えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??   作:朝食付き

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27.えっ、わざわざ来てくれたんですか??

 塔での戦いについての報告および質疑応答が終わった頃には夜も半ば。外を見るまでもなく真っ暗な景色が想像できる。

 

 塔を駆けのぼってから、いや、旦那と遺跡に行ってから私ってば働き過ぎなのでは? こうも連日の強行軍になるとは思ってなかったもんなぁ。さすがに疲労が酷い。そして喫緊の問題としてはぐうぐぅ鳴り続けるお腹! みんなが真面目な顔をしている中で暴れること暴れること。お腹が鳴るたびに恥ずかしい思いをした! よって、先にご飯にせよと私は高らかに宣言した!

 というかいい加減周りの人が気を遣ってくれたというのが正しい。もうこんなに恥を晒したのは初めてだよ!

 

 それなのにまだまだ聞きたいことがある、なんてお偉いさんが言うもんだから晩ご飯もギルド内に運んでもらうことになった。残念ながらお偉いさんと一緒にご飯と言うわけで。ちょっと丁寧に食べるくらいならともかく、貴族の作法なんぞ知らんぞ!

 

 ま、大きな恥を晒した私に怖いものなどない。一切の会話を放棄して食事にいそしんだけども。

 

 お偉いさんと同じものが出されたから、すごい良いもの食べられたのは嬉しい誤算だった……。王都や森の街もだけど、発展する大きな街には川が付き物だ。荷運びとか物流に有利だってこともあるけど、何より安定した食べ物が手に入るから。森の街とは獲れる魚も違うみたいだけど、鱗とヒレがあるのは同じだ。つまり大体おいしい! 新鮮なお魚はもちろん、船で外の国から届けられているという謎のキノコやお肉も食べられたからさあ大変! 柑橘を使ったらしいソースは香りが口の中いっぱいに広がって、お肉の旨みと相まっていくらでも食べられてしまう。

 

 お魚も塩がふんだんに使われていて全く生臭さがなかった。むしろパリッとした皮が香ばしくて、ぎゅっぎゅと噛みしめるごとに舌に温かな旨みが溢れて飲み込むのももったいないくらいだった。こんな良いものを食べているとは、貴族ってのはすごいなぁと思ったね!

 

 結局その後も話は続いていて、私にもいくつか質問があった。やはり魔術院のおじいさんの熱量がすごくて、私が気にしないような細かな魔力の流れだとか、タンクとして酷使された私の状態を細かに知りたがられた。あんまり上手くは答えられなかったけど、せっかくなので体を見てもらう約束(専門の治癒を修めた人達にだ)をして、お役御免となった。

 というか騎士団長や貴族の偉そうな人は予定があると晩ご飯の後はいなくなっていた。多分長くなりすぎると逃げたんだと思う。私たちは逃げられないのに、なんて酷い人達だ! 私が同じ立場だったら同じことするだろうけど。

 

 師匠も師匠で、ここぞとばかりにおじいさんと議論を交わすものだから、全然話が途切れないんだよね。書士さんと議論する師匠に私は慣れてたからいいけど(良くはない)、みんなは眠気を堪えるのに全神経を使っているみたいだった。一応私は弟子だからあんまり知らんぷりするわけにもいかなくて眠気とは無縁なのだ。あと、特に光と音だけで熱も衝撃もないあの魔術については曲がりなりにも私の術式が元だ。全然別物であっても、そういう原点となったものを魔術師は重要視する。師匠が構成を再現すると、おじいさんもむむむと言葉を選ぶ始末。ええ、ええ。分かってますよ。見るに堪えない酷い術式ですよね! でも当時の私の全力なんだから仕方ないじゃないですか! そのかわいそうな目を向けるのは止めて!

 

 そんなこんな、私にとっては針のむしろだったけど、先輩達は柔らかい椅子で随分くつろいでいたみたいで、なかなかいい休み時間になったようだった。

 

 ***

 

 そんな重苦しい中でも楽しい時間はある。騎士くんに会えたのは小休憩の時だった。お手洗いと称して抜け出して、誰もいない空っぽの廊下で壁の冷たさを味わっていた時に急に現れた。おかげで壁にぺたりとくっつく謎の女だと思われてしまうところである。それじゃあ私が変な女みたいじゃないか! 取り繕うようにパタパタローブをはためかせてみたが、幸い見なかったことにしてくれたようである。

 

「えーと、身体は大丈夫?」

「もう全然酷い状態です……。生きててこんなに疲れたのは初めてですよ、本当に。……壁のね、冷たさが気持ち良かったんです。それ以外の意味はありませんですから。それで、騎士くんはもう平気なんです?」

「まあね。……と、言いたいところだけど全身筋肉痛。君たちと同じでずっと報告したり書類作ったりで全然休む暇もなくて」

「お互い苦労しますね……」

 

 お互いの身を哀れみ合う。ああ、なんと楽しき傷のなめ合いか!

 

「……最後の華、あれは君の色だったね」

「ええ! このローブと同じ色なんです! これはね、私が仲間に入ったときにね、みんなに買って貰ったものなの! だからなんかもう、すごく嬉しくて!」

「うん。すごい……きれいだったと思う」

「騎士くんもそう思う? 私もそう思う!」

 

 もう私としては一日中はしゃぎ回りたいくらい嬉しくてたまらなかったのだ。いや、疲労さえなければ広場で喜びの舞を披露したいくらいだよね。え、踊ったらダメかな??

 

 しかしそんな嬉しいことを言ってくれる騎士くんの顔色はあまり晴れない。

 

「あの、騎士くん、本当に大丈夫ですか? 顔色があまり良くないですよ」

「……そうかな。そうかもね。本当のところを言えば、今回の戦いでちゃんと役に立ててたのかなって、そう思っちゃうんだ」

「えっ? でもリーダーと旦那が褒めてましたよ? いつも丁度良い所にいてくれるから息を付けたって。それに私だって危ないところ助けてもらいましたし」

「……ありがとう。いや、疲れてるせいかな。必死で、あんまり覚えてないからかも……」

「あはは! もったいないですね! せっかくの活躍だったのに」

「いや、いいんだよ、俺の話は。それより、言いたいことがあるんだ。だから来た」

 

 来た? そういえばここはギルドの建物である。騎士である騎士くんがこんな時間に現れるはずもない。え、私に会いに来てくれたってコト?? それは──すごくうれしいぞ?

 胸が温かくなる気持ちにどぎまぎする私と、あちこちに視線をさまよわせている騎士くん。傍から見たらさぞおかしな二人だったろうね。

 

 騎士くんは意を決したように私を見る。私も騎士くんのきゅっと引き締まった目を見る。

 

「あのさ、俺がこうしていられるのは君のおかげだって。本当にすごいと思ったんだ」

 

 思わぬ言葉に口が止まる。えっと、こういうときはなんて言えばいいんだっけ……。

 

 「それは……ええと、ありがとう?」

 

 結局出てきたのはそんな言葉だけ。でもさ、こんな一言だけど、私がその時感じた嬉しさはもう、なんていうか、本当にすごいもので、それ以外本当になにも言えないくらいだったのだ。だって、騎士くんが、物語に出てきそうな立派な騎士様が、すごいと言ってくれたのだ! そんなこと、そんなありえないことが、今起きたのだから!

 

「それだけ言いに来たんだ。もちろん他のみんなのことも、君の師匠もだけど。でも、やっぱり、君が一番すごいと思ったから」

「も、もう止めてッ! それ以上褒めたらどうなるか分かりませんよ! 気を付けて! 私の扱いに気を付けてください!!」

「え、うん……。まあいいけどさ、俺も君を目標に頑張るってことだけ覚えておいてほしい。じゃ、聴取は続くだろうけど、頑張って」

 

 そう言って騎士くんが歩いていく。もう、私ときたら顔を押さえてどうにかこの高鳴る気持ちをどうにか納めるので必死だった。そんなこと、知りもせずに。

 

 

 

 

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