怪人3110号(人々からは斎藤 剛と呼ばれている)は、ヒーローと戦う運命を背負わされた異形の怪人である。しかし、従来の怪人と違った3110号は倒壊し始めた建物の中にいた少年を救った事で、怪人組織から追放されてしまうことに。

怪人でありながら人の心を持った3110号。 彼がどんな活躍をするのか……短いお話ですが、どうぞお楽しみください。


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カクヨムに投稿してたんですが、誰にも読んでもらえなくて何回か投稿し直しても誰にも読んでもらえなくて寂しかったので、ハーメルンにも投稿しました。


怪人3110号 人々からは「斎藤 剛」と呼ばれている

怪人――それは人間の悪意が具現化した姿である。

 

 

 

 怒号と悲鳴が入り混じる街の中心で、異形の存在が市民に襲い掛かる。 怪人の放つ拳で地面は砕け、窓は割れ、逃げ惑う人々の叫びと悲鳴が真昼の青空に響き渡る。

 

だが、誰かが言った、一筋の光となる救いの言葉を。

 

「大丈夫だ……ヒーローは必ず、来るっ!」

 

刹那、視界が白く染まったと同時に雷鳴のごとき轟音が鳴り響く。

 

「ぬぅ、この雷鳴は……()か!」

 

人々の視線のその先――怪人の手により瓦礫となった建物の上に佇む影が一つ。

 

「さあ、終わらせよう 悲しみの連鎖を!」

 

 

 

これは、“ヒーロー”と“怪人”がいる世界の物語。

 

 

 

しかし、主人公はヒーロー側の人間では――ない。

 

 

 

(某日某所)

 

「さいとー、ヒーローごっこやろーぜ! 俺ヒーローな!」

「私もー!」

 

「うむ……クククククッ! ついに姿を現したなひーろーども! 今日こそ貴様らのおわりだー!」

 

 とある街の小さな公園で、双子の兄妹 まさるとまなみを相手に、ヒーローごっこの怪人役を務める異形の名は『怪人3110号』。3110番目に誕生したためにそう呼ばれている。

尚、人間達からは『斎藤 剛(さいとう ごう)』と呼ばれている……ネーミングセンスは僅かに人間側に傾いている。

 

 骸の顔に面頬(めんぼお)をつけ、鎧武者姿で刀を振るう侍風の怪人。 3110号は怪人として生まれたその日から、ヒーローと戦う宿命を背負わされていた。 それがすべての怪人にとって“当たり前”だった。

しかし、彼に一つ欠点があるとするならば、3110号の思考は他の異形の者たちと異なり、()()()()()()()()であったことだろう。

 

『あぶないっ!!』

 

 いざ初陣を飾ろうとヒーローと戦闘中の同業者のヘルプに入ったにも関わらず、3110号は倒壊し始めた建物の中にいた少年にいち早く気づき、心の思うままに助けてしまったのである。

その姿は多くの市民の目に留まり、スマホの動画として広まり、瞬く間に世間の知るところとなった。そして3110号は、悪の組織から即刻除名処分を受け、怪人としての居場所を失った。

 

 

 

「今だ! スーパー ウルトラ スーパー キーーック!」

「ぬわあぁっ! なんて強さ! 拙者がやられてしまうとわ……無念!!」

「キャハハハハッ! ざ~こ♡ ざ~こぉ♡」

 

しかし今は、とある町内会の住人たちの手によって匿われている。 はたしてこれが人間達にとって最善の行為なのかは3110号には分からないが、少なくとも彼が来てから子供達の人気者になっているのは事実である。

 

「こらー! 2人ともー、そろそろ帰るわよー!」

「「えぇーーー!!」」

 

『やだぁ!もっとさいとーと遊ぶ―!』 そう言いながら3110号の体を器用によじ登り、頭の兜をハンドルの様に掴んで離さないまさると、足にしがみついて離れないまなみ達に呆れる母親の姿。

この地区では当たり前になった親子と怪人の光景に、街の住人達は微笑ましいものを見る目で眺めてはいつもの日常へと戻っていく。

 

「二人共、御母上(おははうえ)の言葉に耳を傾けねば、良いひーろーにはなれぬでござるぞ。 また明日会おうぞ」

「「……はーい」」

「斎藤さん、いつもありがとう。 これ、もし良かったら」

 

母親ではなく3110号の言葉に耳を傾けて諦めた子供達に呆れつつも、彼女は手提げかばんの中からおにぎりが入ったタッパーを手渡した。これは彼の大好物である。

 

「これはこれは、いつもかたじけない」

「いいえ、いつも子供達の相手をして下さって助かっています」

「御母上殿の料理はどれも絶品故、彼等も将来は立派なひーろーになり申すであろう!」

「あはは、そうねぇ」

 

怪人全般がそうだが、彼等は食事は不要である。 食事を摂取せずとも酸素さえあれば生きていけるのだが、3110号は少量だが食事を摂取せねば碌に動く事ができなくなる欠陥品でもあった。

そんな彼に救いの手を差し伸べたのが、かつて3110号が救った少年、まさるの母親であった。

まさるとまなみの父親が怪人によって命を奪われたにも関わらず、今では3110号に子供達が懐き心を許す姿に、食事を取らねば生きていけない怪人を相手にしてくれる彼女の心境が気にはなっていたが、3110号は問いかける事ができなかった。

 

「キャーーーーッ!!」

 

 

「!? まなみっ!?」

「まなみ殿!」

 

空気を引き裂く様な声が公園中に響き渡り、母親と3110号が悲鳴のした方へと顔を向けると、3mはあろう魚人姿の怪人がマサルの腕を掴んで空高く持ち上げている所であった。

 

「ギョギョギョッ! 未来のヒーローが稚魚(ちぎょ)の内に殺すのは楽ちんだギョ!」

「やめてっ! お兄ちゃんを離してっ!」

「うるさいギョッ!」

「きゃっ!」

 

幼き未来ある子供に容赦のない蹴りを入れる怪人は、笑みを浮かべた。 蹴られ転がった娘の元へかけよる母親に、泣き出す子供の泣き声に、怯え恐怖し逃げ出す大人の姿に魚の怪人は歓喜し、高揚(こうよう)し、陶酔(とうすい)した。

これが怪人としての喜びであり、生を感じる瞬間である。それが当たり前で当然の事であった。

 

「……」

 

幼き子供の泣き声に悲鳴、恐怖し逃げ出す人々の姿、愛する子供が傷つき涙を流す母親……なんて外道だ、不愉快なものだ。3110号の――(3110号)の心についた小さな黒い炎が大きく燃え盛った。

 

 

 

「ギョッギョッギョッ! 虫けらがコロコロ鳴いて愉快だ愉快だ――ギョギョッ?」

 

 番号で呼ばれるしかない怪人は、虫けら(人間)を見て笑った事は後悔しない。しかし、選んだ虫けら(人間)が悪かったとは思った。

数メートル離れた先から向けられた恐ろしい程の殺気に、黒き鞘から抜かれた揺らめく黒炎をまとった刀を、ゆっくりと、しかし確実に命を刈り取る動作に、目を離すことが、動くことができなかった。

 

そして魚の怪人が見た最後の景色は、誰よりも恐ろしい化物の姿であった。

 

 

 

「ギョギョーーーーーーッ!!!」

 

 目にも止まらぬ速さで繰り出された刀捌きにより、怪人は魚の活け造りへと変貌し、直ちに黒い炎に焼かれて灰になった。

怪人の手から解放されたまさるはすぐさま母親に抱きしめられるも、彼の目線は3110号から離れる事はなかった。

日頃、幼い自分達を相手に全力で遊んでいる姿とは全く違う。なす術もなく怪人に捕まり、殺される恐怖を味わった相手を一瞬にして倒したその姿。人ならざる姿を見た大人がどう声をかけていいのか悩んでいたが、子供達は3110号へと飛びつくのだった。

 

「「さいとー あ゛りがどーーっ!」」

「ぅ、うむ。 すまなかったまさる殿、まなみ殿。 拙者がもっと早く助けに入っていれば」

「そんなことないっ! そんなごとないもん!」

「さいとーかっごよがっだー!」

「……」

斎藤(3110号)さん」

「御母上殿」

「…… 『ありがとう』」

 

まさるとまなみの母親の言葉とともに、割れんばかりの拍手が公園内に響き渡る。

彼等からの『ありがとう』の一言に、3110号は喜びとともに、困惑もした。

たった5文字の言葉に体の奥深くからジワリと温かくなるこの感覚が、むず痒いような恥ずかしいような、何とも言えぬ感覚が沸き上がって来るのである。

 

「……うむ」

 

それでも人間達の、皆の笑顔と感謝の気持ちに3110号は、明日も人間たちの隣で笑顔で生きて行くのであろう。

 

 

 

 

 

 

――これは、ヒーローと怪人がいる世界の物語

 

 

――ヒーローよりも人気者になってしまう、怪人の物語である。

 

 


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