「何でこうなってしまったのやら」
呟こうとしたところで、口から出るのは「ごああ」としか表現出来ない鳴き声のみ。
「そもそも、こういうネタの二次創作は結構読んでいたクチだけど、何というか……」
出来れば他のモンスターが良かった、というのは贅沢なのだろうか。
「はぁ」
ため息をついても客観的には小さく唸った様にしか聞こえていないであろうが、同族と書いてお仲間と読む同種族が側にいたところで愚痴に付き合ってくれるとも思えない。
「どっちかが去るか、縄張り争いになるだけだな」
以前の癖のように頭を掻こうにも、今の両手――というか前足は短すぎる。顎はしゃくれて大きく頑丈で、背中には無数の突起が並ぶ。
「ウラガンキン、か」
かなうことなら、翼をもって大空を飛べる飛竜種と呼ばれる分類のモンスターが良かった。
「そうなると、ここはモンスターハンターの世界なんだろうな」
転生か憑依か、二次創作には良くある展開だが、どちらかというなら転生だと思う。ぼんやりとだが、こうして自分が自分であると認識するより前の記憶が残っているし、身体の動かし方についても不自由は感じないのだから。
「まぁ、ここまでハンターにも遭わず、途中で死ぬこともなく生きてこられたのは僥倖か」
こうして私が推定前世を思い出すことが出来たのは、きっとたまたま。身体を丸めてタイヤのように転がっている時、岩の出っ張りに乗り上げて横転し頭部を打ったのがきっかけと見られる。
「あの時は本当に焦った」
半身が溶岩に浸った状態で気がついた私は取り乱して酷い醜態をさらしたものだ。目撃者もおらず、単なる黒歴史の一ページで済んだのは幸いだったと思う。
「あの時側にハンターが居たらどうなっていたことやら」
モンスターハンターとは作成した自分の分身たるハンターが自分より遙かに強大なモンスターを狩るハンティングアクションゲーム。そして、私の転生先はその狩られる側であるモンスターの一種だ。
「当然、ここぞとばかりに狩られただろうな」
自分で自身の呟きに答え、苦笑する。草食のおとなしいモノを除き、モンスターは人間にとっての脅威であり、故にハンター呼ばれる職種の人間はモンスターを狩る。研究材料や闘技場でハンターと戦わせる為に捕獲されたり、飼育したいという権力者の酔狂で捕獲されると言う例外もあるが、結局の所バッドエンド以外の何者でもない。
「一応私も幼体の頃は草食なのだし、狩られるのは遠慮したいのだけどなぁ」
神経質な一面を持ち、怒りやすい気質にくわえて外敵を叩きつぶす為の強靱な顎のあるモンスターではそれも叶わない。
「だから一生逃げ隠れて暮らすしか無いと思っていた訳なんだけど」
今、私の目の前にはボロボロの人間が一人意識を失って横たわっている。
「防具を身につけ、武器まで背負ってるところを見るに、推定ハンターだね」
私の棲息している火山は稀少な鉱物を産出するわ過去の遺物が発掘されることはあるわで、モンスターの狩猟以外にもハンターが訪れることがあるらしい。前世ではゲームでだが、私もハンターとして炭坑夫よろしくピッケルを持てるだけもって通っていたのを覚えているし、ハンターと会ったことはないが、採掘で使い潰したらしい折れたピッケルなら何度か見かけたことがあったのだ。
「モンスターを狩りに来たにしちゃ軽装すぎるし、つけてる装備はレザー一式、典型的な採掘用装備だからなぁ」
私も同じ装備で火山にはよく通ったものだ。そして、遭遇し襲いかかってきたウラガンキンに採掘を邪魔されイラッとしたことは数知れない。
「人間側のスタンスじゃ、狩るのもやむなし、か」
とは言えあくまでそれは人間の都合。第一私は素直に狩られるつもりなんて無い。
「私としては穏やかに暮らしたいだけなんだけどな」
空を飛べるなら世界を旅して回るのも良かったが、二足歩行か地面を転がるだけの身体の上、生まれは火山地帯。行動範囲もそう広いとは思えない。
「ボロボロにされてるところを見るとこの火山に住んでる他のモンスターにやられたといった所だろうね」
この状況で私にとれる選択肢は大きく分ければ三つ。無視するか、トドメを刺すか、助けるか。
「無視したところで危害を加えたモンスターが居る訳だから、この娘が生還すればハンターが派遣されてもおかしくない」
生還しなかったとしても調査か救出にハンターが派遣される可能性はある。
「どっちに転んでも私がハンターに遭遇する可能性が跳ね上がる訳だ。もしくは、自己保身からハンターの少女を助けて人に危害を加えないウラガンキンも居るんだよとアピールし、狩猟対象から外して貰うと言うとか」
つまるところ三つ目の選択肢だが、成功するとは思えない。
「この世界の文字も知らなければ、しゃべることも出来ないし、おまけにしゃべれたとしてもここの言語を私は知らないからなぁ」
きっと正解は無視することだろう。
「もっとも、正解が解っていても選べるはずもないんだけどね」
やれやれ、と私は自嘲気味に笑う。人間だった頃の記憶が残っている時点で見捨てておける筈が無かったのだ。
「うん、前足が有ったことに感謝だね」
普段は役に立つことの少ないそれだが、横たわった少女を持つことは何とか出来そうだ。
「確か、薬草も生えてる場所があったはず」
顎が邪魔で前足で掴むことが出来るかは少し不安だし、間違えて別の草を摘んでしまう可能性だってあるが、問題の少女から薬草の生える場所まではそんなに離れていない。
「側まで運んでいって起こしてみようか」
もし、起きてハンターが薬草を自分で摘める様ならそれで良し。
「駄目なら千切って顔の上から落とす、と」
確かゲームだと薬草は食べることで効果を発揮したと思う。合成してボウガンの弾にした時は撃ち込んでも効果があったから、すりつぶして傷口に塗り込んでも良いのだろうけれど。
「助けると決めながらもちょっと行き当たりばったりすぎるかな」
顎を叩き付けまくった地面ばりに穴だらけの計画に呆れながらも私はそれを行動に移した――その結果。
「ガンちゃぁん」
「ゴァァァ」
ご都合主義万歳というか、何というか。私は、助けた彼女に懐かれた。
(やれやれ)
正確に言えば、目を覚ました直後は怯えられるわ泣かれるわデタラメに振り回したランスでばしばし叩かれるわしたのだが、叩かれた痛みであげた咆吼に少女ハンターは耳を押さえて動きを止めてしまい、そのまま失神。
(普通のウラガンキンだったら、あの後顎を叩き付けて潰してるからなぁ)
人生終了の筈が何もなく、再び目を覚ますと私にがっちりホールドされて何処かに運ばれている最中。再度パニックに陥って暴れたが、私ががっちり掴んで放さなかったことと、少女が怪我をしている上に消耗していた為に途中でバテて抵抗が止み。おとなしくなった彼女を私は水辺の陸地まで運んで置いた。
(あの時は私もテンパってたな)
おとなしくさせるなら、睡眠ガスを放出することだって出来たというのに、すっかり失念していたのだから。
(まぁ、今は結果オーライと思っておくべきなのだろうね)
あの時水辺に運んできた理由は少女の名誉の為にも敢えて言うまい。
「ガンちゃん、あのね今日も火薬岩をお願い出来る?」
「ゴァッ」
火薬岩は高温で小さな衝撃でも爆発してしまう危険な岩だ。それで居て需要がある為、調達の為ハンターに良く依頼が出される訳だが、ウラガンキンはこの火薬岩を身体にくっつけている。本来山頂付近まで危険を冒して登り、岩の高熱からダメージを受けつつモンスターに襲撃されて駄目になる危険まで冒して採ってくる危険な品も、私が居ることでノーリスクのまま入手できるというわけだ。
(懐かれたというか、体よく歩く火薬岩産出場所にされてる気もするんだけど)
彼女と仲良くなったからか、今のところハンターに襲われたことはない。
「ありがとう、それじゃ少ないけどこれお礼ね?」
「ゴァァァ」
しかも、礼として私の好む鉱石をくれるので実質的にはギブアンドテイクの関係になっている。
「そうそう、今度捕獲の見極め付きの装備作ったから、そのうちガンちゃんのお嫁さんも捕まえてきてあげるから、期待しててね」
「ゴァ?!」
ギブアンドテイクだと思う。
「ふふふ、大丈夫だよガンちゃん。ガンちゃんに従順になるように調教もしておくからね。うふふ……」
時々彼女の好意は重いというか、暴走してるというか、病んでる気もして、助けたのは正しかったのかな、と思うこともあるけれど、選択したのは私なのだから。
「じゃあね、ガンちゃん。火薬岩ありがとー」
「ゴアアア」
岩を抱えて手を触れず礼の言葉を残して去って行くハンターの少女に鳴き声で答え、私は遠ざかって行くその背を見送った。
これが数日に一度火山にやって来る彼女とほぼお約束になったやりとり。
ちなみにこの時の私は想像もしなかった、二ヶ月後彼女の身体程の小さなウラガンキンを丈夫な縄でぐるぐる槇にして私の所へ本当に連れてくるなどとは。
と言うお話でしたが、いかがだったでしょうか?
連載あるのにすみませぬ、出来心です。
最初はリオレウス希少種の長編書きたいなと思ったのですが、強くて逃亡者とか完結してませんので、妥協した結果がこれです。
イビルジョーを少女と協力して狩猟するとか、お散歩がてら一緒に採掘とか長編にするネタはあったんですけどね、うむ。
モンハンは暫く読み専門ですね。
ちなみに、ヒロインの女の子、名前は決めてません。主人公は愛称つけられちゃってますが。
尚、あの後ミニマムウラガンキン♀と主人公がどうなったかは……うん、どうなったんでしょうね?
皆様の想像にお任せします、では。