水神の家族、フォンテーヌの守り猫   作:チナトロ先生

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綺良々の年齢設定は諸説ありますが、キャラクターストーリーの内容から、恐らく普通の人間である「おばあちゃん」に子猫→神の目獲得&人化術→狛荷屋で働く姿を全部見てもらっているので、ここでは何百歳とかではなく、十代後半から二十代前半のイメージにしています。



番外編
大きな背中


 稲妻の配達会社「狛荷屋」の配達員である猫又の綺良々は人間の街が好きで、荷物の配達をするというこの仕事も好きだった。

 

 綺良々は最近初めて来たフォンテーヌ廷で、稲妻にいる時も会っていた馴染みの顔に偶然再会した。

 それから、たまにその知り合いの元へ荷物の配達をすることがあったし、他のフォンテーヌ宛ての荷物も運ぶようになった。

 

 ある日、綺良々は配達を無事に終えて、充実した気持ちでフォンテーヌの町を出た。

 その帰路の途中、香ばしい匂いと共に空に昇る一筋の煙を捉えた。

 綺良々はピンと来て、耳を機嫌良さそうに立てた。

 

 猫又になる前、綺良々は野外で冒険者達が料理している姿をこっそり見るのがとても好きだった。

 

 綺良々は街中ではあまり好まない「普通の猫の姿」に戻ると、足音を忍ばせて近づき、煙の元を見た。

 するとそこには想像とは違って人ではなく、焚火を囲む白黒の子猫が数匹と、それに囲まれるように銀色の猫が見えた。

 綺良々は猫の感覚で周りに気を巡らせてみるが、人の気配はなく、また香ばしい匂いもこの焚火からしているのに間違いはなかった。

 

 すると銀色の猫がこちらを見ていることに気付いた。

 気付かれていたことに驚くが、続けてその猫はこちらに向けてゆっくりと手招きをしていた。

 おずおずとした足取りで綺良々は焚火に近づいた。何を言われるか怖くもあったが、それより焚火や良い匂いについて好奇心もあった。

 近づいてくる綺良々に気付いた子猫たちが一瞬目をやるが、次の瞬間には銀色の猫にじゃれついたり、横になったりと思い思いの行動を取っていた。

 

『こんにちは!』

『こんにちは、お嬢さん』

 

 綺良々は猫の言葉で声を掛けると、銀色の猫からはっきりした声で挨拶が返ってきた。

 綺良々はその様子から、目の前の猫が自分と同じような猫又か、それに近しい存在だと察した。

 なんとなく、何処かで見たことがあるような気もしたが、その答えは出なかった。

 

『ここで何をしてるの?』

『頼まれて知り合いの子供たちの面倒を見ていてね、少し時間が経ったから、ご飯の用意をしているんだ』

 

 綺良々がその言葉を聞いて焚火を見てみると、そこには凝った金色の台に乗った数匹の魚が見えた。

 それらはとても美味しそうな匂いを放っていて、思わず綺良々はじっと凝視してしまった。

 

『多めに用意してるから、よかったらお嬢さんも食べていくといい』

 

 綺良々は自分の行動を顧みてハッとしたが、この美味しそうな匂いには逆らえなかった。

 銀色の猫が焼けた魚を器用に数枚の葉っぱのお皿に置いていく様子をわくわくしながら見守った。

 

『せっかくだから、お嬢さんには一番うまくいったものを食べてもらおう』

 

 銀色の猫の言葉は、なんだか少し自信ありげだった。

 そこで一斉に子猫たちと魚を食べ始めた綺良々は、とんでもない衝撃を受けた。

 

 

 このお魚、美味しすぎる!!

 

 

 味は確かに今まで食べたことのある魚のはずなのに、火の通し方とかの焼き加減が絶妙なのか、皮や身がとんでもなく美味しかった。

 

 綺良々は(おばあちゃんの猫まんまと同じくらいに美味しいものを初めて食べたかもしれない!)と内心思いながら、魚を黙々と食べ進めた。

 子猫たちも綺良々と同じように猛烈な勢いで魚にかじりついていた。

 

 銀色の猫は綺良々と子猫たちの様子をニコニコしながら見守っていた。

 

 綺良々は子猫たちが魚を食べ終え、また銀色の猫にじゃれついている様子を見ながら、焚火の前に座りこんだ。

 すると仕事を終えていた気持ち良さもあり、子猫たちの声を子守唄代わりにして、少しの時間うとうとした。

 綺良々は夢うつつの中、焚火の暖かさを感じながら、なんとなくおばあちゃんに会いたい気持ちになった。

 

 その後、目を覚ました綺良々は猫たちに別れを告げて、帰路についた。

 

 綺良々は寝ていたため、銀色の猫が魚の焼き台を霞のように消滅させたことも、元素力を使って焚火を消したことにも気付かなかった。

 

……

 

「っていうことがあったんだよ千織お姉さん!」

「そう。よかったわね」

 

 綺良々は楽しそうに先日あった出来事をフォンテーヌの知り合いである千織に話していた。

 千織から返ってきたのはそっけない回答だが、それは千織がこの場所――彼女の店である【千織屋】で真剣に仕事に関わる「何か」を観察しているからだと気付いていた。

 

 綺良々が邪魔しないように千織の手元を覗き込むと、そこには橙色の【神の目】が見えた。

 

「それって千織お姉さんの?」

「違うわ、知り合いから借りているものよ。今はこれに合う衣装について考えているところなのよ」

 

 綺良々は相変わらず千織お姉さんは真剣だなぁ、と思いながら先日の出来事をまた思い出していた。

 

 あのお魚は本当に美味しかった。

 それに、その後の感じた不思議な気持ちを思い出すと、なんだか暖かい気持ちになれた。

 

 綺良々には両親の記憶が無かった。

 綺良々は口には出さなかったが、もし両親というものがいたのであれば、あの猫さんのような感じなのかな、と心の奥底で少し考えていた。

 

 それから綺良々の中で、フォンテーヌでの配達を終えると、立ち上る煙をなんとなく探すという習慣が加わった。

 

……

 

 あれから綺良々はフォンテーヌの郊外で何度か銀色の猫に会うことがあった。

 一緒にいる猫たちは様々だったが、一筋の煙を探すと、その下にはいつも魚を焼いている銀色の猫がいた。

 

 綺良々はフォンテーヌにいる「千織お姉さん」のことや、他の国のことなどを話した。

 銀色の猫はとても色々なことを知っていて、「千織お姉さん」のことも知っていた。

 

『千織お姉さんは、実はとっても優しいんだよ!』

『よく知っているよ。彼女とはよく話さないと、そこに気付きにくいかもしれないね』

 

 綺良々が嬉しかったのは、「千織お姉さん」は強気の態度で敬遠されがちなところもあるが、実はとても思いやりがある人、ということをこの猫も分かってくれていたことだった。

 

 千織からもフォンテーヌに来た当初は色々困ることもあったが、親切な方が色々と協力してくれたから、と感謝しているのを聞いたことがあった。

 

……

 

 ある日、綺良々は千織宛ての小物の配達依頼を受けて、フォンテーヌを目指して進んでいた。

 

 すると、綺良々の前に道を塞ぐように盗賊たちが数人現れ、刀を抜いた。

 

 盗賊たちは綺良々を強請りやすそうな少女と見て仕掛けてきたが、綺良々はこういったことは慣れっこだったし、見たところ手練れもいるようには見えなかった。

 稲妻ではこういった輩は「天領奉行」に放り込んでおけば済んだが、フォンテーヌではどうしよう――そんなことを考える余裕まであった。

 

 その時、少し離れた位置に居た一匹の黒猫が突然鳴き声を上げた。

 

 盗賊たちはその声にぎょっとして狼狽える様子を見せた。

 

「ね、猫の鳴き声……」

「まずい!!またヤツが来る!」

「逃げるぞ!!」

 

 盗賊たちが綺良々に背を向け、脱兎のごとく逃げ出したが、この連中を放っておいては別の被害者が出ると思い、綺良々は盗賊たちを追いかけて踏んづけたり特注配送箱でぶん殴ったりして、ほとんどの盗賊を倒した。

 

 一息ついた綺良々だが、視界の端に一人の盗賊を捉えた。

 その盗賊とはかなり距離が離れつつあり、あれも捕まえなきゃ、と走り出す綺良々の視界に、突如頭上から落ちてきた猫の形をした岩に潰される盗賊の姿が見えた。

 

 疑問を浮かべる綺良々の前に、遠くから歩いてくる数人の人物と、銀色の猫の姿が見えた。

 

 綺良々はこちらに話を伺いに来た人達――「フォンテーヌ廷特巡隊」に状況を説明すると、彼らは盗賊たちを速やかに捕縛して何処かへ連れて行った。

 「フォンテーヌ廷特巡隊」は最後に綺良々と銀色の猫に敬礼して去っていった。

 

 色々なことが全て速やかに解決したことで綺良々は呆気に取られたが、銀色の猫が今日も食べていくかい、と声を掛けると綺良々は一も二もなく頷き、猫の姿に戻った。

 

 途中、綺良々は配達がまだ終わっていないことに気付き、それを銀色の猫にも伝えたが、食べてからでも遅くなることは無いという言葉に同意し、それから今日もとても美味しい焼き魚をごちそうになった。

 

 はやく配達をしなきゃ、という気持ちでいっぱいだったが、長旅で疲れていたこともあり、焚火の前で座った途端、綺良々は眠りに落ちた。

 

 

 それから綺良々は夢の中で何か聞かれたような気もしたが、よく覚えておらず、大きな暖かい背中に背負われているような感覚だけがあった。

 

 

……

 

 焚火の前で丸まり、とても気持ち良さそうに寝ている綺良々嬢を起こすのは忍びないと思った。

 確かこの後は千織嬢の所へ配達と行くと言っていたが、綺良々嬢の隣に置いてある小箱がそれか。

 

 綺良々嬢と荷物の両方を元素力だけで運ぶのは難しいと思い、荷物だけをソリのようなもので運ぶとして、綺良々嬢には背中に乗ってもらうことを考えた。

 

 起こすのは悪いが一応了承は取るべきと思い、綺良々嬢を揺すって起こし事情を話す。

 寝ぼけている返事だったが、まずいものであれば抵抗するだろうと思い、うまく綺良々嬢を背中に乗せることができた。

 綺良々嬢からの反応は特に無く、また眠りに落ちたようだった。

 

 さて、焚火を処理して千織屋まで行こうか。

 

 

 

 千織屋の前まで付くと、そこには千織嬢とフリーナが話している姿が見えた。

 近づくと二人はこちらに気付いて声を掛けた。

 

「あら守り猫様、こんにちは。今日はずいぶん変わった様子なのね」

 

「おや、キミの背中に乗っているのはどこの猫ちゃんだい?」

 

 どう伝えるべきかと逡巡していると、背中の綺良々嬢から声が聞こえた。

 

 

「おとーさん……」

 

 

 聞こえてきた言葉にぎょっとした。

 首を捻って綺良々嬢の顔を見ると、気持ちよさそうに夢の中にいた。

 

 それよりも前から視線を感じると、目の前の千織嬢は事情を分かっているようで面白そうな顔をしていたが、フリーナは神の目を外している家族の猫を見やって、正直な感想を口に出した。

 

「キミも、外でやることはやってるんだねぇ……」

 

 誤解だ!!

 

……

 

 それからフォンテーヌの野外では、白猫と黒猫に交じって、アッシュブロンドの毛色をした猫が焼ける魚をわくわくしながら待っている光景をしばしば見られるようになった。




【キャラクター:アルジャン】
オリジナル料理:至高の焼き魚(チ虎魚焼き)
解説:数百年の研鑽を続け、辿り着いた完璧な形状の焼き台を岩元素で構築して焼いた魚料理。地元の猫たちに大好評。

綺良々の猫形態は多分人語を喋れないですが独自設定で見逃してください。
綺良々のゲーム内天賦説明(元素爆発)で「盗賊を懲らしめる特注配送箱で敵を思い切り殴り」って書いてあって笑いました。

本編の完結後、完結前の倍近い数の評価をいただきました。
概ね高評価で、とても嬉しかったです。大変ありがとうございました。

次回の更新予定は未定です。それでは良いお年を。
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