夕暮れの海を、きみと凪いでいる。ツンとした潮風が鼻の奥をくすぐって、ついくしゃみが出そうになる。
「海を見に行こう」
きっかけは、こんな言葉だったっけ。突然の提案にきみはびっくりしていたけれど、優しく笑っていいよ、と頷いてくれた。
なんだかデートみたいだね、って二人で笑い合って、照れくさくなって。いつもの街を歩いた。
目的地は、街外れの無人駅。海の見える、素敵な無人駅。とても遠い場所だから、いろんな場所を歩いて、休んで、歩いて、ようやく辿り着いた。
手元の時計は、とうの昔に壊れてしまった。今の僕らが時間を測るしるべはこうして大きく浮かんでいる太陽ぐらいしかない。午前も午後も溶け合って、二十四時間すら計ることもできなくて、もはや今が何日かすらもわからない。
日が登っていたら、朝。日が沈んでいたら、夜。そんな当たり前のことだけが、僕らに残った。そんな当たり前のことしか、僕らには残らなかった。
僕の隣には、きみが座っている。きみは、線路の先の海を見つめている。じっと見つめている。僕は、ただ、何も言えなくて、その横顔に見惚れている。
綺麗だなあ。きみは。出会った時から、ずっと。出会う前から、ずっと。ごくり、と息を呑む音が二人だけのホームに響く。
「綺麗だね」
きみは笑った。きみの方が綺麗だよ、そんな言葉が喉の奥に詰まって、そのまま落ちていった。僕はずっと、意気地なしだ。
きみと僕が出会ったのは、この星が壊れてしまってから。テレビにはツギハギの画面しか映らなくなって、他の人たちはみんなでどこか遠い星に行っちゃって。
テレビの人は言っていた。「この星はもう時代遅れだ。今すぐにこの星を棄てるべきだ。みんなで遠い星へ行こう」って。僕は怖かった。人が怖かった。家の外が怖かった。だから、置いていかれた。
今もテレビから途切れ途切れの音声が「楽園に行こう!」と言う単語を繰り返している。繰り返される同じワードに、狂った電波に、僕さえもおかしくなりそうだった。
外は誰もいないのに、夜の街は変わらず明るかった。コンロだって使えるし、冷蔵庫だってヒヤヒヤ。蛇口をひねれば美味しい水が出てきた。ずっとテレビの音が鳴り止まないこと以外は、普通の街。
コンビニに行けば美味しいお菓子が売ってて、自販機だって使えて、何不自由ない世界だ。むしろ、みんながいた時の方が窮屈で苦しかった。誰もいないこの街が、僕にとっての天国に見えた。
他の人たちは、遠い星へ行けたのかな。そもそも、なんで遠い星に行くんだろうな。僕だけを、この星に残して。そんなことを考えて、街を歩いていたある日のことだった。
声が、公園から聴こえてきた。テレビから聞こえる声とは、違う声だった。僕はゆっくり、ゆっくりと歩みを進めた。
それが、きみだった。出会った時のきみは、何かを演じていた。遠い星に向かってサインを送るように、メッセージを飛ばすように。
その姿に、僕は見惚れていた。きみはまるで、暗い夜の中で輝く星のようだった。
「やあ」
きみが僕に向かって手を振る。僕は、バクバクと鳴る心臓を抑えて手を振りかえした。まさか、気づかれるなんて思っていなかった。どうしよう、と頭がパニックになる。
「こんばんは、今日は素敵な夜だね」
人とまともに話したのなんてうん年前の話だった。どうしていいのかわからず、僕は目を逸らす。逸らした先で、きみと目が合う。まさか逸らしても合わせられるとは思わなかった。
緊張で声が震える。不安で視界が歪む。僕はいつもこうだ。こうだから、取り残された。脳みそがぐるぐると回って気持ち悪い。
「具合が悪そうだけれど……大丈夫かい?」
不安そうに僕を見つめる顔と、背中を優しく撫でる手つきが温かい。なんとなく、この人は怖くないと思った。もしかしたら、怖い人かもしれないけれど、それでも、信じてみたくなるような温かさがあった。
もう、大丈夫。僕はそう口にして笑う。すると、きみも安心したように微笑んだ。きみの名前は薫ちゃんというらしい。その優しい声にぴったりな、素敵な名前だった。
「どうして、きみはこの星にいるの?」僕は恐る恐るきみに問いかける。
「ポッドがなくて困っていた小さな女の子に私のポッドを貸してあげたんだ」きみは答える。ポッドは基本ひとり用だからね、と笑うその笑顔が、とても優しくて、少しだけ寂しそうに見えた。みんな、そうして楽園に行こうとしてたんだな。きっと、きみもそうだった。
きみは照れくさそうに話す。私も空を超えてすぐそっちに行くからね、と言ったはいいものの肝心の行き方がわからなくて困っているんだと。
きっと、それは無理だよ。喉の奥に言葉を押し込む。出会ったばかりのきみの夢を奪いたくなかった。
頭の悪い僕でもわかる。きっと、その女の子がポッドを欲しがる理由は「それ」しか別の星に行く方法がないから。それ以外で行けるなら、みんなそうしてる。でもきみはそのチャンスを逃したんだ。なんで、その子のためにポッドから譲っちゃったんだろう。なんとか二人で乗るとか、諦めてもらうとか、もっと色々あったはずなのに。
もう、この星に楽園行きの魔法なんてない。みんな僕らを置いて遠くへ行ってしまった。きっと、ここに取り残されたのは僕たちぐらい。他にも、ちょっとはいるのかな。わからないや。
「君は、どうしてここにいるんだい?」
きみが僕の隣に腰掛ける。優しい眼差しと触れ合う肩の体温が、ちょっとだけ照れくさい。
「人が怖くて、家から出るの、ずっとダメだったから、そのまま」
「……そうか」
きみはそれ以上、何も言わなかった。ただ時間がゆっくりと過ぎていく。静かな時間が気まずくて、心地いい。この時間が、ずっと続いてもいいな、と思えるぐらい。
「今日はありがとう」
帰り道、きみは僕に向かってこう言った。それは僕のセリフなのに、なんて心の中で思うのに、それを言えないから、せめてきみの言葉を真似するように頭を下げる。
またこの公園で会おうね、なんて約束をして、それぞれの家に帰って。それが、僕たちの始まりだった。
それから、何をしたっけ。いっそ童心に帰って砂場遊びしたり、僕の好きな本を一緒に読んだり、きみの好きな演劇を一緒にやったり。たくさんの時を、一緒に過ごした。
きみは、薫ちゃんはいつも堂々としててかっこいい。たまに天然なところもかわいくて、とにかくとっても素敵な人だ。
何より、きみは優しい。きみと話すたびに、こんなに優しいなら人にポッド譲っちゃうのも仕方がないな、って思ってしまう。よくない、よくないけど、きみがポッドを譲ってくれたから僕はこうしてきみと出会えた。それは、ちょっと嬉しいポイントかもなって。
きみと過ごす時間はあったかくて優しくて、世界がどうにかなってることなんて、すぐに忘れてしまう。結局、家に帰った時のテレビの音声で、夢から覚めてしまうけど。
だから、海に行きたいと思った。電波の届かない世界の端っこで、きみと綺麗な空を眺めたかった。
「そんな理由があったんだね」
きみは、納得したように頷いた。僕ほどではないにしろ、きみもあんまりテレビの音が好きじゃなかったみたいだ。
うん、やっぱり、海っていいな。波の音って、なんだか心が安らぐな。きっと、隣にきみがいるからかなあ。なんて、独り言を心の中で呟く。
「遅れちゃったけどお昼ご飯、食べよっか」
頭の中で考えてしまったクサいことを吹き飛ばすために、持ってきたお弁当を開く。これは、昨日泊まった家のキッチンで一緒に作った今日のためのお弁当。蓋を開けるとふわふわの卵焼きと、タコさんウインナーがずらりと並んでいて嬉しくなる。コンビニで買った野菜スティックも足せば、彩りだって完璧だ。
野菜スティックをお弁当と一緒に持って行くなんて発想、僕にはなかったや。そう言うときみは嬉しそうに笑う。
「大切な友人の好物なんだ」
……胸が、チクリと痛んだ。
そう。きみは素敵な人。みんなに愛される素敵な人。みんなを愛す素敵な人。きみは、薫ちゃんはみんなの王子様。王子様、だった。
きみは、時折遠い星に行った友達の話をする。笑顔が好きなバンド仲間に、自分を慕ってくれていたファンの子たち、信頼できる幼馴染に、大切な後輩たち。
僕は、その話を聞くのが好きだった。その話を聞くのが嫌いだった。そこには、僕の知らないきみがいるから。
きみは、とても友達思いの素敵な人。優しくて温かい、素敵な人。僕なんかとは正反対の、お日様みたいな人。
きっと、こんなことにならなきゃ僕はきみに見つけてもらえなかった。僕はきみを見つけられなかった。それがたまらなく苦しかった。
遠い星に行った友達よりも、今目の前にいる僕の話をして。なんて、きみの優しさを否定する言葉が頭に浮かぶ自分が嫌だ。きみの優しさを当たり前だと思っている自分が嫌だ。こんなの、恋とも愛とも呼びたくない。僕なんかが、思っちゃいけない。
「この野菜スティック、君の作ってくれた卵焼きと合わせて食べるととても美味しいよ!」
……それでも、きみの博愛の中に僕がいることがたまらなく嬉しい。きみが、僕のことを呼んでくれるのがたまらなく愛おしい。僕はきみのことがたまらなく大好きだ。
だから、この想いを今日のデートを最期に海に溶かしてしまおうと思った。いつか、君が星に還ってしまう前に、思い出を綺麗な星屑にして海にばら撒きたいと思った。
「……ここは、ショッピングモール……かい?」
「そう、みたい……なんかボロボロだけど」
この辺りを少し歩いて、驚いた。こんな海辺にショッピングモールなんてあるんだ。この星は、まだまだ知らないことがたくさんあるんだな。
重いガラスのドアをなんとか開けて、きみと一緒に中に入る。少し暗い屋内に、キラキラとした光が差し込んでいた。それは、ステンドグラス越しの光だった。
「儚い……」
あまりの美しさに、息を呑んでしまう。隣にいるきみの瞳にも、キラキラした光が反射している。
なんだか、結婚式場みたいだな。みんなは、この光に照らされながら永遠を誓っていたのかな。
……きみも、そんな風に誰かと永遠を誓う日が来たのかな。たらればが浮かんで、胃がキュッと音を立てた。
きみは、誰のものにもならないで。僕のものにも、誰かのものにも。そんな気持ち悪くて独善的な願いを込めて、ステンドグラスの天使に祈る。
……どうか、こんな僕に気づかないで。きみは綺麗なまま、星に還るんだ。
でも、やっぱり覚えていてほしいな。たとえ僕が灰になったとしても、きみだけは僕を覚えていて欲しい。わがままかなあ、わがままだね。ごめんね、忘れていいよ。
きみと、ボロボロのショッピングモールを歩く。店としての形を保てていないスペースの中で、ひとつだけ残っていた宝飾店が気になった。お店の煌びやかな装飾はすでにボロボロで、照明もチカチカしている。けれど、そこにある指輪は綺麗なままだった。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、魔がさした。誰もいない星、誰もいないショッピングモール、誰もいない宝飾店。
「ねえ、薫ちゃん」
きみの名前を呼んだ。きみは、不思議そうに振り向いてどうしたんだい、と優しく笑った。
そんなきみの左手を優しくすくって、小指にそっと指輪を嵌める。薬指用のそれは、ちょっとだけぶかぶかだった。
どうか左手の薬指は、誰にも渡さないで。そんな願いを込めて嵌める指輪は、まるで呪いの指輪みたいだな、って思った。
「おや、とても綺麗な指輪だね。ありがとう、子猫ちゃん」
お願いだから、きみは、何も知らないで。僕の中で渦巻いている感情なんか、何も知らないで。それがいい。それでいい。
きみは、何も知らないまま星に還る。大切な人たちのところへ、僕を置いて還る。それがいい。それでいい。
「……こんな儚い指輪がこうして置いていかれてしまうのは、少し、寂しいね」
なのに、どうしてこんなに胸が苦しいんだろう。僕の全部を知って欲しい、なんて思うのはどうしてなんだろう。きっと、きみを傷つけるだけなのに。
ああ、どうやったってこの星で僕と一緒に死んでくれますか? なんて言えるわけがない。
「そうだ、この星を出るときにはこの指輪も持っていこう! そうしたら、この指輪の儚さをみんなに伝えられるからね」
大切な友達や仲間を思うきみを、僕で汚したくない。遠い星を夢みるきみを、僕で汚したくない。僕は、きみをこんな星に留める足枷になんかなりたくない。僕は、きみをこんな僕に留める足枷なんかになりたくない。
もしきみがみんながいる楽園とこの星を天秤にかけた時、きっときみはみんながいる楽園を選ぶ。きみは、みんなの王子様で、僕だけの王子様じゃない。みんなの中に、僕はいない。その答えを突きつけられるのが、怖かった。
だけど、きみにそれを選ぶ権利すらないことを突きつけるのも、怖かった。
「隣の指輪は、君が持っていておくれ。同じ惑星を旅した友人とのペアリングだなんて……なんて儚いんだ!」
僕はただ、同じ星に取り残された別の人間だっただけ。たまたまきみが優しいから優しくしてもらえただけで、きみにとって僕は何者でもない。そんな奴と死ぬまで二人きり、なんて生き地獄だと思う。
僕の存在は、まるでこのぶかぶかの指輪みたいだ。ピッタリハマらないこの隙間が、僕の中途半端な性格を表しているようで、思わず乾いた笑いが出た。
ねえ、知ってる? 実は今日で世界が終わるんだって。それならそうって、早く言ってくれればよかったなあ。早く教えてくれれば優しい薫ちゃんがわざわざ自分のためのポッドを譲らないで済んだのに。
……ああでも。それでも薫ちゃんは、ポッドを譲るんだろうな。きみは、優しいから。
大丈夫、冗談だよ。明日すぐに世界が終わるなんてことは、きっとないよ。でもね、もう僕たちには何もない。未来もない。このまま、ゆるやかに死を待つだけなんだ。
ごめんね、ごめんね。僕のせいだ。僕のせいなんだ。違うか。大好きなきみを、僕とこの星が縛っている。どこか遠くへ行ってしまわないように、強く強く留めている。
きみは、出会った時からずっとどうにかして僕と一緒に星を出ることをずっと考えていた。きみは僕と一緒に、と言う部分にすごくこだわっていた。
どうして、きみは僕を棄てないんだろう。どうして、きみは僕のことをそんなに大切にしてくれるんだろう。僕は、きみが幸せでいてくれればそれでいいのに。
きみが友達や家族に会いたがってるのは、僕が一番知っている。きみが遠い星に想いを馳せて涙する夜だっていくつもあった。
それなら、僕なんか置いて早く行って仕舞えばいいのに。でも、きみはそれができない人。こんな僕を大切に思ってくれる、優しい人。僕はそんなきみが好きだ。そんなきみに、幸せになって欲しい。
違う。幸せになんてならないで欲しい。ここで、僕と不幸になって欲しい。僕は、どうやったってきみの幸せを願えない。二人きりの惑星で、お揃いの悪夢の中で、一生苦しんでほしい。違う。幸せになってほしい。幸せになりたい。僕は、きみと一緒に幸せになりたかった。けど、僕は器用じゃない。
だからどうか、未来なんて見ないで、今の僕を見て。僕だけを、見て。
「伝えたいことがあるんだ」
きみを連れて、海沿いの路を歩く。線路の上を歩くのは、不思議な感じがするね。きみが笑う。僕も笑う。世界が夜に溶ける。
冷たい風が頬を撫でる。だんだんと、平熱が去っていく。目的地は、あと少し。ひとりだと寒いから、きみと一緒なら寒くないね。繋げない手を、ポケットに隠して笑った。
線路の先には、使われていない施設があった。僕はこの施設を、テレビで何度も見ていた。そう。ここは研究所。僕たち以外の人間がこの星を去るために作られた研究所。
きみはびっくりしていた。どうしてここにあると分かったのかい、と不思議そうに僕に聞いてきた。
……普通にマップアプリに載ってたよ。そう言いかけて、口をつぐんだ。ちょっとだけ、見栄を張りたくなったから。
きみと研究所に入る。誰ひとりいなくなった研究所は、今もなお動き続けていた。まるで、主人の帰りを待つ飼い犬のように。まるで、僕みたいだな。少しだけ胸が苦しくなった。
きみは、興味深そうに辺りを見ている。何に使うかわからない機械たちに、目を輝かせている。そんな横顔が可愛くて、つい頬が緩む。
僕たちが向かうのは、この研究所の屋上。この研究所の屋上には、僕たちの運命を決めるための「あるもの」が残されているから。
「これは……」
きみが息を呑む。ここには、違う星に行くための実験に使われていた試作品のポッドがひとつだけ残されていた。
みんなが違う星に行っても、これだけは残されていた。きっとこのポッドはガラクタだったから、違う星に連れて行ってもらえなかったんだね。
「これで、一緒に遠い星に行けるね」きみは嬉しそうにはにかんだ。ガラクタのポッドを嬉しそうに眺めながら。
僕は頷く。ふたりでひとつのポッドに入るのは、苦しい。苦しいけれど、ちょっとだけ嬉しい。
このボタンを押せば、僕たちは遠い星に行ける。みんなのいる星に行ける。ああ、よかった。これで幸せになれる。僕の想いだけ、この星に置いていける。
この機械が、ガラクタでなかったのなら。
きみは、驚いていた。でも、どこか納得したように悲しく笑っていた。仕方がないね、また別の方法を探そう、と僕に必死に語りかけてくれている。
ごめんね、薫ちゃん。ガラクタのポッドじゃ、どこにも行けなかったみたい。僕みたいなガラクタじゃ、どこにも行けなかったみたい。
でも、きみが、僕に、僕みたいなガラクタに意味を与えてくれた。ガラクタの僕を、優しさで包んでくれた。きみが、僕みたいなガラクタに愛を与えてくれたおかげで、僕はおかしくなってしまった。
ねえ、薫ちゃん。伝えたいことがあるんだ。
薫ちゃん、僕は、きみが好きです。君と一緒に生きたいです。この想いを海に溶かそうとしても、空にばら撒こうとしたって、ダメだった。どうしても、僕はきみが好きだった。
ひとりだった僕は、この星できみとふたりぼっちになった。きみが、この星が、僕をひとりぼっちから救ってくれた。きみといるこの星が僕は大好きになった。ここが、きみといるこの星が、僕にとっての、かけがえない楽園なんだ。
お願い。どこにも行かないで。これからもずっとそばにいて。僕の独善的な願いで、きみをここに留めることになっても、それでもきみといたい。
「……私も、もっと早くきみに伝えられたらよかったね」
きみの温かい手が僕の手をやさしく包んでくれていた。それが、きみの答えだった。
──大好きだよ。
きみはそれ以上、何も言わなかった。静かな時間が過ぎて行く。今も、終わりへのカウントダウンが、少しずつ進んでいく。
明日は、何をしようか。せっかく海に来たんだし、水遊びでもしよっか。砂浜に寝そべって、たわいもない話をして。いっしょに波に攫われて、世界の果てに行こう。
ここは、きみと僕の惑星。ふたりぼっちの惑星を、きみと凪いでいる。