零崎問識の人間問答   作:忘旗かんばせ

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第三問『死人に口な死』3

 

 ◆   ◆

 

 死神ゲーム。

 

 それは端的に言えば、()()()()のゲームだ。

 

 ルールは単純。

 防御側はゼロ含む十までの整数の中から五つの数字を選び、紙に書いて伏せる。攻撃側はあらかじめ用意された七つの質問のうち、()()五つを駆使して、一度の回答でその数字を当てる。

 

 質問は以下の通り。

 

 一、一番低い数は?

 二、低い数三つの積は?

 三、奇数(零は含まない)の数は?

 四、素数の数は?

 五、高い数三つの和は?

 六、同じ数はいくつある?

 七、全ての数の和は?

 

 この内から最大五つの質問を選び——それを駆使して数字を当てる。

 

 それがこそ、この死神ゲームの基本的なルールであり——しかし。

 

 このゲームが死神ゲームと呼ばれる要因が、一つある。

 

 ——防御側は、七つの質問のうちの一つに、『死神』を仕掛けることができる。

 

『死神』として選んだ質問の数字は、防御側の五つの数字に選ぶことはできず、そしてあらかじめ選ばれていた質問を攻撃側が選択してしまった場合には——その時点で攻撃側は死神に命を奪われ即死……敗北となる。

 

 質問数が()()五つであるのもそれゆえにであり——攻撃側は、死神のリスクを恐れるのならば、いつでも質問を取りやめて即座に回答に移ることができる(当然、それで外した場合には敗北となるが)。

 

 以上が死神ゲームの概要であり——

 

「きみがこのゲームに敗北したなら、きみにはさっきの()()()を聞いてもらう。私と結婚して、石凪の室長になってよ、ってことだね」

 

 代わりに——

 

「もし、このゲームにきみが勝てば、私はきみを諦める。私はこの新幹線から降りて、そして望まれるのならば、きみの前にも二度と現れないと誓おう。あるいは——きみの一賊にも手を出さないと、心の底からそう誓う」

 

 赭石の言葉に、問識は顎に手を当てる。

 

「……質問(死つもん)が二つ」

「どうぞ」

「一つは、制限時間についてだ。ルールの都合上、攻撃側には相応に『考える時間』が必要なものと思うけれど、制限時間はどの程度にするんだい」

「そうだね。ちょうどもうすぐ、新幹線が岡山に着く。そこを出発して、次の駅に——新神戸に辿り着くまで。それがタイムリミットってことでどうかな」

 

 岡山から新神戸までは約三十分。制限時間としては、妥当なところか。

 

「いいだろう。そ死て、もう一つの質問だ」

「どうぞ」

「この勝負、攻撃側と防御側は、どちらがどちらをやるんだい?」

「どちらでもいいよ。きみの好きな方を選ぶといい」

 

 赭石のその答えに、問識は。

 

「なら——()()()()()

 

 なんて答えを、返してみせた。

 

「実を言うと、きみがさっき提示死た条件では、僕が勝った場合のメリットが()()()()()と思ってね——」

 

 だからこそ。

 

勝利(死ょうり)条件(じょうけん)を変更して、お互い攻撃側、防御側でそれぞれ一回ずつ、勝負(死ょうぶ)を死ようじゃないか。その勝負で、二回とも僕が勝てば、僕の勝ち。きみには、()()()()()()()()()()()。その代わり——()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。きみの婿にでも嫁にでも、奴隷にでもなろう。煮るなり焼くなり、好きに死てくれ」

 

 言えば、赭石は唖然と問識を見つめる。

 

「……それ、正気で言ってる?」

「少なくとも、本気では言っているつもりだよ」

 

 肩をすくめる。『——まもなく、岡山、岡山です』車内アナウンスが響き、同時に車両の減速が始まった。

 

「いいよ。その追加条件で、勝負をしよう」

 

 ただし、制限時間は据え置きだ。赭石は言った。つまり、事実上お互いに持ち時間が半減、十五分ずつの勝負、ということになる。

 

「……わたくしは、お二方が死神ゲームをなさる間、この駅で乗ってくるであろう刺客を蹴散らしてまいろうと思いませう。お後はお若いお二人で、ごゆっくり」

 

 そう言って、仙瓩おとふは座席から立ち上がった。迎撃に向かうのだろう。

 駅のホームに滑り込む列車。二人きりになったボックスシートで、赭石は問識を見つめる。

 

「それじゃあ、どちらが先攻をやる?」

「選ばせてもらえるのなら、僕からに死よう」

「オーケイ」

 

 減速は至り、停止。

 瞬間、赭石は取り出したメモ用紙から用紙を一枚破り取り、問識には見えないように、五つの数字を書き込んでいく。

 

「負けても、後悔しないでよね」

「それは、こちらのセリフだよ」

 

 暫しの停車時間が終わり——発車のアナウンスが、鳴り響く。

 

「決めたよ」

 

 言いながら、赭石は数字を書き込んだ紙を、座席の縁から取り出したテーブルに伏せる。

 

「それじゃあ始めようか」

 

 死神ゲーム、第一戦。

 いざ、開幕。

 

 ◆   ◆

 

「一つ目の質問と行こうか。まず——同じ数字の数は?」

 

 死神ゲームは、総合的に見て、攻撃側の方が有利なゲームである——少なくとも石凪砥石はそう考える。

 五つの数字を当てる——一見して難易度が高いように見える勝利条件だけれど、しかし用意された質問の()()()を考えれば——論理的には、ほぼ必ず五問以内に数字を当てることが可能だと言える。

 

 防御側の勝ち筋は、だから相手に『死神』を踏ませることだけで、逆に言えば、攻撃側にとってはそれだけが唯一の負け筋だ。

 

 それを避けるためには、相手がどこに『死神』を仕掛けたのかを推理する必要があるのだけれど、しかし初手だけは。

 

 なんの情報もない初手だけは、完全に運だけが戦局を支配し——最悪中の最悪、いきなり『死神』を引いてしまう可能性もあるのだけれど——

 

「同じ数字の数は、ゼロだよ」

 

 どうやら、その最悪はなんとか、回避できたらしい。

 同じ数字はゼロ。

 となると——重要になってくるのは。

 

「低い数三つの積は?」

 

 その言葉に、赭石は「なかなかやるね」と笑う。

 

「答えは、これもゼロだよ」

 

 やはりな、と問識は思う。この質問、一見して得られる情報が多いようでいて、実は少ない。数字の組み合わせ次第では、同じ積になるパターンが多いし、今のように、答えがゼロになる場合には、『ゼロが一つ以上含まれている』と言う情報以外に受け取れる情報がない。

 

 の、だが——それは、同じ数がいくつあるかを聞いていない場合に限られる。

 

 今のように、同じ数字がないとわかってさえいれば、たとえばこのように答えがゼロであった場合にも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であることが判明する。

 

 逆に言えば、数字を完全にばらけさせる場合には、ここにゼロを入れるのがセオリーになる。渡す情報を最小限にするなら——残り二つの数字の情報を隠すなら、それが王道の一手だ。

 

 一番低い数字の情報を手に入れた一方で。下から二番目、三番目の数字を直接的に知る方法は無くなった。

 

 ならば次は——

 

(全ての数の和、と行きたいところだけれど)

 

 これは『死神』である可能性が最も高い。

 数字被りがゼロである以上、和が知れれば、数字の候補は大幅に絞り込めてしまう。

 ならば、狙うべきは。

 

「……素数の数は?」

「いいね。答えは二つ」

 

 五個中二つが素数。

 一から十に含まれる素数は二、三、五、七の三つ。そして、数字が被っていない、と言うことを考えれば、この四つのうち二つが確定。さらに——残る数字も一つがゼロ、残り二つが一、四、六、八、九、十のいずれかに絞り込める。

 となると、次に選びたいのは——

 

(高い数、三つの和……)

 

 なの、だが。

 

(怪死い、よね)

 

 問識は思う。

 全ての数の和を避けるのならば、この質問はできる限り選びたいところ。

 それを、相手が考えていないとは思えない。

 全ての数の和に死神を仕込む、と言う王道すぎる手は、相手だって、読まれて然るべきと考えるはずだ。

 重要なのは、数字を守ることではなく、死神を踏ませること。

 と、考えるのならば——

 

「全ての数の和——だ」

 

 砥石は、その質問にこそ——踏み込んだ。

 その言葉を聞いて、赭石は小さく笑い——

 

「十七」

 

 と、答えた。

 死神では、ない。

 

(セーフ、か)

 

 問識は胸を撫で下ろす。

 

(そ死て、合計が十七。低めだ。数字の被りは無死。一番低い数字がゼロで、素数が二つ。すると、パターンは……)

 

 A・ゼロ、一、二、五、九。

 B・ゼロ、一、三、六、七。

 C・ゼロ、一、三、五、六。

 D・ゼロ、二、四、五、六。

 E・ゼロ、二、三、四、八。

 

 この五通りにまで、絞り込める。

 

 そして、死神をどこに置くか。

 

(ここから答えを確実に導き出せる質問は——)

 

 まず、すでに無意味と化している一は除外。これを聞く必要性は今となってはそのものずばりゼロで、防御側から見てもここに死神を置く意味は薄い。

 

 なので、聞くのであれば『五、奇数の数はいくつ?』または『三、高い数三つの和は?』になるわけだけれど——

 

(五を聞く場合、三が死神と考える。三が死神の場合消えるのはB、C、E。奇数が三の場合A、一の場合D)

 

 一方で——

 

(三を聞く場合、五が死神。消えるのはA、C、D。合計が十六の場合B、十五の場合E)

 

 ()()()()()()()()()()

 だからこそ。

 

「僕が最後に聞くのは——()()()()()()()()()? だ」

 

 その言葉に——石凪赭石は目を見張る。

 

「……本当にその質問でいいのかい?」

 

 まるで正気を疑うように、赭石は問識に問い直すけれど——

 

「ああ、もちろん。さあ、早く答えてくれよ。きみの選んだ、一番小さい数字をさ」

 

 問識は、自信を崩さない。

 崩さないまま、貫き通す。

 赭石は。

 観念したように——小さくため息をついて。

 その答えを、口にする。

 

「一番小さい数字は——()()()()()()

 

 その回答に——石凪砥石は、頷いた。

 

「やはり、ね」

 

 微笑めば、赭石は不満げに腕を組む。

 

「いつ気付いたの?」

「そんなもの、最初(さい死ょ)からだよ。——防御側は、()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう説明された瞬間(死ゅんかん)には、気付いていたさ」

 

 その文言は、一見してゼロから十までの十一個の数字から五つを選ぶかのように見えて——実際には、()()()()()()()()()()()

 

 ゼロから十まで、ではなく。

 ()()()()()()()、なのだ。

 

 だからこそ、あるいは。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それを見抜いた問識は——

 

「回答する」

 

 答えは。

 

「『マイナス四、ゼロ、五、七、九』だ」

 

 赭石はテーブルの紙を捲る。

 そこに書かれた数字は——マイナス四、ゼロ、五、七、九。

 死神は、三の問い。『奇数の数はいくつ?』——だった。

 

「おめでとう、問識くん。お見事と言う他にないよ」

 

 五問の質問を見事通し——死神の鎌にかかることもなく。

 ゲームの()()までをも見抜いての——完全勝利だった。

 

 死神ゲーム、第一戦を制したのは——零崎問識。

 

 しかし、本番はここから。

 次なる防御役は、零崎問識。

 死神、石凪赭石は、この死神ゲームにおいて、()()()()()()()()()()()()()()()()、ゆえにこそ。

 勝負の行方は未だわからず——列車は、レールの上を進み続けている。





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