どうやら最近、彼の様子がおかしいようだ。
急によろけたり倒れたりしたと思えば、すぐにケロッとした様子でからかってくる。
そんなことが多いらしい。
実際、同じ正実にいる一年生の子も言っていた。
そしてそんな話が出始めたのは、空が赤く染まり彼が全裸で走り回っていたという話が出た後からだ。
「まぁ、先生もお茶目な人っすからね~。」
正義実現員会の生徒A「?」
「こっちの話だから気にしないで大丈夫っすよ!じゃあ今日はお疲れ様っす。」
私は一緒に見回りをした子の頭をポンポンと撫でその場を離れ、時間を確認する。
「そろそろっすね。」
"イチカ~!"
「あ、先生、待ってたっすよ~。」
"ごめんごめん、ちょっと遅れちゃって...あれ?"
「ひひっ、冗談っすよ!じゃあ今日はおねがいしますっす!」
"コホッ、じゃあまずは..."
...
......
.........
"どう?イチカ、美味しいでしょ。"
「凄く甘くて疲れに染みるっす~...この紅茶も美味しくて...。こんなとこにこんな素敵なお店があったんすね~。あとであの子たちにも教えてあげないとっすね。」
"ふふ"
「どうしたっすか?あ、もしかしてどこかにクリームか何かついてるっすか!?」
"イチカらしいなってね。"
「も~なんすかそれ!(ほんとにずるい人なんすから...(ボソッ))」
"今何か言ったかい?"
「何でもないっすよ!」
...
......
.........
「本っすか?」
"うん、ちょっと気になってた本があって、どうせならイチカと一緒に行こうかなって"
「先生のオススメの本ってあるっすか?」
"う~ん...これかな!"
「ひひっ、それなんすか...ひひひっ」
"え!?そんなにおかしいかな"
「先生っぽくていいと思うっすよ...っ...はははっ。」
...
......
.........
「今度は洋服っすか?」
"そう!イチカなら何でも似合うと思ってさ!"
「いや~...私みたいなのは、制服が一番お似合いっすよ。」
"そんなこと無いよ!ほらこれとかさ!"
そこには青みがかった白を基調とし、金の刺繡が入ったワンピースがあった。
"ほら、イチカっていつも黒と赤の制服着てるでしょ。ハッキリクッキリとしたその制服も似合うんだけど、このワンピースとか凄く似合うと思うんだよね!"
「そこまで熱弁しなくても...。」
"こっちとかもさ!"
彼が手に持っているのは袖が膨らんでいる白のブラウスと黒のワイドパンツ。
「いやぁそれはちょっと...。」
"そうかなぁ...。じゃああれは..."
「わかったっす!わかったっすから!着るからやめてくださいっす!」
「...本当に似合ってるっすか?」
"いやもう凄いよ...。眩しいくらいには...。"
「なんすかその表現...。...店員さ~ん!これ買うっす!」
"え!?いいの?っていうか私が払うよ!"
「いつも先生が払ってるんすから、それに先生は他の生徒さんもいるんすよ?」
"いやいやいや!選んだのは私なんだし!"
「先生!」
"は、はい!"
「私が!払うっす!」
"は、はい...。"
...
......
.........
「買った勢いでそのまま着てきちゃいましたけど...恥ずかしいっすね...。」
"似合ってるよ!"
「そうっすか...。ところでどこに向かってるっすか?」
"私の秘密の休憩スポット!"
少々歩くこと数分...。
"ほらここ!"
そこはトリニティ近郊の町の外れ。
トリニティ中心より少し高く、少し暗くなり始めていたこともあり、先を見れば暖かな光で輝く街があった。
「凄い綺麗っすね...。」
"でしょ。じゃあここら辺でちょっと休もっか。"
彼はベンチに腰掛け私も隣に座る。
疲れているのか息が上がっていてハンカチで汗を拭っていた。
「そういえば秘密の場所なんすよね?私に教えちゃってよかったんすか?」
"いつもイチカは頑張ってるから休める場所が必要かなってのと、二人だけの秘密ってなんだかワクワクしない?"
「(ほんとにずる過ぎるっすよ...。)」
"...暗くなるしそろそろ帰ろうか。"
「...そうっすね。」
隣で立ち上がる彼、私も立ち上がろうとベンチに手を置いたとき、目線の先の彼は動かない。
「ん...?さっきからどうしたんすか?」
バタッ...。
彼は前に倒れる。
「先生!」
私は彼を仰向けにした。
彼は笑っている、もしくは死んだふりをしているだろうと考えていた。
でも、そこには予想とは違い額からは汗を滝のように流し、呼吸は浅く、真っ白になった先生の顔。
「先生...?」
"はは...今日は大丈夫だと思ったんだけど...。"
「どうしたんすか...?いつもみたいに冗談じゃ...。」
"大丈夫、すぐ立てるから。"
彼は膝を曲げ、肘を地面に付けて立ち上がろうとする。
でも力が入っていないのか体は小刻みに震えなかなか立ち上がらない。
"あれ?おかしいな...いつもは立てるのに...。"
彼はそう言い疲れたように頭を地面につける。
「今すぐ救護騎士団を呼ぶっすから、先生は安静にしていてください。」
"はは...もうかぁ...。アロナお願い..."
何かつぶやく彼を後目に私は携帯を取り出して救護騎士団に連絡しようとするが、覚えていない。
そういえば救護騎士団はいつの間にか現れており、連絡をしなくともその場にいるのが当たり前だったため連絡先なんて覚えていなかったのだ。
"ねぇイチカ、あの時の事覚えてる?ほら、ショッピングモールでたまたま会って...。"
「今は思い出に浸ってる場合じゃないっす!!!担いでいくのでいいっすか!?」
"イチカ、もう私はダメなんだ。どんな治療をしても治せないんだよ。"
「そんなの行ってみないと分からないんで早いっすよ!」
"ある知人に言われてね。力には代償があって、最悪死ぬって。だからさ、最後くらい...楽しく居たい。"
「......。」
私は彼をベンチへそっと下ろし、横で手を握る。
"ギター弾いてくれたよね。本当に綺麗な音色で...あ、ギターまだ残ってる?"
「ずっと残ってるっすよ...。」
"そっか...ありがとう。"
"遊園地も行ったよね。ゴホッゴホッ、あのときのイチカ凄く楽しそうで...。あ、そういえばイチカに向いてる趣味、言ってなかったよね。"
「今じゃなくていいっす。明日聞かせてくれないっすか...?」
"ははは...。できればそうしたいんだけど...。イチカはね、人助けが一番楽しそうというか、生き生きとしてて...胸を張れる趣味だと思うよ。"
「へへっ...はは...ははは...、...。」
"ゴホゴホッ!あ、あれ...イチカ...?イチカ、イチカいる?"
「はは、先生、そんな何度も呼ばなくても。私はずっとここにいるっすよ。」
私は彼の手を握る力を強める。
"あぁ...嫌だ...まだ...。またイチカのギターが聞きたい...。まだやり残したことが...。"
「......。」
"死にたくない...寒い...暗い...。怖い...。"
"はは...情けないよね...生徒に戦わせてるのに...。ねぇイチカ...。"
"こんな私でも...頑張れたかな...。こんな私でも愛されてたかな...こんな私でも...、イチカの役に立てたかな...。"
私は両手で彼の手を強く強く握った。
"嫌だなぁ...。まだ誰の卒業も見てないのに...。はぁ...。"
"...いつも...ありがとう。"
「ずっと...一緒っすよ。」
"最後のお願いしてもいいかな...。イチカの目が見たい...。"
私は彼の顔を覗き込む形で顔を合わせる。
"はは...本当に綺麗だ...。今まで見てきた何よりも...。"
彼は手を強く固く握る。
「はい、私はここっすよ。」
ピロン...。
携帯に届くモモトークの通知。
先生『イチカ、ごめんね。そして愛してる。』
「そんなイタズラ、よくないっすよ...ひひっ。......。」
冷たい風が横を吹き抜け、夜空は嫌なほど輝いていた。
イチカ好き