いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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前回の番外編は賛否両論。まあ、否の方が多かったですが、今後は0と1の評価を覆せる作品にしていきます。
あと、賛の方の皆さんの応援メッセージは励みになりましたので、これからも応援よろしくお願いします!!!


上映会第四部
ケツイと誓い


 夜中のクルシュ邸の一室にあるベッド、そこに眠ったレムとそれを見守っているスバルが映し出された。

 

『──レム。ごめんな、レム。お前を救うためなら、何度でも死ぬなんてカッコつけておいて、どうやら何度死んでも、間に合わねえみたいだよ』

 

 そう泣きそうな声と表情でレムに触れるスバル。その近くに映っているリンガの入った籠の横に置いてある果物ナイフが、その言葉の悲痛さをより強く演出する。

 

「一度だけじゃ……ないんだな……」

 

 察しの良い尚文は、スバルの独白からあのナイフが何度血に染まったのかを想像し、下唇を強く嚙んだ。

 

 レムの寝顔を見つめるスバルの顔の近くにホタルのような光が集まりだし、長い尾を揺らす灰色の小猫が姿を現した。

 

『なんだ、パックかよ』

 

『なんだはないと思うけど。ひどいな~』

 

 エミリアと離れ、パック一匹でレムの様子を見に来たことに疑問を抱く。

 その疑問の答えは非常にシンプルなものだった。

 

『ボクだってこの子と関わりがあったんでしょ?それなら、ふらりと様子を見に来たっていいんじゃないかな?』

 

『──パック、お前なら!』

 

 縋るようにパックを見るスバル。

 その必死な表情に、パックは目を伏せてお手上げだと言わんばかりに首を横に振る。

 

「大精霊のパックでも無理なのか」

 

「あれが呪いの類なら、私のセイクリッド・ブレイクスペルでサクッと解除してあげれるのに!!」

 

 頼みの綱であるパックでもどうすることもできないという事実に、カズマは絶望し、アクアが憤慨する。

 

『その代わりにと言ってはなんだけど……『暴食』について少し話そうか』

 

『暴食?』

 

 一体何を言っている?というニュアンスで聞き返すスバル。

 

『その女の子の、『名前』と『記憶』を喰った存在を知れば、ちょっとはスバルの望みの可能性も上がるかもしれないと思ってね』

 

 その言葉にスバルは息をのんで聞く姿勢を取る。

 そしてそれは、映像越しに観ている皆もまた同様に声を潜め、パックの言葉に耳を傾ける。

 

『『暴食』の権能はシンプルに言えば、食べるって力だよ。相手の『名前』を食べて周囲の記憶から奪い、相手の『記憶』を食べて当人の記憶を奪う。両方を奪われれば、それはもう何者でもないヌケガラが残るだけだよね。ヌケガラはなにもできないし、なにもされない。その女の子の状態は、まさにそれだ』

 

 パックから語られる暴食の大罪司教の権能。名前と記憶という概念すら食らうという能力にスバルは慄きと動揺が走る。

 そんなスバルと違い、視聴している面々の中で、冷静に先を見据えることの出来る者は静かにパックの語った権能の力の分析を始めていた。

 

「肉体が消滅しない点を見れば、白鯨の消滅の霧の下位互換?いや、その食らう能力に他にも秘密があれば上位互換の可能性もあるな」

 

「そもそも、白鯨は魔女教の何だったんだ?死に戻りのループの中の1つでパックが白鯨を暴食と呼んでいたが、ぺテルギウスが自身の憑依対象を指先と呼んでいたように、暴食の大罪司教にとっての特別な配下に当たる存在なのか?」

 

 アインズが権能の力を考え込む中で、ターニャもまた真剣に白鯨と暴食との関係性についての考察を述べる。

 だが、それを中断させるようなタイミングで、普段から陽気なパックの口から出たとは思えない真剣な声色でのお願い事が発せられる。

 

『色々抱え込んでいるキミにお願いするのは酷だけど。──リアのこと、よろしく頼んだよ』

 

 そう言い残すと、パックはそのまま消えていった。

 

「なんか意味深な台詞っていうか……」

 

「まるで、自分が消えていなくなるみたいな言い方でしたね」

 

 そのカズマの呟きに、めぐみんがより具体的で不吉な内容を添えた。

 

「……そもそも、パックは何故エミリアと契約してるのだ?」

 

「はぁ?なんでって、そりゃパックがエミリアのことを溺愛してる……から……?いや──」

 

 ターニャの疑問の声に尚文が答えたところで、言葉に疑問が生じた。

 溺愛しているから一緒にいるのはわかるが、何故溺愛しているのか、そもそも世界を滅ぼすような力を持つ存在が髪型を毎日変える程度の内容で力を貸すという破格の内容に疑問を抱く。

 

「確かに、言われてみるとパックなんてチートな存在が契約するにしても、その内容ってあまりにもエミリア有利だもんな」

 

「え~、でもチートなんてそういうもんじゃない?」

 

 あまりにもメリットとデメリットが不釣り合いな契約に改めて疑問を抱くカズマ。

 しかし、隣に座る転生者に次々とチート能力やアイテムを与える女神アクアにとっては、全くピンときていない様子だった。

 

 なお、そうした発言をしたアクアは周りから呆れた目でアホの子を見るような目を向けられていた。

 

「──やはり、スバル視点だけではあの世界は謎が深すぎる。魔女、魔女教、契約、考察するにしても考えるだけの材料も、するだけの時間的余裕も少ない。まったく、難儀な世界に飛ばされたものだな」

 

 それは自分もかと内心で自嘲しながら、ターニャはスバルの視点からではわからない、あの異世界の謎について考えを巡らせるのだった。

 

 そうして、寝ているレムと2人きりの静かに動きのない部屋で、停滞の時間を過ごすスバルが不意に立ち上がって部屋の外に出る。

 

『ここにいらしたんですね』

 

 部屋から出たスバルの前に気品のあるドレスに身を包んだ誰かが声を掛けてきた。

 映像にはドレスと顔の下半分しか映らないが、その髪型と髪色、そしてその声には見覚えがあった。

 だが、その言葉遣いが知っている彼女とあまりにも違っていた。

 

『なんか、俺に用事があったんじゃないですか?』

 

『はい。一度、皆さんで顔を揃えてお話がしたいと。談話室の方に集まっていますので、できればその……』

 

『ナツキ・スバル、ですよ』

 

『……ごめんなさい。ナツキ・スバル様、ですよね。ちゃんと覚えます。多大な恩のある方だと聞いているのに、失礼をして申し訳ありません』

 

『仕方ないですよ。今は覚えることが多すぎるとこでしょうから気にしませんよ。──クルシュさん』

 

 スバルが彼女の名前を呼ぶのと同時に、映らなかった彼女の顔が映る。

 その彼女の顔には以前までの覇気はなく、弱々しい乙女のような表情が張り付いてあった。

 

「あっ、そっか!クルシュさんもレムと一緒に襲われたわけだから!!」

 

「存在を忘れられた訳ではない。だが、この反応。恐らくは、記憶のみ食べられたという感じか……」

 

 何故クルシュがこうなってしまっているのかとカズマとアインズが推測する中、スバルはクルシュの促しに従って談話室へ向かう。

 談話室には既に主要な人物は集まっており、クルシュ陣営とエミリア陣営の対談が始まる。

 

『フェリスさ……』

 

『フェリス、ですよぅ。フェリちゃんとクルシュ様との長いにゃが~い付き合いで、今さらさん付けだにゃんて水臭いし、寂しいじゃにゃいですかぁ。もう、いけず』

 

「あんなに変わっちまったのに、全然態度とかそういうの変えねえんだな」

 

「時折垣間見えるあいつの人間味の薄さには苛立ちも湧くが、なんというか……」

 

 カズマと尚文がクルシュへの態度が変わらないフェリスに対して複雑な思いを抱く。

 特に尚文はフェリスの態度から何か勘づきかけているのだが、それを上手く言葉にすることが出来ずに口ごもる。

 

「多分、フェリスさん、クルシュさんに依存しているんじゃないでしょうか?」

 

 口ごもる尚文に対して、ラフタリアがそんな感想を口にした。

 その言葉に尚文はハッとさせられる。確かに、あのクルシュがまるで別人のようになったにも関わらずフェリスの態度は変わらない。それは見方を変えれば、以前のクルシュに戻ってほしいという彼なりの懇願であり、普段通りに振舞うことで少しでも以前のような関係を取り戻そうとしているのではないかと察することができる。

 

「なるほど、依存か。そう言われてみれば、これまでの奴の態度も好意からではなく、離れられないからこその距離感だったともいえる」

 

「それにあいつの女装。関係ないかもしれないが、自分の性別を偽るってのが単なる趣味じゃなくて、過去になにか闇を抱えたからって考え方も出来るな」

 

 ターニャはラフタリアの言葉をより強める理由を見つけ、尚文もまた別視点から見てフェリスの女装が実は……!?なんてことを考え出す。

 すると、アクアがラフタリアに向き直り、ふと浮かんだ疑問を口にした。

 

「にしても、アナタよく気が付いたわね」

 

「えっと、私も昔小さな頃に尚文様に依存っていうか、甘えちゃってて……」

 

「ああ~、そういえばそうだったな。今となっちゃちょっと懐かしいけど。あの頃のお前は夜泣きが酷くて手を焼かされたもんだぜ」

 

「ちょっ、尚文様!?」

 

 恥ずかしい過去の話を暴露されて、顔を真っ赤にして叫ぶラフタリア。

 そんなラフタリアに周囲の皆は彼女にも恥ずかしい過去があったんだなと、ほのぼのとした目で見つめる。

 

『じゃあ、主立った顔ぶれも揃ったし、お話しようか』

 

『反対もにゃいみたいだからさっそくだけど……状況の確認、しよっか?』

 

『話によると、副長たちが王都の騎士団を連れて街道に戻ったときには、もう大罪司教のどっちも残ってにゃかったってお話。残ってたのはうちの騎士の死体と……』

 

『私と同じような境遇の方々だけ、ですね』

 

『自分の記憶が消されてる……か。これも、大罪司教の仕業だと思うか?』

 

『十中八九、ネ。これまでにも、クルシュ様と同じような症例の患者は何人か診たことがあるんだヨ。本人の記憶が急にさっぱり消えちゃって、フェリちゃんの魔法でも復元できにゃいみたいにゃことが。今までは原因不明ってことになったけど……』

 

『『暴食』の大罪司教──その権能と見て、間違いないでしょうな』

 

「しかし厄介だな。暴食の権能か……」

 

(俺の持つ魔法記憶操作(コントロール・アムネジア)で復元は可能か?いや、あれは記憶を植え付けたり書き換える効果だから、復元とは違うな)

 

 聞けば聞くほど、ユグドラシル時代では無かった効果の攻撃に、アインズは静かに頭を悩ます。

 勿論、現実とゲームで差異が出るようなことは承知している。とはいえ、抵抗する策が全く思いつかないという訳でもない。

 記憶を食われるというのならば、先程考え付いた記憶操作(コントロール・アムネジア)によって偽の記憶を所持させて傭兵NPCやリポップする雑魚モンスターを突撃させる。あるいは、感知不可能な距離から超遠距離魔法で狙撃するなどの手が考えられる。

 

(まあ、それは暴食の大罪司教と戦うきっかけがあればの話なんだけどもね)

 

 だがそれは十分に考えられる可能性である。スバルが討伐したはずのペテルギウスが、不審者という形で学園でアルベドと遭遇した事実があり、その際には敵対することはなかったようだが、もし敵対していたらと考えると背筋が凍る思いだ。

 いや、実際には自分たちが覚えていないだけで、既に仲間のNPCが暴食と遭遇し、記憶から消されてしまっている可能性も否定できない以上、どれだけ考えても足りないくらいだ。自分たちの知らないところで重要な事態が進行している可能性に、アインズは嫌悪感と強い怒りを覚えざるを得なかった。

 

『『怠惰』の大罪司教を片付けたと思ったら、すぐに『暴食』と『強欲』だにゃんてお話ににゃらないよネ。働き者にもほどがあるって話じゃにゃい。まーあ、魔女教徒がこれだけ一斉に動き出すにゃんて珍しいことも、こうしてエミリア様が台頭してくるような珍事あってのことのはずだけどネ』

 

『わ、私……?』

 

『ハーフエルフであるエミリア様の存在を、魔女教の奴らが見逃すはずにゃいじゃにゃいですかぁ。いつもは不気味なぐらい静かに隠れてる奴らにゃのに、あいつらが大騒ぎするときは決まってそれ絡みにゃんですから』

 

『その……私、その魔女教っていうのについてよく知らないんだけど……魔女っていうのは、『嫉妬』の魔女のことよね?』

 

『ごめんなさい。それが知っていなきゃいけないことだっていうのはみんなの反応でわかるんだけど、知らされてないの。本当に』

 

『でも、エミリアたんは確か『嫉妬』の魔女については知ってたはずだ。だって俺はそれで……』

 

『住んでいた森の近くの集落で、その……『嫉妬』の魔女と似てるって理由で嫌われてたの。だから、『嫉妬』の魔女がどんな扱いをされる存在なのかはわかっているつもり。でも、魔女教なんて人たちのことは……』

 

『エミリア様がどんにゃ生活をしてたのかはこの際、置いておこうか。それにしても……当事者がこれっていうのはどうにも、お話ににゃらにゃいね』

 

『そんな言い方はねぇだろ。わからないことをわからねぇって言うのに、どんだけ勇気がいるか考えたことあんのか?必要なこと聞いて、なにが悪いってんだ』

 

『スバルきゅんが言うと説得力があるよネ。ホントに、主従揃って』

 

「一々嫌味な事言い嫌がるな、あの野郎!!」

 

「ふふふ、まあ可愛らしいものじゃないですか」

 

 スバルとエミリアに対する嫌味にカズマが憤慨するが、それをデミウルゴスは笑みと共に可愛らしいものと笑い飛ばす。

 その態度にムッとするカズマや他の面々だったが、わざわざ知恵者であるデミウルゴスが無自覚に喧嘩を仕掛けてくるはずがない。

 そう判断した嫌悪感を顔に出した中で冷静な判断ができる尚文がその言葉の真意を問うてくる。

 

「それはどういう意味だ?」

 

「簡単ですよ。恐らく、この先の展開を見れば自ずと分るかもしれませんが、彼は敢えて嫌われ者を買って出て、先の白鯨討伐戦前の同盟の破棄に持っていきたいのでしょう」

 

 そのデミウルゴスの言葉を聞いて、頭の切れる尚文や危機管理能力に長けたカズマは、フェリスの真意を理解した。

 確かに、記憶を失い別人のようになってしまったが、短い会話の中でも彼女の根底にある善良な性質が変わっていないことは感じ取れる。

 そう考えると、クルシュ大好きなフェリスが、自身に注目を集めさせて喧嘩別れの方向に持ち込みたいという行動に出る理由も理解できる。

 

 その後、デミウルゴスの言う通り、魔女教の危険性と過去の行いの話を踏まえた上から、フェリスが先手を切って同盟破棄の話を持ってくる。

 

『とりあえず、魔女教についてはそんにゃところかにゃ。じゃあ、それを踏まえた上での今後のお話をまずしちゃおうか。ぶっちゃけ、この同盟の話……にゃかったことにしにゃい?』

 

『今、なんてった?同盟取り消しって言ったか?どういう意図だ』

 

『そのまんまの意味だってばぁ。だって現状、もうお互いに同盟を組み続けるメリットってものがほとんど感じられにゃい気がするんだよネ』

 

『採掘権云々はともかく、白鯨討伐への協力って点で合意して、実際にそれはやってのけた。いいとこだけかっさらってサイナラってのは、いくらなんでも醜聞に過ぎるんじゃねぇのか、オイ』

 

『デメリットの方が大きくにゃりすぎた、ってことだよ、スバルきゅん』

 

『あぁ?』

 

『いーい?『暴食』と『強欲』の大罪司教が同時に顔を出した前例ができた以上、『怠惰』を討伐したエミリア様の陣営にはこれまで以上に魔女教がちょっかいをかけてくる可能性が高い。今回、クルシュ様がこうして被害に遭われたのに……それ以上、関わり合いににゃりたいだにゃんて、思えると思う?』

 

「本当にデミウルゴスの言ってた通りの展開になりやがったな」

 

「まあ、理解は出来なくもないんだよな。俺も同じ立場なら同盟の破棄を提案しちまいそうだしな」

 

 先程まで不快感で表情を覆っていた尚文とカズマだが、その言葉と態度の真意が自己犠牲だと分かってしまえば、とてもではないがさっきまでの嫌うような態度は取れない。

 

「なんか嫌な会話ね。悪い奴を倒したら、後はみんなでシュワシュワ持って宴会とか、そういうハッピーエンドが好きなのに……」

 

 仲間だった者たちが自分の好きな人の為にお互いを傷付け合う。そんな光景に物悲しい目でアクアはそう呟いた。

 

『フェリちゃんは、同盟の継続に賛成しにゃい。クルシュ様の記憶は、フェリちゃんがきっと戻してみせる。だから、『暴食』への報復にゃんて放置でいい』

 

『どうすべきか、どうなさるか……それも全て、クルシュ様のご判断だ。我々が勝手に、軽々しく判断していい事柄ではない』

 

『今は、まだ私にはわからないことばかりです。なにひとつ、以前の自分が思い出せません。皆さんにとっても、私と接することは戸惑いばかりだと思います。……それでも、私を尊重してくださる皆さんにまずは感謝を。そしてできるなら、そのご期待に応えたい。そのための努力は、し続けるつもりです』

 

 その目には記憶を失う前のクルシュが宿していた光があり、記憶がなくともその魂の高潔さは微塵も汚されても失ってもいないと断言出来る。

 

「すごいものだな。これが異世界の王になろうとする者か……」

 

(ジルクニフといい、ザナックといい、やはり王にはカリスマというものがあるのだろうな……。それに比べて俺は……)

 

 仲間たちが遺してくれた優秀なNPCがいなければ、まともに統治することもできない自分と比べてと自己険悪する。

 ただ、それでも、とアインズは思う。ここまで立ち止まらずに今も歩き続けられたのも彼らが遺してくれたNPCたちがいてくれたからだ。そんなNPCの期待や願いに、アインズ・ウール・ゴウンのギルド長として、なにより皆の主君として応えない訳にはいかない。

 

「俺も、ああいった王を目指さなければいけないのか……」

 

「アインズ様?」

 

「んっ!ああいや、なんでもない……」

 

 自分を見つめるアルベドの視線に気付き、アインズはそう誤魔化す。

 

 結局、主人であるクルシュが同盟の継続を認める意思を見せたことで、同盟の破棄は無かったこととなり、一先ずこの話は終わりとなった。

 

『クルシュ様がこう仰る以上、同盟の解消は誰も望みますまい』

 

『はい。エミリア様とナツキ・スバル様に多大なご迷惑をお掛けします』

 

『いいえ、大丈夫。私たちも足並みが揃っているなんて言えないもの。聖域に避難したラムたちと合流して。それに、ロズワールにもちゃんと話さなきゃ』

 

 エミリアの口からロズワールの名が出た時、スバルの顔が考え込むように変化する。

 そのスバルの雰囲気の変化を目ざとく感じ取ったターニャが、ここまで一切ロズワールが何の関与もしてこなかったことに疑問を抱く。

 ロズワール先生はあんなふざけた見た目ながらも、その頭脳は自分やデミウルゴスに匹敵することぐらいは既に知っている。

 そんなロズワールがこの状況を静観する意図が読めないと、そんなことを考えるターニャを置いて同盟者同士の会議は終了し、スバルはレムのいる部屋へと戻る。

 

『──やっぱり、ここにいた』

 

『エミリア、か──。何か用事あった?』

 

 部屋に入ってきた人物が誰なのか分かったスバルは若干の警戒心を解いて眠るレムに向き直る。

 

『なきゃ来ちゃいけない?私もこの子……、レムさんの関係者なんでしょ?』

 

『レムさん、か……』

 

「さん付けって、何気に心の距離が離れてるって感じがして、地味に傷付くんだよな」

 

「それって、カズマさんの経験則かしら?」

 

「うるせぇ、ただ普通に俺はスバルの気持ちをだな……」

 

 アクアの茶々にカズマが嫌な顔をしながら反論する。

 

『スバル、ずっと寝てないでしょ?少し眠った方がいいわ』

 

『別に疲れてるわけじゃないんだ。何もできないわけだし』

 

『でも、何かしたいと思ってるのはホントでしょう?そうやって心がずっと頑張り続けてたら、先に体の方がくたびれちゃうわ。だから、お願い……』

 

 そうエミリアに懇願されて、助けになろうとした女の子に逆に助けられるシチュにスバルの涙腺が緩む。

 

『情けねえな、俺──』

 

「……まっ、こういう時の女の強さには男は敵わないもんだからな」

 

「──っ尚文様!」

 

 そっと隣に座るラフタリアの手の上に自分の手を重ねる尚文に、ラフタリアは一瞬驚きかけながらも、再びあの時──槍の勇者に決闘でのイカサマで負けた瞬間の後のことを思い出す。

 

「そうですよ、いつだって女の子は大事な人が傷付いた時は強く傍にいて優しくしてあげたいものなんですから!」

 

 経験則です!と言いたげな笑みをほんのりと浮かべて、ラフタリアは尚文を見つめる。

 

『スバルが助けてくれたみたいに、今度は私がスバルを助けたい。スバルが傷ついているならなんとかしてあげたい』

 

『エミリアたん、すげぇな』

 

『スバルの方がもっとすご~くすごいと思うけど』

 

『いや、そんなことねぇよ。──エミリアでよかった』

 

 スバルの無理して出てこなかった本音がポロリと出たことに、何人かが安堵の息を吐いた。

 

「どうやら、エミリア殿はスバル殿の心労を和らげられたご様子ですな」

 

「ええ、そのようだね。彼の能力的に精神面の安定性は重要。今後、強大な敵と戦うのであれば、尚更のことだろうね」

 

 そういう意味で言ったわけではないとセバスが無言でデミウルゴスを睨むが、それを意に介することなく、デミウルゴスは笑顔を浮かべながらメガネを正してスバルとエミリアの会話を見つめる。

 

『エミリアにひとつお願いがあるんだけど』

 

『なに?』

 

『後ろ向いててくれる?少し泣く……』

 

『ん……、分かった』

 

 そうしてエミリアがスバルの願いを了承して後ろを向くと、スバルは嗚咽を漏らしながら静かに泣いた。

 その泣き声はスピーカーを通して、皆の耳に嫌なほどはっきりと聞こえてくる。

 

「──スバルさん」

 

「………………」

 

 そのスバルの涙に、ラフタリアも貰い泣きしそうになるが、尚文はそんなラフタリアの肩を抱き寄せて優しく無言で慰める。

 

「っ!ちくしょう!なんでスバルばっかがこんな目に合ってんだよ!!」

 

「……カズマ。大丈夫だなんてもう言いません。ですが、学園に戻ってスバルにまた会ったら、皆でお疲れ様と言ってあげましょう」

 

「そうだな……、私もスバルに……いいや、スバル達に頑張ったんだなと伝えたい」

 

「そうだわ!だったら、宴会を開いてあげましょう!!あの白鯨とか怠惰のキモいおっさんを倒した祝勝会をしてないみたいだし、私達でスバル達のお祝いをしてあげるのよ!どう?いいアイデアじゃない?」

 

 理不尽な異世界の現実に押し負けて涙するスバルの姿に、カズマがキレかけるが、そんなカズマの怒りをめぐみん、ダクネス、アクアが宥める。

 

「……なんともじれったいものだな。友の涙する場面を見ることだけしか出来ぬとはな」

 

「だったら、さっきアクアさんが言ったように、我々も学園に戻ったらスバルさんの祝勝会をしてあげましょう」

 

「いいですね!」

 

「あの人にしちゃ、珍しく悪くない提案だったしな」

 

「だな!」

 

「そうでありますな!」

 

 歯嚙みしながら呟くターニャに対し、ヴィーシャがアクアの提案に賛同する形で祝勝会の手伝いを提案する。それに呼応するように、ヴァイスらも賛同の声を上げた。

 

「祝勝会か……。いいかもしれぬな。我々も何か手伝うとしようか……」

 

「でしたら、私めにお任せを!炊事洗濯家事とこの学園に来てからの花嫁修業の成果を見せるのに相応しい機会。是非とも、このアルベドの成長をアインズ様にお見せしたいのです!」

 

「そ、そうか……」

 

「で、でしたら、わっちも手伝うでありんすよ!妾もこの学園で学んだ成果をアインズ様にも是非見ていただきたいでありんす!」

 

 なんだか、スバルの祝勝会の手伝いという名目から、アインズへの花嫁修業の成果発表にに趣旨が変わりつつあるような気がすると、アインズはアルベド達へ向ける視線に微妙なものが含まれ始める。

 

 やがて、ひとしきり涙と鼻水を垂れ流したスバルの首に、エミリアが手を伸ばして抱きつき、優しく無言で頭を撫でて慰めた。

 それを受けて、スバルは泣くのを止めると、今も眠り続けているレムを見つめ、覚悟の決まった顔で自身の決意を言葉にする。

 

『俺が必ず……、お前の英雄が必ずお前を迎えに行く。──待ってろ、レム!』

 

「英雄──素敵な言葉です。でも……」

 

「ああ、英雄だからってすべてを救えるわけじゃない。むしろ、英雄だからこそ、救えないものを多く目にすることだってある。あまり気負い過ぎるなよ、スバル」

 

 スバルの決意と誓いの言葉に、ラフタリアと尚文は英雄という言葉がもつ重みに思わず感傷に浸る。

 しかし、それでも尚文はスバルが諦めないことを理解していたし、ラフタリアも自身や自分の主である尚文と絆を結んだ学友を信じて疑わなかった。

 

「英雄か……。観ているこちらが申し訳なくなるぐらい、英雄らしいというか、なんというか……」

 

「何をおっしゃいますか!アインズ様が王国で名乗りを上げている英雄モモンに比べればあの男など!!」

 

「そうですよ、アインズ様!モモンに比べたらスバルの人気なんて!!」

 

「シカリ、アインズ様ノ偽装デアル漆黒ノ英雄モモンノ活躍ノ方ガ偉大デアルト思ワレマス!」

 

「……よせ、やめろお前達」

 

 余りのいたたまれなさに耐えかねたアインズは、全員に対してモモンとスバルの比較をやめるよう手で制止。

 自分よりも若い子供であるスバルが文字通りの命懸けで掴み取った英雄の称号に、大の大人である自分が盛大なマッチンプで手に入れた事実に対し、恥ずかしさを覚えずにはいられなかったのだ。

 しかも、それを部下によいしょされれば、恥辱感と同時に罪悪感すらも芽生えてくる。

 

「ああ~、お前たちの私を慕っての発言は非常に嬉しいのだが、もうそこらへんでストップな」

 

 流石にここまで言われてしまえば、それを突っぱねてモモンの称賛を口にすることこそ不敬であるとして、NPCらは口を閉ざす。

 




この小説の三次小説が今日投稿されたようなので、俺も今日投稿出来るように頑張りました!!
https://syosetu.org/novel/372169/

これがその小説です!よければどうぞ!!

4章でのスバル視点外の放送

  • エミリアの試練
  • ラムの告白
  • ガーフィールとエルザのバトル
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