月の欠片を集めて
夢を飾り 眠る
時の砂散りばめても
あの頃へ 還れない
もしもあの時こうしていたら。
きっとこの世界を生きる人達の誰しもが一度は考えたことのある後悔じゃないだろうか? それは些細なことであったり、人生を大きく変えるものだったり……価値観は人それぞれにしても、心に残る程の大切な選択。
俺にもそれがあった。忘れたいのに記憶と心の奥底にがっちりと残っている最悪の選択。きっと忘れることは無いだろうと思う。それと同時に、克服することも……
そんな時、意味もなく今朝テレビで見たおは朝の占いを思い出す。
『今日の1位はおとめ座のアナタ! 今日のあなたは超ラッキー! 嫌なことなんてひとつもなく、身に起こることが全てプラス! 良い事がもう止まらない! もしかすると運命の人と出会ったりもするのかも!?』
過剰なまでにおとめ座を褒めまくるキャスターを強く覚えている。占いなんて……と思ったりもしているが、よく考えてみると誰かの応援をしているだけなのかもしれない。
悪い結果であれど、その人の気分をガッツリ落とすようなことは言わないだろう。それにラッキーアイテムなんて逃げ道までもある。結果の悪い人には“でも”という言い訳の道を与えて“仕方ない”の場所へ向かわせる。
悪いことでは無いのだ。走り出す人の気持ちはどうあれ、進ませる後押しをしているのだから。
本当に悪いのは進みもしない人間のこと。
俺みたいに人と関わりたくないから、を建前に誰かといることを逃げている事。それが悪いと言われるものだろう。そして多分……本心では関わりたい。だからこそ悪なんだ。
住宅街から少し外れた場所にある河川敷に寝転がりながらそんなことを思う。
考えたところで何か変わるわけでもないのに。
「……ん」
不意に横を見ると淡い桃色の花が一輪だけ置かれていた。
見たことの無い花。詳しい方では無いが、その辺に無造作に咲いている花や店などで売っている花ならばどこかで1度は見たことがあるはず。でも俺はこの花に覚えがなかった。
そもそもこの花は置かれていたのだろうか? 緑一色のこの場所ならば視線を向けるだけで明らかに目立つ色だ。俺がここへ来た時にそんなものあったか?
なんとなく俺はその花に手を伸ばして拾ってみる。本当に不思議だがこの花を持つと何故か懐かしいような、嬉しいような、哀しいような……色んな感情が湧き上がってくる。
人生の中で何度も経験した楽しい感情。友人たちと笑った日々のような明るいもの。それとは逆に泣きたくなるほどの苦しい感情。まるで恋人と別れてしまった時のような心臓が締め付けられるような感覚。
「不思議な花だ……」
そんな時だった。土手の方から影が伸びてきて、心地の良い太陽の光を遮られる。その影は人の形をしており誰かに覗き込まれていることが容易に想像できた。
「あの……大丈夫?」
「……ぁ?」
聞こえてきた声は少し幼い印象を思わせる可愛らしい声。俺はどこか最近にこの声を聞いた気が……
素っ気ない返事を返しながら声の聞こえてきた方へ視線を向けると、そこには俺と同じ学生服を着た女の子が立っていた。
パッと見は本当に中学生くらいにも見えるが、同じ制服を着ているんだ。間違いなく俺と同じ学院に通っている子だろう。
太陽の逆光に目が慣れてきた頃、その顔を見てぼんやりとしていた記憶が鮮やかに蘇る。
「あ、えっと……椎葉さん? だっけ」
「えへへ、覚えてくれていてありがとう」
相手は女の子だった。俺と同じ
彼女からは何故か淡い桃色の花の香りがした。
「それで、大丈夫? もしかして転んじゃったりしたの?」
その言葉で大丈夫の意味を理解する。
俺は自分から寝転がっていたのだが、確かにこんな所で横になっていたら転んでしまったと解釈されてもおかしくはないだろう。
「大丈夫。ご心配どうも」
面倒だと思いながらその場を立ち上がる。
「ならよかった。それで……えっと……」
「蓮太。竹内蓮太」
「あ、ありがとう竹内君。ごめんね? まだみんなの名前覚えれてなくて……ワタシは椎葉紬です」
えへへとはにかむように笑う椎葉。小さな人差し指を頬に軽く当てている仕草が可愛らしい。きっとクラスの中でももう人気が高いだろうなと思わせる。
「あぁ、よろしく。じゃあまぁガッコー行くか」
俺たちはまだ登校中だ。本音をいえば今日はサボってしまおうかと悩んでいたのだが、こうして声をかけられたら学院に行かなくてはと思ってしまう。
そもそも休む理由もないんだし行くのが当然ではあるのだけれど……行くも行かないも気分の問題だ。少なくとも今の俺は行く気になった。
「うんっ」
…………
……
……
椎葉と2人で通学路を歩き、学院に辿り着く。少し前までは学生会選挙があったことで、多少騒がしかったイメージがあるが今はもうそれを終えて普通と呼べる雰囲気になっていた。俺たち以外にも通常通り登校し、駄べっていたりする騒音が少し聞こえる程度だ。
生徒会選挙といっても俺はそんなに興味がなかったので誰が就任されたのかは知らない。というか俺はそもそも票を入れていない。
……改めて考えてみるとやっぱりダメだな。さっきから今までの少しの間だったけれど、椎葉と会話出来て楽しかった。こんな俺にも普通に接してくれてありがたかった。だからこそ迷惑はかけられない。
「じゃあ俺寄るところがあるからさ、先に教室行ってて」
それに、さっきから周囲の視線が気になるし。
「え? そうなの? 職員室とかかな?」
「まぁそんなところ。じゃあね」
会話の区切りが丁度良いところで終わらせ、返事も待たずに一方的に離れていく俺。椎葉は不思議に思っただろうか? まぁ何も思わないなら思わないで良いのだが、ともかく転校してきてまだ1週間ほどだ。変な噂を流されても嫌だろう。
「うわ、竹内がいるじゃん……」
「ちょっと絵里子、向こう行こ」
すれ違う女子生徒達のボソッとした小言が聞こえてくる。今の奴らは少し覚えがある。確か中学の時同じ学校に通っていた奴らだ。
「どうでもいっか」
途端に色々と面倒になって世界から逃げるようにイヤホンをつける。お気に入りの洋楽を流し、学院を背にして俺は来た道を引き返した。
改めて朝の占いを思い出す。
「何がラッキーだよ。嫌なことばっかりじゃないか」
吐き捨てるように呟いた一言は、誰に聞かれることも無く虚空へ消えていった。