すいまー再登場の後のセラヴィーとどろしー

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第1話

「二人で海に行きませんか」

「なんで」

 ……うん、そう言われると思ってました。

「僕だけのけものにされたから海に行きたいんです」

「のけものって……本物の海じゃないし私たちはムリヤリ泳がされたのよ」

 そう、ムリヤリ。ポピィ君のところに来た刺客が僕のどろしーちゃんに勝手に水着を着せて、僕の許可もなく美しいボディラインを見たらしいのだ。もちろん許可などするはずもないけど。

「それにどうして二人なのよ。子供たちは?」

「ジャマされずに二人きりの方がいいんです」

「え……」

 どろしーちゃんをまっすぐ見つめる。

「……競争するのに」

 ああ、日和ってしまった。

「最近は世界一の座を奪おうともしないし、もう僕に勝とうなんて思わないんですか? ああ、僕に敵わないってわかっちゃったんですかね」

「そんなわけないわ! 望むところよ!」

 ちょろい。

 僕との勝負というエサをぶら下げたら応じてくれるのはわかっていたけど、本当なら素直に『二人きりで海』に誘いたかった。

 まあ僕が好意を示すようになってからも拒否されるから、こうするしかないけど。

 

 

 エメラルドグリーンの海、透き通るような青い空に白い雲、波も穏やかだ。

 どろしーちゃんが準備運動をしているのを横目で見る。髪を一本に結んでいて、色気も何もない太ももまで覆われた競泳水着。でもその分薄い生地がピッチリと体のラインを浮き上がらせている。

 また胸が大きくなってないだろうか。これを見られたかと思うと、すいまーへの殺意が増す。開発中の魔法薬を実験しないといけませんね。しびれ薬とか。

 準備運動を終えたどろしーちゃんはビッと指を突き付ける。

「勝負よ!!」

「じゃあ向こうの岩場まで競争です。ハンデをつけましょうか」

「いるワケないでしょ」

 素直にもらっておけばいいのに。

「じゃあエリザベスは判定をお願いしますね」

 水着を着たエリザベスを魔法で岩場に送った。旗を持って僕たちを待つ。

「よーい」

「スタート!」

 ハンデはいらない、と言ったどろしーちゃんはフライング気味に飛び出す。

 毎日トレーニングを積む彼女はトビウオのように波をかき分けどんどん進む。が、僕だって手を抜くつもりはない。やがて背中に追いつき、その先を行く。

「待ちなさいよ!」

 叫んでいるヒマがあったら泳ぐ方にエネルギーを使えばいいのに。

 振り返ってどろしーちゃんに声をかける。

「待つわけないでしょう。あ、待ってあげないと勝てませんからね」

「セラヴィーーーー!!」

 叫びながらズバババとしぶきを上げてスピードを上げる。マジか。

 追いつかれないように僕も必死でスピードを上げた。

 

 

「くやしいいいいい」

 勝負は僕の勝ちだった。

 大人の男女では腕の長さも筋肉も違うのに、本気で勝てると思っているのだろうか。

 確かに毎日トレーニングしているし下手な男よりは速いだろう。でもどろしーちゃんを守るため、どろしーちゃんに相応しい男であるために密かにトレーニングを積んている僕に勝てるはずがない。

 胸も抵抗が大きいし、腰やお尻も流線形だけど……

「……なに?」

「いえ、海と言えばやっぱりヤキソバですよね」

 魔法でヤキソバを出す。

「せっかく海に来たんだし、海の家とかに行かないの?」

「こっちの方が美味しいでしょう?」

「海に来た雰囲気とか味わいたいじゃない」

 僕の方が美味しいという部分には反論されなかった。

 せっかく二人きりの場所を選んだのに、他の奴にどろしーちゃんの水着姿を見せるわけにはいかない。

「じゃあこのヤキソバは片付けますか?」

「……今度、子供たちと一緒に来た時は海の家に行きましょ」

 ヤキソバを受け取ると岩場に座って食べ始める。

「かき氷もありますからね」

 二人きりで海を見つめて食べる。

 ザブン、ザブン、と波が打ち寄せ、エメラルドグリーンの海がキラキラと光を反射している。

 かき氷も食べ終えた彼女は遠くを見つめていた。

 二人きり、そう、僕とどろしーちゃんだけ。ジャマされるものは何もない。

 夏の太陽に照らされた彼女はまぶしくて、美しくて、海を見つめる振りをしてどろしーちゃんを見る。

 肩を抱き寄せても……手ぐらい握っても……

 伸ばした手を触れさせることが出来ず彷徨わせていると、スッと彼女の手が離れる。

 どろしーちゃんは立ち上がって人差し指を突き付けた。

「さあ、今度は砂浜まで勝負よ!」

 ……うん、情緒も何もない。

 

 

 その後に何度も往復したけど、どろしーちゃんが勝つことはなかった。

 子供たちが学校から帰ってくる前に引き上げることにする。結局、手を握ることすら出来なかった。どろしーちゃんの水着姿も見れたし、二人きりで海に来たという事実だけで今回は良しとしておこう。

「どうしたの?」

「いえ、せっかく海に来たのに、ただ勝負しただけだな、と」

「あんたが勝負しようって言ったんじゃない」

「でも、もう少し風景を見るとか……」

「海なんていつでも来られるでしょ」

 いつでも来られる、それはまた一緒に来てくれるという意味だろうか。もちろん「勝負」なら受けてくれるだろうけど、純粋に海に誘っても来てくれるのだろうか。

 勇気を振り絞って、けれどそれとなく、どろしーちゃんに声をかける。

「じゃあまた来ましょう、今度は夕焼けを見に」

「そうね」

 どろしーちゃんはあっさり同意してくれる。まさか……

「子供たちも一緒にね」

 デスヨネ。


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