消毒液をテーマにしたホラー短編小説です

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消毒液

### **消毒液**

 

森本薫(もりもとかおる)は、コンビニで夜勤をしていた。店内は妙に静まり返り、冷蔵庫から聞こえる低い機械音だけが耳につく。時刻は午前2時を過ぎたところ。終電を逃したサラリーマンや、酒臭い学生が来る時間も過ぎ、客足はほとんどなくなっていた。

 

「今日は楽でいいな」

森本はそうつぶやきながらレジ台を拭き、アルコール消毒液のスプレーボトルを手に取った。最近は感染症対策が強化され、アルコール消毒は義務のようなものだった。床も、レジ台も、ドアノブも、全てを念入りに消毒する。それが彼の日課となっていた。

 

霧吹きから放たれるアルコールの冷たい霧が、夜の空気に溶けていく。しかしその瞬間、背後で「カラリ」という音がした。

森本は振り返ったが、誰もいない。扉も閉まっているし、店内は彼一人だけのはずだった。

 

「風か?」

疑問に思いつつも、再び作業に戻る森本。だがその時、耳元でかすかな囁き声が聞こえた。

 

「……消して……」

 

彼は息を呑んだ。明らかに誰かの声だ。しかし、振り返っても誰もいない。ただ、レジ台の上に置いた消毒液のボトルだけが、静かにそこにある。

 

「気のせいだ、疲れてるんだろう」

彼は自分にそう言い聞かせた。夜勤はいつも孤独で、時には幻聴のようなものが聞こえることもあると聞いたことがある。そうだ、それに違いない。

 

だが、その晩から異変が始まった。

 

### **消えない痕**

 

次の日、森本はまた夜勤に入った。例の消毒液のボトルはそのままレジ台に置かれていた。何気なく床を掃除しようとしたとき、彼は奇妙なものを見つけた。床に、手形のような跡がいくつも残っているのだ。

 

「昨日の客か?」

そう思い、モップでその跡を消そうとしたが、何度拭いても消えない。それどころか、アルコールをかけて拭き取ろうとすると、手形がさらに濃く浮き上がってくるのだ。

 

「なんだこれ……?」

 

ぞっとする森本。その夜は、それ以上掃除をする気にはなれず、彼は早めにバックルームに引き上げた。だが、そこでさらなる恐怖が待っていた。

 

バックルームの机の上に、消毒液のボトルが置いてある。しかも、それは確かにレジ台に置いてきたはずのものだ。

 

「誰だ!?」

森本は叫んだが、応える声はない。ただ、ボトルのラベルに染みのようなものが浮かび上がっているのを見つけた。よく見ると、それは文字だった。

 

**「消して」**

 

その夜、森本は店を飛び出した。

 

### **追い詰められる夜**

 

翌日、店長に事情を説明しようとしたが、彼は取り合ってくれなかった。

「夜勤が辛いなら、辞めるか? でも他の人手がないんだよ」

森本は言い返せなかった。自分の気のせいかもしれない、と思い直すことにした。

 

だが、その夜も異変は続いた。アルコール消毒液の匂いが店内に充満し、頭が痛くなるほどだった。そして床や壁には、再び手形が浮かび上がり、消毒液をかけるたびに数が増えていく。

 

「やめろ! やめてくれ!」

彼が叫んでも、誰もいない店内には反響音だけが返る。

 

その時、突然電気が消えた。真っ暗な中、彼は何かが這い寄ってくる音を聞いた。床を這う、濡れた音。

 

そして耳元で再び囁きが聞こえる。

 

「お前が……消すんだ……」

 

彼は悲鳴を上げた。次の瞬間、何か冷たい液体が足元に流れ込み、彼は滑って転んだ。手で触れると、それはべったりとしたアルコールだった。

 

### **最後の選択**

 

気がつくと、森本は自分の部屋にいた。夢だったのか? そう思った瞬間、部屋の隅に例の消毒液のボトルがあるのを見つけた。

 

「なんでここに……」

 

震える手でボトルを掴むと、再びラベルに文字が浮かび上がった。

 

**「全てを消せ」**

 

彼の頭に突然イメージが流れ込んできた。それは、消毒液が作られた工場だった。そこで働いていた一人の女性が、過酷な労働環境に耐えきれず命を絶った。そしてその魂が、このボトルに宿ったのだ。

 

彼女は求めている。全てを消すことを。

 

森本は、自分の手でそのボトルを割ることを決意した。しかし、ボトルを床に叩きつけた瞬間、部屋中にアルコールが霧のように広がり、彼の視界は真っ白になった。

 

### **エピローグ**

 

翌日、森本の部屋は完全に消毒され、何も残されていなかった。家具も、彼自身の痕跡も、全てが消えていた。ただ、机の上にぽつんと消毒液のボトルが残されていた。ラベルには新しい文字が浮かんでいた。

 

**「次はあなた」**


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