◆ ◆
『——壊屍は勝手に死んだのだ』
夢を見ていた。
古い、古い夢を。
手が暖かかったのを、だからよく覚えている。珍しく。本当に珍しく——その時、石凪砥石は父と手を繋いでいた。
繋いでいた、というより。
繋がれていた、という方が、正しかったかもしれないけれど。
強く、強く、痛いほどに、彼の父は——石凪調査室の室長、石凪墓石は、彼の手を握りしめていた。
それは愛情ゆえ、というよりも。
たとえば恐怖とか。
たとえば責務とか。
たとえば憎悪とか。
そんなものに由来する行為であって。
つまりその手は——枷なのだ。
砥石が動かぬように。
砥石が動けぬように。
墓石のそばを離れぬように。
他の誰かの元に向かわぬように。
墓石は手を繋ぐことで、砥石を拘束していたのだ。
『壊屍は勝手に死んだのだ』
同じ言葉を、彼はもう一度繰り返した。
まるで言い聞かせるように、噛んで含めるように。
その両目でじっと、真っ白い棺桶を見つめながら。
厳しい顔に、浮かぶ表情はない。完全な無。それは死神として、死に慣れ親しんでいるから、というだけでは、きっとないだろう。
なにせ、そう。
その棺桶の中に横たわるのは——己の伴侶なのだから。
石凪調査室の室長。石凪の中の石凪として振る舞われることを望まれながら、しかし愛ゆえに垣根を越え、死吹の女と番った男。それがこそ、石凪墓石。
あるいはもっと——取り乱すかと思った。
あるいはもっと——泣き叫ぶかと思った。
けれど実際は、ただどれとも違って。
取り乱すよりも深く——絶望し。
泣き叫ぶよりも遥か——傷を負い。
彼は胸に空いた空虚のまま、ただじっと、砥石の手を握りしめ続けていた。
葬式会場は静寂に包まれている。
死神界の葬式は簡素だ。もとより、死神は死者を看取るもの。ゆえに死神自身の死に対し、供養など必要があるはずもない。死神が命を失う時、それは冥府への帰還に過ぎず、あるべきものがあるべき場所へ帰るだけ。だから、死神界には死者に経を読み上げる坊主もいなければ、死者に十字を切る神父も存在しない。ほんの少し身を清め、そして炉によって身を焼き、骨を埋める。それだけが葬儀の作法で、だから元は死神でもなんでもない、死吹の死配人であった石凪壊屍に対しても——石凪砥石の母に対しても。同じように、簡素な葬儀が行われた。
死体は清められ。
白い棺桶に収められ、炉に運ばれる。
経が読まれることもなく、十字が切られることもない。
悼む言葉さえも、告げられることはない。
だから悼むのは——痛むのは、心だ。
残されたものの、心。
心の、傷。
それだけが、死者に捧げられる唯一であって。
父は。
石凪墓石は、その役目をきっと正しく果たしていた。
彼は自らの心の半分を……もしかしたらその全てを、死した伴侶に捧げた。
翻って、自分は。
石凪砥石は、どうだろう?
彼女の息子だったはずの自分は。
自分は、彼女に何かを、捧げられたか?
心は、痛まず。
涙は、流れない。
ああ——どうしてだろう。
どうしてこんなにも、自分は違うのだろう。
周りの誰もと。
あるいは——この世の誰もと。
違って。
違って。
違って——
こんな己の居場所は。
この世のどこにあるというのだろう?
握られた手は暖かく。されどその熱が、少年の心を温めることはない。
凍てついたように、じっと動かぬ心を抱え。
石凪砥石は一人だった。
あの時も。
あるいは、今も——
◆ ◆
「——っ、問識さん……!」
傷口を必死に抑えながら、八九寺真宵はうわごとのようにその名を呼ぶ。
零崎問識の傷は深かった。ともすれば命に達するほどに、深く——重かった。時速二百キロを超すだろう速度で突っ込んできた鉄塊に、真正面から轢かれたのだ。いくら鍛え上げられたプレイヤーの肉体とて、人間である以上、死に瀕する傷を負うのは当たり前のことだった。
血が止まらない。八九寺真宵の両手は、すでに真紅に染まっていた。いくら手で抑えても、その隙間から血が流れ出ていってしまう。特にひどいのが胸の傷だ。肋骨の一部が肌肉を裂いて体外へ飛び出し、開いた傷口からしとどに血が溢れ続けている。ともすれば——命そのものが。流れ落ちて、こぼれ落ちている。
「どうすれば……」
救急車を呼ぶ——無理だ、怪異の自分に、誰かを『呼ぶ』なんてことはできない。
怪異はただ、そこにいるだけ。誰かに見つけてもらうことが出来なければ、どこへもいけないか弱い存在。
「……っ!」
実を言えば、
現状、すでに手は尽くしている。尽くした上で——零崎問識の傷は治らない。アクセル全開の車に轢かれた衝撃というのはそれほどで、けれど八九寺真宵が手を尽くしたからこそ、それだけの傷を受けながらも彼はまだ生存していた。
辛うじて、辛くも、幸いにも。
何かの間違いのように、生存していた。
「問識さん、お願いです、死なないで——」
なんて言葉をつぶやいて、けれどふと、そんな中で、頭のどこかに冷静な思考がよぎる。
自分は。
自分はこの人に、本当に助かってくれなんて願ってもいいのだろうか?
首を振って、その思考を打ち消そうとするけれど——
この人は——人殺しだ。
その考えが、頭の中から出ていかない。
だって、そう。彼を助けるということは。
目の前で、今まさに失われようとする命を——殺人鬼の命を。
繋ぎ止め続けることが、何かの間違いであるような、そんな罪悪感が、どうしたって消えなくて——
それでも。
それでも八九寺真宵は、それを止めなかった。
だって、そうだ。
彼は。
肉体の話が——じゃ、ない。
その心が。
その精神が。
未だ道に迷う——迷子のままだ。
迷い牛が——見えたのだ。
二つの家族を持ち。
二つのルーツを持ち。
その狭間で——迷い続ける。
そんな彼に。
八九寺真宵はきっとまだ、言いたいことがあって。
だから。
だから、いい。
彼が殺人鬼であっても、いい。
その罪を、背負おう。
かつて。
かつて自らの半身となってくれた少年。
阿良々木暦が——八九寺真宵の罪を背負ってくれたように。
その『過ち』を。
その『間違い』を。
その『反則』を——それでもと許してくれたように。
許し——背負ってくれたように。
八九寺真宵は——殺人鬼の命を背負おう。
だって、そうだ。自分はあの時、決めたのだ。
自分は今度こそ。
全ての迷える子供の味方になるのだと——
だから。
「だから死なないでください、問識さん」
手を赤く濡らしながら、真宵は呼びかける。意識を失った問識に、それでも必死に。
「せめて——せめてあと少一人、誰かがいれば」
真宵は歯を食いしばる。こんな時、阿良々木暦の助けがあればどんなに良かっただろう? 戦況は、悪い。一度は逆転した彼だけれど、今は再び——怪人と化した薄野定議に押されている。そちらの戦況だって、いつどう転ぶかわからない。問識についていなければいけない真宵は、戦場に対するサポートは最低限すらできず、それすらももう見切られて等しい。
あと一手——足りない。
あと一手——あと一人。
せめて今、あと一人味方がいれば——
絶望のあまり、真宵はその場で目を閉じて——
「——あと一人誰かがいれば、なんです?」
その言葉に。
八九寺真宵は顔を上げる。
その視線の先には——
ニット帽を被った少女が一人。
「——うふふ、大変なことになってますね、問識くん」
妖しく笑って——立っていた。
◆ ◆
「ヒャアォッ!」
猿叫じみた雄叫びと共に、彼は右足の大斧を振るう。赤熱し、夕陽色に輝くそれを、百面相は皮一枚を犠牲に躱す。
「——ふぅ——!」
息を吐く。纏う外套が、もうボロボロだった。元々、吸血鬼の物質創造能力で作っているものだから、惜しくはない。惜しくはないが、しかし。それは外套がボロボロになる程度には攻撃が掠っているという意味であって——
直撃するのは、時間の問題に思えた。
「ははは……」
対面する異形——鬼の如き姿に変じた薄野定議は、半ば正気を失いつつもジンガを崩さず、揺らめくような歩法を続けている。しかし——ようやく目も慣れてきた。百面相は手刀を形造り、その体に向けて抜き手を放つが——
「——っ、硬い!」
その装甲に阻まれる。急速に増加したハードケラチンにより、犀の角のように厚く角質化した肌は、怪異の抜き手をすらも受け止めるほどの硬度を得ていた。
「ぬるいぜ、百面相」
攻撃を無傷で受け止めた彼は、百面相へ向けて返しの一撃をお見舞いする。
「シャアッ!」
ジンガの姿勢から、突然の飛び側転。ともなって繰り出される蹴りが、低空の踵落としとなって百面相の下半身を狙う。アウー・シバータ。カポエイラの基本、アウー(側転)から繰り出される蹴りの鬼札。通常でさえ、体重を乗せた踵によるインパクトは高い威力を生むが——伸ばされた定議の右足は、今や大斧。太ももの大動脈が切られれば、再生力の落ちた今の百面相にとっては致命傷とはいかずともしかし再生に大きくエネルギーが割かれてしまう。
当然、足を引いてそれを避けるが——悪手。バックステップによって曲がった腰と、下がった頭。そう、それはあたかも差し出すような位置どりで——
「————シィッ!」
ハボ・ジ・アハイア。
鱏の尾が、その頭蓋を強かに打つ。
頭蓋骨が砕けた——そんな錯覚をした。もし打たれたのが右の踵でだったのならば、それは錯覚ではなく現実になっていたことだろう。放たれたのが左足の踵だったのが、かろうじて百面相の命脈を保っていた。だが——
「もう一度だ」
保たれた命脈を今一度断つべくして、逆回転のハボ・ジ・アハイアが放たれる。左足ではなく——右足によって。その踵から突き出た赤熱する大斧が、百面相の首を切り落とすべく、神速を持って振り抜かれ——
「——づ、ぁあ……!」
その刃が——受け止められる。
十字に交差させた両腕。その片方は肘までの前腕を縦半分に断ち切られ、もう一方もまた、骨の半分までをも断ち切られながら——しかしそれでも、頭だけは守り切って。
「ひゅう、根性あるねぇ、百面相!」
食い込んだ斧を引き抜きながら、定議は言う。傷口から異物は引き抜かれ——けれど、再生が始まらない。
「くそ、傷口が……」
爛れている。赤熱する斧に絶たれた両腕は傷口を焼き焦がされ、それゆえに再生が大きく遅れていた。
唐竹割にされた右腕に、骨の半ばまでを絶たれた左腕。どちらもまるで使い物にはならず、つまりは——
「詰み、ってとこか?」
両手の使えぬ怪異のなり損ないに対し——相手は無傷全盛の怪人。
そのマッチアップは不公平もいいところで——
「悪いが、今度は手加減しねぇぜ、百面相。両手両足にお別れを言っておくんだな」
言って、彼は右足の大斧を振り上げる。
万事休す。もはや逃げ場はなく、勝ち目もない。
振り下ろされる夕陽色の刃に、だから百面相は目を閉じて——
ドォ——ン、と。
爆発の音色が、鳴り響いた。
「な——」
見れば。
振り下ろされる大斧は——その半ばにて崩れ落ち。
代わりのように——その根本。
鬼の如くに変身した、薄野定議のその土手っ腹に——大穴が、空いていた。
がくり、と。
薄野定議が地面に膝をつく。その背が大きく縮まって——その向こうに。
「危なかったね、百面相」
佇む人影が、一つ。
白髪、童顔、澄まし顔。トレードマークのスーツは、今は血に塗れて不恰好だけれど。
その片手の
「零崎——問識!」
首だけで振り向きながら、薄野定議は憎々しげにその名を呼ぶ。
零崎問識。
車に轢かれ、死に瀕していたはずの彼が——無傷のまま、そこに佇んでいた。
「やあ、薄野定議くん」
で、あってるんだっけ?
なんて、彼は冷ややかな目でその名を呼んだ。
「全く、随分とまあ、かま死てくれるものじゃないか。僕はこの小説の主人公だって言うのに、あと少死で、雑魚狩りだけ死て死んだ男になるところだった」
そんな格好悪い役回りが最後の出番なんて、たまったものじゃないね。言いつつも、彼は再びその爆発鎚——『
「随分とまあ、えげつない得物を持ってやがるじゃねぇか……」
ごぼりと血を吐きながら、定議は恨みがましく吐き捨てる。薬剤、細菌、ウィルス——奇野解知という若年の天才が、思いつく限りを詰め込んで強化された——変身させられたその肉体を、最も容易く破壊するとは。
「いくら薬剤で強化死ようとも、所詮は人間、所詮は人体の延長線だ。人の最果てたる橙色の暴力に挑まんと死たこの『
まだまだ脆くて、まだまだ遠い。
最強には。
最終には。
最悪には。
まるで遠くて、物足りない。
「は、言ってくれるぜ、人でなしの殺人鬼がよ……死の淵からの復活ってのは、正義の味方の特権のはずなんだがな」
「なんだ、きみ、随分正義の味方の定義が狭いね。アンパンマン以外は見ない口? いやそれとも、悪への見識が狭いというべきなのかな。死の淵から蘇る悪役なんて、世の中には五万といるさ。フリーザだってセルだって、一度は死んでも復活死た。む死ろ正義の味方より、悪党の特権なんじゃないかい? 死んでも蘇る——不死身の肉体っていうのはさ」
たとえば——吸血鬼なんかだって。
物語の悪役だ——
「まさか、てめぇ——」
「おっと、勘違いは死ないでくれよ。僕は別に、吸血鬼になったってわけじゃない。日向ぼっこが出来なくなるのはごめんだからね。だから、そう。僕はただ、ほんの少死借りただけだ」
吸血鬼の——その血の力を。
「
問われて——怪談百面相は頷く。
『今なら——その傷を治してやる』
それは、
「だが、しかし、しかしだ。怪談百面相は、ずっと俺と戦っていた。お前に血を分け与える暇なんて、どこにもなかったはずで——」
「ああ、そうか。君は知らないんだったね——」
言って、問識は背後を見る。
そこには、
「八九寺真宵——彼女は怪談百面相が蒐集死た怪異の一つだ」
それゆえに。
「彼女は迷い牛であると同時に——吸血鬼でもあるんだよ」
百の怪異を喰らいし怪談、百面相。
彼は怪異を己の内側に蒐集することで吸血鬼としての要素を薄め、世界を渡る力を得た。
それはつまり——薄まった吸血鬼としての要素を、他の怪異たちに押し付けているという意味でもあって。
だから怪談百面相の面が一つ、八九寺真宵の血もまた、
「最も、流石に因子が薄すぎるからか、そのままじゃ瀕死の僕の命を繋ぐ程度の治癒力死か発揮できなかったようだけどね。こうして完全復活できたのは、だから通りがかってくれた舞織姉さんが
言えば、ニット帽をトレードマークとする、両腕義手の若き女殺人鬼——零崎舞織が手を振った。
「いえいえ、家族を助けるためならなんてことはないですよ」
自らの中の吸血鬼としての要素を強めるために、八九寺真宵は零崎舞織から
それこそ、零崎問識の傷を癒せるほどに。
「は、そうかよ——だがな、悪党が不死不滅であるっつーのなら、正義の味方は不撓不屈だ」
彼は言って——立ち上がる。
吹き飛んだ腹もそのままに、血反吐を垂れ流したままに、零崎問識へと向き直り——右に、左に。ジンガの動きによって、問識の目を幻惑する。
「気をつけろ、そいつは——!」
百面相の警告。けれどそれが正しく実を結ぶよりも早く——回転。鱏の尾となった大斧が、問識の脇腹を狙いすまして——
爆発。
振り抜いた『
「脆いね」
大斧は——砕け散り。
それどころか薄野定議の右足は、その脛の半ばから以降が完全に消し飛んでいた。
「ぐ、が——」
「正義の絶対条件は勝利……だっけ? ふん、だって言うなら、君は格闘技なんかに頼っている時点で失格だ」
格闘技は。
弱者のための技なのだから——
「……なんだと?」
砕け散った足を庇いながら、地面に這いずる薄野定議は、それでも強く零崎問識を睨んだ。彼の吐いた言葉をまるで許せぬとばかりに、怒りを込めて。
「カポエイラは、勝ち続けた格闘技だ。十六世紀より今日この日まで、五百年。間違いなく、それは勝利のための技術だ」
「違うね」
定議の言葉を、問識は一言で切って捨てる。
「カポエイラは、その成り立ちから死て弱者の生み出した技だ。十六世紀、ブラジル。列強国家に
連れ去られ、自由を奪われ、弾圧され。
地獄のような敗北の局地にて——カポエイラは産声を上げた。
「カポエイラに限らず、すべての格闘技は敗北より生まれている。なんて言ったって、格闘技というものは、そもそも力の弱いものが力の強いものに勝つための技術なんだよ」
格闘技とは、すなわち抵抗の技なのだ——と、問識はそう定義した。
「体格に勝る相手を、力に勝る相手を、速度に勝る相手を、それでも技によって勝り、倒す。そのための技が格闘技で、それは根本的に弱者の技だ」
「……弱者の技、結構じゃねぇか。その弱者の技を、強者が収めたのなら、それはすなわち最強無敵——」
「
定議の理屈を、問識はねじ伏せる。
「弱者の技を強者が収めても、それはただ枷を嵌めるだけだ。たとえば熊を想像死よう。熊は強い。爪を振るうだけで人体など当たり前に引き裂くことができる。そんな彼が、あるいは彼女が、たとえば小手返しを覚えてなんになる? そんな技術を——小細工を弄するよりも、ただ乱雑に爪を振るう方がよほど強い」
たとえば。
あの最果ての如くに赤い最強も、そういう存在だった。
「彼女はね。とある言葉によって弱肉強食の理を否定死た。なんて言ったと思う?」
問識の問いに、定議は「さあな」と首を振る。
「——『弱い肉ばかり食ってたら、弱くなっちゃうじゃん』」
彼女はそう言ったらしいよ。
問識は言った。
「つまりさ、強さってのはそういうことで、勝利ってのはそういうことなんだよ。
正義の味方なんて——笑わせる。
その言葉に、けれど薄野定議は反逆する。
「ふざけるな。勝ち続けない勝利などただの敗北だ。敗北した正義に、誰が耳を傾ける? 敗北した正義に、誰が正しさを見出すという? 敗北した正義が——どうやって悪を滅ぼすという!」
噛み付くようなその言葉に、だから問識は冷静に返す。
「勝ち続けた程度のことで、正義を名乗れると思うなよ」
正義ってのは。
勝った程度で名乗れるほど、簡単なそれじゃあない。
「ならば、ならばお前にとって正義とは、正義の味方とはなんなんだ!」
「そんなもの、決まっているだろう」
言いながら、彼はその両手で、爆発鎚『
「どんな悲劇にも、めでたしめでたしで幕を引く、ハッピーエンドの使者がこそ。この世で唯一の——正義の味方さ」
その言葉が、つまり薄野定議にとって、最後に聞いた零崎問識の言葉となった。
その答えに、だから彼がどんな感想を抱いたのか。納得したのか、逆上したのか。満足したのか、不満だったのか。その答えは何一つとして分からず。
振るわれた鎚の一撃が、その意識を闇に帰した。