龍が如く8で、もしあのキャラが早く仲間になっていたら、あの過去作キャラが出ていたら。【もしもの龍が如く8】物語。
本編プレイ済み前提で書いてるので、ネタバレ多数ございます。未プレイの方はご注意を。

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龍が如く8めちゃくちゃ面白いんですが、
仲間が日本とハワイで別れちゃったので絡みが全然ない組み合わせとか、
出れなかった過去作キャラが沢山いるのが、ちょっと残念でして……

もしも、こんな展開があったら、といった短編集になります。


IF1:どん底の一番ともしも

 どん底の一番、と呼ばれた男がいる。

 

 その男は、日本で最も欲望にまみれた街『神室町』の片隅で静かに産声を上げた。

 

 産まれて間もなく、生みの親を見ることもなく捨てられた男は、見ず知らずの人に拾われ育てられることになった。そして、悲惨な生い立ちとは真逆のめでたい名を与えられた。

 

 【春日一番】。それが、男の名前である。

 

 とはいえ、めでたいのは名前だけ。育てた人は、彼が中学生になる頃には亡くなった。生きるすべを失い欲望の街を彷徨い歩く。親もなく、友もなく、金もなく。何も持たずに生きるしかなかった彼は、【どん底の一番】と呼ばれていた。

 

 帰る場所もない彼は間もなくヤクザ【荒川組】に身を落とし、言われるがままに抗争相手を殺害。殺人罪で10年以上を刑務所で過ごすこととなった。

 

 

 2019年、出所した春日一番だったが【荒川組】に裏切られ、命を狙われることとなった。横浜に身を隠すこととなった春日は、荒川組への復讐を。荒川組を含むヤクザへの復讐を企てた。

 

 身をひそめながら水面下で各所へ手を回し、日本有数のヤクザ組織【東城会】と【近江連合】の同時解散、通称【極道大解散】を引き起こしつつ。穏便に姿を消していくヤクザの中に、荒川組を立ち入らせはしなかった。同時期に、彼は荒川組の秘密を暴露した。

 

 それは、元東京都知事【青木瞭】が荒川組組長の息子であるという事実だった。

 青木はその立場を最大限に活用し、数々の暴力団と手を結び政財界へと圧力をかけていた。そんな暴力団を世間は許すことはなく、同じ暴力団からもつまはじきにされる。

 

 悪行を白日の下にさらし、荒川組を破滅させることが、春日一番の復讐だった。

 

 結果的に、多くの暴力団にトドメを刺した春日は、英雄と呼ばれた。

 

 巨悪を滅ぼし、隠れ潜む悪さえも許さない、横浜の英雄。

 

 通称、”ハマの英雄” だった。

 

 

 しかし。彼はどう呼ばれようとも、どん底の一番だった。

 

 

 先日、多々良チャンネルが公開した動画にて、彼が元暴力団員に犯罪を斡旋しているという事実が明らかになった。私腹を肥やす為か、あるいは元暴力団員でさえも破滅させたいとでもいうのか。いずれにせよ、彼にハマの英雄という称号はふさわしくない。英雄失格である。

 

 

 春日一番。彼は、どん底の一番だ。

 

 

 


 

 

 

「だってさ。ハマの英雄失格はまだしもどん底の一番とか、ひどい言われようね」

 

 ネット上に掲載されている情報を一瞥し、女はスマホの電源を落とした。

 

「荒川組に所属していたことも、極道大解散を起こしたのも、青木瞭の秘密を握ってたのも事実だけど。復讐なんてこれっぽっちも考えてなかったし、例の多々良チャンネルは全部デタラメばっかりだし」

 

 つらつらつらと、文句を吐き出す。それを背中で聞く男は微動だにせず、川を見つめる。

 

「一応。うちの店で働いてる子や客は多々良チャンネルのこと信じてないから。世間の目が気になるのはわかるけどさ、たまには店でパーッと飲んで忘れちゃったらどう?サバイバーにも顔出してないって聞いてるし、お酒もご無沙汰でしょ?」

 

 男は、川を見つめている。言葉から目をそらして。

 

「……はぁーっ」

 

 女性は息を吸い込む。そして、一言。

 

「返事をしろっ、春日一番っっ!!」

 

「どおぉぉぉぉっ!?」

 

 疲れ果てて眠っていた人々が目を覚ますほどの大声を男に浴びせた。驚いて体勢を崩した男こそ、春日一番。一か月前まではハマの英雄、名声を失い職も無くした今は、どん底の一番。

 

「え、あっ、ちょっ、うおぉぉぉっ!!」

 

 そして、ツキも無くしていた。椅子変わりのビールケースに無理な体重がかかり、バキッ、と壊れてしまった。それが春日の崩れた姿勢を後押しする。

 

「おいおいなんだい朝っぱらから!うるさいじゃないか……っておい、誰か落ちたのかい!?」

 

「ごめん浜子さん!春日が川に落ちた!」

 

「はぁ?あいつ何やってんだい?」

 

 哀れ春日一番、川へ真っ逆さま。それを聞きつけた周囲の住民がなんだなんだと集まり始めていく中、春日が沈んだあたりからボコボコと泡が立ち始める。ざばぁ、と人影が立ち上がる。

 

「ううーっ、冷てぇ!ま、真冬の寒中水泳は体にクるぜ……!」

 

 ガクガクと体を震わせながら現れた春日はゴミまみれ。濁りに濁ったドブ川に落ちたのだ、無理もない。泥だらけの衣に手にするはボロボロの釣り竿。ぐしょ濡れでよれよれの髪には錆びたハンガーが引っかかっている始末。その様はまるで。

 

「……ぷっ。あーっはっはっは!なんだいその姿!?現代版の落ち武者かい!?」

 

「その声は……浜子さん?ご無沙汰しております!」

 

「春日さん、こっちは私です、鎌滝です。浜子さんは反対の方ですよ」

 

「わ、悪い!ご無沙汰してます、浜子さん!」

 

「おいおい、ホームレスの爺が浜子さんに見えるってか」

 

「その髪笑えるけどかきあげた方がいいね。前すら見えてないじゃないか」

 

「おいおいこりゃ傑作だな。おーい、誰かカンさんとか村長呼んで来いよ。こりゃ笑えるぜ!」

 

 静かだった横浜の一角に笑い声が上がる。天にも見放された春日だったが、人の縁は硬く結ばれている。朝早くにも関わらず春日を心配する人々が5、6人は集まっている光景が、その証拠だ。

 

「春日さん、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だよ。この通り、ぴんぴんしてるぜ!髪型は酷いことになっちまったがよ。あーあ、あのヘアゴムまあまあ気に入ってたのに、川に流されちまった」

 

「あ、だったらこれ使えよ。さっきゴミの中から売れそうなの拾ったんだけど、一番にやるぜ」

 

「助かる、ってこれピンク色か」

 

「いいじゃないかそれぐらい。最近は男もピンクを身に着ける時代だよ」

 

「そういうもんかねぇ。なあえりちゃん、どうだ?似合ってるかな?」

 

「おおーっ、これは思った以上に……似合いませんね」

 

「似合わねえのかよ!?なんだよ今の間!」

 

 再び笑い声が上がった。本人にその気はなくとも、周囲を笑顔にする。

 

「ところでえりちゃん。数年前から海外出張に行ってた、って聞いたんだけどいつ帰ってきたんだ?」

 

「ついさっきです。しばらく見ないうちに横浜は色々と変わっちゃいましたけど、春日さんは相変わらずですね」

 

「そうでもねえよ。俺も色々と見えないところがレベルアップしてるぜ?例えば……今のえりちゃんは悩みを抱えてるのが見える!とかな。どうよ、当たってる?」

 

「あはは、正解です。向こうでの仕事がうまくいってないんですよね。いつかの頃みたいに失敗している訳じゃないんですけど、成功しているとも言いづらい感じでして」

 

「やっぱりか。なんか疲れた感じがしてたんだよ。俺で良かったらいつでも相談に乗るぜ」

 

「ふふっ。やっぱり相変わらずですね」

 

 そして、困った人に手を差し伸べる彼だからこそ、ハマの英雄と呼ばれていた。

 

 

「春日さんはやっぱり、勇者です」

 

 

 2024年冬。横浜伊勢佐木異人町にて、親ナシ職ナシ金ナシ縁はあり。春日一番はどん底の中でも、なんとか生きていた。

 

「……はぁ。人たらしめ」

 

「えっと……サッちゃん?その、何も言わなかったから、怒ってる……?」

 

「別に。それくらいでは怒ってませんけど」

 

「……はい」

 

「お・こ・っ・て・ませんけど?」

 

「はいっ!!」

 

 なんとか、生きていた。

 

 

 


 

 

 

 春日が落ちた川のすぐそばには小料理店がいくつか建っており、その中にはシャワー設備付きの店舗もあった。小料理店を仕切るオーナー、浜子の御厚意で春日がシャワーを浴びている間、集まった人々は一息ついていた。

 

「で。男と女が二人で何やってたのさ」

 

 煙草を弄びながら、浜子はにやにやと笑う。視線の先には、結果的に春日を川へ落した女性。

 

「偶然しょぼくれてたあいつ見かけたから、声かけてただけだって。浜子さんが思うようなことは断じてないわよ」

 

 きっぱりと言い切った女性の名は、向田紗栄子。4年前に春日と出会い、異人町を取り巻く大事件に立ち向かった仲間たちの一人である。紗栄子の言葉に、もう一人の女性が首をかしげる。

 

「あれっ、そうなんです?前に春日さんがプロポーズしたって聞きましたけど」

 

 鎌滝えり。彼女も紗栄子と同じく春日に協力していた仲間の一人だ。

 

「それはそうなんだけど。まだちゃんと返事してないわよ」

 

「えっ!?まだなんですか!?」

 

「おいおい、プロポーズだって?どうして二人ともそんな面白そうな話を黙ってたのさ」

 

「一年も前のことでしたから、とっくに決着ついてるだろうし、浜子さんも知ってるかな、って……」

 

「ってことは去年プロポーズされてからずーっと返事せずに煮え切らないままでいたってか。通りでここ最近あんたら二人がつるんでいるところを見ないと思ったよ」

 

 浜子のため息が煙と共に吐き出される。年相応というべきか、様々な色恋話を見てきた彼女からしても呆れざるを得ない。とある事情で別々の場所に行くこととなり、告白の答えを先送りするといった話はあったが、同じ町で生活していながらずっと先送りとは。

 まだ、海外出張で街を出ていたえりであれば、分からなくはない話ではあるのだが。

 

「そういえば春日のやつ、女の敵がどうの、とか言いながらあんたらがボコボコにしたことなかったっけ。町内会の連中からの又聞きだけどさ」

 

「あはは……春日さんって人を引き付ける魅力がありますし、困っている時は手を差し伸べてくださる方ですから。女性受けも悪くなかったので、一時期はすごいモテてたんですよね。実は私もその一人でしたし、あの時は藁人形片手に迫りましたねぇ」

 

「そ、そうかい。なんだか思ってたより物騒な話だね。でも、あいつのこと好きなんだったら紗栄子へのプロポーズは止めなくてよかったのかい」

 

「いいんです。色んな人から好意を向けられる春日さんが、その中からたった一人にだけ好意を向ける日が来る、っていうのはわかってました。それに、私はもう、春日さんと一緒に歩くのは難しいんです」

 

 懐からケースを取り出したえりは、浜子に名刺を差し出した。

 【株式会社一番ホールディングス 社長 鎌滝えり】。名前の通り、異人町で一番の企業であり、横浜でも指折りの大企業。そして、彼女はそのトップに立つ者であることが記されている。

 

「私の夢は一番ホールディングスを世界一の大企業にすること。でも、春日さんの見ている夢は違うところにあります。夢へ突き進む春日さんとはどこかで食い違うかもしれない。だったら、私は好きな人の邪魔になりたくはありません。これでいいんです」

 

「かーっ、できた女だね。こんないい女の想いに応えてやれない春日は酷い男だけど、そんな男に応えてやらないあんたはどうなんだろうねえ、紗栄子?」

 

「うっ……そうは言うけど、さ」

 

 店の一角からはまだシャワーの音がすることを確認した紗栄子は、女性二人に内緒話をしたいとジェスチャーする。寄せられた耳元で、紗栄子は囁く。

 

「あいつ、好きって一言も言ってないの。そんな告白、オッケーできるわけないでしょ」

 

 なるほどな、と女性陣一同頷く。確かに、女である以上誰かに愛される時が来るのならば、その時は好きの一言くらいは言われたい。愛する心を言葉にしてほしいと考えるのが、女なのだ。

 そして、それを口にしなかった春日についても納得していた。頭が回る時はとことん回るが、不器用な時はとことん不器用。いい意味でも悪い意味でも極端な彼だ、好きと言わなくても伝わると思ったのか、あるいは言い忘れて話を進めてしまったのか。春日らしいと言えば、春日らしい。

 水音が止まり、しばらくすると扉が開く。若干匂うとはいえ、見た目だけは奇麗になった春日が現れた。

 

「浜子さん、シャワーありがとうございました。わざわざ着替えまで持ってきてくれて」

 

 黒色のありふれたスーツ姿から、紅の派手なスーツ一式。数年前まではその姿で横浜中を駆け回っていたのだ、以前から春日を知っている彼女たちからすると、こっちの方が見慣れている。

 

「礼を言うなら紗栄子に言いな。あんたの家の入り方も服の仕舞い場所も私じゃないとわからない、って言って取りに行ってくれたんだからね」

 

「サッちゃんが?」

 

「あんたの仲間じゃないと、合鍵の場所わかんないでしょ」

 

「それもそうか……えと、その。ありがとな」

 

 濡れた頭をぐしゃぐしゃとかき乱す春日。視線を迷わせる紗栄子。どうにも煮え切らない二人にらちが明かない、と浜子はえりの背を叩く。えりも同じことを考えていたらしく、二人は店の外へと足を向ける。

 

「ちょっとあたしは外で煙草吸ってくるよ。終わったら声かけな」

 

「私も一番製菓に戻りますね。後でまた相談に乗ってくれると嬉しいです」

 

「お、おう!また後でな!」

 

 間が持たないしもうちょっといてくれたら、と言いたげな春日を尻目に出ていく二人。とはいえ、助け船は必要だろうと考えたのか。部屋を出ていく前に一言。

 

「そういえば、春日さん」

 

「ど、どうしたよえりちゃん?」

 

「一年も会ってないのに、春日さんの着替えの場所をちゃんと覚えてるってことは、まだ気があるってことじゃないですかね」

 

「ちょっとえりちゃん!?」

 

「少なくとも嫌われてはないかな、と……お二人の話も今度聞かせてくださいね!」

 

 しばらく会わないうちに大きく成長したというべきか、相変わらずたくましいというべきか。煮詰まっていた状況をめちゃくちゃに引っ掻き回されれば、流石に動き無しとはいかない。

 

 少しだけ、待ってから。お互いに迷わせていた瞳を整えて、先に春日が口を開く。

 

「ごめんサッちゃん、さっきは悪かった!考え事してたらいきなり現れたもんだから、どう返したらいいのかずーっと迷ってて……それで、何も言えないがままに黙ることしかできなくて、あの時みたいに、また怒らせちまった。ほんっとうに、ごめん!」

 

 奇麗に頭を下げる春日。その光景は紗栄子にとっては見覚えがあるものだった。初デートでプロポーズされて、答えを濁して帰り。店の前に突然現れて謝罪の言葉を口にした時の光景と、似ている。

 

 その時は、欲しかった言葉をもらえなかった。もちろん、今回も。

 

 だけど、だからと言ってここで意地を張るのは、違う。それは、彼女自身が許せないことだから。

 

「うん、許す。それに私もムキに大声出しちゃってこの状況だからね。悪いのはお互い様ってことで」

 

 パン、と手を合わせながら紗栄子も頭を下げる。ほんの少し頭を起こした春日と視線を合わせ、ほぼ同じタイミングで互いに小さな笑みを浮かべた。

 

「それでさ。例の動画の件、大丈夫なの?」

 

「ぼちぼちってとこかな。ハロワはクビになっちまったけどよ、ちっとばかしの貯蓄はあるしバイトや缶拾いで食事代ぐらいは稼げてる。心配いらねえよ」

 

「家賃は?」

 

「あー……それも、まあ、うん。今年いっぱいは大丈夫だ。もしもダメになったら浜子さんがまた小料理屋の2階を貸してくれるって話だ」

 

「そっか。浜子さんはどうも春日には甘いんだよね。私には当たり強いのに。三日前もうちの店にふらっと来たかと思えば、私に色々と愚痴聞かせたり、最近の客層はどうだー、とか聞いてきたんだけど。酔っ払い親父かっ!」

 

「それ、浜子さんの思いやりだぜ」

 

「どこが?」

 

「実はよ、ちょっと前に小料理屋使ってった客にやたらマナーが悪い奴がいてよ。浜子さんから夜遅くに呼び出されてそいつを追い払ったんだが、まだ近くをうろついてるらしい。で、よその店に顔出してないかと気にしてるみたいだから、その一環じゃねえかな」

 

「そういうこと。遅くまで店にいたのも、この店は浜子さんの縄張りだ、悪さするなら春日が飛んでくるぞーって睨みを聞かせてた、って感じか」

 

「一応バイトヒーロー.comとかにも声掛けして、気を付けるようにしてもらってる。サッちゃんも気を付けてくれよ」

 

「了解。となると私も鍛え直した方がいいわね……。最近運動不足気味だし、春日の散歩に付き合うかな」

 

「えっ……いいの?」

 

「春日と歩いてたらゴロツキとよく絡まれるし。いい運動になるでしょ」

 

 そう来たかあ、と苦笑いを浮かべる春日。人を引き寄せる魅力がある、と評されることはあるが善人も悪人も引き寄せてしまう。犬も歩けば棒に当たるとは言われるが、春日が歩けばチンピラゴロツキその筋者にぶち当たる。行動を共にしていた紗栄子も色々な連中と戦ってきた経験がある。

 もっとも、ここ最近は物騒な出来事とは縁がなかったため腕は鈍り気味ではあったが。ゲーム風に言うのなら、続編でレベルダウンする前作キャラ、といった具合である。

 

「……あのさ、サッちゃん」

 

「何?」

 

「この雰囲気で聞くのもどうかと思うんだけどよ。その。今聞かないと、ずっとずるずる引きずっちまいそうだから、聞いてもいいか」

 

「去年のデートのこと?」

 

 表情を変えることなく、それでも、少しだけ手を強張らせながら、春日が切り出した話題に紗栄子も乗っかった。

 

「そう。そのことなんだけどよ。知っての通り、今の俺は仕事もねえし色々とゴタゴタしてるからさ。こんなんじゃ、サッちゃんを幸せにしてやれると胸を張って言えねえ」

 

「……うん。それで。春日はどうしたいの?」

 

「今のところ、といっても、一か月くらいでいい。待っててくれないか。その間に何とかしてみせる」

 

 春日が出した結論は、ついさっきまでの紗栄子と同じく、回答を先送りにすることだった。本人の思考がまとまり切っていないこともあるが、先ほど口にした通り、身の回りの状況が今は悪すぎる。自分のことだけでも大変な状況で、他人の人生を背負えるとは口にできなかった。

 

 もちろん、それは紗栄子自身も承知していた。

 

「いいよ、待ってあげる。じゃあ、その間はお互いデートの話題に触れないことにしましょうか」

 

「すまねえ、サッちゃん。なんとかなるように頑張ってみるからよ」

 

「それについても手を貸してあげる」

 

 差し出された手を、春日は丸い目で見る。

 

「昔みたいに皆で遊んだり、戦ったりもする。困っている時は、助け合う。友達……というか、仲間として。今まで通りの付き合いに戻りたい。いいかな」

 

「……へへっ。サッちゃんがついてくれるなら100人力ってもんよ!今は何をすればいいのかピンと来てねえけど、その時は頼らせてもらうぜ」

 

「それが仲間ってものよね。それじゃ。これからもよろしくね、一番」

 

 春日は紗栄子の手を握り返す。そして、互いに、頷く。勇者パーティの小さな再結成。

 

 

 

 

 これは。もしかすると、ありえたかもしれない【龍が如く】の物語。

 

 ある人ともっと早く出会ったり、あるいは、出会わなかった人たちと出会った【if】の物語。

 

 

 【龍が如く8IF】、開演。

 

 

 

 なお。決意も新たに、本来よりも早く手を貸すことを決めた紗栄子であったが。

 

「ねえ一番。手を貸すって言ったのは私だけどさ。本当にここ行かないといけないの?」

 

「横浜星龍会に行くにはこのドブ川から繋がる下水道しかルートはないんだとさ」

 

「諦めろサッちゃん。俺たちの冒険は大体こういうもんだったろ」

 

 その数時間後にドブ川を泳がされることになるとは、全く想像していなかったのであった。少々判断を急ぎ過ぎたか、と後悔しつつ新品の洋服一式を汚水に浸すことになり。クリーニングから帰ってくるまでの一か月間、着慣れた洋服に袖を通すことになるのである。

 黒いアクセント入りの白ジャケットにスカートの装いは、春日にとって懐かしかったとか。

 

 




【春日一番】
ハローワーククビになった後、河で途方に暮れていたらさっちゃんと偶然再会した。
ちなみに場所は一番製菓近くの降りられるところの当たりをイメージ。
本編ストーリーはカット挟みつつ進めます。

【向田紗栄子】
8原作だと日本・桐生側のメンバーなので春日との絡みが薄め。
もっと二人で色々やってるところが見たい!というのがこれ描いた理由の一つ。
本IFでの衣装は龍が如く7Verのイメージ。
原作衣装は、多分クリーニング代を春日が払ったら使用可能になるとかそんな扱い。

【浜子さん】
8原作ではストーリーに絡まないとはいえ、春日がハワイ側にいるんで本当に絡みが薄い。
本IFで春日にやたら親身なのは、一応原作からネタ引っ張ってる。後々やります。

【鎌滝えり】
龍が如く7でダーツ投げたりラッキーパンチなりで大活躍した仲間。
8原作では海外出張中なので残念ながら登場しない。
本IFでは……続きをお楽しみに。
後、春日との恋愛関連はこういう形にしましたが、オリジナル設定です。

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