騎士くんが危なげなく魔獣を盾でぶん殴る姿に、私は先輩の肩を叩く。

 

「はいはい、お友達が活躍して嬉しいのね。分かったから下がってなさい」

 

 あ、はい。確かに少し興奮してしまっていたかも分からん。いやしかし、騎士くんを一方的に近い立場の友達として認定してるけど、結構な差がある気がする……。そもそも魔人討伐に向けての精鋭に選ばれてるわけだしなぁ。ちょっと私も気合いを入れなければ!

 

 ***

 

 こつこつと私たちの足音だけが通路に響く。ここは十一階。外から見た感じでいうなら最上階が目前ということになる。地面の広さは広げられても高さ方向に拡張するのは難しいし意味がないからね。十階の魔獣達に追いまくられるようにして登ってきたわけなのだけど、びっくりするほど無音だ。

 

 あれほどひしめき合っていた魔獣がいない。いや、それはいいんだけど。でもここまであからさまに何にもないと逆にね。罠かなって。これで最上階に行って禁術を停止! って簡単に済むならもう万々歳。でもそうじゃない。

 

 それまでぼうっと突っ立ってただけの塔が、騎士団が上層階まで来た途端に魔獣を放って対策してきた。自然発生的な現象だとはとてもじゃないけど思えない。お尻に火がついたんじゃないかってのが私の印象。つまり、何か塔を管理している存在がいる。もうずっと私たちの頭の片隅にその存在が居座っているから今更ではあるけど。

 

 魔人。まず間違いがない。間違えてもいいことばかり正解するのだから人生ってのはままならないよね。あーあ、やんなっちゃう。

 

 なんで十一階には魔獣がいないのかは分からない。魔獣が上に上がってこないように緩衝地帯を作ったとかかな? 分かんないけど。

 

 そんなことを考えていたらスコンといい音と衝撃。振り返れば師匠である。

 

「もう構成は消していい。俺たちは魔力を蓄えることに集中する」

「ってことは、見つかったんです?」

 

 もう一度振り返れば、斥候役として前を進んでいた冒険者が戻ってきている。騎士団の隊長と、うちのリーダーの元に向かって何やら話をしている。うむ、確かに。

 

「いよいよってワケですね……。ちなみに勝算はあるんですよね?」

「……」

「なんか言って下さいよ……」

「俺たち次第だ。多少面白いネタはあるが、有効かは分からん」

 

 この期に及んでこの黒いのはまだ隠していることがあるらしい。いや、それはアレかもしれん。塔に入る直前で書士さんに貰ったお手紙のことに違いない。

 

「それって私たちに共有する必要があったりします?」

「いや、しない。その方が多分、いいはずだ」

 

 微妙に煮え切らない返事は師匠にしては珍しい。まあそういうならそうなんだろう。ふうん、と適当に返事をしたらまた頭を叩かれた。というかそれ書士さんから貰った資料じゃないか! 丸めて私のたたき棒にするんじゃないよ!

 

 ***

 

 やいのやいのしていたらリーダーからの招集がかかった。ここからちょっと先に階段があるから、最後の休憩をしますってことらしい。魔人のお膝元で休憩かと思わないでもないけれど、戦いになれば絶対に不覚は取れない。あんまりのびのびできるとは思えないけれど、それでもちょっとはお腹に食べ物を入れたり、武器の確認だとかはできるもんね。

 

 さくっと荷物を下ろせば肩が軽くなる。いつもと違って短期決戦前提だから荷物も選別されてる。けど、なんだかんだ水やら薬の瓶やらで重くはなるよね。大きく伸びをして、座り込むかどうかを考える。いや、まだ元気ある。だから視界の端に見えた騎士くんのもとに向かうことにする。した。

 

 これから大一番なわけだし、私と同じく緊張しているだろう騎士くんを和ませつつ和ませて貰うのだ。

 忙しそうだったら出直そうと思っていたけど、幸い休憩に入るところだったっぽい。休ませた方がいいのではと頭の中で私の良心を司る何かがささやく。でも無視する。なぜなら既に騎士くんと目が合っていたから。

 

「どうかしたの?」

「ああ、はい。ちょっと騎士くんと話でもしようかと思ったので。邪魔でなければですけど。……いい?」

「大丈夫。あまり一人でジッとしてるのもどうかと思っていたところだから」

 

 じゃあお隣失礼して、と。私が腰を下ろして少し、騎士くんがもの言いたげに口ごもる。私と騎士くんの仲じゃないか、何でも言い給えよ?

 

「……魔人と話をするって本当? 隊長も必要なことだって言ってるけど、正直話が通じる相手だとは思えない」

 

 正気じゃないぞって顔をしてる。概ね同意。昔語にある魔人は大体頭のおかしい挙動しているし、実際魔人が跋扈していた時代はとんでもない事件があったという。それを考えても、まあ考えなくても奇襲なりで一気呵成にやっつけるべきっていう考えはよく分かる。でも理由はある。困ったことに真っ当なヤツが。不肖の弟子として、師匠の舌足らずを補わねばなるまい!

 

「──というわけで、少しでも情報がないとヤバそうってのがうちの師匠の見解みたい。仲良くやりましょうっていう話ではないから、戦いになるのは前提として備えててね」

「なるほど……。分かったし、分かる。分かるんだけど、危険と天秤に掛けていいものかって思っちゃうんだよな……」

「危険については頑張るしかないかなって」

「そりゃそうだよな。いや、むしろそれが本来の俺たちの役目か」

 

 さすがに守られてばかりは何なので、私もがっつり騎士くん達を守れるくらいの活躍をしますとも!

 

 しかし決戦前とはいえ、そんな殺伐とした話ばっかりじゃ気が滅入るね。いやいや、私はもっと明るい話をしたくてきたのだ。何か、明るい話はないのか? こういうときに限ってろくな話題が見つからない。目線が泳ぐ私の視界にうつむいて仮眠を取っている騎士の姿が目に留まる。ええい、ままよ!

 

「騎士くんは夢ってあります?」

「え?」

 

 突飛すぎたか? いや、勢いで押し切れ!

 

「夢です、夢! この一件が終わった後とか、何かやりたいこととか、こうなりたいっていう目標はあるのかなって」

 

 ああなるほどと、騎士くんが頷く。無理矢理過ぎる話題転換に大人しくついてきてくれそうだ。

 

「俺は王都育ちだから、やっぱり王都が好きなんだよな。騎士として王都を守りたいってぼんやり思ってた。けど、こんな足下にすごい危険が眠ってたわけで。今はまだまだだけど、もっと強くなって王都もこの国もまとめて守れるくらいになりたい。って思ってるんだけど……ちょっと大口すぎるかな?」

 

 はにかむ様に笑う騎士くんだけど、でもそうなることを疑っていないように見えた。まっすぐに夢に向かって努力を続けてきて、これからもそうするのだと私にも分かる。だから私は大きく首を振る。

 

「むしろ小口ですよ! だって騎士くんは立派に騎士をやってますから! そんなのすぐの通過点ですよ、きっと。歴代最高騎士とか、そのくらい大きく出たっていいくらいです!」

「いや、さすがに大口過ぎるって……。でも、そっか。君がそういうならそうかもしれない。そうなりたいって思うなら、そのくらい通過点でなきゃね」

 

 ですです。しかしどうにも騎士くんは自己評価が辛い気がするんだよね。うむ。せっかくだからべた褒めしてみよう。ここに来るまでで私が騎士くんを見て頼もしいなぁと思ったことをつらつらと感情を込めて並べ立てる! 必殺褒め殺しだ! 私の美点は人のいいところを見つけるのが得意なことなのだ!

 

 天から降る恵みの雨の如き褒め言葉の連打! 騎士くんと来たら、もういい、もういいって! と顔を赤くして逃げていってしまった。しまった、やり過ぎたか。とはいえ本当に思ったことだからなぁ。人を褒めるのは私も良い気分になるし、この依頼が終わったらまた騎士くんを逃げられないように追い詰めた上で褒めまくってあげよう。

 

 ***

 

 にこにこと良い気分で荷物の元に戻る。絶妙に気を抜いた先輩が両足を伸ばしている。リーダーは剣を抜いて軽い手入れをしている。旦那は何かもそもそ口にしているし、師匠は資料に目を通している。なんというか、宿にいるような気安さだなぁ。

 

 ふと思いついて聞いてみる。

 

「あの、みんなにも夢ってあったりするんですか??」

 

 騎士くんは誰も彼も守れるくらい立派な騎士になると言った。じゃあ、みんなだったらどうなんだろうって気になったのだ。

 私の質問に、きょとんとした顔が揃う。ううん、聞く相手を間違えたかな?

 

「あるとも!」

 

 大きな声でリーダーが答えてくれた。やっぱり聞く相手はあっていたみたい。 

 

「竜と友になり、その背に乗って空を飛ぶこと! 私が一番叶えたい夢だ」

「また随分と夢のある夢ねぇ……」

「いい夢だろう? 子供の頃からそれだけを目指して頑張ってきたんだ。それで、君はどんな夢なんだい?」

「夢? そりゃ広い家よ! 街の中じゃなくて、見晴らしのいい丘の上に家を建てるの。私だけのために、私が考えたとおりの間取りでね。部屋から緑の揃った草原を眺めたり、庭に植えた花の手入れとかをして過ごすの。いいでしょ?」

「竜の入る小屋もあるといいね」

「酒を保管する地下室もあるといいぞ」

「図々しいわね全く。外に勝手に建てなさい」

 

 好き勝手増設される先輩の夢。でも先輩の顔はまんざらではなさそう。口元が柔らかく弧を描いている。私の部屋も用意して貰いたいんですけど……!

 

「俺はそうだな、誰も見たことのない遺跡を見つけるのが夢って言えるかもしれんなぁ」

「旦那もでかい夢じゃないですか」

「自分で調べてどこにあるかを割り出し、色んなトラブルを乗り越えて見つけ出すワケよ。お前さんの家で酒を飲みながら計画を練るのもいいかもしれんな」

「じゃあ私の竜で近くの街まで連れて行ってあげるよ」

 

 そりゃ助かるなと豪快に笑い合う。

 

「……魔術とはなにか、始まりの術を解き明かしたい」

 

 ぼそりと呟かれたそれを私たちは聞き逃さない。

 

「黒いのらしい夢だな! ほれ、もっと語ってみい。少しくらいその足がかりをつかんどるんだろう?」

「まあな。この先でもしかしたらいいことが分かるかもしれん。長くなるから今は止めておく。

 

 みんななかなかおっきい夢があるな! なんだか聞いているだけでもわくわくする。

 

「で、お前はどうなんだ?」

 

 師匠が私に目を向ける。先輩も、旦那もリーダーも、私を見る。

 

 夢。私の夢か。

 

「今のところは魔術師として頑張るので一杯一杯なんですよね……」

「冒険者になる前には何か考えてたりしなかったのかい?」

「ちやほやされたいって思ってました!」

「じゃあそれでいいじゃない。そこの黒いのよりすごい魔術師になればそこらの人からちやほやされるわよ、きっと。ふふふ、私と同じくらい俗っぽい夢ね!」

「えー、もっとかっこいい夢がいいです」

「欲望に素直な方が夢らしいとも言えるぞ」

「師匠の夢もですか? あんまり欲望って感じしませんけど」

「誰も知らないことを知りたい。誰よりも早く。それは欲望そのものだろう。旦那の夢だってそうだ」

「竜に乗ることだって、私だけっていう特別感あってのものだしね」

「私のために建てられた家。自分だけが知ることのできる秘密。みんなからもてはやされる。どれもこれも同じよ。大した差なんてないわよ?」

「じゃあ、そうですね。みんなに、皆さんに心からすごいって言わせてみる。これを私の夢にします!」

 

 俺たちは手強いぞ? そういって師匠が笑う。みんなも笑う。私も笑う。

 見てろよぉ~、絶対すごいって言わせてみせるかんな!!

 

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